【ベントレー ベンテイガV8 海外試乗】今、あえて12気筒を選ぶ理由はあるか…西川淳
W12ツインターボを積むベントレー『ベンテイガ』は、今のところSUV界の最高峰に位置している。ランボルギーニやポルシェとは“義兄弟”みたいなものだからさておくとして、この先、ロールスロイスやアストンマーティンといった同じ英国の老舗がSUVを出す予定で、イタリアの赤い人気者まで参入に前のめり気味、となれば、今のうちにラグジュアリーSUVとしての立場を固められるだけ固めておくに越したことはない。
『コンチネンタルGT』や『フライングスパー』がそうであったように、W12モデルを先にデビューさせて頂点を極め、そこからある程度の数を狙うべく“ちょっと安め”のV8モデルを市場へと投入し主力モデルとする、というのが、モダン・ベントレーの販売戦略の要。当然のことながら、ベンテイガも当初からV8エンジン搭載グレードを同時に開発しており、加えて、SUVということもあって、ベントレー初となるディーゼルエンジンの搭載にも踏み切った。
本国では、先にV8ディーゼルをデビューさせている。そして、今回、ガソリンV8が登場し、日本のジャーナリストにも試す機会が与えられたというわけだ。ちなみに、ベントレーは既にベンテイガのプラグインハイブリッドモデルについて詳細を発表しており、そちらは3リットルのV6エンジン+電気モーターとなることが決まっている。
それにしても、ベントレーのようなハイエンド&ラグジュアリーブランドの単一モデル用に4種類ものパワートレーンを用意しなければならない時代になろうとは!
◆W12と変わらぬドライブフィールを目指した、というが
国際試乗会は、オーストリアのスキーリゾート、キッツビューエルを起点に開催された。つまり、あえて滑り易い悪コンディションという状況で、ベンテイガV8のタフネスぶりを体験せよ、というわけだ。
ぱっと見た目には、W12モデルとの大きな違いはない。コンチネンタルGTがそうであったように、グリルまわりの色がブラックアウトされているのが最大の特徴だ。新しいデザインのアルミホイールや、楕円形状のエンドパイプなども見分けるポイントになるが、よほどのファンか、ベンテイガのオーナーでなければ、分からないだろう。実際には、エンブレムを探して確認するほかない。インテリアにいたっては、そもそもビスポークが前提になるから、変わらない、というより、全ての個体が、色味や素材、模様などで少しずつ違って当然、という世界である。
ハイライトは、もちろんパワートレーンだ。基本設計は、アウディグループの大型SUVやサルーンに使っている、4リットルV8ツインターボ+ZF製8AT+4WDである。エンジンスペックだけをみれば『カイエンターボ』によく似るが、もちろん、ベンテイガ用にベントレーのエンジニアが専用チューニングを施したものだ。
試乗前にエンジニアと話をしたら、コンチネンタルGTとは違って、V8モデルでもW12モデルと変わらぬドライブフィールを目指した、という。アシ回りのセッティングなども全く変えていないらしい。変わらないというなら、よほど12気筒のエンジンフィールが気に入ったという人以外には、迷わずV8を選べと奨めるほかなくなってしまうのだが。
◆W12にはない“スポーティさ”を感じた
果たして、ベンテイガV8の走りには、W12にはない“スポーティさ”を感じた。わずかな違いとは言うものの、50kg軽いノーズはドライバーの両手にダイレクトに反応し、動きもかろやかに思った。
ゼロ発進の鋭さも、V8の特徴だと思う。加速中は前のめりにシフトアップ。少し離れた位置から聞こえるエグゾーストノートは、ボリュームを抑えたアメリカンマッスルカーのようだ。
試乗後、件のエンジニア氏に「同じとは思えなかったよ」、という筆者の感想を伝えると、「音と出足の良さでそう思っただけだ」と言って憚らない。頑固なエンジニアは、好ましい。
確かに、ノーズの軽やかな動きと、鋭い出足、独特のエンジンフィールという、分かり易いポイントがわずかでも違えば、差別化は容易だ。むしろ、その先にあるライドフィール、たとえば街乗りでの乗り心地や安定感もたっぷりのGT性能、見事なオフロードのパフォーマンス、がどこまでも洗練されていたという点で、なるほどV8もW12とまるで変わらず、最新のベントレーらしさに満ちていた。
PHVの評判がどう転ぶかにもよるけれど、しばらくはV8が販売の主力となり、W12は祭り上げられるという状況になることは想像に難くない。実際、V8に乗ってみて、あえてW12を選ぶ理由はないな、と思ったものだった。
もっとも、W12に改めて乗ってみたらみたで、きっと、V8にはない味付けを愛おしく思ってしまうに違いないのだけれど……。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
『コンチネンタルGT』や『フライングスパー』がそうであったように、W12モデルを先にデビューさせて頂点を極め、そこからある程度の数を狙うべく“ちょっと安め”のV8モデルを市場へと投入し主力モデルとする、というのが、モダン・ベントレーの販売戦略の要。当然のことながら、ベンテイガも当初からV8エンジン搭載グレードを同時に開発しており、加えて、SUVということもあって、ベントレー初となるディーゼルエンジンの搭載にも踏み切った。
本国では、先にV8ディーゼルをデビューさせている。そして、今回、ガソリンV8が登場し、日本のジャーナリストにも試す機会が与えられたというわけだ。ちなみに、ベントレーは既にベンテイガのプラグインハイブリッドモデルについて詳細を発表しており、そちらは3リットルのV6エンジン+電気モーターとなることが決まっている。
それにしても、ベントレーのようなハイエンド&ラグジュアリーブランドの単一モデル用に4種類ものパワートレーンを用意しなければならない時代になろうとは!
