【メルセデスベンツ E220dワゴン 試乗】大明神に向かってモノ申すようで失礼ですが…中村孝仁
試乗車は『E220dステーションワゴン・アバンギャルドスポーツ』という長い名前を持つ。メルセデスベンツと言えば、泣く子も黙るクルマ界の帝王的存在。かつては最高の存在として崇められてきた。
僕がまだ若手モータージャーナリストと呼ばれた時代、メルセデスはコンパクトクラスとSクラスという二つのラインナップしかなかった。クルマはどれもとことんオーバークォリティーで、これだけお金をかければいいクルマが出来るさ!と、国産メーカーの人々は半ば悔し紛れに話していた時代があった。そんな時代を通り過ぎ、今やメルセデスは下がCセグメントのハッチバックから、上はFセグメントのSクラスや、さらにその上のマイバッハまで、いわゆるフルラインナップに近い車種体系を持つようになった。
そんなわけで、今では必ずしもメルセデスが絶対的な地位にあるとは言い難い存在ではあるのだが、それでも試乗すればほとんどのクルマは誰もが一目を置く存在のモデルであることに変わりはない。
新しいE220dにしても大枠で言えば素晴らしい出来で、ほぼ文句のつけようのないクルマである。220dと言ってつい騙されてしまうが、このクルマに搭載されているエンジンは、かつての2.2リットル4気筒ディーゼル(コードネームOM651)ではない。全く新しいコードネームM654の名を持つ2リットル4気筒ユニットなのである。
このエンジン、いわゆるモジュラー系のエンジンの一つ。少し細かく話をするとM256と呼ばれる新しい直6の派生エンジンと言って差し支えない。気筒当たり約500ccの排気量を持ち、将来的には電動化を見据えて、48VのISGが装着可能と思われるエンジンだ。また、エンジンブロックはアルミ製。シリンダー壁にはナノスライドと呼ばれる独自のコーティングが施されたもので、最大で50%もフリクションが低減できるという。
排気量は下がってもパフォーマンスは従来の2.2リットルとそれほど変わらず、194psの最高出力と400Nm(1600~2800rpm)の最大トルクを発揮する。それに何とJC08モード燃費では20km/リットルの大台に達するというから、車重が1890kgもあることを考えると驚異的だ。組み合わされるトランスミッションは9速ATである。
走り出しは至ってスムーズで以前にも増してやはり静かになった印象が強い。眼前にそびえたつように見える二つの12.3インチ大型ディスプレイは、ズバリ極めて機能的で見易いし、目的は明確だ。果たしてこれが新しい自動車のインストルメントパネル像なのかと思うと、複雑な思いがないわけではないが、クルマを動かすうえでの情報を得るためには最適かもしれない。例によってステアリングはきわめて正確である、昔からメルセデスのステアリングはクィックではない。切ったら切ったなりに…。一時BMWを躍起になって追いかけ、スポーツ性を強調しようとした時期があったが、今は元の軌道に戻された気がする。
冒頭、大明神に向かってモノ申すと書いたのは、乗り心地である。最近メルセデスもモジュラー型プラットフォームを導入していて、Eクラスの場合『Cクラス』と同じMRAと呼ばれるプラットフォームが使われている。ところが、同じプラットフォームを使っていながら、実際に乗り比べてみると、どう考えてもCクラスの方が快適でフラット感が高くスムーズである。実はこのクルマを試乗した直後に『C200』に乗り換えての感想がこれである。具体的には少し大きめな入力に対してEクラスはそれを一発で収めることができない。それに入力されるショック自体も少し大きいのである。サイズに対して僅かではあるが、補強が足りない印象と言っては失礼かもしれないがそんな感じである。
Eクラスの場合、いわゆる自動化に向けた各種デバイスにものすごい注力されていて、とりわけACCの出来などは文句なしの最高レベルだし、車線変更なども非常に上手い。そうした電動化に予算を取られて、基本となるアナログな部分の煮詰めに手が回らなかったと考えるのはゲスの勘繰りか?
