【トヨタ ヴォクシー 3600km試乗】徹底した保守性に「鉄壁の信念」がにじむ[前編]
トヨタ自動車の2リットル級5ナンバー3列シートミニバン『ヴォクシーハイブリッド』で東京~鹿児島間を3600kmドライブする機会を得たので、長距離試乗レポートをお届けする。
◆ヴォクシーハイブリッドの特徴
ヴォクシーは2001年、5ナンバーミニバン『ノア』の兄弟モデルとして登場した。ノアがファミリー然としたユルいデザインであるのに対し、ヴォクシーはちょっととんがった系のデザインが与えられたが、その戦略は大当たりし、源流モデルのノアを販売台数で上回る人気モデルに成長した。
2017年はヴォクシー単独で8万8700台を売り、2リットル級5ナンバー3列シートミニバンのトップに。今年の上半期はハイブリッド「e-Power」の投入効果で販売を伸ばした日産『セレナ』に後れを取ったが、ノア、ヴォクシー、そして3番目の派生モデル『エスクァイア』の合計では依然として圧倒的カテゴリートップモデルとなっている。
現行型は2014年に発売された3代目で、ノアとともに5ナンバーミニバンとしては初めてハイブリッドパワートレインを搭載するモデルとなった。ハイブリッドシステムは第3世代『プリウス』とほぼ共通の1.8リットルミラーサイクルエンジン+2モーターのストロングタイプ。エンジンと電気モーターの最大合成出力は第3世代プリウスと同じ136psだが、車両重量、走行抵抗とも大きなミニバンに対応させるため、減速ギアをローギアード化することで駆動力を高めている。
テストカーは鍛造アルミホイールなどを装備する走り重視の「ハイブリッドZS」。ベースは2リットル級5ナンバーミニバンだが、このグレードは全長、全幅が少しずつ5ナンバー枠をはみ出しており、3ナンバー登録である。試乗ルートは往路が山陰、復路が山陽経由で、東京~名古屋間は往復とも東海道、九州内では往復とも西海岸。大まかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速2、山岳路1。東京~九州間は1名乗車、九州内では1~6名乗車。期間中は天候に恵まれ、路面コンディションはほぼドライであった。
では、試乗全体を通じて感じたヴォクシーハイブリッドの長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1. 運転に不慣れな人に不安を感じさせないことを狙いとしたとおぼしき、ユーザーフレンドリーに徹したクルマづくり。
2. 無理は禁物だが軽快に走るぶんには思いのほか敏捷性が高く、かつ同乗者にも優しい運動性能。
3. ミニバンとしては十分に良好な燃費。とりわけ混雑した市街地には滅法強い。
4. 黒いボディカラーでも炎天下での駐車時も温度が上がりにくい断熱性の高さ。
5. 3列シート使用時の荷室の収容性が思ったより良い。
■短所
1. デビューから4年が経ったこともあってか、騒音・振動をはじめ乗り味が少々旧態化してきた感があった。
2. フルパワーが必要な局面ではハイブリッドシステムがアンダーパワー気味。
3. 3列目シートを跳ね上げて畳むとリアクォーターガラスがほとんど遮られる。
4. 運転支援システムのスペックが古く、前車追従クルーズコントロールもつかない。
5. こまめに休息を取れば回避できるレベルだが、長距離ドライブ時の疲労は大きめ。
◆「鉄壁の信念」がにじむクルマづくり
試乗全体を通じての雑感。ヴォクシーハイブリッドを3000km以上使ってみて最も印象的だったのは、動力性能でも燃費でも快適性でもなく、ユーザーフレンドリーに徹したクルマづくりであった。クルマの運転に不慣れで自信がないという人を不安にさせないためにはどうすればいいか、子供や体の弱った人が乗り込みやすい後ドアとはどうあるべきか、リアシートをどうやったら簡単に畳めるかといった、実生活でこの手のクルマを使うシチュエーションを徹底研究して作られていることが伺えた。
