【日産 リーフ 新型 3300km試乗】EVでの超長距離ドライブはアリか、ナシか[後編]
日産自動車の主力EV『リーフ』新型を駆って、横浜~鹿児島3300kmツーリングを敢行した。前編では主にクルマの動的な特性や先進装備について述べた。後編では電費、充電情報、パッケージング、ツーリング感などについて触れていこうと思う。
◆大容量になったバッテリーのメリット
まずは航続性能と電費について。リーフはバッテリーの公称容量が40kWhと、旧型後期モデルの33%増し、旧型前期モデルの67%増しとなった。国交省のJC08モード審査値に基づく航続距離は実に400kmだ。が、もちろん実際にはそんなに走ることはできない。そもそもバッテリーパックの容量のすべてを使い果たす国交省の計算方法は意味がないし、EVはエンジン車に比べて季節による航続性能の違いが大きく出る。大事なのはオンロードでの航続距離だ。ということで、充電率100%の状態で日産グローバル本社を出発後、まずは満充電航続を試してみた。
出発時の気温は豪勢に除湿暖房満開で行く主義なのだが、最初だけはエアコンOFF、シート&ステアリングヒーターのみで走った。一般道、西湘バイパス、箱根新道というルートで箱根峠へ。そこから静岡の三島に下り、沼津から新東名に乗った。EVは低速走行に強く、走行抵抗が大きくなる高速走行に弱いというのが定説であるが、80~90km/hくらいまではそれほど大きな電費低下はなかった。
新静岡インターからは制限速度110km/h区間が登場する。とはいえ、低速なトラックが追い越し車線まで平然と占有することも多く、思ったほどスピードは上がらないのだが、出せるときには最も速い流れに乗って走ってみた。その速度域ではさすがに電費は低下していくが、エネルギー効率に目をつぶればリーフの高速走行性能はなかなか大したもので非常にパワフル。また強い谷風を真横から思い切り食らっても針路はほとんど乱されないなど、空力設計も優れていた。
スタートから182km、静岡の大井川にさしかかったあたりで電池残量が20%に。島田金谷インターで高速を下り、国道1号線バイパスに移った。いにしえの東海道の旅情をしのばせる寂しい山中の片側1車線道路を延々と走る。そして浜松の一歩手前、磐田の日産系ディーラーで初回の充電。果たしてスタート後の走行距離は226.0km、オンボードコンピュータの平均電費 計値は6.9km/kWhで、計算上の使用電力量は32.8kWh。バッテリー残量は4%というリザルトだった。
計算上の0-100%ステートオンチャージは34.1kWhだが、日産のエンジニアによれば0%になってもすぐに走行不能にならないよう結構マージンを取っているとのこと。また、この数値は気温によって結構変動するようで、実数は推測するしかなかったが、ドライブ中に計算を繰り返してみたところ、有効総容量は37kWhあたりではないかと思われた。
この航続性能をどうみるかは人によってまちまちであろうが、筆者としてはやはりもう一息伸びてくれればいいのに、というのが正直な思いだった。出発前のシミュレーションでは、バッテリーの大型化とセルの改良で回生受け入れ性や低温特性が改善されていることへの期待も含んで、愛知の音羽・蒲郡あたりまでは距離を伸ばしたい、デッドラインは浜松と想定。磐田で充電というのはバッドケースでも考えていなかった。
距離が想定を下回った主因はバッテリー容量の問題ではなく電費が想定を下回ったことだった。過去に旧型30kWhモデルで冬季ロングツーリングを試みたことがあったが、エアコンOFFだと8km/kWh超の電費で走ることができていた。現行リーフもそのくらいは行けるはずという前提に立ってのシミュレーションだったが、その目論見は最初の充電までに崩れた。それでも行動半径200km程度、東京を基点に考えると那須、軽井沢、伊豆、蓼科などあたりへのプチ遠乗り程度であれば、途中で1、2回充電するだけで十分に事足りるようになったとも言える。
◆EVの課題は航続距離よりも「充電」
