【ルノー ルーテシア R.S. 1700km試乗】ファンな操縦性は他を寄せつけない…井元康一郎

ルノー ルーテシア R.S.
フランスの自動車メーカー、ルノーのモータースポーツ子会社、ルノースポールが製作する小型スポーツモデル『ルーテシアR.S.(ルノースポール。以下RS)』で1700kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

試乗したのは通常の200馬力版。オプションとして用意されるリアハッチゲートスポイラー、マルケジーニ氏がデザインした1本わずか8.35kgという超軽量アルミホイール、マフラーなどが装着されていた。また、ボディ全体に欧州におけるワンメイクレース「クリオカップ」風のラッピングが施され、えらくレーシーな雰囲気だった。

ドライブルートは東京・葛飾を出発し、奈良の吉野山、和歌山の高野山に達して後、南信濃の森林地帯を経由して長野の飯田、佐久、霧ヶ峰を周遊。最後は国道299号線十石峠から関東に入り、東京に帰着するというもの。道路の比率は市街地2割、郊外路6割、高速2割。路面状況はドライ8割、ウェット2割。1名乗車、エアコンAUTO。

まずはドライブを通じて得られたトータルの印象。ルーテシアRSは強豪ぞろいの欧州Bセグメントスポーツの中でも、キラリと光るものを持つ素晴らしいスポーツハッチであった。その素晴らしさの源泉は驚異的な俊敏さと誰にでも扱いやすいコントーラブルな特性を両立させたシャシーチューニングは見事で、相当に険しい山岳路もほとんどストレスフリーで通過することができた。

ルノースポール専用チューンを受けたデュアルクラッチ変速機「6速EDC」のレスポンスも良好。レカロとルノースポールの共同開発によるシートのおかげもあって疲れも少なく、とにかくツーリングすることが楽しくなるクルマであった。

弱点も多々ある。内装のビリつきなどフィニッシュに雑な部分があることと、パワーは十分ながらのっぺりとした回転フィールのターボエンジン、ロングドライブのお供となる車内アミューズメントシステムの欠如、平凡な騒音レベル、ファーストカーユースが考慮された日本のBセグメントに比べると車内が狭いことなど。

◆シャシー性能はBセグスポーツの最高傑作

では要素別に見ていこう。ロングツーリングを行ううえで最も大切な要素となるシャシー性能は、世界のBセグメントスポーツの中でも最高傑作のひとつと言えるくらいに良かった。ステアリングの切り増し、切り戻しとロール量の変化がぴったりと正比例するよう精緻なチューニングがなされており、普通の道を爽快に走る程度のペースであれば、かなりきついワインディングでもコーナリングの走行ラインを目で追うだけで走れてしまうくらいだった。

ルノースポール流のスポーティカー作りは、とにかくフロントをがっちり路面に食いつかせるということだ。このルーテシアRSの前後重量配分は65:35で、前が思いっきり重い。実は兄貴分にあたる『メガーヌRS』も65:35である。重量配分は前寄りだが前荷重がかかってもリアが浮くような挙動はない。このあたりはアルピーヌ時代から培ってきたディエップファクトリー流の味付けだろう。

筆者はちょうどルーテシアRSと競合するフォルクスワーゲン『ポロGTI』、プジョー『208GTi』にも乗ってみたが、ことハンドリングの質感やファントゥドライブ性においてはこの2モデルを大きく引き離しているように感じられた。ただし、路面が大荒れの場所については、サスペンションの追従性でトップランナーの208GTiにやや負けているようだった。

面白いのは、ハードサス仕様のシャシーカップなのに、乗り心地が大して悪く感じられないことだった。とくに路面のざらつきのカットは結構優秀で、いかにも上等なショックアブゾーバーを束手いるというフィール。路面のうねりもピッチが小さいものについては予想よりはるかにスムーズにいなした。高速道路のジョイントや大きなうねりになるとさすがに揺すられ感が出るが、それでもガチンガチンという直接的な衝撃は上手く抑え込まれていた。

ルノー本国のスタッフは、一般ユーザー向けにはしなやかさ、乗り心地重視のシャシースポールが適しており、シャシーカップを公道オンリーで使うのは馬鹿げていると考えていたという。ところが、乗ってみるとその話から受けていた先入観と実物は全然違っていた。クルマを借り出してドライブを始めた直後、これはシャシースポールなのかとルノージャポンの広報に確認の電話をしてみたほどである。ハードサスの多い日本のスポーツカーに乗りなれているユーザーにとっては抵抗感は低いだろう。実際、シャシースポールとシャシーカップが併売されていた頃も、シャシーカップのほうが圧倒的に人気が高かったという。

