【ロールスロイス ゴースト 試乗】「ブラックバッジ」は本当にドライバーズカーなのか…内田俊一
ロールスロイスの4ドアサルーン『ゴースト』。そこによりドライバーライクに振った「ブラックバッジ」が追加されたので、試乗に借り出してみた。
ロールスロイスには現在最上級の『ファントム』とゴーストの2種類の4ドアサルーンがある。BMWグループになって最初に登場したのはファントム。その後、ゴーストが追加され、より若い成功者たちがゴーストを購入したことで、ロールスロイスの販売台数は飛躍的に向上した。そのユーザーたちは、後席に収まるばかりではなく、自ら運転することも好んだことからゴーストを選んでいるという。
さらに2016年、ブラックバッジシリーズが投入された。いわば裏ロールスロイス的存在だ。シルバーメッキ部分はブラックメッキ化。排気量6.6リットルV12型エンジンは多少手直しされ、最高出力は40psアップして603psに、最大トルクは60Nm引き上げられ、840Nmに向上している。
なぜブラックバッジシリーズが投入されたのか。実は世界のロールスユーザーの多くが、クローム部分を黒くしたり、スポーティにチューニングしたりという傾向が多くみられたことから、ロールスのステータスを守りつつ、その要望に応えることから開発、導入に踏み切ったという。現在日本では約半分がブラックバッジシリーズになっているという。
◆とにかく静かで軽い
まるで銀行の金庫の扉のように分厚く重いドアを開け、これもまた分厚いシートに腰を下ろす。目の前に広がるメーター回りにはオレンジのアクセントが配されブラックバッジであることを主張している。ゆっくりと重いドアを閉めると耳が遠くなったかのような、外界の騒音は見事にシャットダウンされた。左手でナビ横の少し小さなスタート&ストップボタンを押すと、一瞬身震いをした後に、エンジンがかかった“ようだ”。そのくらいエンジン音は聞こえないし、振動もないに等しい。
ステアリングコラム右側から生えるシフトレバーを手前に引き下に下げるとDが選択される。そこからゆっくりとアクセルを踏み込むと、エンジン音がふわっと高まるとともに、全長5.4m、2.5トンのボディはしずしずと走り始めた。
その第1印象は、とにかく静かであるということ。同時にステアリングがとても軽いということだった。そしてもうひとつ、街中を走っていると2mに喃々とする車幅をそれほど感じないことだ。その理由はクルマの先頭にそびえるスピリット・オブ・エクスタシーがまさに水先案内人を務めてくれるからで、意外と狭い道でもそれほど気にせずに走ることが出来た。
ステアリングについてはもうひとつ付け加えておきたい。ロックトゥロックは3回転なのだが、ステアリング径が大きいことと、軽いこともあり一気に切ってしまいがちなのだ。そうすると、重いボディも相まって強いGが発生し後席の住人からクレームが出てしまいそうになる。そこでふと思い当たり、ステアリングの握る手を10時10分あたりから8時40分に変え、そこから親指でステアリングを操作する、いわゆる送りハンドルに変えてみた。すると驚いたことに、ゴーストブラックバッジは非常にスムーズに車線変更やコーナリングを開始するのだ。この操作は、古いロールスに乗るときによく行うものなので、まさかと思っていたのだが、現代のロールスにも当てはまる結果となった。
◆高速走行と後席の快適性は
さて落ち着いて室内を見渡してみると、『7シリーズ』などと共通のスイッチ類が散見される。ナビも含めて共通化することでコストダウンが出来るとともに、ロールス独自で開発するよりも信頼性も向上するはずだから、これはこれで致し方なかろう。
高速に乗りアクセルを踏み込むと、淑女がそのロングドレスの裾をたくし上げ駆け出すがごとく、強烈な加速が開始され、あっという間に制限速度を超えそうになるほど豪快で、慌ててブレーキを踏んでその速度を調整する始末だ。そのブレーキもパワーに見合った十分なものだった。
その一方で、ステアリングの軽さからくる不安感もある。クルマ自体はボディ剛性も高く、重厚な乗り心地なのだが、妙にステアリングが軽いのでそう感じてしまうのだ。そこで、LOW(普通のクルマでいうスポーツモード)を選択すると、シフトポイントが上昇するとともに、ステアリングも若干重くなるので、高速ではこのモードを選択するのが最適に感じた。