次に充電だが、現行リーフで見えたEVの課題は、航続よりむしろ充電のほうにありだと感じられた。現在日本に設置されている急速充電器は、40kWhという大きさのバッテリーに対してすでに絶対的に性能不足である。最も高速なものは主に日産系ディーラーや高速道路のサービスエリアなどに設置されている規格枠いっぱいの出力50kW(電力契約の関係で実際には44kWで運用されていることが多い)のものだが、これをもってしても今や遅い。
リーフのインパネには、急速充電器からの入力を表示する機能がついていて、44kWの充電器で充電するときの最大入力はおおむね40kW前後だった。これで1時間充電したときの電力量は40kWh。30分だと半分の20kWh。最初の充電を行ったときは受電40kWのまま30分完走したが、そのときの充電量は気温が低かったためかバッテリーの化学反応の段階でさらにロスがあるのかは定かではないが、推定約17kWhにとどまった。
仮に20kWhフルに入れられたとしても、平均電費7km/kWhで走るとして140km、8km/kWhで160kmにとどまるというのは、リーフに限らずEV全般のバッテリーパックの平均容量が大きくなりつつある現在、EVで旅をすることの付加価値を落とす要因になる。
自分の後ろに充電待ちのクルマがいないときは30分を超えて80%充電を目指せば、時間はかかるが1充電の航続を稼げるのではないかと思い、往路に何度か試してみたが、結論から言えば現行リーフの場合、注ぎ足し充電はうまい方法ではなかった。
受電時の入力レベルが40kWを確保できるのは最初の30分のみ。注ぎ足しで引き続き40kWを維持できたケースは今回のドライブでは一度もなかった。最初の充電にしても40kWのまま完走できたのは前述の磐田での初充電のときのみで、途中で32kW、さらに30kWアンダーというふうに落ち込んでいくのが常だった。
そうなる原因は特定できないものの、疑いが濃厚なのはバッテリーの温度。バッテリー温度ゲージを表示させてみると、充電終了間際は必ずと言っていいほどかなり高温側にバーが振れていた。また、急速充電の入りが最初から悪いのも、決まってバッテリーが高温状態のとき。リーフはバッテリーの冷却システムを持たないのだが、温度を見る限り水冷とは言わずとも、ぜめてファンによる強制空冷システムくらいはつけてほしい気がした。今後、現在の3倍の能力を持つChaDeMoの新規格充電器が登場する見込みだが、温度管理が悪いとその性能が十分に発揮されないのではないかとも思ってしまう。結局、リーフで効率よく長旅をするには、1箇所で充電を過度に頑張らず、30分で入ったぶんだけでさくっと出発するのが一番だった。
それではせっかくの40kWhの大容量バッテリーパックが無駄ではないかと思われるかもしれない。が、そんなことはない。大容量バッテリーの恩恵はロングドライブ時にちゃんと享受できる。たしかに急速充電1回で得られる航続距離は長くない。が、バッテリーの使用範囲が広がったことで、急速充電スポット選びの自由度が飛躍的に増したのだ。
旧型リーフだと、とりわけ冬季に急速充電1回で100km以上の航続を得るためには、バッテリー残量10%、あるいはそれ以下なるまで頑張る必要があった。そこから80%超まで充電して走行距離を稼ぐのだが、残電力量がわずかな状態で急速充電スポットにたどり着いたとき、前に2台も並んでいた日にはタイムロスが悲惨なことになる。
今回のドライブでもスポットに行ってみたら充電待ちのクルマがいたということは何度もあったが、現行リーフの場合充電可能範囲が広いため、10→60%、20→70%、30→80%…と、どこを使ってもいい。空いているところを見かけたときに充電すればよく、充電待ちが発生しているときも航続残の心配をせず“ここがダメなら次行こう”ができてしまう。これは旧型に対する最大のアドバンテージのひとつであった。
参考までに鹿児島から東京まで山陰ルート経由、約1550kmの帰路における充電情報を列記してみよう。急速充電30分×13回、ChaDeMo準拠だが低速な充電が20分1回、普通充電4時間1回。カッコ内は充電器の出力である。
●鹿児島で充電(44kW)。残量29→77%に回復させて出発。
