【スバル インプレッサ 800km試乗 後編】燃費性能以外にケチのつけどころがない…井元康一郎

スバル インプレッサSPORT 2.0i-L AWD。阿武隈山地にて。
スバルが今年10月に発表したCセグメントモデル、『インプレッサSPORT』で800kmあまりツーリングしてみた。前編ではシャシーのフィールについて取り上げた。後編ではパワートレイン、居住感、先進安全システムなどについて述べる。

◆エンジンはほぼそのまま、CVTは如実に変化

新型インプレッサのパワートレインは、エンジンについては直噴化による熱効率向上、チェーンドライブ式CVT「リニアトロニック」については変速比の幅を従来より1割程度拡大するといった改良がなされているが、基本的には従来のアーキテクチャの延長線上のもので、劇的なパフォーマンスの向上はなかった。

走ってみて従来型と最も異なっていたのは、CVTの挙動だった。まず、中高速域でのクルーズ時のエンジン回転数が低くなった。負荷の小さい平地で100km/hを維持する時のエンジン回転数は1500rpm程度、また緩加速でも1600~1700rpmに上がるくらいで、変速比幅の拡大の恩恵が如実に表れていた。

スロットルワークへの応答性も向上していた。従来型の“ドローン”としたフィールではなく、スロットル開度に応じて回転数と車速がある程度リンクして上がるように改良されていた。スポーツレンジではパドルシフトによる擬似マニュアルシフトが可能。また、最近のリニアトロニックは変速機任せでも有段変速機のような動きをするようプログラミングされているが、ステップアップ・ダウンの節度感も増した。峠道など、車速が大きく変化するシーンで変速機がもたついてイライラさせられるようなことはなくなった。

エンジンのパフォーマンスは旧型とほとんど変わらず。新型インプレッサはシャシーが一新されたとはいえ、車両重量が軽くなったわけではないので、動力性能が格段に向上したといった実感はない。現実には日本の道路では150ps強もあれば十分に速く走れるので、アップダウンのきつい峠を攻め攻めで走りたいという人でもなければ大きな不満を持つことはないだろう。

サウンドは依然として独特。「ドロロロロ…」というスバルサウンドが聞けなくなって久しいが、相変わらず「ウィィーン」というメカメカしい感じの、独特な音を発する。また、直噴化は騒音面ではやや不利なのだが、遮音はしっかりしており、ノイズが増したような印象は持たなかった。

瞬間燃費計の観察を通じて抱いた印象としては、直噴化によってエンジンの効率を上げる基本となるストイキ(理論空燃費)燃焼の範囲が旧型に比べて広がり、少々踏み込み気味に走っても燃費低下はそれほど大きくない半面、世界のトップランナークラスのエンジンのように部分的に高膨張比制御が取り入れられているような感じではなく、あくまで旧型比で向上したという範囲にとどまるようだった。

◆走行抵抗の小ささが燃費に効いている

ロングツーリング燃費だが、一部区間を除いて過剰なエコランをせずに走って得られたリザルトは測定区間合計781.7km、給油量合計49.8リットル、満タン法による実燃費は約15.7km/リットルであった。

この数字をどうみるかは微妙なところで、Cセグメントファミリーカーとしてみれば若干不満だが、2リットルAWDという仕様だと思えばまあまあ納得できるという水準。平均燃費計はおおむね5%過大表示といったところで、その数字から推察するに、普通の混雑状況の都心部では11~12km/リットル、速度を落としてエコラン気味にロングドライブをしたときは18km/リットルあたりであろう。

前述のようにパワートレインの効率はそれほど高いようには感じられなかったが、新プラットフォームの採用ゆえか新型インプレッサは空走時の転がりが異常に良く、その走行抵抗の小ささに救われた格好であった。ちなみに試乗車の「2.0i-L」には前輪駆動版も存在する。そちらのほうはもう少し燃費が良い可能性があるが、前編でお伝えしたように新プラットフォームとAWDのコンビネーションによる悪天候下での車両安定性はピカイチと言っていいレベル。個人的には1000km級のロングドライブ1回あたりの燃料代が数百円程度であれば、AWDを選びたいという気分であった。