主に運転席から報告をしてきたが、このクルマは後席も重要だ。そこで、少しだけだが居心地の良い後席に座ってみた。フロントと同様リアドアもずっしりと重く、開閉にはそこそこの力がいるが、本来であればショーファーが開け閉めするので問題はないだろう。また、自ら閉めるときはリアクオーターピラーのところにあるボタンを押せば自動で閉めることが可能だ(開けることは不可)。ただしその際は結構勢いよく締まるので注意が必要である。リアシートもパワーで前後、リクライニングが可能で快適なポジションが得られる。また、ピクニックテーブルも備えられ、剛性もしっかりしているので、そこにPCを置いて仕事をすることも可能だった。
◆分不相応のクルマは苦労する
ゴーストブラックバッジを1週間ほど足にした結果、燃費は街中で4~5km/リットル、高速では8km/リットルを記録した。これをどう評価するかは難しいところだが、個人的には十分満足できる数字だと思う。今どき6リットルオーバーの12気筒でアイドルストップなしであれば、これを下回ることが十分に想像できるからだ。
なかなか自動車ジャーナリストという仕事をしていてもロールスロイスに試乗することなど、そうそうあることではない。それでも興味が先に立ち実際に付き合ってみて感じたことは、その大きさでもパワフルさでもなく、駐車場の問題だった。まさかコインパーキングに停めるわけにもいかず、常に出先の駐車場を確認してから出かける始末だ。本来のオーナーであればウイークデーはショーファーがいるだろうし、ウイークエンドで自らドライバーを買って出た場合でも、その行先には十分広い駐車場かバレットパーキングが完備されているだろう。
やはり身分不相応なクルマに乗るということは、大いに気を遣い、かつお財布にも厳しいものなのである、嗚呼。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
内田俊一(うちだしゅんいち)
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラと同じくルノー10。
(レスポンス 内田俊一)
ロールスロイスには現在最上級の『ファントム』とゴーストの2種類の4ドアサルーンがある。BMWグループになって最初に登場したのはファントム。その後、ゴーストが追加され、より若い成功者たちがゴーストを購入したことで、ロールスロイスの販売台数は飛躍的に向上した。そのユーザーたちは、後席に収まるばかりではなく、自ら運転することも好んだことからゴーストを選んでいるという。
さらに2016年、ブラックバッジシリーズが投入された。いわば裏ロールスロイス的存在だ。シルバーメッキ部分はブラックメッキ化。排気量6.6リットルV12型エンジンは多少手直しされ、最高出力は40psアップして603psに、最大トルクは60Nm引き上げられ、840Nmに向上している。
なぜブラックバッジシリーズが投入されたのか。実は世界のロールスユーザーの多くが、クローム部分を黒くしたり、スポーティにチューニングしたりという傾向が多くみられたことから、ロールスのステータスを守りつつ、その要望に応えることから開発、導入に踏み切ったという。現在日本では約半分がブラックバッジシリーズになっているという。
◆とにかく静かで軽い
まるで銀行の金庫の扉のように分厚く重いドアを開け、これもまた分厚いシートに腰を下ろす。目の前に広がるメーター回りにはオレンジのアクセントが配されブラックバッジであることを主張している。ゆっくりと重いドアを閉めると耳が遠くなったかのような、外界の騒音は見事にシャットダウンされた。左手でナビ横の少し小さなスタート&ストップボタンを押すと、一瞬身震いをした後に、エンジンがかかった“ようだ”。そのくらいエンジン音は聞こえないし、振動もないに等しい。
ステアリングコラム右側から生えるシフトレバーを手前に引き下に下げるとDが選択される。そこからゆっくりとアクセルを踏み込むと、エンジン音がふわっと高まるとともに、全長5.4m、2.5トンのボディはしずしずと走り始めた。
