【VW ゴルフ 3700km試乗 前編】世界のベンチマークゆえに求められるもの…井元康一郎
ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンのCセグメントコンパクトクラス『ゴルフ』で東京~鹿児島を3700kmツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。
ゴルフは1974年に発売されたハッチバック型乗用車。第7世代となる現行モデルまで、長距離移動を前提としたミニマム構成の高速車という基本コンセプトをほとんど変更しないまま作り続けられてきたことはつとに有名だ。現行モデルが欧州デビューしたのは2012年で、4年経過時の2016年にエンジン換装、先進安全システムのアップデート等、大きな改良を受けている。2017年には日本版もエンジンを除き改良モデルとなった。
試乗したのは「TSIハイライン」。140ps/250Nm(25.5kgm)を発生する1.4リットルターボ、独立懸架リアサスペンションなどを備えた上級グレードである。オプションとしてカーナビを含むインフォティメントオーディオシステム「Discover Pro」、フル液晶メーター「Active Info Display」、インテリジェント配光機能を備えたフルアクティブハイビーム「ダイナミックライトアシスト」などが盛り盛りに追加装備されていた。
試乗ルートは東京・品川~鹿児島間の周遊で総走行距離は3734.9km。本州は往路、復路とも東海道~瀬戸内経由。九州内では山岳路も積極的に走ってみた。おおまかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速2、山岳路1。本州では1~2名、九州内では1~4名乗車。エアコンは常時AUTO。
インプレッションに入る前に、ツーリングを通しての印象をまとめた。
■長所
1. 安定志向で運転者のミスにも寛容なロングドライブ向きの操縦性
2. 右ハンドル化のハンディが解消されたグローバルパッケージ
3. 速度域によらず秀逸なメカニカルノイズ、風切り音の抑制
4. バンピーな路面でのフラット感とぐらつきのなさを両立させた乗り心地
5. 十分に良い仕事をした先進安全システム
■短所
1. 制御ロジックの変更ゆえか、前期型に対してやや低下した実効燃費
2. そもそも本国で投入されている新エンジンを搭載してほしかった
3. DCC(ダイナミックシャシーコントロール)がオプションから落ちた
4. 大容量ラバーマウントを使う足と固い「トランザ」タイヤがミスマッチ
5. トップランナーに大差をつけられているアクティブハイビーム制御
ゴルフ7改良版は、欧州でCセグメントと呼ばれるコンパクトクラスとしては依然として最もウェルバランスなモデル、一言で言えば乗りやすいクルマだった。
◆世界のベンチマークゆえに求められるもの
フロントの両角をバンパーレベルまで大きく削り取ったことで生み出された小回り性能、飛び出しの大きなドアハンドルをはじめ徹底的に使い勝手重視でデザインされた可動部、広いウインドウと適切なピラー配置が生む良好な視界、高いルーフによる後席への乗り込み性の良さ、荷室の間口の広さ等々。3700kmといえば一般的には3ないし4か月ぶんの走行距離だが、それだけの距離を走るあいだ、乗れば乗るほどこうした使い勝手の良さが身に染み入るように感じられた。ゴルフが今日も世界の自動車メーカーからベンチマーク視されるのも道理というものだろう。
走行性能面でも“デファクト感”は非常に高かった。高速安定性は言うに及ばず、山岳路でも不整路面でのグリップ抜けの少なさは特筆すべきレベルだった。コーナリング中のステアリングを切り足したり切り戻したりしたときのトリッキーな動きもなく、ドライバーの技量によらず安全なツーリングを担保。また、旅の途中、ヘビーウェットやスノーなどの悪コンディションに頻々と出くわし、また九州内では合計体重300kg以上の4名乗車もこなしたが、そういったコンディションの変化に滅法強いのもゴルフの特長と言えそうだった。
