折りたたんでクルマに積める「電動キックスクーター」が新たな移動手段になる?

感染症対策が叫ばれる中、公共機関に乗ることを避ける動きも見られます。そんな中、新たな乗り物として注目されているのが「電動キックスクーター」です。

政府は、2020年10月から半年間、認可を受けたシェアサービス事業者が提供するものに限り自転車専用通行帯を使えるようにする実証実験を東京や神奈川、福岡などで始める計画を打ち出しています。利用者が必要なときに借りられるシェアリングサービスへの展開も視野に入れて実験を進める計画で、その今後を取材しました。

欧州ではシェアリングですでに普及

電動キックスクーターは、電動モーターを搭載し、スペック上では最高40km/h前後の速度で走ることができる、新カテゴリーの乗り物です。航続距離は機種にもよりますが、公称値でおおよそ40~50kmほど。バッテリー状態を考慮しても、フル充電なら30km程度は走ることができ、たとえば10km程度の通勤圏なら十分往復できる計算になります。

また、重量は10kg程度と比較的軽めなので、仮に遠くへ出かけるときはコンパクトに折りたたんで電車やクルマに持ち込めます。駅や駐車場から目的地までの“ラストワンマイル”として最適な乗り物でもあるのです。電動キックスクーターの普及は、海外が先行しました。特に当初よりシェアリングサービスでの普及を目論んだ、欧州で進んでいます。

ドイツ/フランクフルトで見かけた電動キックスクーターのシェアリングサービス。その前を利用者が次々と通過していく(撮影:会田肇)
ドイツ/フランクフルトで見かけた電動キックスクーターのシェアリングサービス。その前を利用者が次々と通過していく(撮影:会田肇)
スペイン/バルセロナで見かけた電動キックスクーターの利用者。スペインでも自転車と同じような扱いで免許は不要となっている(撮影:会田肇)
スペイン/バルセロナで見かけた電動キックスクーターの利用者。スペインでも自転車と同じような扱いで免許は不要となっている(撮影:会田肇)

その最大の理由は、免許なしで気軽に乗れる乗り物だから。2019年5月、スペインのマドリードで目的地までのルートをGoogleマップで検索してみたところ、そこには電動キックスクーターのシェアリングサービスが候補に挙がっていました。それほど電動キックスクーターは、生活に根付いているのです。

マドリード市内でGoogleマップを使って目的地を設定すると電動キックスクーターのシェアリングサービスが候補に挙がった(画像:会田肇)
マドリード市内でGoogleマップを使って目的地を設定すると電動キックスクーターのシェアリングサービスが候補に挙がった(画像:会田肇)

「電動」だから免許やライト類が必要

一方、日本ではどうでしょうか? 日本でもその存在は知られていましたが、普及は進んでいません。その要因は大きく3つ。

ひとつは、日本ではアシストを超える原動機を備えると、原動機付き自転車の免許が必要となること。二つ目は、電動キックスクーターが原動機付き自転車のカテゴリーに入る以上、ヘルメットの着用が必要なこと。ヘルメットの共用は、感染症対策が進む今でなくても嫌われる要因ともなります。三つ目が、原動機付き自転車ではウインカーやブレーキランプなどの保安部品の装着が必要となり、その分だけ販売価格が高くなってしまうことです。

日本ではヘッドライト、前後左右にウインカー、後部にブレーキランプを搭載して、電動バイクとしての保安基準を満たしている(写真:glafit)
日本ではヘッドライト、前後左右にウインカー、後部にブレーキランプを搭載して、電動バイクとしての保安基準を満たしている(写真:glafit)

そんな状況下、所有することで公共機関に乗らずに移動できる乗り物として、電動キックスクーターへの関心が高まっているのです。近距離なら自転車を使う方法もありますが、電動アシストがあるとはいえ、自分でペダルをこがなければ前には進みません。電動キックスクーターならモーターの力で進むため、オフィスに着いてから汗だくになってしまう心配もないのです。また、楽な乗り物としてはオートバイもありますが、オフィス内に持ち込める電動スクーターに比べて使い勝手で劣ります。

しかし、そんな便利な電動キックスクーターにも弱点はあります。それは車輪が5インチ前後と小さいため、路面上のちょっとした障害に対応しづらいことです。日本では、電動キックスクーターが歩道を走ることはできず、車道の路肩を走ることになりますが、ここは整備があまり行き届いていません。路面の状態によっては電動キックスクーターの車輪では乗り越えることができず、転倒の危険も出てきます。

日本にも電動キックスクーターに取り組む会社があった!