ミニバンは利便性とスペースが第一なのだから、利便性向上への取り組みは自動車開発者だったら誰でもやる。トヨタのスタンスで特徴的だと思われたのは、保守的であるということへのこだわりだった。この種のクルマを買う人たちの多くは、それまで乗っていたクルマと同じ使い方であることに安心感を覚える。運転方法しかり、機器・設備の操作法しかり。
ノア/ヴォクシー/エスクァイア、セレナ、ステップワゴンの3極のなかで、デビュー時期が一番古いことを勘案してもなお、トヨタがいちばん新機軸が少ない。それはやるべき工夫を盛り込まなかったのではなく、顧客に絶対的にメリットがあると確信を持てること以外は全部見切ったのであろう。
やるべき工夫はあらゆるところに見られた。3列目シートは凝った折り畳み構造を持っておらず、単に両サイドに跳ね上げる方式だが、スプリングが仕込まれていてロックを外すとシートはほとんど力要らずで跳ね上げられるようになっていた。後席の乗降性も秀逸。筆者は鹿児島で自力歩行は辛うじてできるが身体機能がごく弱った人を乗せたりもしたが、こと上半身をかがめるのが難しい人の乗り降りのしやすさについては、ヴォクシーは折り紙つきの良さだった。
運転の情報提供はマージン重視。ロングドライブ中、ワンタンクでの航続距離を見ようとしたときは、燃料がまだ十分に入っていると思われる段階で残り航続距離表示が0kmに。どんな判断ミスをしようと、絶対にガス欠を起こさせないためであろう。後退時のバックモニターも、ガイドを見たかぎりではいかにもあと少しでポールや壁に接触しそうな感じに見えても、実際には十分にクリアランスがあった。これ以外についても、とにかく運転の不慣れさに起因するトラブルを起こさせないという鉄壁の信念がにじんでいた。
走りについてもしかり。絶対性能としては決して無理のきくクルマではないが、ミニバンとしては回頭性が良く、ドライブをちょっと気分良くさせるような味付けがなされていた。これ以上ロール剛性を上げてもシャシーのほうが受け止められなくなるだろうし、そもそもファミリードライブで乱暴な運転などしたら家族からクレームが来るのは必至。普通よりちょっといいかもと思わせるレベルで十分なのだ。
こうした徹底的な保守性は、裏返せばヴォクシーの弱点でもある。行動派のカスタマーによっては退屈、新規性がないと受け取られる可能性は高い。将来の出世のために手柄を立てたいというクルマの開発者にとって、保守的に作るということは、実は新しさを盛り込みまくるよりよほどプレッシャーがかかるものだ。そういう顧客層は他のモデルに任せ、ノア/ヴォクシー/エスクァイアは徹底保守で行くという“己が分”を守り、ブラッシュアップに徹すし切れたことは、トヨタの商品開発の統制が崩れていないことを示している。このあたりはミッドサイズセダン『カムリ』と同様のクルマづくりと言える。
具体的な弱点もある。デビューから4年が経ち、ハードウェア面はさすがに古さが目に付くようになってきた。運転支援システムについては車線逸脱警報、衝突軽減ブレーキなど最低限のアップデートがなされているが、前車追従クルーズコントロールやステアリングアシストなどの現代的な機能は持たない。乗り心地はハーシュネスが強めで舗装の荒れに弱いきらいがあった。長時間ドライブ時の疲労蓄積度も大きめだ。もっとも、それらが問題になるのはロングドライブをやるときであって、5ナンバー3列ミニバンのメインターゲットである短距離ドライブ主体の顧客にとっては、大して気にならない項目であろう。
◆軽快なドライブフィール
では、個別のファクターに入っていこう。まずはツーリングを支える最重要ファクターであるシャシー、ボディについて。ヴォクシーハイブリッドは決して走りを意識したモデルではないが、ドライブフィールは思いのほか軽快であった。
