トヨタ ランドクルーザー70のライバル車 ジープ ラングラー比較レポート

ストイックな機能性と自動車らしい色気

ともに高い悪路走破性を誇る、ランクルとジープ。共通点は多いが、比べると考え方の違いがはっきり見えてきた。

<歴史>
ランクルことランドクルーザーは、1951年、トヨタ ジープBJ型として世に出た。第2次世界大戦中に米国で生まれたジープに範を取ったことは明白だ。だから4年後にランドクルーザーと名を変えてから現在に至るまで、2台はライバルであり続けてきた。

共通点も多い。ブランドとして数車種を擁していること、ヘビーデューティタイプが存続することなどだ。後者は言うまでもなく、ナナマルこと70系とラングラーである。この2台に絞れば、ラダーフレームに前後リジッドサスペンション、パートタイム4WDを備える点も共通だ。

70系がデビューしたのは1984年。それまで24年にわたり作り続けられてきた40系に代わるモデルで、モデルチェンジなしに現在に至る。一方のラングラーが生まれたのはその3年後。こちらは大戦直後に生まれた民生用ジープCJ型に代わるモデルで、2007年発表の現行型は、ラングラーとしては3代目となる。

日本仕様は70系が4ドアのバンとピックアップトラック、ラングラーが2ドアと4ドアのハードトップなので、見た目が近い70系バンとラングラー4ドアのアンリミテッドはライバルになる。ラングラーアンリミテッドの2グレードのうち、取材したスポーツの価格は379万800円で、ランクル70系(360万円)との差は20万円ほどしかないからだ。

​30周年を迎え、10年ぶりに国内販売が復活したランドクルーザー70。

2007年発表のジープ ラングラーは3代目モデル。

<ボディ>
ボディサイズを比べると、幅は大差ないが長さは70系が105mm長く、背は75mm高い。それ以上に違うのはホイールベースで、ラングラーのほうが逆に200mm以上も長い。たしかに真横から見ると、ラングラーはタイヤが四隅にある。でも、それ以上に印象的なのはやはり顔の違いだ。

70系は2007年、かつて日本仕様も積んでいた直列6気筒ディーゼルエンジンが豪州の排出ガス規制にパスできなくなったため、V型8気筒ディーゼルターボに積み替えることに合わせ、ラダーフレーム、フロントトレッド、エンジンルームを拡幅した。それに合わせてグリルは全幅いっぱいに広げられ、ヘッドランプは丸から角になった。

一方のラングラーはCJ型以来の7スロットグリル、丸形ヘッドランプ、ボンネットから分離したフロントフェンダーを守り続けている。ボンネットをフードキャッチで固定し、ドアヒンジは露出し、リヤコンビランプは後付けとするなど、それ以外の部分も昔ながらの作りを受け継いでいる。

機能最優先でモディファイを重ねた70系に対し、ラングラーはアイデンティティの継承を重視している。それでいてラングラーのボディは、ラダーフレームにかぶさるような構造として、フロアを70系より低めるなどの改良も実施していた。

復活したランドクルーザー70は、ヘッドランプが角型になるなど以前のモデルと顔つきが違っている。

ジープ ラングラーは伝統の7スロットグリルを受け継いでいる。

<インテリア>
両車ともハードなオフロード走行を想定して、200mm以上の最低地上高と太いラダーフレームを持つだけあり、フロアは高く、スムーズに乗り込むにはサイドステップのお世話になる。ただシートはラングラーのほうが全高に合わせて低め。キャビンの幅を絞り込み、丈の短いガラスに囲まれた空間はタイトな印象だ。70系は対照的に、高めの目線と大きなウインドゥが抜群の解放感をもたらす。四角四面の車体なので、車幅の感覚もつかみやすかった。

70系のインパネは、エアバッグ装備などに際して一新された。丸いエアコンルーバーにらしさを残すものの、基本的には機能重視の造形だ。一方のラングラーは、現行型で一気に見せ方上手になった。フロントガラスの上にはジープ顔が描かれ、助手席側アシストグリップやルーバーの丸いベゼルなどあちこちにロゴが入る。ドアのグリップは太く、シフトレバーはゴツいなど、触感でもジープであることを伝える。

70系が、主として新興国向けのツールとして作られたのに対し、近年のラングラーは先進国向けにファッション性を重視していることが分かる。トヨタにはFJクルーザーもあるから、ファッション性はそちらに任せたのかもしれない。

​水平基調で機能性を重視したランドクルーザー70のインパネ。

ジープ ラングラーは、乗用車のような内装デザイン。

<シート+荷室>
70系の前席は素晴らしい。見た目は普通だが、快適性能、サポート性能ともに申し分ない。ドライビングポジションも、日本車だけあって不満はない。ラングラーの前席も満足できるレベルにあるが、ペダルが右寄りで、踏み間違い防止のためアクセルとブレーキの段差が大きく、アクセルペダルが遠く感じた。

前席より一段高い位置に座る70系の後席は、足元はもちろん頭上にも余裕があり、形状や座り心地も良い。それに比べるとラングラーのそれはサイズが小さめで、直立気味に座るが、スペースは十分だ。背もたれを前に倒すと連動して座面が沈み、ワンタッチで低くフラットに畳めるラングラーの機構は便利。70系は背もたれを前に倒したあと全体を前に跳ね上げる、商用車によくある方式だ。

