【日産 セレナe-POWER 新型試乗】一口に3列シートと言っても、使い道は色々…中村孝仁

日産 セレナe-POWER
3列シート車あれこれ
一口に3列シートと言っても、クルマによって想定される使い道は異なっている…ということを、この『セレナe-POWER』に乗って思い知らされた。というのも我が家、3列シート車を必要として、最近色々あれこれと試しているからだ。

筆者の全くの独断と偏見をもってすれば、家族のために運転手を務めることなど、全く嫌。勿論、休日に孫とその家族を連れてドライブに出かけることに関して異論はないのだが、ただひたすら移動するだけのファミリーミニバンは論外な存在で、やはり少しでも運転が楽しめるSUV系の3列シートしか視野に入っておらず、そこを中心にクルマ探しをしていたからである。

「買う」というかなり現実的な行動計画の元に試乗をしたクルマは、マツダ『CX-8』とシトロエン『グランドピカソ』の2台だった。前者は完全にSUV系の3列シート車。そして後者は比較的コンパクトで、とりあえず3列ついてますが何か?的なモデルだが、何と言ってもスタイリッシュだし、快適だし、乗るのも楽しいし…等々現実的にお金を払う身からすれば、一番食指が動くクルマであった。

そして今回、セレナe-POWERを試してみた。典型的な3列シートミニバンで、このジャンルにはご存知の通り、トヨタ『ノア/ボクシー』、ホンダ『ステップワゴン』といったライバルが存在するのはご承知の通り。他にも3列シート車は多く存在するが、個人的嗜好と使い勝手、それにお値段の観点から、このあたりに絞られた…というわけである。ただし、果たして最終的に購入を決断するか否かは別問題である。

セレナe-POWERで公道試乗
セレナe-POWERは3月にサーキットで試乗した。サーキットを使ったのは、まだナンバーが取得できていなかったことと、e-POWERの走行感覚を試すためという理由で、走りに関しては3月の時点でも指摘したが、要するに同じ日産の『ノート』に採用されているe-POWERと違って、EV走行できるマナーモードと、バッテリーチャージを目的としたチャージモードが用意され、隣近所に配慮した気遣いが出来るクルマに仕上がっているという点が、新しいe-POWERとしての姿である。

ただ、クローズドコース内では大したテストも出来ず、公道試乗を待ち望んでいたというわけで、だいぶ遅くなってしまったが、それがようやく実現できた。

これも個人的な嗜好で恐縮だが、ワンペダルのドライブフィールは嫌いではない。そもそもこの種のクルマでワインディングをかっ飛ぶことなどおよそ考えないし、とにかく楽に目的地に行っても遊ぶだけの体力を残したい…という、極めて現実的な側面を考えると、移動に余計な神経と体力は使いたくないわけで、最近は如何に楽ちんに目的地にたどり着くかということが、クルマ評価の大きな指標になっている。勿論、純粋にクルマの走りだけを楽しく類のクルマにあっては、この限りではない。

というわけで、e-POWERの楽ちん度、プロパイロットの使い勝手、そして冒頭話した3列シートの出来具合が話の中心になる。

ワンペダルドライブの楽しさ
まずe-POWERだが、アクセルオンで走り、アクセルオフでブレーキがかかるというこのクルマの仕組み自体、僕が遊んでいるスロットカーと近いから、走行そのものを楽しめる。ただ違うのは、スロットカーの場合、短絡ブレーキだから、完全アクセルオフでないとブレーキがかからないのだが、e-POWERはアクセルを緩めると漸次ブレーキがかかる。だから、このシステムを理解して、信号に近づいて停止線でピタリと止められた時など、心の中でビンゴ!と叫んでしまうような楽しさがあるのだ。

ノートに比べて大分パワフルだから、今回は小さな子供2人と大人3人で試乗してもパワーの物足りなさは、このジャンルのクルマとしては、無かった。

進歩したプロパイロット
プロパイロットの出来は、以前のものに比べると格段に進歩していて、とりあえず日産の言う、同一車線自動運転に関しては、余程のことがない限り可能である。その余程のこととは、他車線からの割り込みに対処が難しいこと。

特に日産の場合、車間を一番小さくとっても、かなりのスペースがあって、非常に割り込みが容易なため、かなりの頻度でクルマが割り込んでくる。このあたりが単眼カメラ1台で制御する難しさなのだろうが、完全停車までちゃんとやってくれるという点では、他のミニバンライバルよりはるかに優れている。勿論ACCの能力としては圧倒的に先を行くモデルがたくさんあるが、それらは基本的にお高く、値段を考えれば日産のプロパイロットはよくやっている方だと思う。

3列シートの使いやすさは
そして最後が3列シートの使い勝手であるが、基本的にSUV系の3列シートはファミリーというよりも大人を想定したものが多く、使い勝手よりも快適性が優先されている。マツダCX-8などはその典型かもしれず、身長が180cm級でも3列目に乗れますよ…的なことを謳い文句にしているが、そこへのアクセスは難しく、ましてやチャイルドシートの装着などを考慮すると、SUV系は難しいことがわかった。

そこへ行くとセレナは、流石は箱である。形、即ちエクステリアのスタイリングは正直僕の大嫌いな箱以外の何物でもないのだが、3列目のアクセスといい、チャイルドシートの装着し易さといい、あれこれと考えつくされている。そのためのスライドドアは必然であり、家族のクルマとしてミニバンが定着している現状を嫌というほど味合された、という次第である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

[提供元:レスポンス]レスポンス