トヨタ ランドクルーザー70 試乗レポート バン編
自動車の根源的な楽しさが満喫できる
デビュー30周年を迎え、期間限定で国内市場に復活したランドクルーザー70。まずは4ドアバンに試乗し、その“古くて新しい”魅力を探った。
10年ぶりの復活という驚きのストーリー
ランクルのナナマルことランドクルーザー70系がデビュー30周年を迎え、10年ぶりに国内販売を復活させる。第一報を聞いたときは、さすがに驚いた。
一度は販売を終了した車種が復活するという、自動車業界では稀有(けう)なストーリーであるためもある。でも個人的にはそれ以上に、過去の経験がそういう気持ちにさせた。1985年に自動車ジャーナリズム業界に入り、最初に身を置いたのがSUVやミニバンの専門誌で、デビュー直後のランクル70を何度かドライブする経験があったからだ。
当時は他社から、舗装路での乗り心地やハンドリングを向上させたSUVが次々にデビューした頃。そんな中、前任車の40系からラダーフレーム構造、直列4気筒ディーゼルエンジン、前後ともリーフスプリングのリジッドアクスルを受け継いだランクル70は、古くさく感じた。
その後ディーゼルエンジンが新設計の6気筒に置き換えられ、2ドアしかなかったボディに4ドアが加わり、フロントサスペンションのリーフがコイルスプリングに置き換えられるなど、改良も実施した。でも他車はそれ以上に進化していて、差は広がっていた。
2004年、ディーゼルエンジンの排出ガス規制にパスできなくなったことを理由に、ランクル70が日本市場から姿を消す際には、他のSUVは乗用車化がさらに進んでいた。わが国にはこのクルマの居場所はないんじゃないかと思うようになった。
しかし今回、10年ぶりに復活したランクル70の4ドアバンに乗って、古い新しいだけで判断していた考えが間違いであることに気付いた。
機能的な理由を持つイメチェン
久しぶりに対面した70バンで、10年前と最も違うのはフロントマスクだ。でもランクルが見せかけだけのイメチェンをするはずもなく、機能的な理由があった。以前の直列6気筒ディーゼルエンジンが豪州の排出ガス規制にパスできなくなったため、V型8気筒ターボに積み換えることにした。でも、そのままではエンジンルームが狭くて積めない。そこでラダーフレーム、フロントトレッド、エンジンルームを拡幅した。
この変更は2007年に実施されている。個人的にうれしかったのは、フロントフェンダーのキャラクターラインが、同じランクルのステーションワゴンで、現行200系の3世代前を務めていた60系に似ていることだ。ボディとフェンダーが一体になっても、伝統を継承する姿勢がうれしかった。
高いフロアを持つキャビンに入ると、インパネも一新されていた。こちらも、エアバッグ内蔵のためという明確な理由があった。鉄板を露出させていた10年前のような武骨さは薄れたけれど、円形のエアコンルーバーなど、個性は受け継がれている。
それ以上に印象的だったのが、2年前に設計変更された前席。見た目は普通なのに、座り心地は快適だ。一段高い後席は、平板ではあるが角度が適切で、バンとしては望外の快適性を備えていた。荷室は床こそ高いものの、シンプルでスクエアな空間は使いやすそう。無駄な飾りがない分、道具として使いこなしがいがあるスペースだ。
静かで自然な反応のエンジン
走り始めて最初に感じたのは、車両感覚のつかみやすさだった。インパネに対してシートは高めで、窓を開ければ窓枠に楽にヒジがかけられるほど。しかも車体は四角く、ピラーやウインドゥは立っていて、ドアは薄い。道なき道での見切りのために生まれたボディは、都市部の道でも効果を発揮する。
続いて静かさに気付いた。10年前のディーゼルに代えて搭載されたガソリンの4リットルV型6気筒は、2120kgのボディをあっけないほどスルスル加速させていく。自然吸気の大排気量だけあり、ボトムエンドからトップエンドまでくまなく力を出す。ダウンサイジングターボでは得られない、文字通り自然な反応にホッとする。
乗り心地も良い。段差や継ぎ目のいなしは最新の乗用車に一歩譲るけれど、それ以外は快適。シートの素晴らしさのおかげもあって、1〜2時間なら楽々ノンストップで行ける。高速道路での直進性も、ストロークに応じて車軸が左右に振れる傾向がある前後リジッドアクスルとは思えぬほど優秀だ。
フロントトレッド拡大に伴う足まわりのリファインのおかげかもしれない。というのも、復活版ランクル70は舗装路でのハンドリングが10年前より格段に自然だったからだ。リサーキュレーティングボール式ステアリングのおっとりした切れ味にさえ慣れれば、最新のSUVとさほど変わらぬ感覚で駆け抜けていける。
自分の手で悪路を走破する喜び
でもそれによって、自慢の悪路走破性がスポイルされたわけではない。オフロードコースや河原での走りはランクルそのものだった。エンジンは1000r.p.m.でもエンストしないほど粘り強く、ローレンジを選べば歩くより遅い速度で進める。強靱(きょうじん)なフレームは岩場でもビクともせず、リジッドアクスルは生き物のように動いてタイヤを接地させる。例のステアリングは、こういう場のためにあった。路面からの衝撃を和らげるので、安心して操舵(そうだ)できるのだ。
電子制御を入れているのは、燃料噴射とABSぐらいだろう。にもかかわらずこの走り。並外れた基本性能の高さに圧倒される。それに電子制御に頼らないから、自分の手で走破していく実感が味わえる。もちろん上手下手は出る。だからこそ、ステアリングやペダルを注意深く扱い、スムーズにクリアできたときの達成感は格別だ。これはオフロードに限った話ではない。ランクル70は舗装路上でも、機械を操る喜びに満ちている。
5人乗りで荷物も積める実用車で、自然吸気エンジンを3ペダルのMTで操ることが、そもそも希少である。回転数によって音質や反応が違ってくるので、その違いを味わう楽しみがあるし、ギアチェンジがまた機械を操る感触そのものなので、つい意味もなく変速してしまう。ステアリングも、独特の感触を示すからこそ、うまく操舵できたときには快感となる。
それはモータリングの原点であり、究極である。21世紀の路上を快適に移動できるほどの熟成を図りつつ、人間が機械を上手にコントロールすることで移動が快適になるという、自動車の根源的な楽しさが満喫できる。クルマという枠を超えて、現在のプロダクトとして、貴重な存在なのである。
(text:森口将之/photo:田村 弥、向後一宏)
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[ガズー編集部]