トヨタ ランドクルーザー70 試乗レポート ピックアップ編
プロの実力を持つファッショナブルな遊びグルマ
復活したランドクルーザー70系には、日本初の設定となるダブルキャブ ピックアップトラックも含まれる。新鮮なスタイルの持つ可能性を確かめた。
バンより450mm長いホイールベース
10年ぶりに日本市場に帰ってきた通称ランクルのナナマル、ランドクルーザー70系。その復活劇で最も衝撃的だったのは、10年前にも設定していた4ドアバンだけでなく、同じ4ドアのダブルキャブ ピックアップトラックを設定したことだ。なにしろ日本で正規で買える新車のピックアップはこれだけなのだから。
世界的にはこのほか、2ドアのバンやピックアップなどもある。日本はドアが多いほうが人気なので、かつて売っていた2ドアバンではなく、2年前に登場したばかりのダブルキャブ ピックアップトラックを選んだのかもしれない。
周囲の人に聞くと、バンよりピックアップのほうがカッコいいと言う人が多い。海外ではピックアップは遊びグルマとして認識されていて、そのイメージを持っている人が多いからなのか。だとすれば復活に際してこのボディを導入したのは成功かもしれない。
ランクル70にはホイールベースが数種類あって、ピックアップはもっとも長い3180mmとなる。この数字はバンより450mm長い。それに伴い全長も460mm長い5270mmとなり、全高の1950mmも30mm高い。しかし全幅は1770mmで、逆に100mm狭くなる。
改良が加えられた外観とエンジン
幅広く扁平(へんぺい)なSUV用タイヤをアルミホイールに組み合わせたバンに対し、ピックアップはスチールホイールに細くハイトの高いトラック用タイヤを履くので、フェンダーフレアが装備されないからだ。1ナンバーとはいえ乗用ユースが多そうなバンとは対照的に、ピックアップは素材として楽しんでもらおうというコンセプトかもしれない。
日本市場から身を引いていた間に、ランクル70には改良の手が各所に入った。そのひとつがフロントマスクだ。以前の日本仕様にも積んでいた直列6気筒ディーゼルエンジンが豪州の排出ガス規制にパスできなくなったため、V8ターボに積み替えることになり、それに対応してフレーム、フロントトレッド、エンジンルームを拡幅した。うわべを飾るためではなく、機能的な理由によるフェイスリフトというのがランクルらしい。
その結果、ボンネットとフロントフェンダーが一体になり、角形ヘッドランプを据えた顔つきは、少し前までわが国でも販売していたハイラックスサーフを思わせる。つまり、ピックアップにはお似合いのフロントマスクではないかと感じた。
プロの道具らしい信頼の作り
高いフロアによじ登ってキャビンに入ると、インパネまわりは鉄板が露出していた昔のランクル70の面影はなく、モダンに仕立てられていた。こちらもエアバッグ内蔵という明確な理由があっての一新である。でもエアコンルーバーが丸形でセンターコンソールがないなど、伝統を受け継いだ部分も見受けられる。
さらにキャビンを見回すと、最新の乗用車とは違う部分を発見する。メーターには油圧計や電圧計まで用意され、エアコンの調節はレバー式。室内灯は白熱灯を使う。安く作りたかったからこういう仕立てにしたわけではない。人里離れた荒野を走り続けるには、指針式計器こそ機械の状況を把握しやすいし、もし壊れた場合には直しやすい構造がありがたい。信頼性を極限まで追求した、プロの道具らしい作り。男が惚(ほ)れる空間だ。
前席の座り心地にも感心した。2年前に新設計となったそれは、見た目から想像するよりはるかに快適で、1〜2時間程度のドライブなら楽勝でこなせる。一段高い位置に座る後席は、バンより背もたれが立てられたほかは同じ構造で、こちらもピックアップとは思えぬほどの快適性を備えていた。バンと同じ方式で折り畳み可能なので、荷物の収納場所としても使える。
後方に広がる荷台は、スペアタイヤがキャビン背後に立て掛けてあることが目を引く。通常のトラックのようにフレームからつり下げると、オフロード走行の肝となる最低地上高が犠牲になるため。つまりここもランクルらしく、機能的な要求から生まれた設計だ。それが後ろ姿を粋に見せる役割も果たしているのだから面白い。
スペアタイヤの奥にあるリヤウインドゥにも注目。スライド式で開閉できる。乗用車でリヤウインドゥが開閉可能なモデルはめったにないので、不思議に感じた人もいるだろう。でも山や海へ行って、サイドウインドゥとともにこのリヤウインドゥを開けて走りだすと、風がキャビンの中を通り抜けていって、とにかく気持ちいい。大量の荷物を気兼ねなく積める以外にも、ピックアップの長所はあるというわけだ。
オフロードで本領を発揮する
復活版ランクル70が積むエンジンは4リットルV型6気筒ガソリンで、バンと共通。世界的に見ても現在の主力はガソリンだという。トランスミッションは5速MT、駆動方式は高低2段の副変速機付きパートタイム4WDという信頼のメカを使う。
5.3m近い車体ながら重さは2220kgと、ひとまわり小柄なプレミアムSUVと同レベル。おかげで加速はまったく不満ない。驚いたのは静粛性だ。後輪が完全にキャビンの外にあることが大きいのだろう、排気音やロードノイズまで見事に遮断されている。
その代わり段差や継ぎ目でのショックはバンよりも直接的で、ハンドリングは切り始めに曖昧な感触が残る。重い荷物は積まないから走りを良くしたいという人は、SUV用タイヤに換えるという手もありそうだ。
それ以外の場面では、出来の良いシートのおかげで満足できる乗り心地をもたらすし、フロントトレッドの拡大によってコーナーでは予想以上に踏ん張る。いずれもかつてのランクル70よりワンランク上のレベルにある。
でも本領を発揮するのはもちろんオフロード。アイドリング近くでもエンストしない粘り強いエンジン、歩くより遅い速度で進めるローレンジ、強靱(きょうじん)なラダーフレーム、自在にねじれて路面を離さないリジッドアクスルのサスペンションなどが、道なき道を制していく。車体はバンより長いけれど、最低地上高は25mm高くなっているので、体感的なポテンシャルは同等だ。
もっとも電子制御によるアシストは皆無に近いから、扱い方を知らないと実力の半分も出せないだろう。逆にエキスパートの手にかかれば想像以上の実力を発揮する。正真正銘のプロの道具。それをピックアップでファッショナブルに乗る。ハマればこのうえなくカッコ良く見えるはずだ。
(text:森口将之/photo:田村 弥、向後一宏)
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[ガズー編集部]