◆W12と変わらぬドライブフィールを目指した、というが
国際試乗会は、オーストリアのスキーリゾート、キッツビューエルを起点に開催された。つまり、あえて滑り易い悪コンディションという状況で、ベンテイガV8のタフネスぶりを体験せよ、というわけだ。
ぱっと見た目には、W12モデルとの大きな違いはない。コンチネンタルGTがそうであったように、グリルまわりの色がブラックアウトされているのが最大の特徴だ。新しいデザインのアルミホイールや、楕円形状のエンドパイプなども見分けるポイントになるが、よほどのファンか、ベンテイガのオーナーでなければ、分からないだろう。実際には、エンブレムを探して確認するほかない。インテリアにいたっては、そもそもビスポークが前提になるから、変わらない、というより、全ての個体が、色味や素材、模様などで少しずつ違って当然、という世界である。
ハイライトは、もちろんパワートレーンだ。基本設計は、アウディグループの大型SUVやサルーンに使っている、4リットルV8ツインターボ+ZF製8AT+4WDである。エンジンスペックだけをみれば『カイエンターボ』によく似るが、もちろん、ベンテイガ用にベントレーのエンジニアが専用チューニングを施したものだ。
試乗前にエンジニアと話をしたら、コンチネンタルGTとは違って、V8モデルでもW12モデルと変わらぬドライブフィールを目指した、という。アシ回りのセッティングなども全く変えていないらしい。変わらないというなら、よほど12気筒のエンジンフィールが気に入ったという人以外には、迷わずV8を選べと奨めるほかなくなってしまうのだが。
◆W12にはない“スポーティさ”を感じた
果たして、ベンテイガV8の走りには、W12にはない“スポーティさ”を感じた。わずかな違いとは言うものの、50kg軽いノーズはドライバーの両手にダイレクトに反応し、動きもかろやかに思った。
ゼロ発進の鋭さも、V8の特徴だと思う。加速中は前のめりにシフトアップ。少し離れた位置から聞こえるエグゾーストノートは、ボリュームを抑えたアメリカンマッスルカーのようだ。
試乗後、件のエンジニア氏に「同じとは思えなかったよ」、という筆者の感想を伝えると、「音と出足の良さでそう思っただけだ」と言って憚らない。頑固なエンジニアは、好ましい。
確かに、ノーズの軽やかな動きと、鋭い出足、独特のエンジンフィールという、分かり易いポイントがわずかでも違えば、差別化は容易だ。むしろ、その先にあるライドフィール、たとえば街乗りでの乗り心地や安定感もたっぷりのGT性能、見事なオフロードのパフォーマンス、がどこまでも洗練されていたという点で、なるほどV8もW12とまるで変わらず、最新のベントレーらしさに満ちていた。
PHVの評判がどう転ぶかにもよるけれど、しばらくはV8が販売の主力となり、W12は祭り上げられるという状況になることは想像に難くない。実際、V8に乗ってみて、あえてW12を選ぶ理由はないな、と思ったものだった。
もっとも、W12に改めて乗ってみたらみたで、きっと、V8にはない味付けを愛おしく思ってしまうに違いないのだけれど……。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
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