新旧モデル乗り比べ! アストンマーティンの魂は新型「ヴァンテージ」に受け継がれたのか
アストンマーティンの名車でル・マンをめざす
イギリスから新旧のアストンマーティンGTカーを乗り継いで、ル・マン24時間レースの応援に行かないか?もちろん、アストンチームの……。クルマ好きにとっては、堪えられないオファーを受けて、断る理由などまるでなかった。万難を排してスケジュールを調整し、挑んだオールド&ニュー試乗会。
まずは、名車『DB4』でイギリスを出発する。58年から63年にかけて生産された、アストンマーティンを代表するGTスポーツカー。カロッツェリア・ツーリングによるスーパーレッジェーラ製法で造られたボディ構造をもつ。オークションに掛かればン千万円となるモデルを気前よく貸し与えてくれたアストンマーティン・ラゴンダ社に、まずは感謝。
3.7リットル・ストレート6の伸びやかな加速と心躍る吸気音を楽しみながら、ドーバーを目指す。もう、この時代からよくできたグランツーリズモを造っていたのだと感心することしきり。
現代のクルマに比べれば、すべてに渡って大らかな動きをみせるものの、先読みしてドライブすればスポーティな操作もできる。途中で65年から造られはじめた『DB6』に乗り換えても、その印象は変わらなかった。少しだけパワフルになったエンジン(4リットル)と伸びたホイールベースのおかげで、いっそう快適なツーリングカーになっていた。
存在感が際立つ「AMR」
ドーバー海峡を列車で渡り、そこからはイッキに年代を新しくして、最新の『DB11 AMR』を駆る。つい先だって、『DBSスーパーレッジェーラ』という725psの最強モデルが発表されたばかりだが、DB11 AMRに積まれるV12ツインターボエンジンも639psと、高性能であることに違いはない。
豪華なGTカーという雰囲気の優ったDB11に対して、AMRはそのアピアランスや名前(アストン・マーティン・レーシング)からも分かるように、スポーティに振ったモデルだ。GTカーとしての秀逸さはそのままに、いっそうアグレッシブなドライブフィールになっている。V12の愉快なパワフルさ、という点で、DB11 V12を先に買ってしまったオーナーには申し訳ないけれども、DB11 AMRの存在感は際立っている。
攻める新型ヴァンテージ
ル・マンに向かう途中で新型『ヴァンテージ』を試す。驚いた。AMRのような高性能仕様でない、まずはベースとなるラインナップモデルであるはずなのに、いきなりスパルタンな印象が先に立ったからだ。
そのことは、アグレッシブなルックスにも現れている。どうやらアストンマーティンは、今後、これまでの美しいラグジュアリィGTカー路線という範疇を超えて、いっそう攻めのスポーツカーを目指すことになるのだろう。そのためのモータースポーツ活動であり、AMRモデルや新型ヴァンテージであり、そして、『ヴァルキリー』やコードネーム“003”に始まる未来のミドシップモデルである、というわけだった。
新型ヴァンテージに話を戻そう。旧型にくらべて、ひと回り大きくなったクーペスタイルのイメージは、獰猛のひとこと。旧型にあった、ちょっと控えめエレガントな雰囲気はまったく失せてしまった。アグレッシブなフロントマスクに、ド派手なリアスタイルはいずれも、サーキット仕様からのフィードバックの賜物である。
インテリアも、旧型から大きくイメチェンした。ラグジュアリィではなく、スパルタンに。いかにも、それはコクピット=速く走るための場所、というイメージだ。プッシュボタン式の変速スタイルのみ引き継がれたが、それだって、何だか戦闘的なデザインで配列されている。
510ps&685Nmを発揮する4リットルのV8ツインターボエンジンは、よく知られているように、メルセデスAMGからの供給品だ。組み合わされたのは8速のトルコンAT。ミッション本体をリアアクスルに置くトランスアクスル方式とすることで、理想の重量バランスを得ている。
プラットフォームを共有するDB11に比べて、ホイールベースでおよそ100ミリ短い。サスペンションダンピングと、操舵力、シフトマッピングを変更する3つのモード、スポーツ/スポーツ+/トラックを備えるほか、電子制御式デファレンシャル(Eデフ)を初めて採用した。
世界トップレベルの本格派スポーツカーへ
肝心の乗り味はどうだったか。前述したように、ファーストインプレッションは“こりゃ、たまげた”、だった。旧型ヴァンテージとは比べ物にならないくらい、ピュアでスパルタンにスポーツカーに仕上がっていた。これぞ正にヴァンテージ。先代のオーナーが同じイメージを抱いたまま乗ってみたならば、まったく別のスポーツカーを与えられたような気分になることだろう。
レシオ13.09:1という超クイックなステアリングはもとより、一般道でははっきりと硬い乗り心地で路面の凹凸を正確に拾い上げてくれるうえ、ロードノイズもかなり大きい。高級スポーツカーにはたいてい、ノーマルグレードと高性能グレードの用意がある。最初にノーマルを出して、あとから高性能版というのがセオリーだが、新型ヴァンテージには、“いきなり高性能版を出してきたか!”、と言いたくなるほどのスパルタンさがあった。
今後、アストンマーティンが、このモデルのさらなるハード版(AMR?)を出すのか、意表をついて、旧型の実質的な後継モデルとなる乗り心地のいいラグジュアリィ版を出してくれるのか、はたまた2シーターに12気筒を押し込んだ狂気のモデルはあるのかどうか、未来にもまた、楽しみがもてるクルマに仕上がっていた。
新型ヴァンテージは、2シーターFRの本格派スポーツカーとして、いきなり世界トップレベルの戦いを演じていると言っていい。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