◆パワートレインは平凡だが萌えポイントも

パワートレインのほうは、シャシーに比べると魅力レベルは落ちる。日産の基盤技術を使って作られた1.6リットル直噴DOHCターボエンジンは200ps、240Nm(24.5kgm)と非常に強力で、1.3トンのボディを軽々と加速させる。が、加速させるときのパワーの湧き上がり感、高回転へ上りつめるような伸びやかさ、サウンドなどの官能評価については平凡。この点は加速させるだけで嬉しくなってしまうようなフィールを持つポロGTIには大敗、208GTiと比べてもやや負けている感があった。

そののっぺりとしたフィールのエンジンとは裏腹に、味付けが良かったのはデュアルクラッチ変速機の6速EDC。こちらはとても切れ味がよく、最もスポーティなドライブモード「RSスイッチ」を入れたときの変速のレスポンスやダイレクト感は、まるでレースカーの自動変速機を思わせるような凄みがあった。シフトダウン時には回転合わせのためにスロットルを一瞬吹かすブリッピング制御を行うようになっており、そのときに排気管のほうから「パン!パン!」と音が聞こえてくる。これはスポーティカー好きにとってはアドレナリンが分泌される萌えポイントに思えるに違いない。

燃費はハイパワーカーゆえ、それほど良くない。が、200psエンジンでアイドリングストップも未装備だったわりには悪くもないというレベルだった。ドライブトータルの燃費は15.6km/リットル。愛知の三河安城から三重の津まで延々と断続的渋滞にハマった時が最も燃費が低下したが、その渋滞を含む区間の実燃費も10km/リットルは超えていた。最良だったのは高速道路とバイパスを併用して東京から三河安城に向かった時で実燃費17.4km/リットル。特徴としては、エコラン気味に走っても大して燃費が伸びない一方、少々飛ばし気味に走っても燃費が大きく落ち込んだりしないことが挙げられる。出費の差がそれほど大きくないなら、燃費を気にするより気持ちよく走ったほうがずっといいように思われた。

室内は簡素な仕立てだが、随所にオレンジの差し色が配され、またシートベルトもオレンジ色だったりと、ルノースポールのセンスが存分に盛り込まれていた。一方、アミューズメントシステムは未装備。広報車にはカーナビはおろか、CDなどをかけるドライブも未装備。唯一使えたのはAMラジオだけだが、それも都市部以外ではほとんど受信できなかった。

結果、筆者は3泊4日をほとんど車内アミューズメントなしで過ごさざるを得なかった。が、そんな旅であったからこそ逆に印象的だったのは、運転が楽しいクルマだとカーオーディオがなく、また話し相手もいないという状況でもまったく退屈しないということだった。もちろんアミューズメントが欲しいというカスタマー向けにカーナビがオプションで用意されている。それを追加選択するか、市販のカーナビを後付けすれば問題ないであろう。

◆ターゲットユーザーはかなり絞られる

まとめに入る。ルーテシアRSは単にパワーがある、コーナリングスピードが高いといったスペック面だけでなく、クルマの動きをどのように乗員に伝え、いかに高揚感を覚えさせるかといった官能評価の部分できわめて高い点を付けられるモデルであった。味付けは非常に濃厚ながら、わざとらしさがないため長時間乗っていても飽きが来ないのも特徴だった。ライバル比較をしてみると、ハンドリングの刺激性、ファントゥドライブ性はルーテシアRS>208GTi>ポロGTI、パワートレインの官能性はポロGTI>208GTi>ルーテシアRS、乗り心地の良さは208GTi>ポロGTI(スポーツモード)=ルーテシアRS、燃費はポロGTI>ルーテシアRS=208GTiといったところ。この3モデルのなかでルーテシアをチョイスする意味は、一にも二にも三にもファンな操縦性。こればかりは他を寄せ付けない。

価格は税込み307万5000円。絶対的には安くはないお値段ではあるが、先に挙げたライバルに比べると20~30万円ほど安い。また、国産車もこのところ価格が高くなる一方であるため、相対的に高価格イメージが薄れた感がある。ノーマルのルーテシアがトルコ工場で量産されているのに対し、ルーテシアRSはアルピーヌゆかりのディエップ工場で1台1台、入念に少量生産される。そういう高性能なコンプリートモデルとみれば、逆に安いとみることもできよう。

コンパクトスポーツに関心のあるカスタマーは相性抜群で、ぜひ一度試し乗りしてみていただきたい。半面、クルマをどう走らせるかということにあまり興味はなく、スピードがある程度出さえすればいいというカスタマーはこのクルマにこれといった価値は見出さないであろう。そういう意味では、ターゲットユーザーがかなり絞られるモデルと言えそうだ。

(レスポンス 井元康一郎)

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