【ランボルギーニ アヴェンタドールS 試乗】この世界観、残念ながら日本車にはありません…桂伸一

ランボルギーニ アヴェンタドールS 富士スピードウェイ試乗(ランボルギーニ アカデミア)
目から鱗の連続だった。V型12気筒を搭載する昔ながらのランボ・サウンドを奏でる『アヴェンタドール』!…って、こんなに扱いやすかったっけ!? である。

個人的にアヴェンタドールを含む12気筒ランボは“猛牛”の「牛」の部分、つまり直線番長ではあるが、フットワークに関しては鈍重、重くて曲がらない、というか重いV12を搭載してオーバー300km/h楽勝のそれを安定させるには、操縦特性はそう仕立てる事が真っ当な判断だと思っていた。

しかし今回の『アヴェンタドールS』から採用された、後輪がステアする「4輪操舵システム」が、曲がる事と同時に安定性を高める操縦特性に変えた事が素晴らしいの一語。V12をミドシップに搭載した世界中のスーパースポーツのなかで最高のハンドリングカーだと言えるほど、後輪を巧みに操る偉業でもある。

我々の業界でもランボルギーニを富士スピードウェイのような高速サーキットで全開試乗する機会はめったにない。先導車がいる走行ではある。あるが、その先導ドライバー氏は後続のドライバーの力量を探りながら、徐々にペースアップ。付いて来れると判ると最終的にストレートスピードは290km/hに迫るほど、各コーナーでもアクセル全開状況が続く!!

いわゆる“オーバースピード”によるアクシデントが過去にないわけではない。が、それにもめげずにランボがこうしたイベントを続ける理由は、日本が重要なマーケットだからに他ならない。

アヴェンタドールSの心臓部は自然吸気6.5リットルV12。先代に対して吸気と可変バルブタイミングを見直して最大回転数は150rpm引き上げた8500rpm。パワーは実に740hp!! トルクは690Nmを誇る、まさにランボ魅惑のV12サウンドがコクピットに充満する。

0-100km/h加速は2.9秒。低回転から沸き上がるトルクに乗せられた加速Gの凄まじさはターボのような谷間が無く、延々と続く感覚で伸び続け最高速度は350km/hオーバー!!

富士では、直線の2本目のブリッジでアクセルを戻す約束だが、そこで約290km/hはまだまだ加速の波に乗っている途中である。

ギアボックスは7速のAMT。つまりクラッチ操作を油圧と電子制御が行うタイプの2ペダル。全開加速ではシフトアップの度にガツンと衝撃とともに繋ぐクラッチワークが荒いのはシステム上仕方ないか。レーシングマシンのように油圧をうんと高めれば話は変わるが、ソコだけは残念。

で、最大の驚きが曲がる特性だ。速度や舵角に応じて、前輪とは「逆操」に切る後輪。しかし即安定方向に。これは判っていても最初は腰と言うか、お尻のあたりがムズムズ動く感じがする。後輪がステアする関係だが、車速と減速Gや前輪の動きから、後輪の舵角は絶えず安定させる方向にステアしている事がメーター内に映し出され、曲がり、安定する後輪操舵に深く納得する。

強力な横Gを発生しながらグリップ変化を起こさない新開発のピレリPゼロとの組み合わせもまた素晴らしい。まるでレーシングタイヤのような運動性!! なのだが走行モードを街乗りの「ストラーダ」にするとエンジン、ミッション、サスの設定がすべて穏やかになり、タイヤの乗り味も滑らかだ。

富士の場合、スポーツモードでも十分なのだが、やはり全能力をフルに発揮できる「コルサ」で、例えばヘアピンを立ち上がり300Rに消えるまでアクセルをびた一文戻さずにレコードラインをトレースする様は、レーシングマシンと何ら変わらない操縦性と、空力による路面に押さえ付ける力。アヴェンタドールSの登場により“走りはウラカン”と言う定義ではなくなった事が新たな展開。

この世界観、残念ながら日本車にはありません。
桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。

(レスポンス 桂伸一)

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