一方で、初期型に比べて落ちた、ないしはゴルフの大型改良と聞いて抱く熟成の期待度に達していない部分も見受けられた。エンジン、変速機の制御ポリシーは初期型に比べて大幅にドライバビリティ重視の方向に変更されており、それにともなってDレンジドライブのロングラン燃費はアベレージで18km/リットル程度と、1割ほど悪化した印象。日本仕様には新エンジンが搭載されなかったと書いたが、そのエンジンは高効率な1.5リットルミラーサイクルターボ。せっかくならそれを入れてほしかったところだ。
乗り心地の質感も期待値に及ばなかった。大型改良を機にDCCという電子制御サスペンションがオプションリストから落とされたが、老朽化した舗装路を通るときのザラザラ感カットや継ぎ目を乗り越えるときの防振性は初期型のDCC付き車に比べて明確に落ち、DCCなしだと下位グレードのトレンドライン、コンフォートラインと大差ないのだなと思わされた。またオプション装着されていた液晶メーターパネルやインフォティメントシステムは、あればあったでいいのであろうが、ミニマリズムの持つ気持ちよさを継承してきたゴルフにとっては余分なもののようにしか思えなかった。
◆ハイスピードクルーズの直進感はさすが
では、項目別にみていこう。まずは快適性、疲労軽減、操縦性などを担保するシャシーについては、絶対性能やバランスの良さについては文句のつけようがないほどの熟成度合いを示す一方、走行感についてはゴルフとしてはハーシュネスが意外に強めで、とくに中低速域ではザラザラ感、ゴロゴロ感がつきまとった。
最も生き生きとするシーンはドイツの高速車というイメージどおり、高速道路やバイパスなどでのハイスピードクルーズだった。直進感は素晴らしく、また老朽化路線で道路が大きくうねっているような場所を通過しても姿勢の乱れが小さいためにステアリング修正はほとんどいらない。ストレスフリーのフラットなクルーズ感は乗る人をすこぶるいい気分にさせる。第1走行車線を大人しく走っても、夜間の速い流れにがっちり乗ってもフィールは上々だ。
面白いのは、そのクルーズ感を空力チューニングの手助けを借りずに実現させていることだ。世界の自動車工学の世界では今、空力チューニングによる操縦性の確保が大流行しており、多くのクルマがバンパー下部をちり取りのように張り出させ、またタイヤハウス方面になるべく気流を回さないよう、バンパー両端をエアダム形状にしているものが多い。
ゴルフ7はそのトレンドとは一線を画し、小回り性を高めるためにボディの両隅をバンパー下部まで切り落とした形状で、またバンパーの下端も極端に下げられていない。空力の助けを借りずストリップフォルムで一級のハイスピードクルーザーとしての特性を持たせられているのは、やはり大したものと言うべきだし、横風を受けたときのハンドリング特性の変化も小さくてすむのもいいところだ。
路面の轍が冠水するようなヘビーウェットや雪でミューが落ちたような路面でのコントロール性が良いのも長所。AWDではないのだが、アウトバーンでタイヤがバーストしてもスピンせずに停止できる設計を初代から続けてきたためか、水溜りに突入して片輪のグリップが急激に失われるようなシーンでも安定性が損なわれない。これは長距離ドライブの安心感につながる。
普通のクルマならこれだけで文句なしと言いたいところなのだが、クルマの論評というものはそのモデルごとの期待値が異なるため、同じモノサシで見るわけではない。フォルクスワーゲンがゴルフに大改良を施したからには単にいいというだけではすまされない。果たして、ドライブ前に抱いた期待値には達していなかったのも確かである。
◆ワインディングでの“速さ”はスポーツカー並み、だが…
山岳路は伝統的にゴルフが得意としてきたステージで、非力なエンジンを積んだグレードでも下りは速く、道が悪くなればなるほどアドバンテージが顕著になるというのが特徴だった。果たして改良型ゴルフ7は、大きなギャップやアンジュレーション(路面のうねり)を通過しても路面をつかんだまま放さないようなねっとり系のグリップ感は健在。ただ、ロール量はいささか過大で、不整を食らったときのバウンシングもそれなりに発生する。
