【トヨタ プリウスPHV 650km試乗】ファーストインプレッションは完全に覆された…井元康一郎

プリウスPHVのサイドビュー。ノーマルプリウスより少しだけ全長が延びたが、その効果か伸びやかに見えた。
トヨタ自動車が今年2月にフルモデルチェンジしたプラグインハイブリッドカー、新型『プリウスPHV』でドライブする機会があった。総走行距離約650km、行動半径で言えば150km程度のドライブであったが、途中、いろいろ興味深いデータも取得できたのでインプレッションをお届けする。

新型プリウスPHVは、2015年冬に登場した第4世代『プリウス』をベースとするプラグインハイブリッド。旧型に対してEV性能が大幅に増強され、またデザインや装備でも差別化が図られるなど、かなりの力作となった。車載バッテリーの総容量は8.8kWh、公称航続距離は標準の15インチホイール+エコタイヤ装着の場合で68.2kmと、同等の容量を持つプラグインハイブリッドカーの中では最高値だ。

今回試乗したのはその15インチモデルの普及版「Sナビパッケージ」。オプションとしてルーフにソーラー充電器が備えられていた。ドライブルートは東京・靖国神社付近を出発し、途中、関越自動車道にも乗りながら国道254号線川越街道を進み、内山峠を越えて長野の佐久、上田へ。

そこから軽井沢へ引き返した後、野辺山、清里、甲府などを巡りながら富士川沿いのワインディングロードを走って太平洋側の富士市に到達。そこから箱根峠を越えて出発地に戻るというもので、総走行距離は651.1km.。おおまかな道路比率は市街地3、郊外路4、山岳路2、高速1。路面コンディションはドライ5、ウェット4、降雪によるシャーベット路1。1名乗車、エアコンAUTO。

◆プリウス、C-HRとは別格のドライブフィール

プラグインハイブリッドカーとしてのエネルギー効率や使い勝手等は後編にゆずり、前編ではクルマとしての特性をお伝えしたい。まずは試乗トータルの感想から。

昨年8月、筆者は千葉のミニサーキット、袖ヶ浦フォレストレースウェイでこのプリウスPHVのプロトタイプを短時間ドライブしていた。そのときはモーター出力こそ増強されたものの、ドライブフィールについてはノーインプレッションで、単に充電可能なプリウスくらいにしか思わなかった。

終始綺麗な路面でコースも決まっているサーキットだったからそう感じたのか、それとも発売までにさらなるリファインがあったのか、いざ路面が刻々と変化する公道を走ってみたところ、そのファーストインプレッションは完全に覆された。新型プリウスPHVは、電動化やエコ性能がどうのこうのということ以前に、走り味のとても良い、ウェルバランスなツーリングカーに仕上がっていた。

トヨタの新世代プラットフォーム「TNGA」を使って作られたクルマは現時点で『プリウス』、クロスオーバーSUV『C-HR』、そしてこのプリウスPHVの3モデル。性能的には似たり寄ったりであるはずなのだが、ことドライブフィールの良さという点ではプリウスPHVはいささか退屈な他の2モデルとは別格である。

路面の荒れた区間が随所に残る内山峠や国道52号線など、クルマにとって厳しい道においてもサスペンションの足つきは大変良好で、不安感は皆無。装着タイヤが195/60R15といういささかプアなサイズのエコタイヤであるため絶対性能が高いというわけではなく、ハンドリングもどちらかというとダルな部類に属する。が、クルマの動きそのものがとても素直であるうえ、すべての挙動が手の内にあるという感覚をきっちりデザインできているため、長時間のドライビングにおいてもストレスは非常に小さく、またファントゥドライブ性も高い。

その他の美点は、重量がはるかに軽いノーマルプリウスを超えるツーリング燃費、ノーマルにはないインテリジェント配光型フルアクティブハイビームを標準装備していることによる夜間走行の安心感の高さ、ふわつきはあるがぐらつき、ぶるつきはよく抑えられたすっきりとした乗り心地、ノーマルプリウスよりシックになったエクステリアデザインなど。

弱点は乗車定員が4人で、いざというときの5人乗りはできないこと、荷室が狭く、かつ形状が平べったくて使いづらいこと、また、弱点というには少々酷だが単に真っ直ぐ走らせるだけで喜びが感じられるような一流の味にはいまだなっていないことなど。また、これはクルマそのものの弱点ではないが、せっかく急速充電ポートが装備されているのに急速充電料金がガソリンで走行するよりも高くつくため、宝の持ち腐れになりそうなのも少々残念なところだ。

◆エコタイヤでもポテンシャルを十分に引き出している

では、要素別にディテールを見ていこう。ツーリングを楽しく、快適なものにする最重要ファクターであるシャシーチューニングは大変によく考えて煮詰めたとおぼしきもので、予想に反してツーリング向き。足の良さはプリウスPHVのハイライトと言える。

