【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#19

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

4th インスペクションの危機、再び。
#19 加納とランチ2

わたしは、内部調査に協力してくれている加納淳子と再びランチをすることになった。
​スパイを調べているのだ。つるんでいるところを他の社員に見られたくはない。
今回は、直接店で待ち合わせることにした。
先に窓際の席について、スマートフォンをいじっていると、加納が現れた。手を挙げるとすぐにこちらに気づいて、わたしの前の席に腰をおろす。
加納は席に着いた途端、溜息を吐き出す。わたしもつられそうになるのをこらえて、メニューを手渡した。
すぐにやってきた店員にオーダーしてから、早速、加納が切り出した。
「ミキちゃんまで事件に巻き込まれるなんてね……」
「チビって書き込みがショックです。許せません」
「最近、みんな疑心暗鬼になっていて、悪い噂が多いの」
加納が声を潜める。さすが社内一の情報通として有名なだけはある。
「いったい、どんな噂があるんですか?」
「SRがうちの会社を潰しにかかっているっていうの」
初耳だった。SRは、全国に支店を構える業界最大手の調査会社だ。
「そんな。まさか、SRがそんなことするとは思えませんけど」
ライバル業者というレベルではない。インスペクションよりもずっとずっと格上の存在なのだ。
「そう思うでしょ。でも、SRの人がこのへんをうろついているところを見たって人が実際にいるのよ……」
加納のあまりに真剣な表情を見ていると、わたしも笑い飛ばすわけにはいかなかった。
「誰が見たんですか?」
「調査員の白石さん。元SRなの」
白石五郎は、年齢60近くで、入社5年目くらい。大手から転職してきたという話をわたしも聞いた記憶があった。
「そうなんですか……」
「それで、白石さんが、そのことを社長に報告したみたい」
「でも、仮に調査会社がそんな犯罪行為をして、バレたら大変ですよね」
やはり、巨大な組織であるSRが弱小のうちを攻撃するなんて、首をかしげざるを得ない。
「だからさ、誰かのスタンドプレーじゃないかって。直接手を下さずに、汚い組織を使っているんじゃないかって、もっぱらの噂よ。ライバルならスパイを使うのも頷けるし」
それは確かにそうかもしれない……。
「保険業界だって、この先、どうなるかわからないからさ、かなり危機感を持っているのは間違いないらしいよ」
嫌な予感がする。
「あと、周藤さんのことを疑う声は根強いわね。白石さんは、SRの人が周藤さんと話をしているところも見たっていうの。」
「周藤さんが? それはきっと大丈夫ですから、安心してください」
「なぜ? じゃあ、いつもひとりでふらっといなくなって、なにをしているのか、ミキちゃん、知っているの?」
わたしはなにも答えられなかった。早く事件を解決しなければ……。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]