【フェラーリ 812スーパーファスト 海外試乗】この世のものとは思えない官能性に満ちている…西川淳
2シーターFRの12気筒フェラーリは、真のフェラリスチのためのモデルである。実際、その最新モデルを買う顧客の約4割は過去にV12モデルを買った経験があるオーナーたちで、購入理由として真っ先に上がるのが“性能”だった。
それゆえ、『F12ベルリネッタ』の後継モデルとして登場した『812スーパーファスト』は、その性能を信じ難いレベルにまで引き上げてきた。同じプラットホームを使ったビッグマイナーチェンジに近い新型車でありながら、そのナカミは真の意味でのフルモデルチェンジに近い内容となっている。
実際、スタイリングにおいて、F12と812の共通点はフロントスクリーンとエンブレムのみだ。ナカミに至っては、注目のエンジンに始まって、ミッション、シャシーセッティング、電子制御に至るまで大幅な刷新を受けた。
車名の由来は、800馬力の12気筒=812と、由緒あるクラシック・フェラーリの名称を組み合わせたもの。スーパーファストは、文字どおり“凄く速い”を意味する。フェラーリ史上最強のFRロードカーの名前として、これ以上ない組み合わせだろう。
伝統のV12エンジンは、F12や『ラ・フェラーリ』用6.3リッターユニットのブロックを使い、ストロークを伸ばして6.5リッターとしたもの。ピストンやコンロッド、クランクケースをはじめ、75%のパーツが新設計となっている。
高圧力の3スプリット・インジェクションシステムや、可変長インレットダクト、新型シリンダーヘッドの採用などにより、800馬力の最高出力と、全回転域におけるトルクスペック向上をみた。もちろん、CO2排出量も5%弱減っている。併せて、エグゾーストシステムや7速デュアルクラッチミッションも最新仕様にバージョンアップした。
エアロダイナミクスを徹底的に追求したスタイリングは、しかし、往年の名馬のイメージをも強く表現するものだ。例えば、60年代後半~70年代前半の「365GT4B」、通称“デイトナ”や、90年代後半の「550マラネッロ」だ。特にリアセクションのコーダトロンカ・スタイルは、空力的な意味合いと歴史的な継承を両立する、秀逸なデザインと言っていい。
インテリアも全面的にリニューアルされ、特に『GTC4ルッソ』と同様のインフォテイメントシステムを大型ディスプレイに頼ることなく表現している点が、個人的には気に入った。グッドルッキングなスポーツシートや、容量の増えたトランクスペースもニュースだろう。
800馬力のエンジンや刷新された内外装デザインばかりに注目が集まるなか、走りに影響を与えるという点でパワートレインと並ぶ進化を果たした注目のポイントが、SSC(サイドスリップアングルコントロール)と呼ばれるシャシー統合制御システムである。これは、『458スペチアーレ』において初めて採用されたテクノロジーで、スポーツ走行時におけるEデフやF1トラック、SCM(磁性流体ダンパー)を統合的に制御することで、誰でもよりスリリングなコーナリングを安心して楽しめるというシステムだ。
812用として、新たに進化した後輪操舵システムとフェラーリ初となる電動パワーステアリングをその制御下に組み入れた、最新バージョンのSSC5.0を積み込んだ。その成果は絶大で、ほとんど信じ難い経験であった。
特に衝撃的だったのは、「ピーク・パフォーマンス・アドバイザー」と名付けられた制御である。これは、コーナリングにおいて、SSCシステムの限界に至るまでのプロセスを、電動パワーステアリングのトルクを変化させることによってドライバーにやんわりと伝えつつ、同時に駆動トルクも綿密に制御して、操舵フィールの向上と、より素早いコーナリングを実現するもの。パワーオーバーステア状態になっても、ステアリングと縦方向加速の両方のトルクを制御することで、ドライバーはドリフトアングルをしっかり維持したまま、コーナーを切り抜けることができる、という魔法だった。
実際にフェラーリ自前のテストトラックであるフィオラーノ・サーキットで試してみたが、車体の出しゃばり過ぎない意思によるパワーステアリング制御もさることながら、微妙な駆動トルク制御が効いていて、決して気分がなえることなく、まるで経験豊かなプロドライバーのウデとアシを手に入れたかのように、800馬力を自在に操っている気分に浸れた。これは、最高だ。
もちろん、加速フィールもまた、この世のものとは思えない官能性に満ちている。8000回転以上まで回してときの、力強さとエグゾーストノートの協奏は、クルマ運転好きにとって、この上ないご褒美であった。
一方で、サーキットではピュアスポーツに徹する812だったが、一般道ではとてもよくできたGTカーへと変身する。従来のFR2シーターモデルとはまるで違う安心感もたっぷりのライドフィールをみせ、たとえ大雨が振ってきたとしても、クルマをどこかに放って帰りたくなったりしないのだ(599やF12で雨の日の高速はごめんこうむりたい)。それは、まるでドイツの高性能モデルのような、しっとりと安定した走りであり、低回転域におけるアクセルコントロールのし易さと相まって、非常なオールマイティさを見せつけた。
