【キャデラック XT5クロスオーバー 試乗】アメリカの良心を久々に感じた…中村孝仁
自動車には個性があっていいと思う。キャデラック『XT5クロスオーバー』に試乗して、久々にこの個性を感じた。同時に評価というものは一律にすべきではないということも、肝に銘じようと感じた次第。
その昔、自動車はお国柄を発揮して、それぞれに個性があった。フランス車の雲の上に乗るような(乗った経験はないけど)極上の乗り心地と評されるゆったりとした雰囲気や、高速至上主義のドイツ車が見せるカチッとした走り等々。そうした中でアメリカ車の乗り味は、その昔から大味で、ブワブワ等々、決して評価は高くなかったのだが、大海を行くクルーザーのようなゆったり感はアメ車の個性だと思っていた。
80年代に入って、ドイツのアウトバーンを全開走行するようなクルマの作りが是とされて以来、フランス車もイギリス車も敢えてその戦線に参戦した結果、没個性なクルマが誕生し、結果として日本の輸入車市場は完全にドイツ車に蹂躙されることになった。これ、偏に我々ジャーナリズムのせいでもある気がする。最近再びクルマ作りが見直されたのか、また個性豊かなクルマが出てくるようになったことは嬉しい限りだ。最近乗ったクルマで言えば、シトロエン『C3』やアルファロメオ『ジュリア』などは、まさにお国柄というか、ブランドの個性を発揮しているように思った。
そしてキャデラックXT5である。以前あるジャーナリストが、このクルマをSUVではなくクロスオーバーだと呼んでいると評していたが、そりゃ当たり前だよ。だってキャデラックにはちゃんと昔ながらのボディオンフレームを使った『エスカレード』というSUVがあって、モノコックのXT5は必然的にクロスオーバーという範疇に入るのだから、それは当然。敢えて都会派をアピールしているわけではない。
どうアメリカの良心を感じたかというと、その乗り心地だ。昔ほど大海を行くクルーザー風ではないものの、高速上で緩やかなピッチングを繰り返すあたりは少し昔風が戻った印象を強く受けた。しかも、それでいながら十分に素早いステアリング操作に対しては反応を示す。この足を作るには、余程サスペンションの取り付け剛性をしっかりと確保しないと出来ないように感じた。何しろ、ユルユルとガチガチが同居しているのだから…。キャデラックも最近はニュルブルクリンクでテストを繰り返して、ラップタイムまで公表するようになって、「キャデラックよ、お前もか」と思ったものだが、『CT6』やXT5など最新鋭モデルは、アメリカの良心を再び取り戻していると感じた次第である。
「乗り味」という言葉があるように、自動車の乗り心地は一様ではない。それが冒頭に話したお国柄の個性に繋がるわけだが、今それはお国柄ではなくブランドの個性として尊重されても良いのではないかと思う。その上でキャデラックXT5の乗り味を表するとしたら、これはアメリカの良心である。確かにピッチングの出る乗り心地は船同様、酔ってしまう人がいても不思議ではないが、じゃあ、そうした人はきっと船が嫌いだろう。よってキャデラックも嫌いかもしれない。しかしそれが個性である。最早万人受けするモデル作りは自動車をダメにするとさえ思う。
3.6リットルV6、このセグメントでは今や奇特とさえ思える大排気量NAエンジンを搭載する。流石に燃費は褒められないが、それでも気筒休止システムを持ち、低負荷時はV4で走る。その際メーター内のインジケーターがV6からV4に変わることでそれと分かるが、体感することはできない。乗り心地と運動性能は前述したとおりだ。
今やアウトバーンでさえ、速度無制限の区間などほとんどない。実情がそうなのだから、最高速を求める必要は全くないし、実用領域で快適なクルマの方が良いに決まっている。その中で自分の感性にあった乗り心地や運動性能、さらにはデザインを選べば良いわけで、快適さという点では大いに気に行った1台である。ただ、一つだけ不満を述べるとすれば、それは安全のためのデバイスがあまりに早く働き過ぎて、必要もないのに急ブレーキを踏まれたのには少々閉口した。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
