【スバル WRX STI / S4 試乗】C型の上着を脱ぎ捨てたような身軽さ…井元康一郎

スバル WRX STI
SUBARUの2リットル級スポーツセダン、『WRX』改良版、SUBARU車における通称「D型」モデルをテストドライブする機会があったので、ファーストインプレッションをお届けする。

試乗したのは今年6月に登場ずみの現行『WRX STI タイプS』、および8月7日に改良された『WRX S4』の量産試作車。比較試乗車として旧型『WRX STI』。試乗コースは伊豆・修善寺のクローズドコース「サイクルスポーツセンター」。1台につき同コースを2周というのが試乗メニューであったことから、1周は道幅いっぱいを使い、2周目は左側通行の山岳路を対向車や路肩に注意を向けながら走るドライビングを模してみた。

まずは最高出力308psのハイパフォーマンスモデル、STIタイプS。245/35R19タイヤ+19インチホイールや6ポッド対抗ピストンブレーキキャリパーなどの新アイテムを備えたほか、AWD(4輪駆動)の駆動力配分システムを機械式併用から完全電子制御に換装。シャシーセッティングやステアリング機構のチューニングも洗練させたという。

2014年夏、現行STIが発売される直前に富士スピードウェイの本コースを全開走行させてみたことがあるが、初期型であるA型の時点ですでに相当な高性能とコントローラブルさを併せ持つスーパースポーツセダンになっており、縁石を踏んでもサスペンションが滑らかにストロークするわ、ロール角は体感しやすいわで、これは素晴らしいツーリングカーが出てきたものだと思ったものだった。

今回、シャシーに大改良を受けたD型STIと2014年登場から2回小改良を受けた旧モデルのC型STIを乗り比べることができたのだが、その印象を完結に言うと、「両者の楽しさの方向性は同じまま、D型はC型の上着を脱ぎ捨てたような身軽さを得た」という感じであった。

操縦フィールの良さについては基本的に違いはない。サスペンションは動きの精度を出せるボールジョイント結合構造を持ち、高価なパーツが多々おごられているのだから、路面のホールディング性が優れているのは当然と言えば当然だが、それだけでなくステアリングの切り足し、切り戻しにロール角の変化がぴたりと合うようにチューニングされているなど、スポーツフィールの面でもルノースポールばりに素晴らしい。それでいて乗り心地も非常に良いのだ。

C型とD型の違いについて、SUBARUの開発陣は駆動力配分機構の変更によってプッシングアンダーステアが出にくくなり、今ままではスロットルオフで曲がるようなところも踏んでいけるようになったと主張した。が、今回の試乗コースであるサイクルスポーツセンターは一般道構造であるうえ、ブラックマークが残るような走行は禁止というルールもあったので、コーナリング時のパワーオンでインに寄りやすくなった程度の違いしか確認できなかった。

が、その駆動力配分システムやシャシーセッティング変更、ステアリングの滑らかさの向上などの違いは、限界走行以外の領域でも両者に違いをもたらしていた。D型は車体の動きがいい意味で軽いのである。筆者は試乗前に変更点を説明されるのは先入観が植え付けられるので好きではないのだが、もし機構面の違いを知らずに両者を乗り比べていたら、まず何らかの方法で大人ひとりぶんくらい軽量化したのではないかと思ったことだろう。素晴らしい身のこなしだと思っていた旧型が重く感じられるくらい、新型の動きはシャープだ。2周目、山道を走るようにキープレフトの走行ラインを取ってみたのだが、その範囲で爽快に走るだけでも楽しいモデルであった。

今回乗ったタイプSはビルシュタイン製ショックアブゾーバーを装備していたが、A型を富士スピードウェイで乗ったときには、カヤバ製ショックアブゾーバーも結構いい味を出していたので、タイプSでないノーマルのSTIでも、同じような進化を感じることができるのでないかと推察された。

トラック競技にも使えそうなSTIに対し、よりロードゴーイングカー的性格の強いS4も試乗してみた。ノーマルSTIと同じサイズの245/40R18タイヤを履く「GT-Sアイサイト」であったが、果たしてパフォーマンスは公道メインならこれで満足しない人は相当の好き者と思えるくらいに高い。

STIほどではないが、ステアリング操作とロール角の一致性はワゴンモデル『レヴォーグ』のノーマルラインと比べるとはるかに高く、スポーツセダンの域にしっかりと入っていた。エンジンは最高出力はともかくパワーバンドはSTIよりはるかに狭いが、それでも絶対的には速すぎるくらい。足はこのままに、最高出力を落として燃費性能を上げたストイキ(理論空燃費)ターボでも載せてみたらどうなんだろうなどとも思った。

S4の変速機はチェーンドライブCVT「リニアトロニック」のみでマニュアル変速機はない。そのリニアトロニックだが、変速機任せで走っているときには悪くないフィールを示す。スロットルを深く踏み込んだときにキックダウン的な動作をするのをはじめ、スポーティな走りをしている時は有段変速機的なステップ変速制御を行うように作られているし、変速感もそこそこシャープだ。残念なのはパドルシフトで変速操作を行うときのフィールで、これはいかにもCVTの擬似ステップという感じのドロッとしたもの。ここがクイックになれば大したものだが、個人的にはトルクコンバーター直結型の8速ATやDCTあたりを積んでほしい気がした。乗り心地はSTIと同様、ソリッドながら非常に良い。

WRXはSTI、S4とも、昨年秋にデビューした『インプレッサ』から展開が始まった新世代の「スバルグローバルプラットフォーム」ではなく、旧世代の技術セットで作られている。が、「価格的にはトップオブSUBARUのモデルなので、動的質感も常にSUBARU最高を目指している」とのSUBARUのベテランエンジニアの言葉どおり、長い時間をかけて入念なチューニングを施すことで、技術の新旧など気にならないような良い乗り味を出すことに成功していると感じられた。その違いが気になることがあるとしたら、それは新プラットフォームで作られた次期WRXシリーズがデビューしたときであろう。3年くらい先の話である。

■5つ星評価(WRX STI タイプS)
パッケージング:★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★(エンジンの熱効率で減点1)
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★(スポーツセダン好きに対し)

■5つ星評価(WRX S4 GT-Sアイサイト)
パッケージング:★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★(CVTフィールで減点1)
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★(スポーツセダン好きに対し)

(レスポンス 井元康一郎)

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