今回通ったルートのなかには丹波高地、丹後半島、中国山地などの山岳路が含まれていたほか、瀬戸内や若狭湾ではメインの街道から外れ、海岸沿いのカーブだらけの道も走った。重心が高く、車幅は狭い5ナンバーミニバンにとっては元来、そういう道は苦手項目である。ところがヴォクシーハイブリッドはS字カーブが続くような道でもステアリングを切ったときの鼻先の動きが軽く、オンザレール感覚であった。
この特性はシャシーセッティングだけでなく、タイヤチューンによるところも大きいと思われた。テスト車両には205/55R16サイズのブリヂストン「トランザT001」というタイヤがセットアップされていたが、タイヤ温度が上がったときにトレッドを触ってみたかぎりコンパウンドはかなり柔らかめで、タイヤグリップを相当高めに設定しているようだった。
こういう軽快な特性は、ハンドルを握る人の気分を軽くするのに有用だ。クルマの動きが鈍重だと、遠乗りすべきではありませんよとクルマから言われているような気分になって、引き返したくなる。ヴォクシーハイブリッドは少なくとも、旅気分が盛り下がるような味付けではなかった。ちなみに過去のミニバンドライビングの経験では、軽快さではホンダ、重厚感ではトヨタという印象だったのだが、ヴォクシーハイブリッドとステップワゴンハイブリッドの場合、それが逆転しているような感じであった。
動きの軽快さがある半面、ハーシュネス(路面からの突き上げ、ガタガタ感)は全速度域でやや大きめ。ヴォクシーが悪いというより、ここ数年でライバルがレベルアップしたため、相対的に浮き彫りになった格好である。また、フルロードに近い6名乗車時のハンドリング、動力性能への影響もステップワゴンに比べて大きめに感じられた。グレードがZSでなく、快適性重視のものであったら、印象はもう少し違った可能性もある。
◆3列シート使用時にヴォクシーの美点
ロングドライブをしていて美点だと思われたのは側方視界の良さで、斜め下がよく見える。サイドウインドウのグラフィックからして、いかにも視界が良さそうに見えるが、その印象のまんまという感じであった。側方警戒のために目線をAピラー下に向けると、ちょうどそこにドアミラーがあって、自然に後方のインフォメーションを得られるのも美点だった。
絶対的な広さついては、2リットル級5ナンバーミニバンはどれもまったく不満がないレベルにあり、ヴォクシーハイブリッドもその例に漏れなかった。2列目シートのロングスライド機構、キャプテンシートをつなげて使うサイドスライドなど、基本的なアレンジメントもすべてレバーひとつでできる。
ヴォクシーの美点だと思われたのは、後ドアから室内へのアクセス性の良さと、3列使用時の荷物の積載性の高さ。まずは室内へのアクセス性だが、ヴォクシーはフロア高が大変低いだけでなく、ドアがサイドシル上ではなく、サイドシルにかぶさるような構造になっているため、大きくまたがなくても室内にすっと入ることができた。
これは高齢者や体の弱ったパセンジャーを乗せるにはすこぶる都合が良く、実際、今回のツーリングではたびたび役に立った。また、2列目のシートバックを前に倒したときにできる隙間も大きく、3列目への乗り込み性も良かった。地道なことだが、こういう作り込みは日常使いを大いに快適にする。
居住空間の快適性でもうひとつ良かった点は、車体の断熱性が高かったことだ。写真を見てわかるように、車体色は黒。ドライブシーズンはことさら猛暑であった今年の夏。にもかかわらず、駐車時の車内温度の上昇は穏やかで、短時間停止しているくらいならほとんど暑くならなかった。駐車中だけでなく、ドライブ中もルーフから頭に伝わってくる輻射熱は小さめで、長時間運転でものぼせずにすんだ。
3列シートミニバンは3列すべてを使うと荷室が狭くなるのが常で、ヴォクシーももちろんそうだ。が、それでも荷室の奥行きはマシなほうで、何とか実用に耐えられるレベルであった。フロアのボードを外せば荷室を上下方向に拡大させることができるが、その容量も大きいほう。軽いレジャーユースなら3列乗車でも十分にこなせそうだった。
