【MINI クーパーS コンバーチブル 試乗】こ奴、猪口才にも実にスムーズに走る…中村孝仁

MINI クーパーS コンバーチブル
『MINI(ミニ)』の核となる3/5ドアモデル及びコンバーチブルに7速DCTが採用された。同じ7速DCTは実はすでにBMW『X1』にも採用されている。

X1に試乗した時は、何でぇ~?という疑問符が少なからず付いた。というのも、DCTはご存知の通りクラッチの断続を電子制御するもので、平たく言えば電子制御マニュアルだ。だから、半クラッチ状態が必ずついて回り、この部分の微妙な感覚は、人間がやっても機械がやってもなかなか難しい。

単純に渋滞の走行を想像して欲しい。人が速足で歩くところから、いわゆるランニングに変わるような部分はこの半クラッチが受け持つ領域。渋滞中はこれが頻繁に起こる。だからどうしても、クルマの動きとしてはギクシャク感が出る。その点ステップATはトルクコンバーターがこの部分を司り、全くスムーズに移行してくれるからギクシャク感が出ない。日本の都市部や週末の高速などでは、この渋滞が頻発することはご存知の通り。だから、日常的にクルマに乗ると、この状況に遭遇する機会が多く、個人的にはDCTよりも、良くできたステップATの方が好ましかった(あくまで良くできたステップATだ)のである。

BMWはスポーティに走れるということに重きを置いて、このDCT移行を決断したらしい。というよりも、もしかすると横置きFWDで従来の6速に変わるATを模索したら、当然その上は8速なのだが、ひょっとするとそれが横置きのエンジンベイに入らなかったから、ギア数が1枚多くなる7速のDCTで妥協したのかな?と勘繰りたくなるのだが、とにかく6速からギアの数は1速増えて各ギアの持ち分は少しゆとりが出来た。

今度のミニ、新しいといっても外観上はほとんど変わっていない。ヘッドライトが少し変わって、リアコンビランプの中にユニオンジャックがあしらわれたというが、「ああそうですか」程度。またコネクティビティを高めたそうだが、最近のクルマではこの機能が重視されるものの、試乗に際しては残念ながらそんな部分よりも、肝はやはりこのDCT採用にあると思う。

で、試乗の場所として選ばれたのは中央道、一宮御坂インターを出て少し行ったところ。リニア新幹線がのどかな風景を貫き、広域農道が縦横無尽に走る地域である。信号などほとんどない。むむっ?さては発進と渋滞を避けたな?いや、普通試乗会ではそんなルート作りません!ときっぱり言われそうだが、当然のごとく走りはスポーティで痛快。 X1と違ってパドルシフトもついているから、思いっきり引っ張ってチョンとやると、後ろの方からバフッという音が聞こえていい感じで変速し、走りの楽しさを倍加させてくれる。このあたりはどんなにステップATが進化したところで、DCTには勝てない部分である。

しかし、やはり渋滞モードは試したい。そこでガラガラに空いた農道で疑似渋滞モードを作って意地悪に走らせてみた。あくまでも疑似だから、実際とは違ったのかもしれないが、こ奴、猪口才にもこの厳しい条件を意にも介さず、実にスムーズに走る。不快なギクシャク感は皆無であった。

そう言えば初めてFWDのBMWに試乗した時、やはりまだ作り慣れていない感満載だった『2シリーズ アクティブツアラー』が、2度目の試乗では全くFWDを意識させないレベルにアジャストされていたから、このDCTも僅かな期間で進化を遂げたのかもしれない。少なくともミニに関する限りDCTが合っていると感じた。

久々に乗ったミニのコンバーチブルはやはりイイ。フルオープンにすると、(たたんだ幌のため)後方視界がスポイルされるというネガ要素があるものの、まあ気持ちよい。それに全部開けなくても、ドライバーの上だけを開けるモードがあるのもこのクルマの特徴で、「ちょっとだけよ」を許してくれる。

何故か運動性能も心なしか向上した印象も受けたが、まあそれは素晴らしい天気と素晴らしいロードコンディションのおかげ、ということにしておく。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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