●104.5km走行、熊本・水俣市で充電(44kW)。残量23→77%。電費6.0km/kWh
●108.4km、熊本市北部(44kW)。21→66%。6.0km/kmh
●127.4km、福岡・飯塚市(44kW)。14→68%。7.5km/kmh
●126.3km、山口・湯田温泉(44kW)。17→64%。7.8km/kWh
●3.2km、山口・湯田温泉(3kW普通充電、4時間10分)。63→95%。8.2km/kWh
●185.7km、島根・大田市(44kW)。10→63%。6.3km/kWh
●36.7km、島根・出雲大社(30kW)。45→80%。6.5km/kWh
●152.7km、鳥取・白兎神社20分(公称30kW、推定16kW)。18→30%。7.4km/kWh
●27.4km、鳥取市(44kW)。23→76%。8.1km/kwh。
●125.8km、兵庫・朝来市(25kW)。18→52%。6.8km/kWh
●62.2km、京都北方(44kW)。21→74%。6.2km/kWh
●119.9km、三重・いなべ市(44kW)。16→60%。6.5km/kWh
●58.3km、愛知・安城市(30kW)。22→61%。5.1km/kWh
●48.7km、愛知・豊橋市(44kW)。35→72%。6.2km/kWh
●142.7km、静岡・EXPASA富士川(公称50kW)。15→60%。7.5km/kWh
●135.2km、横浜・日産グローバル本社に残量9%で帰着。8.4km/kWh。
◆EVで超ロングドライブはアリか
電費について少し触れておこう。エアコンOFFで走ったのは旅の始めの1回だけで、あとは常時、豪勢にデフロスター暖房満開でドライブした。電費が7km/kWhを上回っているのはすべて昼間、下回っているのはすべて夜間走行である。気温と電費の相関性は依然としてかなり強いと言うべきだろう。
ちなみに上記のリストのうち三重・いなべから愛知・安城までの区間が5.1km/kWhと極端に悪いが、これは爆弾低気圧の通過による豪雨で、名四国道や国道23号線はワダチが冠水するほどのヘビーウェットという環境。そういうとき、タイヤが水をかき分けるよぶんな抵抗で燃費が落ちるのは普通のことだが、EVはことさら落ち幅が大きくなるようだった。
このように、ロングドライブ耐性は大いに高まったが超ロングドライブになると顎を出す傾向が顕著だったリーフ。もともと現状ではEVはそんな長距離を走る乗り物ではないというのはもちろん妥当な意見だ。
が、リーフの場合、それでも無理やり超長距離ドライブをやるだけの動機づけがある。それは日産が“旅ホーダイ”と銘打っている月ぎめ料金制の充電無制限プラン「ゼロエミッションサポートプログラム2」の存在。1ヵ月あたりの料金は2160円。まさに“使わにゃ損損”である。自分にヒマさえあればいつ、どこへでも自由に行っていいという権利を得るようなものだ。
料金定額で自分の好きなところへ行っていいよというクルマがある1週間の休暇を想像してみるといい。東京に住んでいる人がちょっと山陰の海を見てくる、三陸で美味しいものを食べてくる、和歌山の山奥を適当に走ってみたら何か面白いものがあったりしないだろうか等々、どんなドライブも自由自在である。
高速代がもったいないなら一般道を行けば、それこそタダで旅するようなものだ。移動距離を稼げる空いた無料の道路など、大都市圏を抜けたら今や全国津々浦々にある。そもそもEVは高速を使ってもスピードを出せば電費が落ちるわ、急速充電の待ちに時間を取られるわと、大した速達効果は期待できない。美しい景色や興味深い文化スポット、地方色豊かな美食等々、素晴らしいものはほぼ100%、高速道路の外にあるのだから、時間に制約がないのなら一般道を行ったほうがドライブはよっぽど楽しいもの。高速の速達効果が小さいリーフは、その楽しさを強制的に味わわせてくれるような感じだ。料金定額制のリーフは暇人、趣味人にはもってこいのクルマだと思った。
◆ユーティリティ&パッケージング