サスペンションは柔らかめだが、前後のロールバランスのチューニングが優れており、山道の急カーブなどでもフロントが素直に沈み込み、旋回に入ってからも後輪がそれに追従してよく粘った。また、クルマの姿勢やグリップの様子がステアリングやシートを通じて体に良く伝わってくるため、大変コントローラブルで、自在に振り回せる感があった。ホンダの『ジェイドRS』のごとく、ステアリング操作にクルマがリニアに反応する、打てば響くようなタイプのハンドリングではないが、プリウスPHVはスポーティカーではない。少々険しい道や不意の危険回避も何のそのと思えるような味を持てた時点でプレジャーは十分と言える。

プリウスPHVの重量バランスは前56:後44と、FWD(前輪駆動車)車の理想値よりやや後ろ寄りの配分となっているが、ドライブ中にそのネガを感じることはほとんどなかった。緩いS字を抜けるときなどに少しリアの追従が鈍いかなと思うことはあったが、ドライビングインフォメーションが豊かなため、違和感はなかった。

乗り心地も良い。ショックアブゾーバーの抑えが弱いため、アンジュレーション(道路のうねり)を通過するときなど、ボディが上下方向にふわつくような動きが出るが、それでいて左右方向のぐらつきや、ホイールの上下動とアッパーマウントラバーの不調和によるぶるつきはものすごく良く抑えられているため、ふわついているのに乗り味はフラットで、振動吸収性も優れているという面白い味である。フィールの似たクルマを挙げるならばシトロエン『C4』である。

興味深かったのは、この性能と味を195/60R15というプアなサイズのブリヂストンのエコタイヤ「ECOPIA EP150」で実現させていたことだ。軽量で転がり抵抗も小さいエコタイヤは、燃費を向上させるという点ではメリットがあるが、グリップ力や路面変化への追従性、また走行音、振動吸収などの官能評価の面は良くなく、その普及が最近のクルマの乗り味低下の一因にもなっていた。

が、プリウスPHVは、エコピアで十分にしなやかな乗り心地を持たせ、性能的にもそのポテンシャルをしっかり引き出していた。「シャシーチューニングを煮詰めに煮詰めてきっちり履きこなせばエコピアでここまでやれるのか」と、認識を新たにした次第だった。先に絶対性能は高くないと書いたが、日本の常識的な速度レンジであれば、不意にウェット路面が現れたりアンジュレーションで車体が煽られたりしたときの対処も含め、スポーツタイヤでないこの標準型で性能は十分に足り、楽しむことすらできるだろう。

走りの部分であえてネガを探すとすれば、市街地や郊外路をちょっと転がしただけで「このクルマは素晴らしいのではないか」と予感させるような良さを持ち合わせるには至っていないこと。トヨタ自身、そこまで追求する気はないのであろうし、エコ一辺倒のカスタマーもそれを求めはしないだろうが、それができればプリウスPHVは、プリウスの名を冠しているのがもったいなく思えるようなプレミアムセグメント的クルマになれる。

◆ツーリングの快適さを担保する装備

次にパワートレインのパフォーマンス。エコ性能の詳細は別記事に譲るとして、ここでは効率は最高レベルであったということことだけ言及しておく。動力性能的には特筆すべき感動はないものの、必要十分な速さは持ち合わせている。とくに良好なのはEV走行時のパワーフィールとレスポンスで、低中速域の加速感はとても伸びやかなものだった。

ハイブリッド走行時はノーマルプリウスに対して重量が増していることもあってか、少しパワーが足りない。パワー不足を感じさせないようにECUがプログラミングされているようで、平地ではそのことを実感することはないが、たとえば国道52号線の急勾配などで登坂車線を走る大型車を一気に追い抜こうとするときなど、パワートレインの能力の絶対値がそれほど大きいものではないことが実感される。もっとも、日本の公道は制限速度が低いので、クルマの楽しさはパワーよりも足の良さに大きく依存する。暴力的な走りが好きな人は別にして、一般的には出力面であからさまに不満を持つということはないだろう。

ツーリングの快適さを担保する装備も整っていた。先進安全装備はミリ波レーダーと単眼カメラからなる「トヨタセーフティセンスP」。プリウスやC-HRに先行採用されたもので、先行車や車線の認識、全車速前車追従クルーズコントロールなど、機能メニューや動作精度は現代のクルマとして標準的なレベルを十分にクリアしている。ただ、プリウスPHVを先進技術のクルマと位置づけるのであれば、車線逸脱防止にとどまらず、クルーズ中もステアリング介入をともなう擬似“自動運転レベル2”の車線維持機能が欲しくなるところだ。