ゴルフはもともとロール角のリニアさよりは路面の摩擦感を主なインフォメーションにして走るクルマなのだが、この味付けだと性能的に問題はなくとも歴代ゴルフの特長であったクルマの動きの“手の内感”はやや希薄になる。乗り心地を気にしてのセッティングなのだろうが、ヨーロッパ版はショックアブゾーバーの油圧感がもっと豊かで、それでいて乗り心地は十分に良かった。変に高級車ライクな乗り味を目指すくらいならヨーロッパ版と共通のほうがいいのにと思った。
前期型のテストドライブでそう感じなかったのは、電子制御サスペンションDCCによるところも大きかったのではないかと思われた。前期型のDCC付きはダンピングの効いた滑らかな乗り心地と車両の安定性をきわめて高い次元で両立させており、このままではアウディやBMWなどのプレミアムセグメントは面目丸潰れだろうというフィールを持っていた。技術者に問いただしたわけではないが、この差は減衰力の自動切換えの有無だけによるものとは思えない。ショックアブゾーバーのクオリティ自体、DCCモデルのほうが高かった可能性もある。
せっかくフラット感抜群でありながら、走行フィールにややゴロゴロ感が出ていたのももったいない取りこぼしだった。タイヤはブリヂストンの「トランザT001」というモデルの225/45R17サイズだったが、世界の自動車メーカーのシャシーエンジニアがフォルクスワーゲンマジックなどと評する大容量のラバーマウントを使った受け止めの柔らかなサスペンションとちょっと喧嘩しているようなイメージで、「路面衝撃を一発で減衰させる」(国内メーカーの実験担当者)ような気持ち良さはやや失われた。
同じブリヂストンでも2年前に東京~鹿児島ツーリングをやってみたプラグインハイブリッドの「GTE」の足と「ポテンザS001」の組み合わせは非常に良かったので、ブリヂストンだから悪いということはないのだろうが、トランザは合わない。タイヤ交換のさいにミシュランかコンチネンタルあたりにしたくなるところだ。もっともタイヤ幅に余裕があるためグリップ力は1320kgという車重に対しては十分すぎるほどで、ワインディングでの速さ自体は一昔前のスポーツカー並みであった。
◆スペックには書かれていない明確な違い
パワートレインに話を移そう。1.4リットル直噴ターボ+7速DCTという技術パッケージは前期型と変わらず、140ps/250Nmという性能も同じだ。持ち味も前期型と同じで低中回転域における過給のかかりの俊敏さと豊かなトルク感、そして高回転域の気持ちよい伸びきり感を持つ。
欧州では1.5リットルミラーサイクルターボがデビューしたのだから日本にも導入してほしかったという思いはあるが、現行エンジンも能力的には十分。発進加速では2000rpm少々でシフトアップするくらいのスロットル開度でも十分に交通の流れをリードでき、山岳路でも切れの良いパフォーマンスを味わうことができる。100km/h巡航時の回転数は1800rpm。
が、前期型と比べて変わった部分もある。それはパワートレイン全体の制御のポリシーだ。改良のさい、スペックは変わらないのにJC08モード燃費がなぜか19.9km/リットルから18.1km/リットルに下がった。果たしてドライブしてみると、前期型と後期型には結構な違いがみられた。
一番の違いは2シリンダーモードに入りにくくなったこと。このエンジンは軽負荷のときに2気筒運転をし、熱効率の高い部分を使うことで実効燃費を削減するという機能を持っている。2気筒のときには空走に近い条件以外では4気筒のときより1段低いギアに入るのだが、それが低回転でホールドするのが好きな欧米のドライバーに嫌がられたのか、4気筒のまま上限ギアまでシフトアップするようになっていた。
ドライバビリティの点ではこれは改良と言ってよさそうだった。低回転でクルーズをしているときに加速しようとすると、ギアをホールドしたままターボトルクを生かしてぐいっと前に出る。その力感豊かなドライブフィールはノンプレミアムCセグメントとしては非常に優れたものだった。