話をクルマに戻す。リーフのパッケージングや内装の仕立てはけれんみなく仕立てられており好感が持てるが、質感は大衆車の域を出ない。パッケージングについては、前席は基本的に広々としており、ストレスはない。シートはそれほど高機能ではないが、EVの場合はある程度走ると必ず充電で停止しなければならず、それが強制休息の効果を持つこともあって疲労蓄積は少なかった。
問題は後席。膝元空間はそこそこゆとりがあるのだが、バッテリーを床下に積むため床が高く、座面と床とのピッチが小さい。子供や小柄な人ならいいが、身長170cm程度の筆者でも後席に乗ると何となく体育座り的な窮屈さを覚える。これは旧型リーフ時代からの弱点で、ボディに手が入っていないためそのまま継承されてしまった格好だ。この改善は次世代になるだろう。
荷室はファミリーカーとしてはもちろん、ツーリングユースにも十分以上の容積と使い勝手を持っていた。荷室が欧州車のようにスクエアにデザインされているため収納性が良く、海外長期旅行用の70cm大型スーツケースが2個横積みで余裕で入り、さらにボストンバッグの類を数個入れることができる。このへんは旅向きと言える。
◆「リーフを楽しむ」ために
まとめに入る。現行リーフは動的な性能は素晴らしいの一言。フィールが大衆車的という短所はあるが、フラット感抜群な高速巡航性と、ワインディングロードなどではCセグメントスポーツハッチを慌てさせるくらいの敏捷性の高さは、低重心パッケージのEVならではだ。
よく、エンジン車はドライビングが楽しく、EVはその楽しさをスポイルするという見解を目にすることがあるが、それは事実に反する。三菱『i-MiEV』、テスラ『モデルS』、BMW『i3』など、過去に乗ったEVを振り返っても、エンジン車と比べてむしろ面白いと思ったことのほうが圧倒的に多い。そのなかでもリーフは車体サイズ、ユーティリティ、性能のバランスが良く取れたモデルのひとつと言えよう。
半面、ロングツーリングへの適応性については航続400kmというカタログスペックとは裏腹に、バッテリーの温度上昇を来たしやすく、急速充電の受け入れ性はあまり上がっていない。ChaDeMo急速充電器の性能不足とあいまって、いろいろな局面でかなりの忍耐を強いられるクルマであることは否定できない。
このリーフがどういうカスタマーに向くかだが、まず、市街地走行が主体でたまに出かけても総走行距離がせいぜい500km程度という人であれば、EVのネガティブファクターを気にする必要はもはやない。普通のクルマとほとんど同じように使うことができ、また普通のクルマでは得られない電動フィールを味わうこともできるだろう。日本自動車工業会の調べによれば、クルマを保有しているユーザーの平均月間走行距離は今や、380kmにすぎないという。ほとんどの人にとって、今の性能で足りないということはないはずだ。
また、長距離走行はしないがスポーティなクルマに乗りたいというカスタマーにとっては、リーフはまさにダークホース的存在と言える。山岳路でも十分以上に速く、また他車を追い越すときのダブルレーンチェンジなどの動きも見事だ。現状でも十分に良いパフォーマンスだが、もっと上を狙いたいというカスタマー向けにはシャシー性能を高めたNISMOバージョンを選ぶのも手だろう。
さて、そうした短中距離ドライブを超えるロングツアラー向けにどうかという話だが、これは本当に人によると言うしかない。まず、クルマは何の障壁もなく自分の思うままに走れて当たり前というフールプルーフ派には正直、まったく向かない。料金定額制プランがあってもなお、思うように旅が進まないことに腹を立て、不満が蓄積することだろう。
リーフはクルマとしての素性は非常にいいが技術的にはまだまだ進化途上というEVの特性を頭に入れ、クルマの状況と自分のドライブプランを知的に組み立てて、EVのネガを自力で克服するようなタイプのユーザーには大いに向く。実際、リーフユーザーを見ると、近距離のタウンライドユーザーにまじり、そういうロングツーリング派が少なからずいる。日産のうたう“旅ホーダイ”のコンセプトにガッツリと乗り、リーフでどんなドライブ、どんな体験ができるのかをヴァカンスのたびに試すような人だ。そういうチャレンジャーの場合は、今すぐリーフに乗り換えてもきっと楽しいカーライフを送れることだろう。