その第1印象は、とにかく静かであるということ。同時にステアリングがとても軽いということだった。そしてもうひとつ、街中を走っていると2mに喃々とする車幅をそれほど感じないことだ。その理由はクルマの先頭にそびえるスピリット・オブ・エクスタシーがまさに水先案内人を務めてくれるからで、意外と狭い道でもそれほど気にせずに走ることが出来た。
ステアリングについてはもうひとつ付け加えておきたい。ロックトゥロックは3回転なのだが、ステアリング径が大きいことと、軽いこともあり一気に切ってしまいがちなのだ。そうすると、重いボディも相まって強いGが発生し後席の住人からクレームが出てしまいそうになる。そこでふと思い当たり、ステアリングの握る手を10時10分あたりから8時40分に変え、そこから親指でステアリングを操作する、いわゆる送りハンドルに変えてみた。すると驚いたことに、ゴーストブラックバッジは非常にスムーズに車線変更やコーナリングを開始するのだ。この操作は、古いロールスに乗るときによく行うものなので、まさかと思っていたのだが、現代のロールスにも当てはまる結果となった。
◆高速走行と後席の快適性は
さて落ち着いて室内を見渡してみると、『7シリーズ』などと共通のスイッチ類が散見される。ナビも含めて共通化することでコストダウンが出来るとともに、ロールス独自で開発するよりも信頼性も向上するはずだから、これはこれで致し方なかろう。
高速に乗りアクセルを踏み込むと、淑女がそのロングドレスの裾をたくし上げ駆け出すがごとく、強烈な加速が開始され、あっという間に制限速度を超えそうになるほど豪快で、慌ててブレーキを踏んでその速度を調整する始末だ。そのブレーキもパワーに見合った十分なものだった。
その一方で、ステアリングの軽さからくる不安感もある。クルマ自体はボディ剛性も高く、重厚な乗り心地なのだが、妙にステアリングが軽いのでそう感じてしまうのだ。そこで、LOW(普通のクルマでいうスポーツモード)を選択すると、シフトポイントが上昇するとともに、ステアリングも若干重くなるので、高速ではこのモードを選択するのが最適に感じた。
主に運転席から報告をしてきたが、このクルマは後席も重要だ。そこで、少しだけだが居心地の良い後席に座ってみた。フロントと同様リアドアもずっしりと重く、開閉にはそこそこの力がいるが、本来であればショーファーが開け閉めするので問題はないだろう。また、自ら閉めるときはリアクオーターピラーのところにあるボタンを押せば自動で閉めることが可能だ(開けることは不可)。ただしその際は結構勢いよく締まるので注意が必要である。リアシートもパワーで前後、リクライニングが可能で快適なポジションが得られる。また、ピクニックテーブルも備えられ、剛性もしっかりしているので、そこにPCを置いて仕事をすることも可能だった。
◆分不相応のクルマは苦労する
ゴーストブラックバッジを1週間ほど足にした結果、燃費は街中で4~5km/リットル、高速では8km/リットルを記録した。これをどう評価するかは難しいところだが、個人的には十分満足できる数字だと思う。今どき6リットルオーバーの12気筒でアイドルストップなしであれば、これを下回ることが十分に想像できるからだ。
なかなか自動車ジャーナリストという仕事をしていてもロールスロイスに試乗することなど、そうそうあることではない。それでも興味が先に立ち実際に付き合ってみて感じたことは、その大きさでもパワフルさでもなく、駐車場の問題だった。まさかコインパーキングに停めるわけにもいかず、常に出先の駐車場を確認してから出かける始末だ。本来のオーナーであればウイークデーはショーファーがいるだろうし、ウイークエンドで自らドライバーを買って出た場合でも、その行先には十分広い駐車場かバレットパーキングが完備されているだろう。
やはり身分不相応なクルマに乗るということは、大いに気を遣い、かつお財布にも厳しいものなのである、嗚呼。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
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1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラと同じくルノー10。
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