【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#27

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?
#27 失踪の真相

誘拐されたと思われた河口仁は、自分の所有するレクサスの車内で、息子である純から厳しい追求を受けていた。
​<父さん、そろそろいいでしょう。本当のところを教えてください>
仁が目を閉じた。
<上山さんを殺したのは誰なのですか? あなたは知っているはずだ>
<誰も殺してはいない。というか、結局のところ、想像することしかできない>
なんだか歯切れの悪い説明だ。
<本当に失踪したというのですか?>
純は追求の手を緩めない。
<いや、彼は自殺したそうだ……>
<自殺? なぜですか? 理由は?>
純がすかさず投げかける。
<彼は自暴自棄になった。愛娘が友人の子どもだとわかったのだからな>
<それで、自分が悪くもないのに、なぜ自殺することになるのですか? 悪いのはあなたたちでしょう?>
仁はバツが悪そうに目を伏せている。
<上山がフィリピンに渡る前、わたしは彼に慰謝料を払うと言った>
<当然でしょう>
<最初は渋っていた彼も受け取ることになったんだ>
<いくら払ったのですか?>
小さく、<1000>と聞こえてきた。胸に小さな衝撃が走る。
<10年前の1000万円ですか。ミキちゃんに事実を伝えないなど、なにか条件はつけたのですか?>
<いいや。ただ、彼自身が、娘が20歳を超えるまではこのことを話したくないと言っていた。わたしも、上山の妻もそれに同意した>
<そりゃあ、そうでしょうね>
仁がゆっくりと頷いた。
<そして、彼はフィリピンへ、バカンスに行った>
<仕事ではなく、バカンスだったと>
<そうだ。そして、彼がどれだけ羽目を外して遊んだのかはわからない。だが、不幸なことに、彼は現地で詐欺にあったそうだ>
<詐欺?>
<美人局にあったそうだよ……。悪い男と女に騙されたんだ>
仁がため息を吐き出す。沈黙が訪れた。わたしは胸を強く締め付けられた。
<それであなたに助けを求めてきた?>
仁が首を大きく横に振った。
<いいや、わたしがその話を知ったのはずっと後だった>
<いつですか?>
<失踪してから何年か経ってから、上山の妻から聞かされたんだ>
<ということは、上山さんの奥様は知っていたのですね>
仁は否定も肯定もしない。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]