トヨタ アルファード(ガソリン車)試乗レポート

最高級ミニバンのあるべき姿

アルファードには直列4気筒とV型6気筒という2種のエンジンが用意される。V6は従来のものの熟成改良型だが、4気筒は2.4Lから新しい2.5Lに換えられた。進化した4気筒モデルと、運転好きをうならせるV6モデルをテストした。

小手先の技には頼らない

アルファードはとにかく押し出しが強く、周囲を堂々と見下ろせる気持ちよさ……という初代以来の美点をなんら損ねずに世代交代を果たした。最近のミニバンの中には「操縦安定性や燃費を改善するため」という言い訳(?)のもとで、ボディ全高をローダウンして、結果としてミニバンならではの広さや開放感をスポイルしている例が少なくない。しかし、アルファードはそういう小手先の技に走らず、孤高の最高級ミニバンのあるべき姿を真正面から追求した印象が強い。

アルファードも全高は先代比で10mm下がっているが、これは「よりカッコいい箱形デザイン」を追求した結果だという。その分、フロアを10mmだけ低床化して、視線の高さによる気持ちよさと全ミニバンでトップ級の室内高を維持した。

全国トヨペット店で販売されるアルファードは今回、ネッツ店で扱われる“兄弟車”ヴェルファイアと同時に世代交代を果たしたが、誰もが目を見張る手の込んだグリルデザインにより得られた、高級感・押し出し感という点での進化の幅は、アルファードのほうがより大きいといっていい。

圧巻のロングスライドシート

室内も豪華そのもの、しかも市場からのあらゆるニーズをくみ取ったかのように、シートアレンジの種類もすさまじく豊富だ。売れ筋となるのは、2列目が新設計のリラックスキャプテンシートとなる仕様と思われる。これには助手席ロングスライドシートも組み合わされて、フロアを前から後ろまで貫通する(ように見える)レールを助手席、セカンド、サード……という3つのシートが縦横無尽にスライドするのは圧巻というほかない。

なんだかんだいっても、大柄な成人男性がフル乗車しても全席で脚を組むなどのリラックス姿勢で座れるミニバンは、現実として世界にアルファード/ヴェルファイアくらいしか存在しないのは厳然たる事実。そんな圧倒的な室内空間をなんら犠牲にすることなく、これほど多くの快適装備とラゲージスペース床下にまで(!)いたる豊富な収納を確保しているアルファードには、もはや脱帽するしかない。

もはや日本国内のVIP用サルーンの定番となったエグゼクティブ系でも、今回のフルモデルチェンジではさらに最上級に豪華で快適、多機能化したエグゼクティブラウンジシートを新開発。室内調度まで専用化したExecutive Loungeという専用グレードだけの特権として提供されることになった。

上級グレードとの差が縮まった4気筒モデル

3種類あるパワートレーンの中で、販売台数的に主力となるのは、今回も4気筒のガソリンエンジン車だろう。その4気筒は今回、国内初出の新しい2.5Lユニットに切り替えられた。それに組み合わせられるCVTも新開発。従来の2.4Lも「性能は実用上、十分で、価格も手ごろ」ということで人気を博していたわけだが、新しい2.5Lでは動力性能・静粛性とも上級のハイブリッドや3.5Lとのギャップがハッキリと縮まった。

少なくとも単独で乗っているかぎりは、発進加速から高速の追い越し加速、そして険しい山道……にいたるまで、2.5Lのアルファードに、パワー不足感や物足りなさをいだくことは本当に皆無である。吹け上がりもスムーズ。アルファードはエンジン回転をトップエンド付近に張りつけても、エンジン音は心地よい音質で、“遠くで鳴っている”だけだ。

2.5Lは基本的に、3.5Lより快適性重視のシャシーチューンと組み合わせられるが、とにかくサスペンションが滑らかにたっぷりストロークする乗り心地の改善は驚くほどだ。ロールを過度に拒否しないチューンのサジ加減もうまい。しかも、柔らかいから快適……といった単純なものではなく、これまで以上にシュアな身のこなしと両立しているのだからたいしたものだ。

ダブルウィッシュボーンの効果は絶大

アルファードは徹底したボディ剛性の強化や静粛化を実行すると同時に、リヤに新開発のダブルウィッシュボーンサスペンションを投入した。特に2列目、3列目の乗り心地は目を見張るほどだが、この飛躍的進化に新リヤサスペンションの効果は絶大といっていい。

ここまでパワートレーンの魅力が上がると、4気筒モデル元来の鼻先の軽さも、さらに際立つというものだ。快適重視のフットワークチューンながら、現行モデルのアルファードは穏当な17インチ車でもコーナリングは軽快。そして不安感もまったくない。今回の試乗ではあえてまず2.5Lに乗ったのだが、その時点では「もはやハイブリッドや3.5Lはまったく不要では?」と心から思ったほどだった。

先代における3.5L V6の販売比率は15%ほどだったそうだ。この数字を見て「意外なほど多い」と思う人は多いだろう。2.5Lの実力がここまで上がると、率直に「3.5Lをあえて設定する意味はあるのか?」という疑問がわいたりもするのだが、アルファード/ヴェルファイア全体の15%……ということなら、絶対台数は決して少なくない。贅沢な3.5Lがこれだけ売れるという事実は、市場におけるアルファード/ヴェルファイアはもはやただのミニバンではなく、国産車を代表する高級サルーンの一角を占めていることの明らかな証明でもある。

加速レスポンスと快音がV6の美点

今回の3種類あるパワートレーンの中で、この6速ATと組み合わせられる3.5Lだけが従来の改良・熟成版である。ヌケのよいスポーティな快音(ただし、音量は高級車らしく控えめ)も従来どおり。

誤解を恐れずにいえば、市街地や混雑した都市高速をゆっくり走っているだけでは、2.5Lに対して明確なアドバンテージは感じなかったりもする。また山道では、さすがに2.5Lに比べて鼻先の重さも明らか。スムーズにコーナリングするには独特のコツが必要だが、Executive Lounge以外の3.5Lは基本的にスポーティ指向のフットワークチューンなので、よほどタイトなカーブ以外は適度に俊敏で正確なステアリング反応を示す。

しかし、スロットルを踏みこんで、エンジン回転が3000~4000r.p.m.に跳ね上がると、いよいよV6の美点があらわになる。こうした高回転域での加速レスポンス、そして胸のすくような伸び、それにともなう快音はさすがV6。運転好きのドライバーがあえてV6を選ぶ理由がわかる。

開発陣に話をうかがっても「今回のフルモデルチェンジでV6をラインナップから落とそうという議論は一度もなかった」という。なるほどV6ならではの味わいは健在だし、なにより15%も売れていたのだからビジネス的にもやらない手はない。それにしても、アルファードは先代からなにひとつ諦めず、あらゆるニーズと欲望に応えたクルマである。

[ガズー編集部]