プリウスになくてプリウスPHVにはある嬉しい装備は、先行車や対向車をよけて前方をハイビームで照らすフルアクティブハイビームだった。これがあるのとないのとでは、夜間のドライブの安心感は雲泥の差で、これだけで普通のプリウスではなくプリウスPHVを選びたくなる。ただし、3月に長距離試乗を行ったマツダ『デミオ』のフルアクティブハイビームと同じく、メッキパーツの多い大型車が前を走る時は認識が甘くなる傾向があった。画像センシングはデンソー、ランプのサプライヤーは小糸製作所であろうが、3社共同でさらに認識アルゴリズムを煮詰めてほしいところだ。

インテリアはノーマルプリウスと大きくは違わない。特徴的なのはダッシュボードのセンターに位置する11.6インチの大型ディスプレイで、カーナビを大映しにするときには見やすくて便利だ。ただし、テスラの大型ディスプレイと違って高度な車両情報を表示できるわけではなく、インパネ内の液晶とも連動していないので、現状では単に大画面というだけだ。

インテリアは無難にまとめられており、基本的に不満はない。ロングドライブ耐性を左右するシートは、着座姿勢やホールド性など基本性能は良かった。座面のウレタンの支持力が少し弱く、長時間連続でドライブしているとトップランナー級のシートに比べるとうっ血気味になる傾向があったが、適宜休憩を挟めば疲れをためずにすむくらいのもので、悪いというほどではなかった。

一点だけこれは改善してほしいという部分がある。白いダッシュボードのガラスへの写り込みだ。昨年、ノーマルプリウスの長距離試乗を行ったとき、スタートから数分後、ガラスが曇っているのかと思って窓を拭いたら白いダッシュボードの写り込みだったということがあった。プリウスPHVもまったく同じ特性を持っている。太陽光の入射の角度によってはこれがかなり目障りなので、ガラスのノングレア性能を高めるなり何なりして対策を施してほしい。筆者は一度も乗ったことがないが、黒のインテリアなら問題なかろう。

旧型と異なり、ノーマルプリウスとの差別化が図られたエクステリアは、おおむね好感の持てるものだった。タイヤが異様に小さく見える点はいただけないが、ディテールはエキセントリックなノーマルに比べるとシックにまとめ上げられているのがいい。筆者はノーマルプリウスのウルトラマンの怪獣みたいなフロントマスクや、大岡越前の裃のようなリアコンビネーションランプのライトラインがどうにも好きになれない。それに対してこちらは心穏やかに眺めることができる。

◆最大のライバルは「プリウス」か

まとめに入る。プリウスPHVはエコカーの枠に押しとどめておくにはもったいないような走り味を持ったツーリングカーだった。4名乗車であることや荷室容量が不足していることから、基本的にはショートドライブ向きなのだろうが、荷物を後席に置いて1~2人でドライブするというスタイルであれば、遊びグルマとして開発されたC-HRより本質的な楽しさでは上に思えるほど。今回は総走行距離650kmにとどまったが、ドライブ終了時も気分としてはこのまま鹿児島までぶらりと旅してみたいと思わされるくらいで、1000km超のロングツーリングでもドライブのモーティベーションは問題なく保てそうだった。

グレードの選択だが、今回のドライブの感触では326万円と最も安い「S」が一番魅力的に思えた。急速充電口はオプションだが、急速充電料金がガソリンで走るよりずっと高いという現状を考えると、今のところは不要。大画面ディスプレイも未装備だが、これも先進的な情報表示のポリシーを持たないことを考えると、オプションの普通のカーナビで十分かなという感じである。空調コントロールは静電タッチ式より機械式のほうが操作はしやすい。筆者個人の感覚ではパーキングアシストなども不要だ。その他の装備はめちゃくちゃ充実している。トヨタセーフティセンスP、フルアクティブハイビーム、そして昨年春にプリウスでのロングツーリング中、パンクで車中泊を余儀なくされたときに気持ちよいことこのうえなかった快適温熱シート等々…。家に普通充電設備があればという条件が付くが、ドライビングの楽しさという差も考慮すると、プリウスの高価なバージョンを買うくらいならこっちだと思う。

ライバルは直接対決となりそうなモデルが意外に少なく、上手いことニッチ需要を取りに行っている。Cセグメントのプラグインハイブリッドカーという観点ではフォルクスワーゲン『ゴルフGTE』やBMW『225xeアクティブツアラー』などの名が挙げられるが、まず価格帯が大幅に異なるうえ、動力性能はライバルが、エコ性能はプリウスPHVのほうが大幅に優越しているなど、商品性も違いすぎているためバッティングはそうそうしないだろう。GMのシボレー『ボルト』は好敵手になりそうだが、日本では販売されていない。日本車では三菱自動車のSUV『アウトランダーPHEV』が価格的にはやや近いが、これも商品性が著しく異なり、顧客層も重ならないだろう。最大のライバルはやはり、非プラグインハイブリッドのプリウスということになろうか。


(レスポンス 井元康一郎)

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