なお、燃料タンク容量は公称50リットルだが、ロングドライブにおける燃料給油の自由度という観点からは少し小さい。今回のツーリングで燃料警告灯が点灯したのは670km走行時点。燃費命のモデルではないのだから、ここは欧州Cセグメントなみに60リットルタンクを装備してほしい気がした。

◆昴(すばる)が輝くウェルカムイメージ

スバルは新型インプレッサの大きなセールスポイントとして、安全性の高さを挙げている。ボルボのように対人事故時にダメージを軽減するボンネットエアバッグを全車標準装備するなど、相当に力を入れているのは確かなようだ。もちろんそれらを試す機会はなかったが、ステレオカメラ方式の先進安全システム「アイサイト3」は相変わらず良い仕事をした。前車追従でクルーズをしていても、前のクルマとの車間を一定に保とうとしすぎず、滑らかさ重視の制御であるのは嬉しい。また、現在の市販車のシステムではセンターラインや路肩のラインを的確に読み取り続けることは難しいのだが、アイサイトは車線の失探率は比較的低いほうであった。

車内は低価格車なりによくデザインされている。肩肘張って安物を高く見せようというような内装づくりではなく、すっきりとした機能美重視のデザインだ。その中に、ちょっとだけ情感的な演出を盛り込んだ部分もあったりする。たとえばインパネ内とダッシュボード上に設置されたインフォメーションディスプレイだが、システムスイッチをONにすると、夜空にプレアデス星団、すなわち昴(すばる)が輝くウェルカムイメージが表示される。

スバルの正式名称は富士重工業だが、今年4月に社名がスバルに変更されることがすでに決まっている。1代にして世界有数の軍用機メーカー、中島飛行機を作った上州の快男児、故・中島知久平氏が富士山をこよなく愛したのは有名な話。中島飛行機が財閥解体によって散り散りになったとき、それらの多くが社名に富士の名を冠した。それが再びひとつになったときの名が富士重工業だったのだ。

その社名を中島飛行機創業100年を機に変更するというのである。吉永泰之社長は「100年は社名変更のいい機会」と語っていたが、いいとこ7~8年で次世代にバトンタッチする経営者が創業100年程度のことで富士の名を捨てることを簡単に決めるのかと、ちょっと反感を持ったりもしていた。

しかし、新型インプレッサのウェルカムイメージを見て、ブランドの標が大空から星になるというのなら、それはそれで素敵かもしれないと、良い印象もちょっぴり芽生えた。世界の主な自動車メーカーで星の名を冠しているのは、スバルの他にはスウェーデンのボルボのハイパフォーマンスブランド、ポールスター(北極星)くらいで、特別感はある。ちなみにこのウェルカムイメージ、実物は写真より綺麗なもので、宇宙好きの人はちょっぴり萌えるかもしれない。変更すると決めたからには、このスバルを限りなく素敵なブランドにしてほしいところだ。

◆バランスの良さと走りの質感

新型インプレッサのロングドライブ耐性は、前編で述べたようにシャシー性能や味付けが卓抜したものであることから、まず運転に飽きさせないという点で非常に高いといえる。ただし、疲労の蓄積度という点ではノンプレミアムのCセグメントでは世界最高峰のひとつと言えるマツダ『アクセラ』にやや劣り、フォルクスワーゲン『ゴルフGTE』と同じくらいのレベルだ。