その昔、自動車はお国柄を発揮して、それぞれに個性があった。フランス車の雲の上に乗るような(乗った経験はないけど)極上の乗り心地と評されるゆったりとした雰囲気や、高速至上主義のドイツ車が見せるカチッとした走り等々。そうした中でアメリカ車の乗り味は、その昔から大味で、ブワブワ等々、決して評価は高くなかったのだが、大海を行くクルーザーのようなゆったり感はアメ車の個性だと思っていた。
80年代に入って、ドイツのアウトバーンを全開走行するようなクルマの作りが是とされて以来、フランス車もイギリス車も敢えてその戦線に参戦した結果、没個性なクルマが誕生し、結果として日本の輸入車市場は完全にドイツ車に蹂躙されることになった。これ、偏に我々ジャーナリズムのせいでもある気がする。最近再びクルマ作りが見直されたのか、また個性豊かなクルマが出てくるようになったことは嬉しい限りだ。最近乗ったクルマで言えば、シトロエン『C3』やアルファロメオ『ジュリア』などは、まさにお国柄というか、ブランドの個性を発揮しているように思った。
そしてキャデラックXT5である。以前あるジャーナリストが、このクルマをSUVではなくクロスオーバーだと呼んでいると評していたが、そりゃ当たり前だよ。だってキャデラックにはちゃんと昔ながらのボディオンフレームを使った『エスカレード』というSUVがあって、モノコックのXT5は必然的にクロスオーバーという範疇に入るのだから、それは当然。敢えて都会派をアピールしているわけではない。
どうアメリカの良心を感じたかというと、その乗り心地だ。昔ほど大海を行くクルーザー風ではないものの、高速上で緩やかなピッチングを繰り返すあたりは少し昔風が戻った印象を強く受けた。しかも、それでいながら十分に素早いステアリング操作に対しては反応を示す。この足を作るには、余程サスペンションの取り付け剛性をしっかりと確保しないと出来ないように感じた。何しろ、ユルユルとガチガチが同居しているのだから…。キャデラックも最近はニュルブルクリンクでテストを繰り返して、ラップタイムまで公表するようになって、「キャデラックよ、お前もか」と思ったものだが、『CT6』やXT5など最新鋭モデルは、アメリカの良心を再び取り戻していると感じた次第である。
「乗り味」という言葉があるように、自動車の乗り心地は一様ではない。それが冒頭に話したお国柄の個性に繋がるわけだが、今それはお国柄ではなくブランドの個性として尊重されても良いのではないかと思う。その上でキャデラックXT5の乗り味を表するとしたら、これはアメリカの良心である。確かにピッチングの出る乗り心地は船同様、酔ってしまう人がいても不思議ではないが、じゃあ、そうした人はきっと船が嫌いだろう。よってキャデラックも嫌いかもしれない。しかしそれが個性である。最早万人受けするモデル作りは自動車をダメにするとさえ思う。
3.6リットルV6、このセグメントでは今や奇特とさえ思える大排気量NAエンジンを搭載する。流石に燃費は褒められないが、それでも気筒休止システムを持ち、低負荷時はV4で走る。その際メーター内のインジケーターがV6からV4に変わることでそれと分かるが、体感することはできない。乗り心地と運動性能は前述したとおりだ。
今やアウトバーンでさえ、速度無制限の区間などほとんどない。実情がそうなのだから、最高速を求める必要は全くないし、実用領域で快適なクルマの方が良いに決まっている。その中で自分の感性にあった乗り心地や運動性能、さらにはデザインを選べば良いわけで、快適さという点では大いに気に行った1台である。ただ、一つだけ不満を述べるとすれば、それは安全のためのデバイスがあまりに早く働き過ぎて、必要もないのに急ブレーキを踏まれたのには少々閉口した。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
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