後編ではハイブリッドパワートレインのパフォーマンスと燃費、安全装備、デザインなどについて述べたいと思う。
(レスポンス 井元康一郎)
◆ヴォクシーハイブリッドの特徴
ヴォクシーは2001年、5ナンバーミニバン『ノア』の兄弟モデルとして登場した。ノアがファミリー然としたユルいデザインであるのに対し、ヴォクシーはちょっととんがった系のデザインが与えられたが、その戦略は大当たりし、源流モデルのノアを販売台数で上回る人気モデルに成長した。
2017年はヴォクシー単独で8万8700台を売り、2リットル級5ナンバー3列シートミニバンのトップに。今年の上半期はハイブリッド「e-Power」の投入効果で販売を伸ばした日産『セレナ』に後れを取ったが、ノア、ヴォクシー、そして3番目の派生モデル『エスクァイア』の合計では依然として圧倒的カテゴリートップモデルとなっている。
現行型は2014年に発売された3代目で、ノアとともに5ナンバーミニバンとしては初めてハイブリッドパワートレインを搭載するモデルとなった。ハイブリッドシステムは第3世代『プリウス』とほぼ共通の1.8リットルミラーサイクルエンジン+2モーターのストロングタイプ。エンジンと電気モーターの最大合成出力は第3世代プリウスと同じ136psだが、車両重量、走行抵抗とも大きなミニバンに対応させるため、減速ギアをローギアード化することで駆動力を高めている。
テストカーは鍛造アルミホイールなどを装備する走り重視の「ハイブリッドZS」。ベースは2リットル級5ナンバーミニバンだが、このグレードは全長、全幅が少しずつ5ナンバー枠をはみ出しており、3ナンバー登録である。試乗ルートは往路が山陰、復路が山陽経由で、東京~名古屋間は往復とも東海道、九州内では往復とも西海岸。大まかな道路比率は市街路2、郊外路5、高速2、山岳路1。東京~九州間は1名乗車、九州内では1~6名乗車。期間中は天候に恵まれ、路面コンディションはほぼドライであった。
では、試乗全体を通じて感じたヴォクシーハイブリッドの長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1. 運転に不慣れな人に不安を感じさせないことを狙いとしたとおぼしき、ユーザーフレンドリーに徹したクルマづくり。
2. 無理は禁物だが軽快に走るぶんには思いのほか敏捷性が高く、かつ同乗者にも優しい運動性能。
3. ミニバンとしては十分に良好な燃費。とりわけ混雑した市街地には滅法強い。
4. 黒いボディカラーでも炎天下での駐車時も温度が上がりにくい断熱性の高さ。
5. 3列シート使用時の荷室の収容性が思ったより良い。
■短所
1. デビューから4年が経ったこともあってか、騒音・振動をはじめ乗り味が少々旧態化してきた感があった。
2. フルパワーが必要な局面ではハイブリッドシステムがアンダーパワー気味。
3. 3列目シートを跳ね上げて畳むとリアクォーターガラスがほとんど遮られる。
4. 運転支援システムのスペックが古く、前車追従クルーズコントロールもつかない。
5. こまめに休息を取れば回避できるレベルだが、長距離ドライブ時の疲労は大きめ。
◆「鉄壁の信念」がにじむクルマづくり
試乗全体を通じての雑感。ヴォクシーハイブリッドを3000km以上使ってみて最も印象的だったのは、動力性能でも燃費でも快適性でもなく、ユーザーフレンドリーに徹したクルマづくりであった。クルマの運転に不慣れで自信がないという人を不安にさせないためにはどうすればいいか、子供や体の弱った人が乗り込みやすい後ドアとはどうあるべきか、リアシートをどうやったら簡単に畳めるかといった、実生活でこの手のクルマを使うシチュエーションを徹底研究して作られていることが伺えた。
ミニバンは利便性とスペースが第一なのだから、利便性向上への取り組みは自動車開発者だったら誰でもやる。トヨタのスタンスで特徴的だと思われたのは、保守的であるということへのこだわりだった。この種のクルマを買う人たちの多くは、それまで乗っていたクルマと同じ使い方であることに安心感を覚える。運転方法しかり、機器・設備の操作法しかり。