一方、燃費については前期型に比べ、カタログ値の変化どおり悪化した感があった。同じ条件で走ったわけではないのであくまで感覚的なものだが、低下率は約1割ほどと思われた。
ロングラン時の満タン法燃費は高速と一般道をないまぜにしておおむね約18km/リットル。市街地走行の割合が高かった九州中南部で約13km/リットル。前期型はちょっとスロットルワークに気をつけるとロングラン燃費が簡単に20km/リットルを上回っていた。それに比べるとやや悪い。
これはモロに2気筒運転の割合が減ったことによるものと推察された。ドライブの最後、三重県の亀山から東京・品川までの433km区間のみ20km/リットルをオーバーしたが、これはエンジン回転数を2気筒に入りやすい領域に滞在させるよう手動変速を多用してみた結果得られたスコアである。
燃費にこだわらず終始ハイペースで走りながらロングラン18km/リットルというのは非ハイブリッドのCセグメントとしては非常に良い数値なのだが、ゴルフとなるとそれ以上を望みたくなるというもの。燃費の点でもやはり新鋭のミラーサイクルターボエンジンが欲しくなるところだ。
◆アイドリングストップにユニークなアイデア
ゴルフ改良版には渋滞追従機能のついた高度な運転支援機能が搭載されたが、面白かったのは信号待ちなどでアイドリングストップしているとき、先行車が発進するとブレーキをリリースしなくてもエンジンが再始動することだった。うっかりぼんやりしていたときの先行者発進お知らせとスムーズなスタートを両立させるユニークなアイデアに思えた。
そのアイドリングストップを支えるバッテリーだが、ボンネットを開けてみたところ、EFBという液体式のものがついていた。次世代のゴルフ8ではおそらく今の充電制御以上の能力を持つマイルドハイブリッドを幅広く展開することになるのだろうが、現行ゴルフもバッテリーの長寿命と深充放電耐性を考えれば、AGM固体バッテリーを標準にしてほしかったところ。そういうところにこだわってこそ先進性をアピールできるというものであろう。
後編では居住感&ユーティリティ、デザイン、運転支援システムなどについて触れる。
(レスポンス 井元康一郎)
ゴルフは1974年に発売されたハッチバック型乗用車。第7世代となる現行モデルまで、長距離移動を前提としたミニマム構成の高速車という基本コンセプトをほとんど変更しないまま作り続けられてきたことはつとに有名だ。現行モデルが欧州デビューしたのは2012年で、4年経過時の2016年にエンジン換装、先進安全システムのアップデート等、大きな改良を受けている。2017年には日本版もエンジンを除き改良モデルとなった。
試乗したのは「TSIハイライン」。140ps/250Nm(25.5kgm)を発生する1.4リットルターボ、独立懸架リアサスペンションなどを備えた上級グレードである。オプションとしてカーナビを含むインフォティメントオーディオシステム「Discover Pro」、フル液晶メーター「Active Info Display」、インテリジェント配光機能を備えたフルアクティブハイビーム「ダイナミックライトアシスト」などが盛り盛りに追加装備されていた。
試乗ルートは東京・品川~鹿児島間の周遊で総走行距離は3734.9km。本州は往路、復路とも東海道~瀬戸内経由。九州内では山岳路も積極的に走ってみた。おおまかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速2、山岳路1。本州では1~2名、九州内では1~4名乗車。エアコンは常時AUTO。
インプレッションに入る前に、ツーリングを通しての印象をまとめた。
■長所
1. 安定志向で運転者のミスにも寛容なロングドライブ向きの操縦性
2. 右ハンドル化のハンディが解消されたグローバルパッケージ
3. 速度域によらず秀逸なメカニカルノイズ、風切り音の抑制
4. バンピーな路面でのフラット感とぐらつきのなさを両立させた乗り心地
