『クルマは最高のトモダチ』これは欲しい! チンクェチェント“e”に待望の試乗…山田弘樹連載コラム
みなさん、チャオ チャオ!
次世代のチンクェチェント、フィアット初の量産型ピュアEVである「500e」に、ようやく試乗することができました!
試乗会のタイミングが合わず、これに乗る機会を逃して悔しい思いをしていたのですが、このたびディーラーの方々に研修をする機会があって、その前にじっくり試乗することができたのです。
ちなみにこの500e、ついつい「ゴヒャク・イー」と言いがちですが、正式な呼び方は「チンクェチェント・イー」でございます。
講義中は私もみなさんの前で、何度か「ごひゃ…」と言いかけては言い直したのですが(笑)。
だから心のなかでは“チンクェチェント・イー”と呼んであげてくださいね。
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上級仕様「Icon」に、特別色となる三層パールの「セレスティア ブルー」の組み合わせ。光の加減で色が淡く変化して、とってもキレイです。アルファ ロメオのヌヴォラブルーに似ていますね。
というわけでさっそく“500e”に乗った印象ですが、
これが実に、楽しいクルマでした!
正直言って、ワタクシ欲しいです。
EVはガソリン車やハイブリッド車に比べて、どうしても充電環境の準備と航続距離の短さがネックになりますが、それをも吹き飛ばす魅力が、このクルマにはある!
モータージャーナリスト的な見方でいうと、気になる部分はあります。
まず足周りは、もう少しフィアット車らしい、もっちりとしたロール感が欲しかった。
シティコミューターとして平らな道を走るだけなら乗り味抜群なのですが、カーブを気持ちよく走ろうとするには、サスペンション剛性が少し足りない。
だから低重心なEVの割に、操舵応答性が鈍く感じます。
きっとこれだけフロア剛性が高くて車両重量が重たかったら、フロントにWウィッシュボーン、リアにマルチリンクをおごってもいいくらいだと思います。
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駆動方式はFWDです。リア・エンジンリアドライブ(RR)に回帰しなかったのは大衆車としての運転しやすさと、走安性を考えてフロントモーターで回生ブレーキを使いたかったからじゃないかと思います。対して小回り性能とハンドリングの良さを求めてホンダeがRRを採用したのは面白いですよね。
ただそのコストは、掛けられなかったんでしょうね。スペースの都合もありますが。
そして、フロント:ストラット/リア:トーションビームの足周りのままダンパー&スプリングやブッシュの剛性を高めると、乗り心地悪くなっちゃうんだと思います。
ちなみに16インチ仕様の「POP」だと乗り心地は良くても応答性がやや鈍くて、17インチ仕様の「Icon」(アイコン)だと応答性が上がっても、乗り心地が悪くなる。
「POP」(450万円)は受注生産車だから、実際販売の中心となるのは「Icon」(485万円)と「OPEN」(495万円)です。
EVとなった500eはお値段的にもプレミアムコンパクトですから、もう少し足周りにはお金をかけて欲しかったな。
みんなそこまで気にかけないと思うけど、マルチリンク化したらすごく良くなるだろうなぁ…なんて思いました。
個人的に乗り味が好みだったのは、一番ベーシックなグレードの「POP」。タイヤが195/55R16インチで、エアボリュームがある分だけ乗り心地が優しいんです。
お値段は確かに高めですが、CEV補助金を使えばなんとか現実的な価格帯になる500e。
だからこそPOP仕様が受注生産なのは残念ですが、トヨタ「bZ4X」同様にサブスク販売するのも、バッテリーに対する保証やクルマの初期トラブルで、ユーザーに負担や心配を掛けないで済むようにと、よく考えられたシステムだと思います。
バッテリー容量は、同じコンパクトEVである「ホンダe」の35.5kWよりもちょっと多めな42kW。よってその航続距離もホンダeの283km(ベースグレード)に対して335km(WLTC値)と、シティコミューターとして考えれば十分です。
エアコンを掛けながらストレスなく使っても、高速道路をガンガン長距離移動しなければ、70%(234.5km)くらいは普通に走れるはず。
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5日間のディーラー研修で活躍してくれたメンバーたちと、500e OPENに乗って記念撮影。みんなで500eのエキスパートになりました(笑)。
ちなみに私が試乗したのは静岡県にある日本平のワインディングでしたが、500eはそのモータートルクで、上り坂でも静かにグイグイ走ってくれました。