(レスポンス 井元康一郎)
◆大容量になったバッテリーのメリット
まずは航続性能と電費について。リーフはバッテリーの公称容量が40kWhと、旧型後期モデルの33%増し、旧型前期モデルの67%増しとなった。国交省のJC08モード審査値に基づく航続距離は実に400kmだ。が、もちろん実際にはそんなに走ることはできない。そもそもバッテリーパックの容量のすべてを使い果たす国交省の計算方法は意味がないし、EVはエンジン車に比べて季節による航続性能の違いが大きく出る。大事なのはオンロードでの航続距離だ。ということで、充電率100%の状態で日産グローバル本社を出発後、まずは満充電航続を試してみた。
出発時の気温は豪勢に除湿暖房満開で行く主義なのだが、最初だけはエアコンOFF、シート&ステアリングヒーターのみで走った。一般道、西湘バイパス、箱根新道というルートで箱根峠へ。そこから静岡の三島に下り、沼津から新東名に乗った。EVは低速走行に強く、走行抵抗が大きくなる高速走行に弱いというのが定説であるが、80~90km/hくらいまではそれほど大きな電費低下はなかった。
新静岡インターからは制限速度110km/h区間が登場する。とはいえ、低速なトラックが追い越し車線まで平然と占有することも多く、思ったほどスピードは上がらないのだが、出せるときには最も速い流れに乗って走ってみた。その速度域ではさすがに電費は低下していくが、エネルギー効率に目をつぶればリーフの高速走行性能はなかなか大したもので非常にパワフル。また強い谷風を真横から思い切り食らっても針路はほとんど乱されないなど、空力設計も優れていた。
スタートから182km、静岡の大井川にさしかかったあたりで電池残量が20%に。島田金谷インターで高速を下り、国道1号線バイパスに移った。いにしえの東海道の旅情をしのばせる寂しい山中の片側1車線道路を延々と走る。そして浜松の一歩手前、磐田の日産系ディーラーで初回の充電。果たしてスタート後の走行距離は226.0km、オンボードコンピュータの平均電費 計値は6.9km/kWhで、計算上の使用電力量は32.8kWh。バッテリー残量は4%というリザルトだった。
計算上の0-100%ステートオンチャージは34.1kWhだが、日産のエンジニアによれば0%になってもすぐに走行不能にならないよう結構マージンを取っているとのこと。また、この数値は気温によって結構変動するようで、実数は推測するしかなかったが、ドライブ中に計算を繰り返してみたところ、有効総容量は37kWhあたりではないかと思われた。
この航続性能をどうみるかは人によってまちまちであろうが、筆者としてはやはりもう一息伸びてくれればいいのに、というのが正直な思いだった。出発前のシミュレーションでは、バッテリーの大型化とセルの改良で回生受け入れ性や低温特性が改善されていることへの期待も含んで、愛知の音羽・蒲郡あたりまでは距離を伸ばしたい、デッドラインは浜松と想定。磐田で充電というのはバッドケースでも考えていなかった。
距離が想定を下回った主因はバッテリー容量の問題ではなく電費が想定を下回ったことだった。過去に旧型30kWhモデルで冬季ロングツーリングを試みたことがあったが、エアコンOFFだと8km/kWh超の電費で走ることができていた。現行リーフもそのくらいは行けるはずという前提に立ってのシミュレーションだったが、その目論見は最初の充電までに崩れた。それでも行動半径200km程度、東京を基点に考えると那須、軽井沢、伊豆、蓼科などあたりへのプチ遠乗り程度であれば、途中で1、2回充電するだけで十分に事足りるようになったとも言える。
◆EVの課題は航続距離よりも「充電」
次に充電だが、現行リーフで見えたEVの課題は、航続よりむしろ充電のほうにありだと感じられた。現在日本に設置されている急速充電器は、40kWhという大きさのバッテリーに対してすでに絶対的に性能不足である。最も高速なものは主に日産系ディーラーや高速道路のサービスエリアなどに設置されている規格枠いっぱいの出力50kW(電力契約の関係で実際には44kWで運用されていることが多い)のものだが、これをもってしても今や遅い。
