【ステルヴィオ クワドリフォリオ 海外試乗】SUVとして唯一無二のキャラクターを得た…西川淳
SUVにしちゃ、ちょっとアシが硬いかな。それに、セダンの『ジュリア・クワドリフォリオ』に比べて、ドライバーへ伝わってくる“しっかり感”に、少し乏しい気もする。キャビン形状のせいだろうか、わずかに緩い。ドライブトレーンの制御も、やや乱雑だ。
転がし始めてしばらくは、大いに期待していた反動からか、ちょっとネガティヴな評価が続いた。
『ステルヴィオ』は、ジュリアと同じく、完全新開発のFRプラットフォーム、“ジョルジョ”を使ったコンパクトミッドサイズのSUVだ。ライバルとして挙がるのは、BMW『X3』やメルセデスベンツ『GLCクラス』、ポルシェ『マカン』など。いわゆる欧州DセグメントベースのSUVたちである。
エンジンやホイールベース、サスペンション形式など、ジュリアと共通する部分は多い。けれども、今のところ全グレードが「Q4」、つまりは電子制御4WDを積んでいる。フロントに最大50、リアには最大100の駆動力を配分するシステムだ。
すでに欧州市場では人気を博しているステルヴィオに、最上級の高性能グレード、「クワドリフォリオ」(以下ステルヴィオQ)が追加された。ジュリア・クワドリフォリオと同様、フェラーリのエンジニアリング協力を受けて開発された、510psの2.9リットルV型90度ツインターボエンジンを積んでいる。
高性能SUVという意味では、メルセデスAMG「GLC63」や「マカンターボ」が直接のライバルとなるだろう。
◆世界有数のワインディングで目覚めたクワドリフォリオ
アラブ首長国連邦(UAE)で開かれた、ステルヴィオQの国際試乗会に参加した。砂漠のなかに造られたリゾートホテルをパールホワイトのステルヴィオQで出発し、味気ない道と景色を小一時間ほどやり過ごした後も、冒頭の評価はさほど上向いてはこなかった。
ここイッパツの加速は、なるほどバカっ速い。それとて、ジュリアの強烈さに比べると、若干モノ足りない。当然だ。より重いし、4WDで安定しているのだから。
砂煙と青空が交替で現れる。ステルヴィオQの評価も、行ったり来たり。そうこうしているうちに、目の前に山が迫って来た。ドバイの近郊にこんな山があるなんて、2か月前に来たときにはまるで気づかなかったが、けっこう険しくて、高い山である。
UAEで最も標高の高いという、2000m級のジェベル・ジャイス山だ。2年前に、麓から頂上へと至るワインディングロードが整備され、世界でも最もエキサイティングなドライブウェイのひとつとして一躍、有名になったらしい。
道幅は広く、舗装もきれいで、交通量は皆無に等しい。実に走りやすそうである。ためらうことなく、ジュリアと同じドライブモード選択のDNAプロをRACEモードへと切り変え、臨戦態勢を取った。登り勾配に差し掛かった。
ギアシフトもマニュアルに。大きなアルミ製パドルシフトで小気味よくギアを上げていく。D(ダイナミック)モードでは変速のダイレクト感が強過ぎたが、RACEではまるでデュアルクラッチミッションのように歯切れよく変速する。迫力のエグゾーストノートが、ドライバーの闘争心を刺激した。
◆今のところ、クラスベストのパフォーマンスSUV
アシはがっちりと固められているものの、タイトベントの手前ではきれいに沈み込む。ステアリングは、とてもクイックだ。ギア比はなんと12.1:1。ハチロクBRZより、クイック!視線が高いぶん、ラインのトレースも容易で、遅れることなく狙ったコースを気持ちよく捉えることができた。
そのままアクセルペダルを踏み込んでいくと、トルクベクタリングがすさまじい効きをみせ、後輪から前を、ホイールベースごと一気に内へと向かせる。ステアリングを戻しつつ、さらに加速モードに入れば、極太タイヤを少し滑らせながら、コーナーを脱出。実にコントローラブルなコーナリングだ。
ノーズさえ真っ直ぐに出口をむかえば、もうこっちのもの。躊躇うことなくフルスロットルで加速態勢に。マラネッロ直伝のV6ツインターボエンジンが、轟音を響かせて、みるみるうちに次なるヘアピンコーナーへと迫った。
知らぬ間に、赤や青のステルヴィオQに囲まれていた。みんな、かっ飛ばしてきたのだ。二車線の登り道、アウト・イン・アウトで全て使って、駆け上がる。ちょっとしたバトル。接近していても、不安がない。自分の思い通りに動いているという確信があるからだ。ブレーキのフィールにも安心感がある。
20kmほどだっただろうか。SUVのテストドライブであることなど忘れて、運転に没頭した。まるでスポーツカーのように楽しい。ステルヴィオQは、SUVとして、唯一無二のキャラクターを得た。
エンジニアがこう言って、ほくそ笑む。「気になるクルマ?ウルス(ランボルギーニの新SUV)くらいかな」。