5. 十分に良い仕事をした先進安全システム
■短所
1. 制御ロジックの変更ゆえか、前期型に対してやや低下した実効燃費
2. そもそも本国で投入されている新エンジンを搭載してほしかった
3. DCC(ダイナミックシャシーコントロール)がオプションから落ちた
4. 大容量ラバーマウントを使う足と固い「トランザ」タイヤがミスマッチ
5. トップランナーに大差をつけられているアクティブハイビーム制御
ゴルフ7改良版は、欧州でCセグメントと呼ばれるコンパクトクラスとしては依然として最もウェルバランスなモデル、一言で言えば乗りやすいクルマだった。
◆世界のベンチマークゆえに求められるもの
フロントの両角をバンパーレベルまで大きく削り取ったことで生み出された小回り性能、飛び出しの大きなドアハンドルをはじめ徹底的に使い勝手重視でデザインされた可動部、広いウインドウと適切なピラー配置が生む良好な視界、高いルーフによる後席への乗り込み性の良さ、荷室の間口の広さ等々。3700kmといえば一般的には3ないし4か月ぶんの走行距離だが、それだけの距離を走るあいだ、乗れば乗るほどこうした使い勝手の良さが身に染み入るように感じられた。ゴルフが今日も世界の自動車メーカーからベンチマーク視されるのも道理というものだろう。
走行性能面でも“デファクト感”は非常に高かった。高速安定性は言うに及ばず、山岳路でも不整路面でのグリップ抜けの少なさは特筆すべきレベルだった。コーナリング中のステアリングを切り足したり切り戻したりしたときのトリッキーな動きもなく、ドライバーの技量によらず安全なツーリングを担保。また、旅の途中、ヘビーウェットやスノーなどの悪コンディションに頻々と出くわし、また九州内では合計体重300kg以上の4名乗車もこなしたが、そういったコンディションの変化に滅法強いのもゴルフの特長と言えそうだった。
一方で、初期型に比べて落ちた、ないしはゴルフの大型改良と聞いて抱く熟成の期待度に達していない部分も見受けられた。エンジン、変速機の制御ポリシーは初期型に比べて大幅にドライバビリティ重視の方向に変更されており、それにともなってDレンジドライブのロングラン燃費はアベレージで18km/リットル程度と、1割ほど悪化した印象。日本仕様には新エンジンが搭載されなかったと書いたが、そのエンジンは高効率な1.5リットルミラーサイクルターボ。せっかくならそれを入れてほしかったところだ。
乗り心地の質感も期待値に及ばなかった。大型改良を機にDCCという電子制御サスペンションがオプションリストから落とされたが、老朽化した舗装路を通るときのザラザラ感カットや継ぎ目を乗り越えるときの防振性は初期型のDCC付き車に比べて明確に落ち、DCCなしだと下位グレードのトレンドライン、コンフォートラインと大差ないのだなと思わされた。またオプション装着されていた液晶メーターパネルやインフォティメントシステムは、あればあったでいいのであろうが、ミニマリズムの持つ気持ちよさを継承してきたゴルフにとっては余分なもののようにしか思えなかった。
◆ハイスピードクルーズの直進感はさすが
では、項目別にみていこう。まずは快適性、疲労軽減、操縦性などを担保するシャシーについては、絶対性能やバランスの良さについては文句のつけようがないほどの熟成度合いを示す一方、走行感についてはゴルフとしてはハーシュネスが意外に強めで、とくに中低速域ではザラザラ感、ゴロゴロ感がつきまとった。
最も生き生きとするシーンはドイツの高速車というイメージどおり、高速道路やバイパスなどでのハイスピードクルーズだった。直進感は素晴らしく、また老朽化路線で道路が大きくうねっているような場所を通過しても姿勢の乱れが小さいためにステアリング修正はほとんどいらない。ストレスフリーのフラットなクルーズ感は乗る人をすこぶるいい気分にさせる。第1走行車線を大人しく走っても、夜間の速い流れにがっちり乗ってもフィールは上々だ。