リーフのインパネには、急速充電器からの入力を表示する機能がついていて、44kWの充電器で充電するときの最大入力はおおむね40kW前後だった。これで1時間充電したときの電力量は40kWh。30分だと半分の20kWh。最初の充電を行ったときは受電40kWのまま30分完走したが、そのときの充電量は気温が低かったためかバッテリーの化学反応の段階でさらにロスがあるのかは定かではないが、推定約17kWhにとどまった。
仮に20kWhフルに入れられたとしても、平均電費7km/kWhで走るとして140km、8km/kWhで160kmにとどまるというのは、リーフに限らずEV全般のバッテリーパックの平均容量が大きくなりつつある現在、EVで旅をすることの付加価値を落とす要因になる。
自分の後ろに充電待ちのクルマがいないときは30分を超えて80%充電を目指せば、時間はかかるが1充電の航続を稼げるのではないかと思い、往路に何度か試してみたが、結論から言えば現行リーフの場合、注ぎ足し充電はうまい方法ではなかった。
受電時の入力レベルが40kWを確保できるのは最初の30分のみ。注ぎ足しで引き続き40kWを維持できたケースは今回のドライブでは一度もなかった。最初の充電にしても40kWのまま完走できたのは前述の磐田での初充電のときのみで、途中で32kW、さらに30kWアンダーというふうに落ち込んでいくのが常だった。
そうなる原因は特定できないものの、疑いが濃厚なのはバッテリーの温度。バッテリー温度ゲージを表示させてみると、充電終了間際は必ずと言っていいほどかなり高温側にバーが振れていた。また、急速充電の入りが最初から悪いのも、決まってバッテリーが高温状態のとき。リーフはバッテリーの冷却システムを持たないのだが、温度を見る限り水冷とは言わずとも、ぜめてファンによる強制空冷システムくらいはつけてほしい気がした。今後、現在の3倍の能力を持つChaDeMoの新規格充電器が登場する見込みだが、温度管理が悪いとその性能が十分に発揮されないのではないかとも思ってしまう。結局、リーフで効率よく長旅をするには、1箇所で充電を過度に頑張らず、30分で入ったぶんだけでさくっと出発するのが一番だった。
それではせっかくの40kWhの大容量バッテリーパックが無駄ではないかと思われるかもしれない。が、そんなことはない。大容量バッテリーの恩恵はロングドライブ時にちゃんと享受できる。たしかに急速充電1回で得られる航続距離は長くない。が、バッテリーの使用範囲が広がったことで、急速充電スポット選びの自由度が飛躍的に増したのだ。
旧型リーフだと、とりわけ冬季に急速充電1回で100km以上の航続を得るためには、バッテリー残量10%、あるいはそれ以下なるまで頑張る必要があった。そこから80%超まで充電して走行距離を稼ぐのだが、残電力量がわずかな状態で急速充電スポットにたどり着いたとき、前に2台も並んでいた日にはタイムロスが悲惨なことになる。
今回のドライブでもスポットに行ってみたら充電待ちのクルマがいたということは何度もあったが、現行リーフの場合充電可能範囲が広いため、10→60%、20→70%、30→80%…と、どこを使ってもいい。空いているところを見かけたときに充電すればよく、充電待ちが発生しているときも航続残の心配をせず“ここがダメなら次行こう”ができてしまう。これは旧型に対する最大のアドバンテージのひとつであった。
参考までに鹿児島から東京まで山陰ルート経由、約1550kmの帰路における充電情報を列記してみよう。急速充電30分×13回、ChaDeMo準拠だが低速な充電が20分1回、普通充電4時間1回。カッコ内は充電器の出力である。
●鹿児島で充電(44kW)。残量29→77%に回復させて出発。
●104.5km走行、熊本・水俣市で充電(44kW)。残量23→77%。電費6.0km/kWh
●108.4km、熊本市北部(44kW)。21→66%。6.0km/kmh
●127.4km、福岡・飯塚市(44kW)。14→68%。7.5km/kmh
