【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#10

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​2nd ミキ、悩める乙女に!?
#10 ​特上寿司​

わたしは、朝から会社のパソコンの画面をにらみつけていた。
画面上には、インスペクションの社員のリストがある。わたしが「スパイの可能性がある」と判断した人たちだ。ただ、消去法で絞り込んだだけで、精度はあまり高くない。
周藤はわたしに調査を命じたまま、今日も外出だ。
桜川の言葉が頭をよぎる。確かに、周藤の単独行動での外出は多い。いつも何をやっているのだろう。
「おい、いい加減なこと言うなよ!」
不意に、遠くから怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
フロアが騒然としている。
また、なにかあったのだろうか。
立ち上がって、騒ぎのほうに向かう。
髪を短く刈り上げて白い服を着た、職人風の男が2人立っていた。
「特上のお寿司が50人前届いたんだって。誰も頼んでいないのに……」
先輩の加納淳子が近づいてきて、耳元で囁いた。
「なんですかそれ……。絶対また嫌がらせですよね」
加納は両手を広げて困った顔を見せたが、どこか他人事だ。
「どうしてくれるんだよ、いったい!」
寿司職人が再び怒鳴り声を上げた。
「落ち着いてください。ですから、誰も頼んでいないんです。これはきっと悪戯ですから、すぐ警察に来てもらいましょう」
総務部長の太田健二が必死に相手をなだめようとしている。
「警察が来て、代金を払ってくれるのかい?」
「それはわかりません」
怒りたくなる気持ちはわかるけど、うちだって頼んでいないものの料金を支払うわけにはいかない。これも陰湿な嫌がらせに違いないのだ。
太田の説得で、寿司職人もようやく事情を飲み込み始めたのか、声を荒げることはなくなった。でも、まだ明らかに怒っている。やり場のない怒りを必死にこらえようとしているのが、見ていて痛々しい。
太田も困り果てているようだ。みんな固唾を呑んでその様子を見守る。
そこに社長が出てきて、職人を社長室に招きいれた。
「はい、みんな、仕事して!」
太田がフロアに声を響かせた。各自、席には着いたけど気が気でない。いったいどうなるのだろうか。
やがて、寿司職人の2人が引き上げていった。社長に頭を下げている。
「千円だって!」
「特上寿司が、千円!」
ちらほらと、千円という声が聞こえてくる。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]