【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#14

第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」

3rd ヨタハチ、鎌倉へ走る。
#14

車体の振動がダイレクトに伝わってくる。
今日は鎌倉まで久しぶりのドライブだ。成田真由子とランチをすることになって、ついでに海を見に行きたいと言われて快諾した。真由子が嬉しそうに窓の外に目をやる。
「前も横も後ろも、みんなこっちを見ているね」
わたしの愛車は、父の形見でもあるトヨタスポーツ800、通称ヨタハチだ。色はレッド。昔の車だから維持するのが大変そうだと思われるけど、そうでもない。愛好家がたくさんいる人気の車種だから、部品や修理を扱っているお店も少なくないし、オーナーズクラブからいろいろな情報も仕入れられる。
父の形見ということもあるけれど、こんなかわいい車は絶対に手放せない。
「今では珍しいタイプの自動車だからね」
やはり、この車は目立つから、どこにいっても注目を集める。
「車好きの男性が乗っているかと思ったら、若い女性が運転しているから、余計驚くよね」
「そうなの、だから下手な運転できなくて」
「でも、ミライは運転上手だから安心だよ。ていうか、最近は車すら持っていない男ばっかりだから、本当につまんないの。ドライブなんて久しぶり」
真由子は昔から、わたしの名前、未来(ミキ)を別の呼び方にしてミライと呼んでいる。
「わたしは実家暮らしだから車を持てるけど、一人暮らしで車を持つのは大変だよね」
真由子は車好きの男じゃなきゃダメなのだ。
次第に仕事の話になった。
「新しい仕事はどうなの? まさかミライが自動車保険の調査員になるなんてね、大変だろうけど、車好きのミライにぴったりだよね」
「うん。守秘義務があるから、詳しくは言えないんだけどね。いまは、ある夫婦の自動車盗難事件で、その夫婦の素行を調べているの。絶対怪しいと思う」
「探偵みたいだね」と言われ、コックリと頷いて見せた。
「そうなの。相手には悟られないように内偵したりね」
真由子が大声を上げた。
「あ、思い出した! そういえばさ、ミライは『MASTERキートン』っていうマンガ、好きだったもんね。なんだっけ、オペラじゃなくて……」
「オプね。オペラティブを略して、オプ。探偵っていう意味もあるの」
「そうそう、オプ。あの本、懐かしい。ミライから長く借りすぎて怒られたよね」
「そんなこともあったね。最近ね、20年ぶりの新作が出たんだよ。貸さないけど」
「え、買ったの? 貸してよ、ケチ!」
真由子は中学時代からなんでも話し合える友人だ。
「で、職場環境はどうなの?」
「うーん、実は警察出身の上司と組むことになったんだけど、気難しくて……。わたしはまだ一人前の調査員ではないし、見習いアシスタントみたいなものかな」
「へえ。でも、なんかミライがやりたかったことに近づいているね」
さすがに、父の失踪の真相を探りたい、という目的については真由子にも言っていない……。
やがて、目当ての店に到着した。駐車場はそれほど埋まっていない。高台にあって、窓際の席からは海を一望できる、素敵な飲食店だ。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]