BMW 220iクーペMスポーツ(試乗編) 運転して気持ちいいFRスポーツカーだ

先代の「BMW 2シリーズ クーペ」でレースに参戦したこともある、モータージャーナリスト山田弘樹。彼が、4気筒エンジンを搭載する新型の走りを絶賛するのはなぜなのか?

というわけで、実際に「220iクーペMスポーツ」を走らせてみる。

ほほう、なるほど。

「Mスポーツ」の名前を冠してはいるけれど、新しくなったこの2シリーズ クーペは、レスポンス重視のパキパキとしたハンドリングじゃないところが面白い。

その乗り心地は、ちょっと硬い。でもその硬さは主に18インチタイヤの剛性によるもので、サスペンション自体はむしろしなやかに動いている。BMWは、普段の乗り心地のよさとスポーティーなハンドリングの両立を図っているのだろう。あとから調べてみると、2シリーズ クーペのサスペンションシステムには「ストローク依存型」と呼ばれるダンパーが採用されており、荷重が大きくなるほどに減衰力を高める仕組みとあった。そしてMスポーツの足まわりは、標準車に比べて少し硬めに設定されているとのことだった。

だからなのだろうか、その走りはちょっと“玄人好み”だ。ただハンドルを切っただけでは、思ったよりクルマは曲がらない。正確に言うと、曲がりはするのだが、Mスポーツという割には操舵時の初期レスポンスが鈍いように感じられる。

しかしブレーキングでダンパーに荷重をかけてからステアリングを切っていくと、それまでの塩対応がうそのように、気持ちよくノーズが入っていく。アクセル開度を調節して前かがみの姿勢をつくりながら曲がると、クルマはピターッと気持ちよくコーナーに張り付く。

これですよ、このツンデレ具合。ただ硬い足まわりを入れてハンドリングゲインを高めるのではなく、きちんとした操作で曲げる。時にはそれがうまくいかなくて、クルマに「いまのは失敗」と教えられる。実際に挙動を乱すようなことなどなくても、自分で運転していて気持ちよくなければ失敗。逆に気持ちよければ、成功。こんなやりとりをすることこそが、クルマを操る楽しさだと思うのです。

そしてこうした走りでは、速度域が上がっていくほどに、ドライビングプレジャーの純度も高まっていく。タイヤのスリップアングルと相談しながら運転するという領域に近づくほどに、後輪駆動の良さが光る。

もちろんそれはクローズドコースでの話なのだけれど、だからこそ30年前に登場した「318is」のような非力なクーペでも、BMWは楽しかった。その歴史を知っているからこそ、BMWファンは、当時を思い起こさせるこの小さなクーペに期待するのだと思う。

本音を言えば、この2リッター直列4気筒ターボエンジンが、もう少しだけパワフルだとうれしい。上級モデル「M240i xDrive」に搭載される直列6気筒ターボの最高出力387PSまではいらないけれど、300PSで最大トルクは400N・mくらいであれば、言うことはない。あ、あとトランスミッションは6段MTで!

でもオープンロードを走る限りは、いまの184PS/300N・mと8段ATで、十分にそのバランスの良さを楽しむことができる。試乗してはいないが、17インチホイールと標準サスを装着する、素の「220iクーペ」のほうがむしろ、日常での運転は楽しいのではないかとも思う。

2シリーズ クーペというと、どうしても後に控える「M2クーペ」が真打ちとされ、これが登場すれば多くのクルマ好きたちが「待ってました!」とその走りを絶賛するとは思う。しかし、より多くのドライバーに「駆けぬける歓び」を感じさせてくれるのは、220iクーペのほうだろう。

クルマの取りえはカッコやステータス性だけじゃないぜ、という本格派のクルマ好きは、ぜひ一度220iクーペのステアリングを握ってほしいと思う次第である。

(文:モータージャーナリスト・山田弘樹)

[GAZOO編集部]

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