EV車として考えるとその出力は118PS/220Nmと控えめですが、それでもトルクだけならアバルトの限定車「695SS」(230Nm)にも迫る勢いですから、瞬発力はまずまずです。
そして下りでは、回生ブレーキによる充電効率が、かなり高かった。バッテリー残量87%で走り出し、40分ほど山道を走って帰って来ましたが、減ったり増えたりを繰り返しながら、最後は80%も残っていました。
ちょっと私の回生運転がうま過ぎたかも?(笑)。
またそのボディがまるっとサイズアップしていることもあり、前席の圧迫感が減ったのも、グッドなポイントでした。
ガソリンモデル(1.2 CULT)に比べると、500e ICONは全長で+60mm、全幅で+60mm、全高で+15mm大きくなっています。
それでもフィアット・パンダよりは、全長が20mmほど小さいです。
私はガソリンモデルのチンクが大好きなのですが、乗るとドアがすごく近くて、ちょっと窮屈なんですよね。
対して500eは、直立姿勢を強いられたあの着座姿勢までもが、とっても普通になりました。
小さなチンクが良ければまだ併売しているし、プレミアムな選択肢がひとつ増えたという感じですね。
インテリアはすっきりスタイリッシュ。ファニーになりすぎないのはセンスの良さだと思います。ドアはなんと、電動プッシュボタンで開けられます(その下にはエマージェンシーで普通のドアノブもある)。
FIATのロゴが滑り止めになっている上級グレードのレザーシートは抜群にお洒落ですが、庶民派のワタシはPOPのテキスタイルシート推し(笑)。足もとはセンタートンネルが張り出す形状だから、右ハンドルだと左足のふくらはぎが当たったり、左足がフットレストに乗りにくいという意見もありましたが、ちょっと左足を引いて座れば私は問題なかったです。
リアシートは、ホイルベースは20mmほど伸びていて足下は快適だけど、センター部分が盛り上がったせいか、ディーラーの方たちからは座面が狭いという声もありましたね。フルフラットにはならないけど背もたれを倒せば、これだけ荷物が搭載できますよ!
そして面白いのは、アレコレ走りに注文を付けた割に、チンクeを運転しているとワクワクすることです。
これまで沢山のEV車に乗ってきましたが、「静か」とか「スムーズ」というだけでなく、「楽しい!」と感じたのは初めてかもしれない。
運動性能だけで言えば「プジョー e208」の方が、断然スポーティ。
でも500eに乗っていると、気持ちが“ポップ”になります。
POP仕様のふにゃっとしたロールを、回生ブレーキとステアリングの連携で操りながら走っていると、うまく曲がれたときなんかすごく嬉しい。
ドヤ顔のボンネットを開けると、コントロールユニットやモーターが低く搭載されています。ツインエアの2気筒サウンドが聴こえないのはさみしいけれど、圧倒的にそのレスポンスは良くなりました。小さなクルマほど、EVになると走りは劇的に変わります。
そこには“デザインのチカラ”も大きく関係しています。
インテリアは大人びていてスタイリッシュだし、三層パールのボディカラーはものすごくキレイ!
何よりその姿を見ているだけで、嬉しくなります。映えるから、写真撮りまくりです。
スムーズでトルキーな走りが魅力のEV車ですが、その実モーターの駆動感は差別化しにくいから個性を打ち出すのって、なかなかに難しい。
そんな中にあって500eは、イタリア車としての個性をきちんと発揮していました。
いや、もっと弾けちゃってもいいくらい。
これは、思わず乗りたくなるEVですョ。
なんじゃこりゃぁ! 静かなEV車の車両接近を知らせるためにフィアットは、ニーノ・ロータの名曲「Amarcordのテーマ」を採用してるんでえす。こんなことが自然にできちゃうのも、伝統を愛するイタリアの素晴らしいところですよね。
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500eで唯一残念なのは、この大きなアダプターをつけて急速充電を行うこと。CHAdeMOに充電ポートが対応していないんです。ただ、そこには理由もあります。ポートを対応型にすると、アダプター側にある大きな機械を車体側にビルトインしなくてははならず、リアスペースが犠牲になります。なおかつフェンダーも日本専用となり、コストが上がる。だからこその割り切りですが、集合住宅の方だけちょっと面倒かも。あっ、それって私じゃん(汗。
(テキスト:山田弘樹)

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。
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