【VW ゴルフR 試乗】この危うさ、まさに“ジキルとハイド”…中村孝仁

VW ゴルフR 改良新型
ホットハッチなる言葉が70年代に流行った。いわゆるハッチバック車にホットなエンジンを搭載して、軽快かつ活発に走るようにしたモデルがそれ。

今もホットハッチは存在する。その最右翼は『ゴルフGTI』。そもそもこのクルマが、ホットハッチの原点で、以後プジョー『205GTI』やフィアット『リトモアバルト』など、ホットハッチは当時の大きな潮流を作った。しかし今は違う。そのさらに上を行く、ホットどころの騒ぎではない超が付く高性能ハッチバックが登場してしまった。

それも元祖ホットハッチのVWが作った、『ゴルフR』である。すでにゴルフ4の時代から「R32」というハッチバックとしては異例のパワフルなモデルが存在していたから、まあ今に始まったことではないのだが、最新のゴルフRはその出力が向上してついに先代比+30psで、300psの壁をも突破した。まあ、ホンダの『シビック タイプR』だって300psの壁を破っているから、現代はこれが当たり前になりつつあるのかもしれないが、それにしてもパフォーマンスの上昇は留まるところを知らない。

何でもお金に換算してしまう悪い癖があるのだが、559万9000円(DSG仕様車)で310psのクルマが買えるということは、馬力当たり1万8000円少々。670psもあるフェラーリを買おうと思ったら3000万円以上するわけで、馬力当たりは6万円を超えるから、高性能をお金で買うという部分ではかなりお安いクルマともいえるわけだ。

でもって、それがどの程度凄いパフォーマンスを秘めているかというと、調子に乗ってアクセルを開けると、おいおい、これが本当に2リットルの4気筒エンジンのパフォーマンスか?って思うほど強烈。4輪駆動の4モーションだからうまい具合にそのトラクションを路面に伝えられているが、もし全く電子デバイスのないクルマで、タイヤの性能だけにその任を任せたら、多分どこにすっ飛んでいくかわからない…という感じの代物。まさしく今のハイパフォーマンスカーは、電子デバイスによって武装されることで、最適なトラクションを路面に使えているわけで、間違ってもドライバーはその恩恵にあずかっていることを忘れてはならないと思う。

DSGのトランスミッションは新たに7速に進化し、同時にシフトのタイムラグも極力切り詰めたものにアップグレードされたというが、軽く背中を蹴られたような印象で、ヴォム!ヴォム!というエクゾーストからのサウンドを伴ってシフトアップする様は、このDSG独特の加速感であり、ドライバー自身も痛快な気分にさせられる。

ただしこうした気分を得るためには、襟を正して真剣にクルマと対峙する必要があって、それは普段とは違う状況でクルマに乗る時だ。いつも通り、のんびりと走らせようとすると、このゴルフR、他のハイラインと変わらない大人しい性格に戻ってくれるから、いわゆるジキルとハイド的性格の持ち主でもある。なによりもそうして走ると実に快適で、常に下から突き上げるようなショックを伴うレーシーなサスペンションなど持ち合わせていない。勿論、可変ショックの持ち主出し、車高は通常モデルよりも10mm低いが、非日常的な印象は皆無なのである。この可変ショックのDCCが他のゴルフと異なる点は、Rには「レース」と呼ばれるモードが存在すること。このモードをチョイスするとダンパーの減衰力は高まるし、DSGのオートモードにおけるシフトポイントも変わる。

とまあ、2リットルのハッチバック車としては何ともお高いお値段だが、見た目普通で、なんちゃってスポーツカーに煽られたりした時にその本性を発揮するようなモデルだと、かえっていつも派手なモデルよりは面白いと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度 :★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

(レスポンス 中村 孝仁)

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