漫画「彼女のカレラRS」の作者 “麻宮騎亜” に聞いたクルマの魅力
クルマのあるリアルな日常を描いた漫画「彼女のカレラRS」の作者、麻宮先生にインタビューしてきました。「超音戦士ボーグマン」のキャラクターデザインなど、アニメーターとしても活躍されていた先生。トップクリエイターが考える、クルマの魅力に迫ります!
プロフィール
漫画家とアニメーター、2つの顔を持つクリエイター
―まず、漫画家を志したキッカケは?
いや…、実は漫画家になったのは縁というか…(笑)。
―え?そうなんですか?
はい(笑)。フリーのアニメーターとして活動していた24、5の頃、「漫画を描いてみないか」という打診が来たのがキッカケです。当時アニメーターが漫画を描くのはブームになっていましたけど、そういったくくりではない普通の商業誌での仕事でした。それで「漫画の仕事をアニメにフィードバックできるかな」と思って取り組むことにしました。
漫画は、自分の表現したいことをスピーディーに発表できる、そこが一つのポイントではありました。僕は自分の作品を世に出すのがひとつの目標だったので、その点では漫画が適していたかもしれないです。そうして漫画『サイレントメビウス』を発表。おかげさまでヒットして劇場版アニメも制作することになり、アニメーションの実作業にも関わることができた。結果として良かったと思います。
―漫画を作る漫画家と、アニメを作るアニメーター。その違いとは何なのでしょうか。
簡単に言えばアニメ(アニメーター)は集団作業で漫画は個人作業。アニメはとにかく大勢の人が制作に関わってきます。例えば、一昨年にアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』で、15年振りくらいにアニメーターの仕事をしたんですが、毎日(当たり前ですけど)進行スタッフが原画を取りに来る(笑)。アニメは後の工程で待っている人がたくさんいるので、少しでも次の作業部門へ渡していかなくてはなりません。毎日上がりを出さなきゃいけないってのは結構大変で…。漫画は、自分たちのスタッフだけで、こもって何日か仕事した上で、まとめて上がりを出します。まぁ、漫画もアニメもどちらも大変な仕事なんですけどね。
アニメーターを目指したのは『ルパン三世』や『宇宙戦艦ヤマト』の影響と語る麻宮先生。現在の愛車はかれこれ11年ほど乗っている、シュトロゼック911メガ・スピードスター。このクルマはおそらく日本でこの1台だけとか。
レースのない異色作。クルマのある日常を描いた『彼女のカレラ』
―『カノカレ』の愛称で親しまれる漫画『彼女のカレラ』を描くことになったキッカケは?
2002年頃、仕事が一旦落ち着いたので「次はクルマ漫画を描きたいな」と思い、作品を描いて持ち込んだんですよね。それで集英社が気にかけてくれて、2004年から「週刊プレイボーイ」で『彼女のカレラ My Favorite Carrera』を連載することになりました。まあ9年目で打ち切りになっちゃったんですけどね(笑)。不人気だったわけではなくて、まぁ、いわゆる大人の事情。そのあおりを一番食った結果です。その後に幻冬舎コミックスの方から声をかけていただいて『彼女のカレラRS』として再開し、現在に至ります。打ち切りの憂き目にあった時はかなり落ち込みましたし悩みましたけど、「カノカレはまだ死んじゃいない、絶対続ける!」と思いながら連載再開までたどり着けたのは本当にうれしいことでした。
―『カノカレ』ではSA・PAやよく知る地名など、親近感のあることを描いているのが印象的です。あとキャラクターも可愛い(笑)。
従来のクルマ漫画は男たちによるバトルが多かったと思います。あとはエンスー(自動車に対して熱心な愛好家)系の作品。でも実際のカーライフにおいて、バトルもエンスーも多分一部じゃないですか。僕は後発のクルマ漫画だったので、他の方々が描いていなかった部分、「クルマの日常」を描くことを意識してスタートしました。
―主人公の轟 麗菜(とどろきれいな)をはじめとした『カノカレ』の登場人物が、漫画を飛び越えて活躍しているとか。
先日開催された「東京オートサロン2014」では、スバルのレヴォーグ(レガシィの後継車)の展示で配布されたカスタムカーバトルのカタログに登場させてもらったり、合宿免許の情報誌「Campa!」の表紙に登場したりと、最近はタイアップも増えてきました。これは日常を描いている『カノカレ』だからできることだと思っています。今後は漫画という枠を飛び越えて、もっと『カノカレ』のキャラクターたちを活躍させていくのが目標ですね。
「月刊コミックバーズ」にて好評連載中の『彼女のカレラRS』。『彼女のカレラ』シリーズでは、実在する飲食店が登場したり、運転に役立つ知識を紹介したりするなど、他のクルマ漫画とは一線を画す内容。クルマに特別な興味がない方も是非一読を!
クリエイターだからこそクルマのデザインは譲れない
―もともとクルマは好きでしたか?
中学校の頃にスーパーカーブームを経験した人間なので、クルマはもともと大好きでした。だけど免許取得は28歳だから遅いほうです。ちょうど『サイレントメビウス』の劇場版アニメをやっていた頃ですね。
―では、最初に買ったクルマは覚えています?