そんな電動キックスクーターの安全上の問題に正面から取り組んでいるメーカーが、「glafit(グラフィット)」です。和歌山市に本社を置き、これまでに100%電動モーターで走る「Hybrid Bike GFR(以下GFR)」と「X-SCOOTER LOM(以下LOM)」の2モデルを発売。いずれもクラウドファンディングによって予想を大きく上回る人気を呼んで注目を浴びました。

日本のglafitがクラウドファンディングを通じて開発・発売した「X-SCOOTER LOM」(写真:glafit)
日本のglafitがクラウドファンディングを通じて開発・発売した「X-SCOOTER LOM」(写真:glafit)
ペダルを備えたことで自転車としても使える「Hybrid Bike GFR」(写真:glafit)
ペダルを備えたことで自転車としても使える「Hybrid Bike GFR」(写真:glafit)

両車を見てすぐに気付くのが、車輪の大きさです。車輪はGFRでは自転車に近い14インチとし、LOMにしても前輪は12インチを確保しています。これにより、安全を生み出す高い走破性を確保しているのです。代表取締役CEOの鳴海禎造さんは「軽量化を追求しても走破性をないがしろにはできません。その結果が現在の車輪サイズです」と話します。軽さだけを追求せず、走行中の安全性を踏まえた上で車両サイズを決定したというわけです。

折りたたむことで、クルマに積んだりオフィス内に持ち込んだりもできる(写真:glafit)
折りたたむことで、クルマに積んだりオフィス内に持ち込んだりもできる(写真:glafit)

そうした安全性も評価されて人気は急上昇し、GFRは特に40歳~50歳を中心とした層から支持を受けて、クラウドファンディングでは約1200台が売れ、累計で約5000台が売れたそうです。また、LOMは立ち乗りというスタイルから20歳代や女性のユーザーが増えており、支持層の拡大につながったとも話してくれました。

シェアリングサービスは日本も実現できる?

一方で鳴海さんは、glafitとして「シェアリングサービスを諦めたわけではない」と話します。計画では当初、LOMを使って海外も含めてシェアリングサービスに本格参入する予定でした。2020年のCES2020に出展したのも、そうした筋書きがあったからです。しかし、その後はコロナ禍によって、シェアリングサービスそのものを見直さざるをえなくなってしまいました。特にサービスの中心となるはずだったインバウンド需要が、ほぼゼロになった影響は大きかったようです。

「もっと気軽に誰もが乗れるよう法律改正も目指したい」と話すgrafitの代表取締役CEO 鳴海禎造さん(写真:会田肇)
「もっと気軽に誰もが乗れるよう法律改正も目指したい」と話すgrafitの代表取締役CEO 鳴海禎造さん(写真:会田肇)

鳴海さんは「いずれ(感染症は)収束して再びインバウンド需要は復活するはず。(そのための準備として)LOMにはスマートフォンを鍵として使うことができるデジタルキーを実装済みです」とも話します。ただ、「現在の状況下では原動機付自転車の枠を出るものではなく、いずれは海外のようにもっと気軽に乗れる乗りものとして、法律改正も含めた普及を望んでいきたい」と、将来の電動キックスクーターのあり方についても語ってくれました。

新たな乗り物として普及するのか、電動キックスクーターの動向から今後も目が離せそうにありません。

<関連リンク>
glafit
https://glafit.com/

(取材・文:会田肇 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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