【メルセデス GLC350e 試乗】高い金を払ってドイツ製PHEVを選ぶ理由は…中村孝仁

メルセデス GLC350e
最近ドイツメーカーのPHEV市場進出が著しい。何故今、こぞってPHEVなのか。そこにはドイツ特有の事情が見え隠れする。

昨年、ドイツの連邦議会は2030年までに内燃機関エンジンを搭載する自動車の販売を禁止する決議案を可決した。この決議案に拘束力はないというが、何らかの新しい動力源を模索する動きが自動車メーカー内で加速することは言うまでもない。しかしその前に、エンドユーザーの、その新しい動力源に対するアレルギーを取り除いてやることが何よりも重要だ。

僕はドイツに2年半住んだ経験があるが、ドイツ人は正直かなり頭が固い。トヨタがハイブリッド車を作った時も、何故動力源が二つも必要なんだ?と懐疑的だった。今ではハイブリッドは各メーカー当たり前のように出しているが、そうはいってもトヨタのようにのめり込んでいない。ましてやピュアEVとなると、まだまだ、あちらの世界?的なイメージが強いのではないかと思う。そこで、折衷案としてまずピュアEVに必要不可欠な充電ソケットと、もし万一電欠してもガソリンがあるじゃないという安心感も得られるPHEVが、当然の帰結としてドイツ人の頭の中にあったような気がするわけである。

PHEVといえば、日本のパイオニアは言うまでもなく『プリウスPHEV』。初期モデルでは電気のみの走行は非常に限定的だった。しかし、ドイツ製PHEVは皆、プリウスの数倍は走る。それだけではなく、モノによって例えばVW『ゴルフGTE』のように、性能を売りにするPHEVもある。メルセデス『GLE350e』はどうか。

この動力源は基本的にCクラスのそれと全く同じで、2リットル直噴ターボ4気筒ユニットと、116psの電気モーター、それに8.31kwhのリチウムイオンバッテリーを搭載する。バッテリーはリアラゲッジスペースの下に搭載されていて、このためにラゲッジフロアがだいぶ引き上げられ、結果としてラゲッジ容量もガソリンモデルと比べて小さくなる。というわけでメルセデスの場合、特に何かを遡及しようとした意図はなく、またVWのように性能をアピールするでもない、やはり内燃機関の新たなフェーズ的位置づけに見える。

単純な話、バッテリーの容量が大きくなれば、ピュアEVでの走行距離は伸びる。ただその分重くなる。どういった走行モードを選べるかというと、メルセデスの場合はいわゆるハイブリッドモード、ピュアEVのEモード、バッテリーの容量を減らさないEセーブモード、それにバッテリーの容量を増やすチャージモードだ。ほとんどのメーカーは、電気とガソリンの動力源を併用する、いわゆるパラレル方式のハイブリッドシステムを採用していて、メルセデスもその例に洩れない。だから、寝静まった市街地ではEモード。通常はハイブリッドモードで、Eセーブモードやチャージモードは、正直言うと付けったり。何よりチャージモードにすれば燃費が悪くなるし、敢えてバッテリーをセーブする必要性が何のためにあるのか、正直わからない。

動力源を二つ搭載することで、必然的に重量も重くなり、確かに内燃機関の働く時間は減るから、それなりにクリーン化には向かうかもしれないが、ドイツ製PHEVの役割は、エンドユーザーのEVに対するアレルギーを取り除く以外に積極的にチョイスする意味がないように思えて仕方がないのである。

しかも、ドイツ製PHEVはメルセデスに限らず充電は200Vの充電システムオンリーで、日本の高速道路などに設置されている急速充電は使えない。つまり、家に充電システムを装備するか、近くに充電ステーションがあるならまだしも、そういう環境にない場合はほとんどマイルドハイブリッド車と同じ程度の電気に頼る走りしかできないことになる。勿論、敢えて燃費が悪くなるのを承知でガソリンで発電すれば、電気走行は可能だが、ならばガソリンエンジンは充電の発電機として使うシリーズハイブリッドの方が効率の面でもよいのではないかと思ってしまうわけである。

メルセデスの場合PHEVの値段はかなり高い。同じエンジンを搭載するガソリン仕様の本革シート車と比較しても128万円高い863万円だ。ここにもPHEVを積極的に訴求する印象は感じられない。ヨーロッパではバッテリーを今の12Vから48Vに引き上げようとする動きがあるが、そうなってくるとEVあるいはPHEVのポテンシャルは今より高まると思うが、まさに今は過渡期そのものといえよう。

燃費は正確には測定しなかったが、ガソリン仕様のモデルと同等で、燃費削減を求めるならディーゼルが圧倒的に有利だ。高い金を払ってPHEVをチョイスするのは先進性に対する先行投資というのが現実的なところのように見える。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

(レスポンス 中村 孝仁)

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