「ホンダNSX」の最終モデルとして登場した、高性能バージョン「タイプS」の走りをレポート
(前編からのつづき)
じゃあNSXタイプSを走らせて「感動しないの?」と言えばそんなことはない。
デビュー当初に酷評された、フロントの外輪を内輪より多く回してタイトなコーナーをとことん曲がり込むという「SH-AWD」のトルクベクタリング制御は、マイナーチェンジを受けた2019年モデルでずいぶんとマイルドになった。それはサーキット領域でカウンターを切ったときに、修正舵を当てた以上に曲げてしまう挙動が「危ない」と評価されたことが大きな要因だった。
合わせて、足まわりもリアの剛性を高めて、オーバーステアそのものを抑える方向へとセッティングしなおした。さらにこのタイプSでは、可変ダンパーの制御をより緻密にして、日常領域からスポーツ領域まで幅広くドライバビリティーを向上させた。
タイプSの走りは、初期にメディアにたたかれたことで若干腰が引けた感じがしなくもなかった。相変わらずタイトなコーナーは面白いほどにクルクルと回り込んでくれるのだが、中・高速コーナーではAWDのトラクションを効かせることで、ミドシップスポーツカーらしい軽やかな旋回特性が、安全方向へと大きく振られているように感じ取れた。
だがその速さ、最高出力610PSにまで昇華した3.5リッターV6ハイブリッドのポテンシャルを、今度は安全に使えるようにしようという姿勢は大いにくみ取れたし、実際、よどみなく吹け上がるホンダらしいエンジンのキャラクターを、かなり濃密に味わうことができた。そして「これを思い切りサーキットで走らせてみたいな」と素直に感じられた。だからこそ、ここで開発を止めてしまうことが残念でならない。
NSXはどうやったら生きながらえることができたのだろう? よく言われるように「タイプR」を起爆剤として出すことは、確かにひとつのアイデアだろう。
いっぽうで筆者は、NSXはもう1クラス小さなスポーツカーでよかったのではないかとも思う。ホンダは量産車メーカーだ。そのユーザーが憧れながら手が届く、もしくは届きそうで届かないところにいるヒーローをつくり出してあげることが必要だったのではないかと思う。同じくF1を戦う量産メーカーのルノーが、「メガーヌR.S.」のリソースをうまく使ってアルピーヌを復活させ、称賛されているように。
そういうアイデアは、立ち消えてしまったもののホンダの社内にもあったと、風のうわさで聞いたことがある。エンジニアにしてみれば、それではモーターとバッテリーは積めなかった、という意見もあるだろう。あくまでこれは筆者の夢物語だ。でも、地に足のついた夢を与えてくれるのが、「スーパーカブ」をはじめさまざまなプロダクトで成功をおさめたホンダのやるべきことだと思えてならない。
2代目NSXが勝負するべき相手はV8のフェラーリでも「ポルシェ911ターボ」でもなく、「ポルシェ・ケイマン」や「アルピーヌA110」だった気がする。そして、その2車種も次の世代では電動化するといわれている。いまホンダの希望をつないでいるのは、「シビック タイプR」だ。
がんばれホンダ。また会いたいよNSX。
(文:モータージャーナリスト・山田弘樹)
[GAZOO編集部]
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