面白いのは、そのクルーズ感を空力チューニングの手助けを借りずに実現させていることだ。世界の自動車工学の世界では今、空力チューニングによる操縦性の確保が大流行しており、多くのクルマがバンパー下部をちり取りのように張り出させ、またタイヤハウス方面になるべく気流を回さないよう、バンパー両端をエアダム形状にしているものが多い。
ゴルフ7はそのトレンドとは一線を画し、小回り性を高めるためにボディの両隅をバンパー下部まで切り落とした形状で、またバンパーの下端も極端に下げられていない。空力の助けを借りずストリップフォルムで一級のハイスピードクルーザーとしての特性を持たせられているのは、やはり大したものと言うべきだし、横風を受けたときのハンドリング特性の変化も小さくてすむのもいいところだ。
路面の轍が冠水するようなヘビーウェットや雪でミューが落ちたような路面でのコントロール性が良いのも長所。AWDではないのだが、アウトバーンでタイヤがバーストしてもスピンせずに停止できる設計を初代から続けてきたためか、水溜りに突入して片輪のグリップが急激に失われるようなシーンでも安定性が損なわれない。これは長距離ドライブの安心感につながる。
普通のクルマならこれだけで文句なしと言いたいところなのだが、クルマの論評というものはそのモデルごとの期待値が異なるため、同じモノサシで見るわけではない。フォルクスワーゲンがゴルフに大改良を施したからには単にいいというだけではすまされない。果たして、ドライブ前に抱いた期待値には達していなかったのも確かである。
◆ワインディングでの“速さ”はスポーツカー並み、だが…
山岳路は伝統的にゴルフが得意としてきたステージで、非力なエンジンを積んだグレードでも下りは速く、道が悪くなればなるほどアドバンテージが顕著になるというのが特徴だった。果たして改良型ゴルフ7は、大きなギャップやアンジュレーション(路面のうねり)を通過しても路面をつかんだまま放さないようなねっとり系のグリップ感は健在。ただ、ロール量はいささか過大で、不整を食らったときのバウンシングもそれなりに発生する。
ゴルフはもともとロール角のリニアさよりは路面の摩擦感を主なインフォメーションにして走るクルマなのだが、この味付けだと性能的に問題はなくとも歴代ゴルフの特長であったクルマの動きの“手の内感”はやや希薄になる。乗り心地を気にしてのセッティングなのだろうが、ヨーロッパ版はショックアブゾーバーの油圧感がもっと豊かで、それでいて乗り心地は十分に良かった。変に高級車ライクな乗り味を目指すくらいならヨーロッパ版と共通のほうがいいのにと思った。
前期型のテストドライブでそう感じなかったのは、電子制御サスペンションDCCによるところも大きかったのではないかと思われた。前期型のDCC付きはダンピングの効いた滑らかな乗り心地と車両の安定性をきわめて高い次元で両立させており、このままではアウディやBMWなどのプレミアムセグメントは面目丸潰れだろうというフィールを持っていた。技術者に問いただしたわけではないが、この差は減衰力の自動切換えの有無だけによるものとは思えない。ショックアブゾーバーのクオリティ自体、DCCモデルのほうが高かった可能性もある。
せっかくフラット感抜群でありながら、走行フィールにややゴロゴロ感が出ていたのももったいない取りこぼしだった。タイヤはブリヂストンの「トランザT001」というモデルの225/45R17サイズだったが、世界の自動車メーカーのシャシーエンジニアがフォルクスワーゲンマジックなどと評する大容量のラバーマウントを使った受け止めの柔らかなサスペンションとちょっと喧嘩しているようなイメージで、「路面衝撃を一発で減衰させる」(国内メーカーの実験担当者)ような気持ち良さはやや失われた。
同じブリヂストンでも2年前に東京~鹿児島ツーリングをやってみたプラグインハイブリッドの「GTE」の足と「ポテンザS001」の組み合わせは非常に良かったので、ブリヂストンだから悪いということはないのだろうが、トランザは合わない。タイヤ交換のさいにミシュランかコンチネンタルあたりにしたくなるところだ。もっともタイヤ幅に余裕があるためグリップ力は1320kgという車重に対しては十分すぎるほどで、ワインディングでの速さ自体は一昔前のスポーツカー並みであった。