●126.3km、山口・湯田温泉(44kW)。17→64%。7.8km/kWh
●3.2km、山口・湯田温泉(3kW普通充電、4時間10分)。63→95%。8.2km/kWh
●185.7km、島根・大田市(44kW)。10→63%。6.3km/kWh
●36.7km、島根・出雲大社(30kW)。45→80%。6.5km/kWh
●152.7km、鳥取・白兎神社20分(公称30kW、推定16kW)。18→30%。7.4km/kWh
●27.4km、鳥取市(44kW)。23→76%。8.1km/kwh。
●125.8km、兵庫・朝来市(25kW)。18→52%。6.8km/kWh
●62.2km、京都北方(44kW)。21→74%。6.2km/kWh
●119.9km、三重・いなべ市(44kW)。16→60%。6.5km/kWh
●58.3km、愛知・安城市(30kW)。22→61%。5.1km/kWh
●48.7km、愛知・豊橋市(44kW)。35→72%。6.2km/kWh
●142.7km、静岡・EXPASA富士川(公称50kW)。15→60%。7.5km/kWh
●135.2km、横浜・日産グローバル本社に残量9%で帰着。8.4km/kWh。
◆EVで超ロングドライブはアリか
電費について少し触れておこう。エアコンOFFで走ったのは旅の始めの1回だけで、あとは常時、豪勢にデフロスター暖房満開でドライブした。電費が7km/kWhを上回っているのはすべて昼間、下回っているのはすべて夜間走行である。気温と電費の相関性は依然としてかなり強いと言うべきだろう。
ちなみに上記のリストのうち三重・いなべから愛知・安城までの区間が5.1km/kWhと極端に悪いが、これは爆弾低気圧の通過による豪雨で、名四国道や国道23号線はワダチが冠水するほどのヘビーウェットという環境。そういうとき、タイヤが水をかき分けるよぶんな抵抗で燃費が落ちるのは普通のことだが、EVはことさら落ち幅が大きくなるようだった。
このように、ロングドライブ耐性は大いに高まったが超ロングドライブになると顎を出す傾向が顕著だったリーフ。もともと現状ではEVはそんな長距離を走る乗り物ではないというのはもちろん妥当な意見だ。
が、リーフの場合、それでも無理やり超長距離ドライブをやるだけの動機づけがある。それは日産が“旅ホーダイ”と銘打っている月ぎめ料金制の充電無制限プラン「ゼロエミッションサポートプログラム2」の存在。1ヵ月あたりの料金は2160円。まさに“使わにゃ損損”である。自分にヒマさえあればいつ、どこへでも自由に行っていいという権利を得るようなものだ。
料金定額で自分の好きなところへ行っていいよというクルマがある1週間の休暇を想像してみるといい。東京に住んでいる人がちょっと山陰の海を見てくる、三陸で美味しいものを食べてくる、和歌山の山奥を適当に走ってみたら何か面白いものがあったりしないだろうか等々、どんなドライブも自由自在である。
高速代がもったいないなら一般道を行けば、それこそタダで旅するようなものだ。移動距離を稼げる空いた無料の道路など、大都市圏を抜けたら今や全国津々浦々にある。そもそもEVは高速を使ってもスピードを出せば電費が落ちるわ、急速充電の待ちに時間を取られるわと、大した速達効果は期待できない。美しい景色や興味深い文化スポット、地方色豊かな美食等々、素晴らしいものはほぼ100%、高速道路の外にあるのだから、時間に制約がないのなら一般道を行ったほうがドライブはよっぽど楽しいもの。高速の速達効果が小さいリーフは、その楽しさを強制的に味わわせてくれるような感じだ。料金定額制のリーフは暇人、趣味人にはもってこいのクルマだと思った。
◆ユーティリティ&パッケージング
話をクルマに戻す。リーフのパッケージングや内装の仕立てはけれんみなく仕立てられており好感が持てるが、質感は大衆車の域を出ない。パッケージングについては、前席は基本的に広々としており、ストレスはない。シートはそれほど高機能ではないが、EVの場合はある程度走ると必ず充電で停止しなければならず、それが強制休息の効果を持つこともあって疲労蓄積は少なかった。