ノア/ヴォクシー/エスクァイア、セレナ、ステップワゴンの3極のなかで、デビュー時期が一番古いことを勘案してもなお、トヨタがいちばん新機軸が少ない。それはやるべき工夫を盛り込まなかったのではなく、顧客に絶対的にメリットがあると確信を持てること以外は全部見切ったのであろう。
やるべき工夫はあらゆるところに見られた。3列目シートは凝った折り畳み構造を持っておらず、単に両サイドに跳ね上げる方式だが、スプリングが仕込まれていてロックを外すとシートはほとんど力要らずで跳ね上げられるようになっていた。後席の乗降性も秀逸。筆者は鹿児島で自力歩行は辛うじてできるが身体機能がごく弱った人を乗せたりもしたが、こと上半身をかがめるのが難しい人の乗り降りのしやすさについては、ヴォクシーは折り紙つきの良さだった。
運転の情報提供はマージン重視。ロングドライブ中、ワンタンクでの航続距離を見ようとしたときは、燃料がまだ十分に入っていると思われる段階で残り航続距離表示が0kmに。どんな判断ミスをしようと、絶対にガス欠を起こさせないためであろう。後退時のバックモニターも、ガイドを見たかぎりではいかにもあと少しでポールや壁に接触しそうな感じに見えても、実際には十分にクリアランスがあった。これ以外についても、とにかく運転の不慣れさに起因するトラブルを起こさせないという鉄壁の信念がにじんでいた。
走りについてもしかり。絶対性能としては決して無理のきくクルマではないが、ミニバンとしては回頭性が良く、ドライブをちょっと気分良くさせるような味付けがなされていた。これ以上ロール剛性を上げてもシャシーのほうが受け止められなくなるだろうし、そもそもファミリードライブで乱暴な運転などしたら家族からクレームが来るのは必至。普通よりちょっといいかもと思わせるレベルで十分なのだ。
こうした徹底的な保守性は、裏返せばヴォクシーの弱点でもある。行動派のカスタマーによっては退屈、新規性がないと受け取られる可能性は高い。将来の出世のために手柄を立てたいというクルマの開発者にとって、保守的に作るということは、実は新しさを盛り込みまくるよりよほどプレッシャーがかかるものだ。そういう顧客層は他のモデルに任せ、ノア/ヴォクシー/エスクァイアは徹底保守で行くという“己が分”を守り、ブラッシュアップに徹すし切れたことは、トヨタの商品開発の統制が崩れていないことを示している。このあたりはミッドサイズセダン『カムリ』と同様のクルマづくりと言える。
具体的な弱点もある。デビューから4年が経ち、ハードウェア面はさすがに古さが目に付くようになってきた。運転支援システムについては車線逸脱警報、衝突軽減ブレーキなど最低限のアップデートがなされているが、前車追従クルーズコントロールやステアリングアシストなどの現代的な機能は持たない。乗り心地はハーシュネスが強めで舗装の荒れに弱いきらいがあった。長時間ドライブ時の疲労蓄積度も大きめだ。もっとも、それらが問題になるのはロングドライブをやるときであって、5ナンバー3列ミニバンのメインターゲットである短距離ドライブ主体の顧客にとっては、大して気にならない項目であろう。
◆軽快なドライブフィール
では、個別のファクターに入っていこう。まずはツーリングを支える最重要ファクターであるシャシー、ボディについて。ヴォクシーハイブリッドは決して走りを意識したモデルではないが、ドライブフィールは思いのほか軽快であった。
今回通ったルートのなかには丹波高地、丹後半島、中国山地などの山岳路が含まれていたほか、瀬戸内や若狭湾ではメインの街道から外れ、海岸沿いのカーブだらけの道も走った。重心が高く、車幅は狭い5ナンバーミニバンにとっては元来、そういう道は苦手項目である。ところがヴォクシーハイブリッドはS字カーブが続くような道でもステアリングを切ったときの鼻先の動きが軽く、オンザレール感覚であった。