え〜っと…最初は2台同時に買いました(笑)。
―いきなり2台(笑)!
1台はトヨタのエスティマ。当時スタッフを6人くらい抱えていたので、社用車として使うためです。最初に大きなクルマに乗っておいて良かったですね。おかげで車両感覚を掴むことができ、以後の運転に生きました。もう1台がホンダのNSXです。
―「日本で唯一のスーパーカー」とも言われたスポーツカーNSX!最初からすごいクルマを購入しましたね。
ホンダのディーラーに知人がいて「買わない?」と言われたんですよ。発売されたばかりで納車に1年以上かかるような頃でした。いわゆるキャンセルされた車両で、フォーミュラレッドのATだったので希望とは少し違ってましたけど、悩んだ挙句に購入。でも仕事が忙しくてNSXにまったく乗れなくて、いざ乗ろうとするといつもバッテリーが上がった状態。「これじゃあオーナー失格かな」と思って5年後に売っちゃって…。これは本当に後悔してます(涙)。戦闘機F‐16をデザインモチーフにした初期型は本当にカッコよかった。できることなら買い戻したい。
―ちなみにこれまでに乗ったクルマは?
ポルシェの930カレラ、964カレラ2、ボクスターS、ベンツのSLK、BMWの5シリーズのツーリングやミニ、マツダのランティスやトヨタのセラも乗ってました。今はポルシェの他にアルファロメオのザガードのRZも乗っています。
―輸入車が多いですね。理由はありますか?
デザインですね。自分が乗るクルマはとにかくデザインを重視して選んでいます。乗ってはいませんがトヨタの2000GTやセリカも好きですよ。カッコイイ。でも最近の日本車は…(苦笑)。モーターショーを見るとスタディモデルは素晴らしくても、市販車に反映されないことが多い。それが本当に残念。
僕はクルマが好きだからこそ「クルマ離れ」という言葉が嫌いなんです。クリエイター的な視点から言えば、本当に魅力的なコンテンツならユーザーは離れるわけがない。僕個人の意見ですが、スペックやサービスも大切ですが、もっとクルマのデザインについて評論家を含めて掘り下げて伝えていくべきだと思っています。長所、モチーフ、カラーなど。そしてオーナーもデザインに厳しくあるべき。ちょっと辛口コメントになっちゃったかな(笑)。これもクルマへの愛情ということでお許しを。
漫画を飛び越えて活躍中の轟 麗菜。ちなみにタレントの安めぐみと乙葉を足して2で割ったイメージで、キャラクター像を作っていったとか。愛車にポルシェを選んだのは、ポルシェと女の子の化学反応を狙ったため。
「クルマのある日常は責任も伴うけれど、本当に素晴らしいもの」(麻宮)
―先生の最近の活動について。先生はイベント、つまりはリアルな場にも積極的に顔を出す方という印象があります。これは非常に希有なケースではないかと。
個人的には意識してないんですけどね。ファンの方々との交流の意味もありますが、きっとそれ以上にクルマが好きだから。僕はクルマのおかげでいろいろな方々と知り合いになれました。漫画家だからといってその関係を断ち切る必要はないと思うし、イベントに誘われれば喜んで出席するだけです。最近ようやく「彼女のカレラの漫画家だ」と声をかけてもらえることも多くなりました。
―では現在の活動について教えてください。
幻冬舎コミックスの「月刊コミックバーズ」にて『彼女のカレラRS』、講談社の「月刊ヤングマガジン」にて『サイレントメビウスQD』を連載しています。他には、2月に公開される壇密さん主演の映画『地球防衛未亡人』で怪獣デザインを担当しています。1月26日に千葉県のハーバーサーキットで第3回「彼女のカレラRSカップ」も開催しました。詳しくはHPを見てください。
―最後に、GAZOO読者に向けてメッセージをお願いします。
クルマを所有すれば行動範囲が広がるのはもちろん、クルマというファクターを通していろいろな人と知り合いになれる。もうクルマは移動手段だけを目的とした道具ではないんですよね。出会いであり、会話の切り口であり、共通の趣味にもなる。最近はインターネットの影響もあると思います。
クルマを所有することは人生の中でも大きなイベントでもあります。大変なこともあるかもしれませんが、それと同じくらい、いやそれ以上に楽しい時間と経験を得られるはず。もし良ければ『彼女のカレラRS』を読んでみてください。僕が伝えたいことはほぼ作中で表現しています。クルマのある日常はとても大きな責任も伴うけれど、本当に素晴らしいものですよ
―麻宮先生、貴重なお話ありがとうございました!今度のさらなる活躍を楽しみにしております!
写真中央がインタビュー内でも話題に上がった、合宿免許の情報誌「Campa!」。今後、実生活で『カノカレ』のキャラを目にしていく機会が増えるかも?そのほか先生の作品集など。『仮面ライダーフォーゼ』のクリーチャーデザイン(怪人など人ではないキャラクターをデザインすること)も手掛けた。
(ライター:初野正和)
(取材協力:「月刊コミックバーズ」編集部)
[ガズー編集部]
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