イギリスから新旧のアストンマーティンGTカーを乗り継いで、ル・マン24時間レースの応援に行かないか?もちろん、アストンチームの……。クルマ好きにとっては、堪えられないオファーを受けて、断る理由などまるでなかった。万難を排してスケジュールを調整し、挑んだオールド&ニュー試乗会。
まずは、名車『DB4』でイギリスを出発する。58年から63年にかけて生産された、アストンマーティンを代表するGTスポーツカー。カロッツェリア・ツーリングによるスーパーレッジェーラ製法で造られたボディ構造をもつ。オークションに掛かればン千万円となるモデルを気前よく貸し与えてくれたアストンマーティン・ラゴンダ社に、まずは感謝。
3.7リットル・ストレート6の伸びやかな加速と心躍る吸気音を楽しみながら、ドーバーを目指す。もう、この時代からよくできたグランツーリズモを造っていたのだと感心することしきり。
現代のクルマに比べれば、すべてに渡って大らかな動きをみせるものの、先読みしてドライブすればスポーティな操作もできる。途中で65年から造られはじめた『DB6』に乗り換えても、その印象は変わらなかった。少しだけパワフルになったエンジン(4リットル)と伸びたホイールベースのおかげで、いっそう快適なツーリングカーになっていた。
存在感が際立つ「AMR」
ドーバー海峡を列車で渡り、そこからはイッキに年代を新しくして、最新の『DB11 AMR』を駆る。つい先だって、『DBSスーパーレッジェーラ』という725psの最強モデルが発表されたばかりだが、DB11 AMRに積まれるV12ツインターボエンジンも639psと、高性能であることに違いはない。
豪華なGTカーという雰囲気の優ったDB11に対して、AMRはそのアピアランスや名前(アストン・マーティン・レーシング)からも分かるように、スポーティに振ったモデルだ。GTカーとしての秀逸さはそのままに、いっそうアグレッシブなドライブフィールになっている。V12の愉快なパワフルさ、という点で、DB11 V12を先に買ってしまったオーナーには申し訳ないけれども、DB11 AMRの存在感は際立っている。
攻める新型ヴァンテージ
ル・マンに向かう途中で新型『ヴァンテージ』を試す。驚いた。AMRのような高性能仕様でない、まずはベースとなるラインナップモデルであるはずなのに、いきなりスパルタンな印象が先に立ったからだ。
そのことは、アグレッシブなルックスにも現れている。どうやらアストンマーティンは、今後、これまでの美しいラグジュアリィGTカー路線という範疇を超えて、いっそう攻めのスポーツカーを目指すことになるのだろう。そのためのモータースポーツ活動であり、AMRモデルや新型ヴァンテージであり、そして、『ヴァルキリー』やコードネーム“003”に始まる未来のミドシップモデルである、というわけだった。
新型ヴァンテージに話を戻そう。旧型にくらべて、ひと回り大きくなったクーペスタイルのイメージは、獰猛のひとこと。旧型にあった、ちょっと控えめエレガントな雰囲気はまったく失せてしまった。アグレッシブなフロントマスクに、ド派手なリアスタイルはいずれも、サーキット仕様からのフィードバックの賜物である。
インテリアも、旧型から大きくイメチェンした。ラグジュアリィではなく、スパルタンに。いかにも、それはコクピット=速く走るための場所、というイメージだ。プッシュボタン式の変速スタイルのみ引き継がれたが、それだって、何だか戦闘的なデザインで配列されている。
510ps&685Nmを発揮する4リットルのV8ツインターボエンジンは、よく知られているように、メルセデスAMGからの供給品だ。組み合わされたのは8速のトルコンAT。ミッション本体をリアアクスルに置くトランスアクスル方式とすることで、理想の重量バランスを得ている。
プラットフォームを共有するDB11に比べて、ホイールベースでおよそ100ミリ短い。サスペンションダンピングと、操舵力、シフトマッピングを変更する3つのモード、スポーツ/スポーツ+/トラックを備えるほか、電子制御式デファレンシャル(Eデフ)を初めて採用した。
世界トップレベルの本格派スポーツカーへ
肝心の乗り味はどうだったか。前述したように、ファーストインプレッションは“こりゃ、たまげた”、だった。旧型ヴァンテージとは比べ物にならないくらい、ピュアでスパルタンにスポーツカーに仕上がっていた。これぞ正にヴァンテージ。先代のオーナーが同じイメージを抱いたまま乗ってみたならば、まったく別のスポーツカーを与えられたような気分になることだろう。
レシオ13.09:1という超クイックなステアリングはもとより、一般道でははっきりと硬い乗り心地で路面の凹凸を正確に拾い上げてくれるうえ、ロードノイズもかなり大きい。高級スポーツカーにはたいてい、ノーマルグレードと高性能グレードの用意がある。最初にノーマルを出して、あとから高性能版というのがセオリーだが、新型ヴァンテージには、“いきなり高性能版を出してきたか!”、と言いたくなるほどのスパルタンさがあった。
今後、アストンマーティンが、このモデルのさらなるハード版(AMR?)を出すのか、意表をついて、旧型の実質的な後継モデルとなる乗り心地のいいラグジュアリィ版を出してくれるのか、はたまた2シーターに12気筒を押し込んだ狂気のモデルはあるのかどうか、未来にもまた、楽しみがもてるクルマに仕上がっていた。
新型ヴァンテージは、2シーターFRの本格派スポーツカーとして、いきなり世界トップレベルの戦いを演じていると言っていい。
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産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
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