全てが高いレベルでまとまっていると、ほんの些細なことが大きなネガとして浮き彫りにされてしまうと感じるわけである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
僕がまだ若手モータージャーナリストと呼ばれた時代、メルセデスはコンパクトクラスとSクラスという二つのラインナップしかなかった。クルマはどれもとことんオーバークォリティーで、これだけお金をかければいいクルマが出来るさ!と、国産メーカーの人々は半ば悔し紛れに話していた時代があった。そんな時代を通り過ぎ、今やメルセデスは下がCセグメントのハッチバックから、上はFセグメントのSクラスや、さらにその上のマイバッハまで、いわゆるフルラインナップに近い車種体系を持つようになった。
そんなわけで、今では必ずしもメルセデスが絶対的な地位にあるとは言い難い存在ではあるのだが、それでも試乗すればほとんどのクルマは誰もが一目を置く存在のモデルであることに変わりはない。
新しいE220dにしても大枠で言えば素晴らしい出来で、ほぼ文句のつけようのないクルマである。220dと言ってつい騙されてしまうが、このクルマに搭載されているエンジンは、かつての2.2リットル4気筒ディーゼル(コードネームOM651)ではない。全く新しいコードネームM654の名を持つ2リットル4気筒ユニットなのである。
このエンジン、いわゆるモジュラー系のエンジンの一つ。少し細かく話をするとM256と呼ばれる新しい直6の派生エンジンと言って差し支えない。気筒当たり約500ccの排気量を持ち、将来的には電動化を見据えて、48VのISGが装着可能と思われるエンジンだ。また、エンジンブロックはアルミ製。シリンダー壁にはナノスライドと呼ばれる独自のコーティングが施されたもので、最大で50%もフリクションが低減できるという。
排気量は下がってもパフォーマンスは従来の2.2リットルとそれほど変わらず、194psの最高出力と400Nm(1600~2800rpm)の最大トルクを発揮する。それに何とJC08モード燃費では20km/リットルの大台に達するというから、車重が1890kgもあることを考えると驚異的だ。組み合わされるトランスミッションは9速ATである。
走り出しは至ってスムーズで以前にも増してやはり静かになった印象が強い。眼前にそびえたつように見える二つの12.3インチ大型ディスプレイは、ズバリ極めて機能的で見易いし、目的は明確だ。果たしてこれが新しい自動車のインストルメントパネル像なのかと思うと、複雑な思いがないわけではないが、クルマを動かすうえでの情報を得るためには最適かもしれない。例によってステアリングはきわめて正確である、昔からメルセデスのステアリングはクィックではない。切ったら切ったなりに…。一時BMWを躍起になって追いかけ、スポーツ性を強調しようとした時期があったが、今は元の軌道に戻された気がする。
冒頭、大明神に向かってモノ申すと書いたのは、乗り心地である。最近メルセデスもモジュラー型プラットフォームを導入していて、Eクラスの場合『Cクラス』と同じMRAと呼ばれるプラットフォームが使われている。ところが、同じプラットフォームを使っていながら、実際に乗り比べてみると、どう考えてもCクラスの方が快適でフラット感が高くスムーズである。実はこのクルマを試乗した直後に『C200』に乗り換えての感想がこれである。具体的には少し大きめな入力に対してEクラスはそれを一発で収めることができない。それに入力されるショック自体も少し大きいのである。サイズに対して僅かではあるが、補強が足りない印象と言っては失礼かもしれないがそんな感じである。
Eクラスの場合、いわゆる自動化に向けた各種デバイスにものすごい注力されていて、とりわけACCの出来などは文句なしの最高レベルだし、車線変更なども非常に上手い。そうした電動化に予算を取られて、基本となるアナログな部分の煮詰めに手が回らなかったと考えるのはゲスの勘繰りか?
全てが高いレベルでまとまっていると、ほんの些細なことが大きなネガとして浮き彫りにされてしまうと感じるわけである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
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