フィアット「500e」試乗インプレッション、欲しくなる一台でした
魅力的なのは見た目だけじゃない! フィアットのコンパクトな電気自動車(BEV)「500e」でどんな走りが楽しめるのか。歴代500の乗り味もよく知る、自動車ライター嶋田智之がリポートする。
新設計ながら広くはないフロアに容量42kWhのバッテリーをレイアウトし、最高出力118PS、最大トルク220N・mを発生するフロントモーターで駆動するレイアウト。500eは、フィアットの量産車としては初といえる、完全なBEVだ。けれど実際に走らせてみて、チンクエチェントはBEVになってもチンクエチェントなんだな、と感じさせてくれたのは大きな収穫だった。
もちろん、純ガソリンエンジン車の2代目や3代目とは決定的に異なる部分もある。ゼロ発進の段階から走りが素晴らしく滑らかでしっかりと力強いことがそう。「アバルト595」に近いんじゃないか? なんて感じられる、歴代で最も強力な加速もそう。そして、腰の据わった安定感と脚のバタつきがない高級感すら感じられる乗り味や、右足だけで走行のほとんどをまかなうこともできる安楽さも。バッテリーとモーターで走るクルマならではのメリットを生かしたテイストは、内燃機関のクルマには極めて求めにくい類いのものだ。
けれど、曲がるときのフィーリングは、よく知っているチンクエチェントそのもの、と言っていいだろう。
僕は日ごろ、1970年式(2代目)の「500L」をアシとし、現行の内燃機関版チンクエチェントも軽く3桁の回数、試乗している。そのうえで、ステアリングを操作して前輪が反応すると同時に後輪までが反応してクルマ全体で素早く曲がっていくような、胸のすく気持ちよさこそがチンクエチェントを走らせる大きな醍醐味(だいごみ)のひとつだと感じている。それが、電動チンクエチェントにもしっかり受け継がれているのだ。付け加えるなら、素晴らしい造形をしたクルマを自分が走らせているという、とてもシンプルな喜びも同じ。原動力が何であっても、チンクエチェントとともに過ごす時間の楽しさに変わりはないのである。
僕はBEVバンザイ派でもなければ反対派でもない。BEV特有の楽しさはしっかり理解しているつもりだけど、充電インフラが今もって極めて不自由だという現実もたっぷり体験している。自分の日常にはまだまだアジャストさせにくいから、BEVを欲しいと思ったことがない……いや、なかった。でも500eに初めて乗った日の晩、僕は「充電環境のある賃貸駐車場って近くにないのかな?」なんて探してみたりした。ちょっと欲しいな、なんて気分にさせられたのだ。
優れたBEVはたくさんある。というか、大抵のBEVの出来栄えは素晴らしい。だけど、ここまで自然と心を浮き立たせてくれるBEVって、ほかにいったいどれだけあるだろう……?
(文:自動車ライター・嶋田智之)
[GAZOO編集部]
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