【マツダ CX-5 雪上試乗】クルマが“G”を教えてくれる、という感覚…井元康一郎
今年2月に発売されるマツダのCDセグメントクロスオーバーSUV、新型『CX-5』の先行雪上試乗会が北海道にあるマツダの耐寒試験場、剣淵テストコースで行われたので、インプレッションをお届けする。
新型CX-5は基本骨格については初代モデルを踏襲しながら、騒音・振動の低減、乗り心地向上などを徹底的にリファインしたという。また、マツダが今後、すべての車種に展開していくと言明しているステアリングとスロットルの統合制御「G-ベクタリング コントロール」も採用されている。
圧雪・氷結路ドライブはハーシュネス(突き上げ、ガタガタ)やアンジュレーション(路面のうねり)の面ではかなり過酷な環境。無論、操縦安定性についてもかなりオーバーに出るのだが、そこでのCX-5の挙動はとても良いもので、とくに乗り心地についてはサスペンションのフリクション感が強めだった旧型に対し、ホイールの上下動が相当スムーズになった。
FWD(前輪駆動)とAWD(4輪駆動)の両モデルに乗ったのだが、興味深かったのはG-ベクタリングコントロールの効果。これは一般的なアクティブトルクベクタリングのようなブレーキ制御によるヨーの誘発などは一切行わず、ステアリングの操作に合わせてエンジントルクを増減させ、フロント荷重を適正化することで乗り味を向上させるものなのだが、エンジニアによれば制御による加減速の変化は最大で0.02G程度とのこと。
そんな微妙な制御が体感できるのかと思いきや、雪上ではこれがとても良い働きをしていることが一発でわかるレベルであった。2WDは市販車にはないG-ベクタリングコントロールをキャンセルするスイッチ付きのテスト車両だったので比較することができたのだが、スイッチONの時はOFFの時に比べ、自分の走ろうとしているラインのトレース性は格段に高かった。道の幅員が狭く、両側には除雪した雪の壁があるようなコースでもアンダー・オーバーの挙動がきわめて穏やかなため、スキーでいえば雪面を無闇に荒らさずに綺麗なシュプールを描くように、その狭い道を滑らかに走ることができた。
が、それ以上に印象的だったのは、他の記者がドライブしているときにリアシートに同乗したときの快適性。Gがわかりやすいように座面が盛り上がったリアシートの中央部に座ったのだが、スイッチON時のコーナリング時の体の左右のぶれはオーバーでなくOFF時の数分の1にすぎなかった。
不思議に思ってしばらく自分の体感を観察していたのだが、途中でGがかかりそうなときに自分の体がそのGに備えようと、無意識のうちにコーナーのほうを向いていることに気付いた。前方の視界を見てそうしたわけではない。それなら条件はOFFのときと同じである。最大で0.02Gにすぎないはずの加減速を通じて、クルマが乗員に「これからGがかかりますよ」とインフォメーションを出しているのだ。
人間の感覚とは面白いモノで、同じ加速度でもそれがわかっているときと不意にかかるのとではまったく違うものに感じる。ディズニーランドのアトラクション「スターツアーズ」など、とくに初めて乗った時は1Gもかかっていないはずなのに、まるで宇宙の中を無茶苦茶に飛び回ったり奈落に落っこちたりするかのように感じられる。感覚的な備えがゼロだからだ。ジェットコースターも前を向いていると息苦しいが、ちょっと横を向いて視界を広げると一転、どうということはなかったりする。クルマの動きそのものを大げさに制御するのではなく、クルマの挙動を人間により良い形で伝えることで安定性を高めるというのは興味深いアプローチだった。
試乗会にはマツダの研究開発担当専務執行役員の藤原清志氏も姿を見せた。藤原氏は「マツダは人間中心主義を貫く。人間を科学的に知り、人間にとって良いものを作るということを柱に据えていれば、かつてのようにクルマづくりがブレることはなくなるからだ。まだまだ理想形への道は道半ばだが、G-ベクタリングコントロールはその思いが形になったもののひとつ。これからもできることからひとつひとつ、しっかりとクルマに盛り込んでいきたい」と語っていた。
商品本部長の竹下仁氏は「新型CX-5で、マツダがクルマをどう進化させていきたいかという思想をある程度表現できたという自負はあります。進歩に終わりはありませんが、初代にお乗りいただいているお客様はもちろん、これまでマツダ車は眼中になかったというお客様にも良い印象を持っていただけると思う」と自信を示した。
今回の雪上試乗会では新型CX-5の持っている商品特性や性能のごく一部しか体感できなかったが、発売されたあかつきには長距離ドライブをやってみて、マツダの変化を感じてみたいと強く思わされる出来であった。
