【マツダ CX-3 600km試乗】4度目の商品改良は「やらずもがな」をやってしまった…中村孝仁
実に3年間で4回の商品改良である。しかも今回はこれまでで一番大きな改良だとか…。デビューから3年を経たマツダ『CX-3』のことである。
デビュー当初はディーゼルエンジン専用車という、わが国には他に例を見ない珍しい立ち位置のクルマとして投入された。それが2年目にはガソリン仕様が投入され、ユーザーの間口を広げると言えば聞こえはいいが、体の良い戦線後退にしか思えない。元々このクルマはそのスタイルの良さを認めてくれるユーザーに買ってもらうという、極めてニッチな戦略で登場したモデルだ。だから、SUVでありながら機能性に乏しく、上質であるがライバルに対して価格的にはかなり高価である。
では一番大きいと言われる今回の改良は?というと、まずはディーゼルエンジンの変更だ。これまでの1.5リットルから1.8リットルへと排気量を引き上げた。この変更、その最大の理由は環境性能と常用域での扱い易さ改善である。
300cc増えたことによって性能的に大幅なゲインがあったかというとそれはなく、1.5リットル時代と比較して出力は11psアップの116psとなったが、最大トルクは変化せず270Nmのまま。燃費は従来より0.2km/リットル増えて2WD/4WDそれぞれ、23.2/21.2km/リットルである。ただ、これは体感はできないが、実用上の広範囲でNox排出の低減は実現しているようで、やはり環境性能への配慮が主目的だったようである。
この点について主査に「ならば尿素を吹いて対策するという考えはなかったのですか?」と質問すると、冨山主査は「あれは高価なんですよ」との返答。お金をかけず最善の方法を探すと、排気量アップがベストだということのようであった。同時に説明では排気量のライトサイジング(適正化)という言葉を多用しているが、であるなら将来的に同じBセグメントの『デミオ』が、1.8リットルに昇格することも暗に示唆しているといえよう。
エンジン以外ではシャシーもずいぶんと手が加えられた。例えばダンパーサイズの大径化による剛性アップやら、電動パワステの特性の改善など。そしてタイヤメーカーと共同でタイヤそのものの特性を変えて、従来に対し上下方向の剛性を引き下げ、トレッド部分を硬くするというチューニングを行っている。つまり、縦方向には柔らかくなっているということである。因みにこのタイヤ、ディーラーでしか手に入らず、アフターマーケットで市販している同じ銘柄のタイヤとは組成が異なるというわけである。
インテリアは主としてセンターコンソールのデザインが変わり、電動パーキングブレーキが装備されたことで、シフトレバー付け根のデザインやカップホルダーなどが変更され、有難いことにACCは0km/hまで対応するようになった。シートも『CX-8』に採用されるウレタンフォームを使用して、従来よりも約7割も早く減衰するシートが使用されるなど、上質さはさらに増している。それに静粛性も吸音性の高いヘッドライナーを使用することなどで高めているそうである。
と、あれやこれや聞くと、すごく進化したクルマになった印象を受けた。そこで、試乗会で1時間乗った程度では良く分からないだろうと、まずは旧型を3日間、その後続いて新型を6日間借りて600kmほど走行してみた。まあ自分の感性が鈍ってきていることは素直に認めるとしても、今回の変更…いうほどの効果を上げている、とは正直思えなかった、というのが正直な感想である。
最も気になったのは排気量を引き上げたエンジンのノイズ。相対的にデータ上は確かに静粛性が上がっていることになっているが、新旧を乗り比べてみても、ファイアウォールから侵入するエンジンノイズはどうも1.8リットルの方が大きく感じられる。あれやこれやと対策した結果、他が静かになった分、エンジン音侵入が浮き彫りになったという印象かもしれない。ただ、100km/h走行時でもカラカラというディーゼル燃焼音が聞こえるのは旧型ではなかったことである。音の印象は悪いが、パワーの立ち上がり感やパーシャルからの加速感などは、やはり排気量が大きくなった恩恵を受けていて、「乗り易い」は実感できる。約600km走行の平均燃費は18.4km/リットルとかなり優秀であった。
次に走り。元々「Gベクタリング」などユニークなアイデアを取り入れて運動性能もなかなか優秀だと感じていたCX-3、今回サスペンション剛性を上げたり、タイヤとの調和を測ったりという改良が施されたが、こちらも結論から言えば大きな変化なし、というほかはない。タイヤの縦剛性が低くなったからなのか、高速における波状路でのバウンス現象は従来より大きくなったと感じ、個人的にはあまり好みの方向に変わってはいなかった。
最後にデザインの変更である。まずシートはかなり快適になった印象で、座った瞬間にペニャッとクッションが潰れた従来型とはだいぶ違う。ACCが0km/hまで対応となったことは大いに評価するが、カップホルダー周りのデザインは再考を促したい。それに外観はやらずもがなをやってしまった印象で、まさに蛇足と感じる部分もある。地道な改良には拍手を送りたいが、そろそろやり過ぎ感が出てきた印象も否めない。何となくだがガソリン仕様の方が出来が良くなっちゃったんじゃない?というのが素直な感想であった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来40年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