この特性はシャシーセッティングだけでなく、タイヤチューンによるところも大きいと思われた。テスト車両には205/55R16サイズのブリヂストン「トランザT001」というタイヤがセットアップされていたが、タイヤ温度が上がったときにトレッドを触ってみたかぎりコンパウンドはかなり柔らかめで、タイヤグリップを相当高めに設定しているようだった。
こういう軽快な特性は、ハンドルを握る人の気分を軽くするのに有用だ。クルマの動きが鈍重だと、遠乗りすべきではありませんよとクルマから言われているような気分になって、引き返したくなる。ヴォクシーハイブリッドは少なくとも、旅気分が盛り下がるような味付けではなかった。ちなみに過去のミニバンドライビングの経験では、軽快さではホンダ、重厚感ではトヨタという印象だったのだが、ヴォクシーハイブリッドとステップワゴンハイブリッドの場合、それが逆転しているような感じであった。
動きの軽快さがある半面、ハーシュネス(路面からの突き上げ、ガタガタ感)は全速度域でやや大きめ。ヴォクシーが悪いというより、ここ数年でライバルがレベルアップしたため、相対的に浮き彫りになった格好である。また、フルロードに近い6名乗車時のハンドリング、動力性能への影響もステップワゴンに比べて大きめに感じられた。グレードがZSでなく、快適性重視のものであったら、印象はもう少し違った可能性もある。
◆3列シート使用時にヴォクシーの美点
ロングドライブをしていて美点だと思われたのは側方視界の良さで、斜め下がよく見える。サイドウインドウのグラフィックからして、いかにも視界が良さそうに見えるが、その印象のまんまという感じであった。側方警戒のために目線をAピラー下に向けると、ちょうどそこにドアミラーがあって、自然に後方のインフォメーションを得られるのも美点だった。
絶対的な広さついては、2リットル級5ナンバーミニバンはどれもまったく不満がないレベルにあり、ヴォクシーハイブリッドもその例に漏れなかった。2列目シートのロングスライド機構、キャプテンシートをつなげて使うサイドスライドなど、基本的なアレンジメントもすべてレバーひとつでできる。
ヴォクシーの美点だと思われたのは、後ドアから室内へのアクセス性の良さと、3列使用時の荷物の積載性の高さ。まずは室内へのアクセス性だが、ヴォクシーはフロア高が大変低いだけでなく、ドアがサイドシル上ではなく、サイドシルにかぶさるような構造になっているため、大きくまたがなくても室内にすっと入ることができた。
これは高齢者や体の弱ったパセンジャーを乗せるにはすこぶる都合が良く、実際、今回のツーリングではたびたび役に立った。また、2列目のシートバックを前に倒したときにできる隙間も大きく、3列目への乗り込み性も良かった。地道なことだが、こういう作り込みは日常使いを大いに快適にする。
居住空間の快適性でもうひとつ良かった点は、車体の断熱性が高かったことだ。写真を見てわかるように、車体色は黒。ドライブシーズンはことさら猛暑であった今年の夏。にもかかわらず、駐車時の車内温度の上昇は穏やかで、短時間停止しているくらいならほとんど暑くならなかった。駐車中だけでなく、ドライブ中もルーフから頭に伝わってくる輻射熱は小さめで、長時間運転でものぼせずにすんだ。
3列シートミニバンは3列すべてを使うと荷室が狭くなるのが常で、ヴォクシーももちろんそうだ。が、それでも荷室の奥行きはマシなほうで、何とか実用に耐えられるレベルであった。フロアのボードを外せば荷室を上下方向に拡大させることができるが、その容量も大きいほう。軽いレジャーユースなら3列乗車でも十分にこなせそうだった。
後編ではハイブリッドパワートレインのパフォーマンスと燃費、安全装備、デザインなどについて述べたいと思う。
(レスポンス 井元康一郎)
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