リヤゲートは70系が左右、ラングラーが上下のいずれも2分割と、伝統のスタイルを継承している。どちらも床が高めだが、奥行きや幅は70系に分があるようだ。

ランドクルーザー70の内装色はグレーのみ。

正規輸入されるジープ ラングラーはすべて右ハンドル。

​ランドクルーザー70の後席は一体型の3人掛けで、タンブル機構を採用。

ジープ ラングラーの後席はワンタッチでフラットになる。

​ランドクルーザー70のリヤゲートは、左右で大きさが異なる。

ジープ ラングラーは上下分割式のリヤゲートを採用。

<エンジン+トランスミッション>
2台はエンジンのスペックも似ている。どちらもガソリンV型6気筒DOHC自然吸気で、排気量は70系が4リットル、ラングラーが3.6リットル。最大トルクの数値も近い。ただし最高出力はラングラーが70系を大きく上回り、最高出力を含めた発生回転数はラングラーのほうが明確に高い。

これに70系はMT、ラングラーはATの5速ギアボックスを組み合わせ、後輪または4輪を駆動する。車両重量は70系が2120kg、ラングラーが2020kgと、小柄で樹脂製ハードトップを備えたラングラーがやや軽いけれど、それよりも性格の違いが印象に残った。

70系はどんなスピード、どのギアでも同じように力強く加速していくのに対し、ラングラーは発進は穏やかで、次第に勢いが増していく。音は70系が全般的に抑え込んでいるのに対し、ラングラーは加速時には力強く澄んだサウンドを奏でる。

本国にはあるラングラーのMT仕様は、かなりスポーティに感じるだろう。でもファッション性に引かれて乗る人が多い日本ではATがお似合いかもしれない。逆に70系のエンジンはATとの相性が良さそうだが、現実は信頼性や耐久性の高さを重視してMTしか選択肢がない。トランスミッションひとつとっても立ち位置の違いが分かる。

コンソールを持たないセンタートンネルの奥から生える70系の長いシフトレバーは、ギアのかみ合わせが伝わってきそうなほどダイレクトなタッチを持つ。その分、手応えはあるけれど、機械をじかに操る喜びが感じられる。

復活したランドクルーザー70はV6ガソリンエンジンにMTの組み合わせ。

ジープ ラングラーもV6ガソリンエンジンで、AT仕様。

<乗り心地+ハンドリング>
70系は、路面の段差や継ぎ目を正直に伝えがちだ。しかしそれ以外は穏やかという言葉を使えるほど。頑丈なラダーフレーム、出来の良いシートも貢献しているが、30年間の熟成の効果も大きいと、初期の70系を経験したひとりとして断言できる。

ラングラーは対照的に、全般的に固めだが、段差や継ぎ目のいなしはうまい。最新のSUVに近いフィーリングだ。70系に比べてホイールベースが長く、トレッドが広く、背が低いという寸法面での優位性も関係しているのかもしれない。

ステアリングの感触も、ラック&ピニオン式のラングラーは他のSUVに近い。レスポンスは的確で、操舵(そうだ)の力を緩めれば自然に直進に戻ろうとする。70系のリサーキュレーティングボール式は反応がおっとりしていて、戻りの力が弱い。交差点を曲がり終わった際などに注意が必要だ。

ただしコーナーに入ってからペースを上げると、ラングラーはフロントが膨らもうとするのに対し、70系は素直に曲がっていける。ステアリングなどに伝わる接地感も70系のほうが豊富で、安心できる。

ラングラーの前後重量配分が1050/970kgと、フロント縦置きエンジン車としては一般的な数値なのに対し、70系は1000/1120㎏とリヤのほうが重い。さらにタイヤは、70系の265/70R16に比べてラングラーが245/75R17と、オフロードを意識して大径でハイトの高いタイヤを履く。それらがハンドリングに影響しているようだ。

ランドクルーザー70のサスペンションは、フロントがコイルスプリングでリヤはリーフスプリング。

ジープ ラングラーは、前後ともコイルスプリングのリジッドサスペンション。

<オフロード+まとめ>
ラングラーでオフロードコースを走ったのは現行型発売直後の2007年で、最近試した70系とはかなりタイムラグがあるのだが、記憶をよみがえらせて比較すると、その走りは近い。両車でもっとも似ているのはこの部分だと感じるほどだ。

絶対的な走破性が高いのはもちろんのこと、ドライバーが自らの手で大地を征服していくところが似ている。すべてを機械まかせにしていないから、運転者の技量が結果に出やすい。だからこそ上手に走れた際の喜びは格別だ。どちらもオフロードのスポーツカーと呼びたくなる。

それでも現行ラングラーは、トラクションコントロールやスタビリティコントロールが備わり、日本仕様の最新型は全車ATとなるなど、誰にでも等しく高性能を享受できるという方向にシフトしつつある。その点70系は、ABS以外はすべてをドライバーが操ってやらねばならない。今なおエキスパート向けであり続けているのだ。

つまり2台は生粋のオフローダーであるものの、その表現方法が異なる。ラングラーが分かりやすいデザインと扱いやすいメカニズムで多くのユーザーを引き込もうとしたのに対し、70系は極限状況で最高性能を実現するというストイックな設計思想でユーザーの心を引き付ける。自動車らしい色気があるのはラングラーであり、70系は機械っぽさ、道具っぽさにあふれる。どちらも男が惚(ほ)れるクルマだ。でも惚れる理由は違う。

(text:森口将之/photo:田村 弥、荒川正幸)

[ガズー編集部]