今のところ、クラスベストのパフォーマンスSUVだと言っていい。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
転がし始めてしばらくは、大いに期待していた反動からか、ちょっとネガティヴな評価が続いた。
『ステルヴィオ』は、ジュリアと同じく、完全新開発のFRプラットフォーム、“ジョルジョ”を使ったコンパクトミッドサイズのSUVだ。ライバルとして挙がるのは、BMW『X3』やメルセデスベンツ『GLCクラス』、ポルシェ『マカン』など。いわゆる欧州DセグメントベースのSUVたちである。
エンジンやホイールベース、サスペンション形式など、ジュリアと共通する部分は多い。けれども、今のところ全グレードが「Q4」、つまりは電子制御4WDを積んでいる。フロントに最大50、リアには最大100の駆動力を配分するシステムだ。
すでに欧州市場では人気を博しているステルヴィオに、最上級の高性能グレード、「クワドリフォリオ」(以下ステルヴィオQ)が追加された。ジュリア・クワドリフォリオと同様、フェラーリのエンジニアリング協力を受けて開発された、510psの2.9リットルV型90度ツインターボエンジンを積んでいる。
高性能SUVという意味では、メルセデスAMG「GLC63」や「マカンターボ」が直接のライバルとなるだろう。
◆世界有数のワインディングで目覚めたクワドリフォリオ
アラブ首長国連邦(UAE)で開かれた、ステルヴィオQの国際試乗会に参加した。砂漠のなかに造られたリゾートホテルをパールホワイトのステルヴィオQで出発し、味気ない道と景色を小一時間ほどやり過ごした後も、冒頭の評価はさほど上向いてはこなかった。
ここイッパツの加速は、なるほどバカっ速い。それとて、ジュリアの強烈さに比べると、若干モノ足りない。当然だ。より重いし、4WDで安定しているのだから。
砂煙と青空が交替で現れる。ステルヴィオQの評価も、行ったり来たり。そうこうしているうちに、目の前に山が迫って来た。ドバイの近郊にこんな山があるなんて、2か月前に来たときにはまるで気づかなかったが、けっこう険しくて、高い山である。
UAEで最も標高の高いという、2000m級のジェベル・ジャイス山だ。2年前に、麓から頂上へと至るワインディングロードが整備され、世界でも最もエキサイティングなドライブウェイのひとつとして一躍、有名になったらしい。
道幅は広く、舗装もきれいで、交通量は皆無に等しい。実に走りやすそうである。ためらうことなく、ジュリアと同じドライブモード選択のDNAプロをRACEモードへと切り変え、臨戦態勢を取った。登り勾配に差し掛かった。
ギアシフトもマニュアルに。大きなアルミ製パドルシフトで小気味よくギアを上げていく。D(ダイナミック)モードでは変速のダイレクト感が強過ぎたが、RACEではまるでデュアルクラッチミッションのように歯切れよく変速する。迫力のエグゾーストノートが、ドライバーの闘争心を刺激した。
◆今のところ、クラスベストのパフォーマンスSUV
アシはがっちりと固められているものの、タイトベントの手前ではきれいに沈み込む。ステアリングは、とてもクイックだ。ギア比はなんと12.1:1。ハチロクBRZより、クイック!視線が高いぶん、ラインのトレースも容易で、遅れることなく狙ったコースを気持ちよく捉えることができた。
そのままアクセルペダルを踏み込んでいくと、トルクベクタリングがすさまじい効きをみせ、後輪から前を、ホイールベースごと一気に内へと向かせる。ステアリングを戻しつつ、さらに加速モードに入れば、極太タイヤを少し滑らせながら、コーナーを脱出。実にコントローラブルなコーナリングだ。
ノーズさえ真っ直ぐに出口をむかえば、もうこっちのもの。躊躇うことなくフルスロットルで加速態勢に。マラネッロ直伝のV6ツインターボエンジンが、轟音を響かせて、みるみるうちに次なるヘアピンコーナーへと迫った。
知らぬ間に、赤や青のステルヴィオQに囲まれていた。みんな、かっ飛ばしてきたのだ。二車線の登り道、アウト・イン・アウトで全て使って、駆け上がる。ちょっとしたバトル。接近していても、不安がない。自分の思い通りに動いているという確信があるからだ。ブレーキのフィールにも安心感がある。
20kmほどだっただろうか。SUVのテストドライブであることなど忘れて、運転に没頭した。まるでスポーツカーのように楽しい。ステルヴィオQは、SUVとして、唯一無二のキャラクターを得た。
エンジニアがこう言って、ほくそ笑む。「気になるクルマ?ウルス(ランボルギーニの新SUV)くらいかな」。
今のところ、クラスベストのパフォーマンスSUVだと言っていい。
西川淳|自動車ライター/編集者
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