◆スペックには書かれていない明確な違い
パワートレインに話を移そう。1.4リットル直噴ターボ+7速DCTという技術パッケージは前期型と変わらず、140ps/250Nmという性能も同じだ。持ち味も前期型と同じで低中回転域における過給のかかりの俊敏さと豊かなトルク感、そして高回転域の気持ちよい伸びきり感を持つ。
欧州では1.5リットルミラーサイクルターボがデビューしたのだから日本にも導入してほしかったという思いはあるが、現行エンジンも能力的には十分。発進加速では2000rpm少々でシフトアップするくらいのスロットル開度でも十分に交通の流れをリードでき、山岳路でも切れの良いパフォーマンスを味わうことができる。100km/h巡航時の回転数は1800rpm。
が、前期型と比べて変わった部分もある。それはパワートレイン全体の制御のポリシーだ。改良のさい、スペックは変わらないのにJC08モード燃費がなぜか19.9km/リットルから18.1km/リットルに下がった。果たしてドライブしてみると、前期型と後期型には結構な違いがみられた。
一番の違いは2シリンダーモードに入りにくくなったこと。このエンジンは軽負荷のときに2気筒運転をし、熱効率の高い部分を使うことで実効燃費を削減するという機能を持っている。2気筒のときには空走に近い条件以外では4気筒のときより1段低いギアに入るのだが、それが低回転でホールドするのが好きな欧米のドライバーに嫌がられたのか、4気筒のまま上限ギアまでシフトアップするようになっていた。
ドライバビリティの点ではこれは改良と言ってよさそうだった。低回転でクルーズをしているときに加速しようとすると、ギアをホールドしたままターボトルクを生かしてぐいっと前に出る。その力感豊かなドライブフィールはノンプレミアムCセグメントとしては非常に優れたものだった。
一方、燃費については前期型に比べ、カタログ値の変化どおり悪化した感があった。同じ条件で走ったわけではないのであくまで感覚的なものだが、低下率は約1割ほどと思われた。
ロングラン時の満タン法燃費は高速と一般道をないまぜにしておおむね約18km/リットル。市街地走行の割合が高かった九州中南部で約13km/リットル。前期型はちょっとスロットルワークに気をつけるとロングラン燃費が簡単に20km/リットルを上回っていた。それに比べるとやや悪い。
これはモロに2気筒運転の割合が減ったことによるものと推察された。ドライブの最後、三重県の亀山から東京・品川までの433km区間のみ20km/リットルをオーバーしたが、これはエンジン回転数を2気筒に入りやすい領域に滞在させるよう手動変速を多用してみた結果得られたスコアである。
燃費にこだわらず終始ハイペースで走りながらロングラン18km/リットルというのは非ハイブリッドのCセグメントとしては非常に良い数値なのだが、ゴルフとなるとそれ以上を望みたくなるというもの。燃費の点でもやはり新鋭のミラーサイクルターボエンジンが欲しくなるところだ。
◆アイドリングストップにユニークなアイデア
ゴルフ改良版には渋滞追従機能のついた高度な運転支援機能が搭載されたが、面白かったのは信号待ちなどでアイドリングストップしているとき、先行車が発進するとブレーキをリリースしなくてもエンジンが再始動することだった。うっかりぼんやりしていたときの先行者発進お知らせとスムーズなスタートを両立させるユニークなアイデアに思えた。
そのアイドリングストップを支えるバッテリーだが、ボンネットを開けてみたところ、EFBという液体式のものがついていた。次世代のゴルフ8ではおそらく今の充電制御以上の能力を持つマイルドハイブリッドを幅広く展開することになるのだろうが、現行ゴルフもバッテリーの長寿命と深充放電耐性を考えれば、AGM固体バッテリーを標準にしてほしかったところ。そういうところにこだわってこそ先進性をアピールできるというものであろう。
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