ドライブ中、最長連続運転は4時間10分ほど。新型インプレッサは連続運転時間が長くなると、「運転時間が4時間を超えました」などと節目節目でアラートを出してくる。その4時間目のアラートの後でクルマを降りて地面に立ってみると、アクセラに比べて体が重く感じられた。もっとも、4時間も連続で運転するのは何か約束があったり(今回はこれ)、到着目標時刻を守るために頑張るときくらいのもので、普通は2時間もドライブすれば休んだり見物したい場所が見つかったりするもの。クラス平均よりは上を行っていることでもあるし、実用上は問題ないであろう。

新型インプレッサはことシャシー性能や走りの質感については、国産Cセグメントのライバルを圧倒する出来であった。ちなみに今回試乗したモデル「2.0i-L」は17インチホイール径のタイヤを履くグレードであったが、その上には18インチモデル「2.0i-S」がある。噂によればそれはもっと素晴らしいとのことで、そちらにはさらなる期待が持てる。

疲れにくさでは前述のアクセラに、ワインディングでのファントゥドライブ性ではホンダの3列シートモデル『ジェイドRS』に、高級感ではレクサス『CT』にと、項目別に見れば特定のモデルに劣勢というところもある。が、新型インプレッサはとにもかくにもバランスが優れているうえ、走りの質感の磨き込みが素晴らしく、トータルではライバルを文字通り圧倒するという感があった。筆者にとって未知数なのは、開発陣が「相対速度200km/hですれ違うドイツの一般道で走りを磨き込んだ」と豪語していたトヨタのCセグメントSUV『C-HR』で、そのうちぜひ比較してみたいと思うところである。

ライバルとしては、早急に自社モデルの走り味を上げるか、さもなくば彼我にこれだけの質感の差があることが顧客にバレないことを祈るばかりだろう。走りのスイートさは開発のリファレンスモデルであったゴルフや日本市場から撤退したフォードのCセグメントSUV『クーガ』あたりに近いのだが、彼らにとってはこの味をこの低価格でモノにされたということが脅威となろう。

◆日本車のレベルを大きく引き上げる

積み残した課題は一にも二にもエンジンと変速機。ここが新世代になれば、新型インプレッサの商品力はまだ上がる。中では当然何かをやっているであろうが、エンジンを従来ベースの大改良ではなく完全新設計にしたり、あるいはスズキや欧州メーカーの一部がやっているように、10~15kW程度のモーターと小容量リチウムイオン電池をパッケージした軽量・低コストのマイルドハイブリッドを組み込んだりといった工夫を行うなどして、燃費性能をもう一息上げれば、もうほとんどケチをつけるところがなくなりそうだ。

新型インプレッサとマッチングが良いと思われるのは、“いいクルマが欲しい”と考えている顧客だろう。高級車、大衆車といった区分けでなく、クルマとして走りのまとまりが良く、遠くまでドライブをしても退屈しない新型インプレッサの特性はまさにジャストマッチだ。いろいろなクルマを乗り継ぎ、それを通じて走りの質感の高いクルマ、走り飽きないクルマとは何かということを知ったカスタマーほど、この特質を体感できるだろう。その点では、日本車より欧州車と強く競合するかもしれない。一方、燃費が一番大事と考えている顧客には向かない。また、ステーションワゴンではないため積載量重視の顧客ともミスマッチであろう。

日本市場では今日、スペース重視型のクルマが圧倒優位で、Cセグメントの市場は小さい。が、Cセグメントは元来、走行性能とユーティリティのバランスが取れた本丸的なクラス。だからこそ先進国で最も大きな市場になっているのだ。そのCセグメントでこれだけ強力な商品力を持つモデルが日本から出てきたことは、日本車のレベルを大いに上げることにつながるであろう。

ライバルメーカーは知らんぷりをするのではなく、打倒インプレッサを果たしうるだけの走りの質感を持つCセグメントを早期に出すよう頑張ってほしい。これこそが本当の切磋琢磨というものだろうと思う。直近ではスペシャリティカーのマツダ『ロードスターRF』と並ぶ衝撃的な日本車であった。

(レスポンス 井元康一郎)

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