協力:マツダ(試乗会)
(レスポンス 井元康一郎)
新型CX-5は基本骨格については初代モデルを踏襲しながら、騒音・振動の低減、乗り心地向上などを徹底的にリファインしたという。また、マツダが今後、すべての車種に展開していくと言明しているステアリングとスロットルの統合制御「G-ベクタリング コントロール」も採用されている。
圧雪・氷結路ドライブはハーシュネス(突き上げ、ガタガタ)やアンジュレーション(路面のうねり)の面ではかなり過酷な環境。無論、操縦安定性についてもかなりオーバーに出るのだが、そこでのCX-5の挙動はとても良いもので、とくに乗り心地についてはサスペンションのフリクション感が強めだった旧型に対し、ホイールの上下動が相当スムーズになった。
FWD(前輪駆動)とAWD(4輪駆動)の両モデルに乗ったのだが、興味深かったのはG-ベクタリングコントロールの効果。これは一般的なアクティブトルクベクタリングのようなブレーキ制御によるヨーの誘発などは一切行わず、ステアリングの操作に合わせてエンジントルクを増減させ、フロント荷重を適正化することで乗り味を向上させるものなのだが、エンジニアによれば制御による加減速の変化は最大で0.02G程度とのこと。
そんな微妙な制御が体感できるのかと思いきや、雪上ではこれがとても良い働きをしていることが一発でわかるレベルであった。2WDは市販車にはないG-ベクタリングコントロールをキャンセルするスイッチ付きのテスト車両だったので比較することができたのだが、スイッチONの時はOFFの時に比べ、自分の走ろうとしているラインのトレース性は格段に高かった。道の幅員が狭く、両側には除雪した雪の壁があるようなコースでもアンダー・オーバーの挙動がきわめて穏やかなため、スキーでいえば雪面を無闇に荒らさずに綺麗なシュプールを描くように、その狭い道を滑らかに走ることができた。
が、それ以上に印象的だったのは、他の記者がドライブしているときにリアシートに同乗したときの快適性。Gがわかりやすいように座面が盛り上がったリアシートの中央部に座ったのだが、スイッチON時のコーナリング時の体の左右のぶれはオーバーでなくOFF時の数分の1にすぎなかった。
不思議に思ってしばらく自分の体感を観察していたのだが、途中でGがかかりそうなときに自分の体がそのGに備えようと、無意識のうちにコーナーのほうを向いていることに気付いた。前方の視界を見てそうしたわけではない。それなら条件はOFFのときと同じである。最大で0.02Gにすぎないはずの加減速を通じて、クルマが乗員に「これからGがかかりますよ」とインフォメーションを出しているのだ。
人間の感覚とは面白いモノで、同じ加速度でもそれがわかっているときと不意にかかるのとではまったく違うものに感じる。ディズニーランドのアトラクション「スターツアーズ」など、とくに初めて乗った時は1Gもかかっていないはずなのに、まるで宇宙の中を無茶苦茶に飛び回ったり奈落に落っこちたりするかのように感じられる。感覚的な備えがゼロだからだ。ジェットコースターも前を向いていると息苦しいが、ちょっと横を向いて視界を広げると一転、どうということはなかったりする。クルマの動きそのものを大げさに制御するのではなく、クルマの挙動を人間により良い形で伝えることで安定性を高めるというのは興味深いアプローチだった。
試乗会にはマツダの研究開発担当専務執行役員の藤原清志氏も姿を見せた。藤原氏は「マツダは人間中心主義を貫く。人間を科学的に知り、人間にとって良いものを作るということを柱に据えていれば、かつてのようにクルマづくりがブレることはなくなるからだ。まだまだ理想形への道は道半ばだが、G-ベクタリングコントロールはその思いが形になったもののひとつ。これからもできることからひとつひとつ、しっかりとクルマに盛り込んでいきたい」と語っていた。
商品本部長の竹下仁氏は「新型CX-5で、マツダがクルマをどう進化させていきたいかという思想をある程度表現できたという自負はあります。進歩に終わりはありませんが、初代にお乗りいただいているお客様はもちろん、これまでマツダ車は眼中になかったというお客様にも良い印象を持っていただけると思う」と自信を示した。
今回の雪上試乗会では新型CX-5の持っている商品特性や性能のごく一部しか体感できなかったが、発売されたあかつきには長距離ドライブをやってみて、マツダの変化を感じてみたいと強く思わされる出来であった。
協力:マツダ(試乗会)
(レスポンス 井元康一郎)
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