(レスポンス 中村 孝仁)
デビュー当初はディーゼルエンジン専用車という、わが国には他に例を見ない珍しい立ち位置のクルマとして投入された。それが2年目にはガソリン仕様が投入され、ユーザーの間口を広げると言えば聞こえはいいが、体の良い戦線後退にしか思えない。元々このクルマはそのスタイルの良さを認めてくれるユーザーに買ってもらうという、極めてニッチな戦略で登場したモデルだ。だから、SUVでありながら機能性に乏しく、上質であるがライバルに対して価格的にはかなり高価である。
では一番大きいと言われる今回の改良は?というと、まずはディーゼルエンジンの変更だ。これまでの1.5リットルから1.8リットルへと排気量を引き上げた。この変更、その最大の理由は環境性能と常用域での扱い易さ改善である。
300cc増えたことによって性能的に大幅なゲインがあったかというとそれはなく、1.5リットル時代と比較して出力は11psアップの116psとなったが、最大トルクは変化せず270Nmのまま。燃費は従来より0.2km/リットル増えて2WD/4WDそれぞれ、23.2/21.2km/リットルである。ただ、これは体感はできないが、実用上の広範囲でNox排出の低減は実現しているようで、やはり環境性能への配慮が主目的だったようである。
この点について主査に「ならば尿素を吹いて対策するという考えはなかったのですか?」と質問すると、冨山主査は「あれは高価なんですよ」との返答。お金をかけず最善の方法を探すと、排気量アップがベストだということのようであった。同時に説明では排気量のライトサイジング(適正化)という言葉を多用しているが、であるなら将来的に同じBセグメントの『デミオ』が、1.8リットルに昇格することも暗に示唆しているといえよう。
エンジン以外ではシャシーもずいぶんと手が加えられた。例えばダンパーサイズの大径化による剛性アップやら、電動パワステの特性の改善など。そしてタイヤメーカーと共同でタイヤそのものの特性を変えて、従来に対し上下方向の剛性を引き下げ、トレッド部分を硬くするというチューニングを行っている。つまり、縦方向には柔らかくなっているということである。因みにこのタイヤ、ディーラーでしか手に入らず、アフターマーケットで市販している同じ銘柄のタイヤとは組成が異なるというわけである。
インテリアは主としてセンターコンソールのデザインが変わり、電動パーキングブレーキが装備されたことで、シフトレバー付け根のデザインやカップホルダーなどが変更され、有難いことにACCは0km/hまで対応するようになった。シートも『CX-8』に採用されるウレタンフォームを使用して、従来よりも約7割も早く減衰するシートが使用されるなど、上質さはさらに増している。それに静粛性も吸音性の高いヘッドライナーを使用することなどで高めているそうである。
と、あれやこれや聞くと、すごく進化したクルマになった印象を受けた。そこで、試乗会で1時間乗った程度では良く分からないだろうと、まずは旧型を3日間、その後続いて新型を6日間借りて600kmほど走行してみた。まあ自分の感性が鈍ってきていることは素直に認めるとしても、今回の変更…いうほどの効果を上げている、とは正直思えなかった、というのが正直な感想である。
最も気になったのは排気量を引き上げたエンジンのノイズ。相対的にデータ上は確かに静粛性が上がっていることになっているが、新旧を乗り比べてみても、ファイアウォールから侵入するエンジンノイズはどうも1.8リットルの方が大きく感じられる。あれやこれやと対策した結果、他が静かになった分、エンジン音侵入が浮き彫りになったという印象かもしれない。ただ、100km/h走行時でもカラカラというディーゼル燃焼音が聞こえるのは旧型ではなかったことである。音の印象は悪いが、パワーの立ち上がり感やパーシャルからの加速感などは、やはり排気量が大きくなった恩恵を受けていて、「乗り易い」は実感できる。約600km走行の平均燃費は18.4km/リットルとかなり優秀であった。
次に走り。元々「Gベクタリング」などユニークなアイデアを取り入れて運動性能もなかなか優秀だと感じていたCX-3、今回サスペンション剛性を上げたり、タイヤとの調和を測ったりという改良が施されたが、こちらも結論から言えば大きな変化なし、というほかはない。タイヤの縦剛性が低くなったからなのか、高速における波状路でのバウンス現象は従来より大きくなったと感じ、個人的にはあまり好みの方向に変わってはいなかった。
最後にデザインの変更である。まずシートはかなり快適になった印象で、座った瞬間にペニャッとクッションが潰れた従来型とはだいぶ違う。ACCが0km/hまで対応となったことは大いに評価するが、カップホルダー周りのデザインは再考を促したい。それに外観はやらずもがなをやってしまった印象で、まさに蛇足と感じる部分もある。地道な改良には拍手を送りたいが、そろそろやり過ぎ感が出てきた印象も否めない。何となくだがガソリン仕様の方が出来が良くなっちゃったんじゃない?というのが素直な感想であった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
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