【BMW 5シリーズ 試乗】かつてない大人の感性を持ったBMW…中村孝仁
BMWといえばドライバーズカーの誉れ高いブランド。それだけにスポーツ性こそライバル、メルセデスとの差別化とばかり、これまでのモデルはそのスポーツ性がやたらと強調されてきた感がある。
しかし、最近のBMWはそうではない。特にファミリーカーレベルのFWDモデルを出して以降は、さほどスポーツ性を強調しないモデルが多くなりつつあるし、Cセグメントのハッチバック、『1シリーズ』の次期モデルはFWDだと言われるように、FRに対する拘りも消えつつある。
では、スポーツ性を前面に押し出さずにメルセデスに対抗できるのか。答えはYesだろう。今や世界的にBMWが高級ブランドとして確立してきたことがその大きな要因で、さすがに『7シリーズ』がメルセデス『Sクラス』の牙城を崩したかといえば、それはまだのような気がするが、『3シリーズ』は間違いなく、『Cクラス』とは対等かそれ以上だし、新しい『5シリーズ』も『Eクラス』と互角と言って過言ではない車両の仕上がりを見せている。しかも、今回試乗した『523d』など、スポーツ性など微塵も感じさせず、ただただ成熟した大人のクルマという印象が強いのである。
では、新しい5シリーズからスポーツ性は消えたのか?と聞かれると、否、そんなことはないけれど…と少々尻すぼみをせざるを得ない答えしかできない。以前のように非常にクィックなステアリングだったり、シャキッと少々硬めの足回りなどは完全に姿を消し、極めて快適で、スムーズに走るクルマがそこにある。ステアリングの速さもそこそこ。誰が乗っても十分に納得のいく取り回し性能といえよう。
パーシャルからガンと踏み込むと、ディーゼル特有のトルクモリモリ感でグイグイと加速するが、それを除けば実に大人しい印象に終始する。まずもって市街地で流れに乗って走っていると、それがディーゼルであることに気づく人はいないはず。驚いたことにメカニックをやっている友人のうちに乗り付けても、それがディーゼルだということを最初は気が付かないほど、この新しいモジュラーユニットとなって静粛性が向上した。勿論マツダのように、圧縮比が低いわけではない。
そもそもディーゼルが幅を利かせるようになったことも、BMWからスポーツ性という名のジャケットを脱がせた大きな要因の一つのように思う。かつてBMWといえばシルキー6に代表される官能的エンジンが特徴で、そのサウンドもまた魅力の一つだった。でもディーゼルは誰がどうやったところで、官能的サウンドに変身させるのは不可能だ。ならば抑え込んでしまえというのが、今の開発の方向性。だから静かだし、極力エンジンの存在感をなくしている。
ではBMWが目指しているブランドの独自性は一体何なのだろうか。残念ながら個人的にはまだ答えを見出せずにいるが、すっかりメルセデスと肩を並べる高級車としての存在感が幅を利かせるようになったと思う。だから、クルマの出来がとにかくいい。それは上質感の演出もさることながら、乗り味のスムーズさだったり、乗り心地の快適さだったりで、それはまさに大人の感性で作られた大人のクルマという印象を強く持つ。
ひとつだけ気になったのは、8速ATのギアリングが東京の市街地走行にはあまりあっていないのではないかという点。ガツンと踏んで一気に70~80km/h程度までスピードを上げるような走りには実にスムーズでシームレスな印象なのだが、30km/h位まで加速していったんアクセルを緩めるような状況や、尺取虫レベルの渋滞での走りはどうも、ATがスムーズに車を走らせてくれない。ここはメインスイッチがなく、ボタン一つですぐに作動するACCに任せてしまった方が、楽である。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
(レスポンス 中村 孝仁)
しかし、最近のBMWはそうではない。特にファミリーカーレベルのFWDモデルを出して以降は、さほどスポーツ性を強調しないモデルが多くなりつつあるし、Cセグメントのハッチバック、『1シリーズ』の次期モデルはFWDだと言われるように、FRに対する拘りも消えつつある。
では、スポーツ性を前面に押し出さずにメルセデスに対抗できるのか。答えはYesだろう。今や世界的にBMWが高級ブランドとして確立してきたことがその大きな要因で、さすがに『7シリーズ』がメルセデス『Sクラス』の牙城を崩したかといえば、それはまだのような気がするが、『3シリーズ』は間違いなく、『Cクラス』とは対等かそれ以上だし、新しい『5シリーズ』も『Eクラス』と互角と言って過言ではない車両の仕上がりを見せている。しかも、今回試乗した『523d』など、スポーツ性など微塵も感じさせず、ただただ成熟した大人のクルマという印象が強いのである。
では、新しい5シリーズからスポーツ性は消えたのか?と聞かれると、否、そんなことはないけれど…と少々尻すぼみをせざるを得ない答えしかできない。以前のように非常にクィックなステアリングだったり、シャキッと少々硬めの足回りなどは完全に姿を消し、極めて快適で、スムーズに走るクルマがそこにある。ステアリングの速さもそこそこ。誰が乗っても十分に納得のいく取り回し性能といえよう。
パーシャルからガンと踏み込むと、ディーゼル特有のトルクモリモリ感でグイグイと加速するが、それを除けば実に大人しい印象に終始する。まずもって市街地で流れに乗って走っていると、それがディーゼルであることに気づく人はいないはず。驚いたことにメカニックをやっている友人のうちに乗り付けても、それがディーゼルだということを最初は気が付かないほど、この新しいモジュラーユニットとなって静粛性が向上した。勿論マツダのように、圧縮比が低いわけではない。
そもそもディーゼルが幅を利かせるようになったことも、BMWからスポーツ性という名のジャケットを脱がせた大きな要因の一つのように思う。かつてBMWといえばシルキー6に代表される官能的エンジンが特徴で、そのサウンドもまた魅力の一つだった。でもディーゼルは誰がどうやったところで、官能的サウンドに変身させるのは不可能だ。ならば抑え込んでしまえというのが、今の開発の方向性。だから静かだし、極力エンジンの存在感をなくしている。
ではBMWが目指しているブランドの独自性は一体何なのだろうか。残念ながら個人的にはまだ答えを見出せずにいるが、すっかりメルセデスと肩を並べる高級車としての存在感が幅を利かせるようになったと思う。だから、クルマの出来がとにかくいい。それは上質感の演出もさることながら、乗り味のスムーズさだったり、乗り心地の快適さだったりで、それはまさに大人の感性で作られた大人のクルマという印象を強く持つ。
ひとつだけ気になったのは、8速ATのギアリングが東京の市街地走行にはあまりあっていないのではないかという点。ガツンと踏んで一気に70~80km/h程度までスピードを上げるような走りには実にスムーズでシームレスな印象なのだが、30km/h位まで加速していったんアクセルを緩めるような状況や、尺取虫レベルの渋滞での走りはどうも、ATがスムーズに車を走らせてくれない。ここはメインスイッチがなく、ボタン一つですぐに作動するACCに任せてしまった方が、楽である。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
(レスポンス 中村 孝仁)
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