問題は後席。膝元空間はそこそこゆとりがあるのだが、バッテリーを床下に積むため床が高く、座面と床とのピッチが小さい。子供や小柄な人ならいいが、身長170cm程度の筆者でも後席に乗ると何となく体育座り的な窮屈さを覚える。これは旧型リーフ時代からの弱点で、ボディに手が入っていないためそのまま継承されてしまった格好だ。この改善は次世代になるだろう。
荷室はファミリーカーとしてはもちろん、ツーリングユースにも十分以上の容積と使い勝手を持っていた。荷室が欧州車のようにスクエアにデザインされているため収納性が良く、海外長期旅行用の70cm大型スーツケースが2個横積みで余裕で入り、さらにボストンバッグの類を数個入れることができる。このへんは旅向きと言える。
◆「リーフを楽しむ」ために
まとめに入る。現行リーフは動的な性能は素晴らしいの一言。フィールが大衆車的という短所はあるが、フラット感抜群な高速巡航性と、ワインディングロードなどではCセグメントスポーツハッチを慌てさせるくらいの敏捷性の高さは、低重心パッケージのEVならではだ。
よく、エンジン車はドライビングが楽しく、EVはその楽しさをスポイルするという見解を目にすることがあるが、それは事実に反する。三菱『i-MiEV』、テスラ『モデルS』、BMW『i3』など、過去に乗ったEVを振り返っても、エンジン車と比べてむしろ面白いと思ったことのほうが圧倒的に多い。そのなかでもリーフは車体サイズ、ユーティリティ、性能のバランスが良く取れたモデルのひとつと言えよう。
半面、ロングツーリングへの適応性については航続400kmというカタログスペックとは裏腹に、バッテリーの温度上昇を来たしやすく、急速充電の受け入れ性はあまり上がっていない。ChaDeMo急速充電器の性能不足とあいまって、いろいろな局面でかなりの忍耐を強いられるクルマであることは否定できない。
このリーフがどういうカスタマーに向くかだが、まず、市街地走行が主体でたまに出かけても総走行距離がせいぜい500km程度という人であれば、EVのネガティブファクターを気にする必要はもはやない。普通のクルマとほとんど同じように使うことができ、また普通のクルマでは得られない電動フィールを味わうこともできるだろう。日本自動車工業会の調べによれば、クルマを保有しているユーザーの平均月間走行距離は今や、380kmにすぎないという。ほとんどの人にとって、今の性能で足りないということはないはずだ。
また、長距離走行はしないがスポーティなクルマに乗りたいというカスタマーにとっては、リーフはまさにダークホース的存在と言える。山岳路でも十分以上に速く、また他車を追い越すときのダブルレーンチェンジなどの動きも見事だ。現状でも十分に良いパフォーマンスだが、もっと上を狙いたいというカスタマー向けにはシャシー性能を高めたNISMOバージョンを選ぶのも手だろう。
さて、そうした短中距離ドライブを超えるロングツアラー向けにどうかという話だが、これは本当に人によると言うしかない。まず、クルマは何の障壁もなく自分の思うままに走れて当たり前というフールプルーフ派には正直、まったく向かない。料金定額制プランがあってもなお、思うように旅が進まないことに腹を立て、不満が蓄積することだろう。
リーフはクルマとしての素性は非常にいいが技術的にはまだまだ進化途上というEVの特性を頭に入れ、クルマの状況と自分のドライブプランを知的に組み立てて、EVのネガを自力で克服するようなタイプのユーザーには大いに向く。実際、リーフユーザーを見ると、近距離のタウンライドユーザーにまじり、そういうロングツーリング派が少なからずいる。日産のうたう“旅ホーダイ”のコンセプトにガッツリと乗り、リーフでどんなドライブ、どんな体験ができるのかをヴァカンスのたびに試すような人だ。そういうチャレンジャーの場合は、今すぐリーフに乗り換えてもきっと楽しいカーライフを送れることだろう。
(レスポンス 井元康一郎)
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