812スーパーファストは、最強のピュアスポーツであり、また、最良のグランツーリズモでもあったのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
それゆえ、『F12ベルリネッタ』の後継モデルとして登場した『812スーパーファスト』は、その性能を信じ難いレベルにまで引き上げてきた。同じプラットホームを使ったビッグマイナーチェンジに近い新型車でありながら、そのナカミは真の意味でのフルモデルチェンジに近い内容となっている。
実際、スタイリングにおいて、F12と812の共通点はフロントスクリーンとエンブレムのみだ。ナカミに至っては、注目のエンジンに始まって、ミッション、シャシーセッティング、電子制御に至るまで大幅な刷新を受けた。
車名の由来は、800馬力の12気筒=812と、由緒あるクラシック・フェラーリの名称を組み合わせたもの。スーパーファストは、文字どおり“凄く速い”を意味する。フェラーリ史上最強のFRロードカーの名前として、これ以上ない組み合わせだろう。
伝統のV12エンジンは、F12や『ラ・フェラーリ』用6.3リッターユニットのブロックを使い、ストロークを伸ばして6.5リッターとしたもの。ピストンやコンロッド、クランクケースをはじめ、75%のパーツが新設計となっている。
高圧力の3スプリット・インジェクションシステムや、可変長インレットダクト、新型シリンダーヘッドの採用などにより、800馬力の最高出力と、全回転域におけるトルクスペック向上をみた。もちろん、CO2排出量も5%弱減っている。併せて、エグゾーストシステムや7速デュアルクラッチミッションも最新仕様にバージョンアップした。
エアロダイナミクスを徹底的に追求したスタイリングは、しかし、往年の名馬のイメージをも強く表現するものだ。例えば、60年代後半~70年代前半の「365GT4B」、通称“デイトナ”や、90年代後半の「550マラネッロ」だ。特にリアセクションのコーダトロンカ・スタイルは、空力的な意味合いと歴史的な継承を両立する、秀逸なデザインと言っていい。
インテリアも全面的にリニューアルされ、特に『GTC4ルッソ』と同様のインフォテイメントシステムを大型ディスプレイに頼ることなく表現している点が、個人的には気に入った。グッドルッキングなスポーツシートや、容量の増えたトランクスペースもニュースだろう。
800馬力のエンジンや刷新された内外装デザインばかりに注目が集まるなか、走りに影響を与えるという点でパワートレインと並ぶ進化を果たした注目のポイントが、SSC(サイドスリップアングルコントロール)と呼ばれるシャシー統合制御システムである。これは、『458スペチアーレ』において初めて採用されたテクノロジーで、スポーツ走行時におけるEデフやF1トラック、SCM(磁性流体ダンパー)を統合的に制御することで、誰でもよりスリリングなコーナリングを安心して楽しめるというシステムだ。
812用として、新たに進化した後輪操舵システムとフェラーリ初となる電動パワーステアリングをその制御下に組み入れた、最新バージョンのSSC5.0を積み込んだ。その成果は絶大で、ほとんど信じ難い経験であった。
特に衝撃的だったのは、「ピーク・パフォーマンス・アドバイザー」と名付けられた制御である。これは、コーナリングにおいて、SSCシステムの限界に至るまでのプロセスを、電動パワーステアリングのトルクを変化させることによってドライバーにやんわりと伝えつつ、同時に駆動トルクも綿密に制御して、操舵フィールの向上と、より素早いコーナリングを実現するもの。パワーオーバーステア状態になっても、ステアリングと縦方向加速の両方のトルクを制御することで、ドライバーはドリフトアングルをしっかり維持したまま、コーナーを切り抜けることができる、という魔法だった。
実際にフェラーリ自前のテストトラックであるフィオラーノ・サーキットで試してみたが、車体の出しゃばり過ぎない意思によるパワーステアリング制御もさることながら、微妙な駆動トルク制御が効いていて、決して気分がなえることなく、まるで経験豊かなプロドライバーのウデとアシを手に入れたかのように、800馬力を自在に操っている気分に浸れた。これは、最高だ。
もちろん、加速フィールもまた、この世のものとは思えない官能性に満ちている。8000回転以上まで回してときの、力強さとエグゾーストノートの協奏は、クルマ運転好きにとって、この上ないご褒美であった。
一方で、サーキットではピュアスポーツに徹する812だったが、一般道ではとてもよくできたGTカーへと変身する。従来のFR2シーターモデルとはまるで違う安心感もたっぷりのライドフィールをみせ、たとえ大雨が振ってきたとしても、クルマをどこかに放って帰りたくなったりしないのだ(599やF12で雨の日の高速はごめんこうむりたい)。それは、まるでドイツの高性能モデルのような、しっとりと安定した走りであり、低回転域におけるアクセルコントロールのし易さと相まって、非常なオールマイティさを見せつけた。
812スーパーファストは、最強のピュアスポーツであり、また、最良のグランツーリズモでもあったのだ。
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