【マツダ CX-8 新型試乗】“自然吸気”と“ターボ”、2つの新ガソリンエンジンの性格は…片岡英明
日本市場ではマツダの頂点に立つプレミアムSUVが『CX-8』だ。『CX-5』の上級のポジションを与えられ、3列シートの6人乗りと7人乗りを用意している。CX-5の商品改良に続き、CX-8も定期的な商品改良を行った。エクステリアは変わっていないし、インテリアの変更もわずかだ。進化させたのはメカニズムである。
ハイライトは、評判のいい2.2リットルのクリーンディーゼルに加え、ミラーサイクルに筒内直接噴射の2.5リットル直列4気筒DOHCエンジンを2機種投入した。ひとつは直噴の自然吸気エンジン、もうひとつは新世代の直噴ターボだ。
◆今後の多段化に期待したい「自然吸気エンジン」
どちらも排気量は2488ccで、自然吸気エンジンは可変バルブタイミング機構に直噴システムとミラーサイクルを組み合わせている。CX-5では可変休止システムを採用しているが、車重のあるCX-8では省かれた。このPY-VPS型直列4気筒DOHCエンジンは、最高出力140kW(190ps)/6000rpm、最大トルク252Nm(25,7kg-m)/4000rpmを発生する。トランスミッションは電子制御6速ATだ。
ピストンや排気ポートの形状を見直し、耐ノック性能を向上させた2.5リットルエンジンは応答レスポンスが鋭く、滑らかさもディーゼルターボの一歩上を行く。1000回転台のトルクはそれなりだが、2000回転を超えたあたりからパワーとトルクが力強く盛り上がる。CVTではなくATだからダイレクト感があり、回転の上昇も軽やかだ。アクセルを踏み込むと1700kg台のボディを悠々と加速させ、追い越しを想定したパーシャル域からの加速も無難にこなした。
だが、余力はないから、どうしても回転を上げ気味にして走るようになる。持てる実力をフルに引き出せるように、ぜひともパドルシフトを標準装備としてほしい。遮音材をふんだんにおごっていることもあり、クルージング時の静粛性はCX-5より上級と感じる。ただし、同クラスのライバルは、より多段化したATを積んでおり、6速ATでは物足りなく感じたのも事実。高回転まで回すとエンジンが唸りだすから、早い時期に多段化を望みたい。
ちなみに100km/hクルージングではタコメーターの針が2200回転を指す。JC08モードで13.4km/リットルだった燃費は、最新のWLTCになっている。2WDのWLTC燃費は12.4km/リットルだ。が、多段化すれば、CVT並みに回転数を下げられるから、燃費はさらによくなるだろう。
◆ディーゼルモデルより1ランク上のスムースさ「直噴ターボエンジン」
クリーンディーゼルのライバルになりそうなガソリンエンジンの直噴ターボは、4WDだけに用意されている。マツダでは過給ライトサイジングコンセプトの高効率過給ガソリンエンジンと呼んでおり、日本の交通事情に合わせて最適チューニングを施した。メカニズムは先に搭載され、デビューしたCX-5のターボと変わらない。それほど大きくないターボを使いながら低速域の過給能力を高めるために、吸排気系と可変バルブタイミング機構に手を入れている。最高出力は169kW(230ps)/4250rpm、最大トルクは420Nm(42,8kg-m)/2000rpmだ。
三菱製のターボユニットを搭載しているが、加速レスポンスは鋭いし、自然吸気エンジンでは物足りなかった低速域のトルクも大幅に増強されている。ターボはアイドリングの少し上の回転から稼働し、2000回転台に乗ると冴えた加速を見せつけた。ただし、高回転のパンチ力は期待できない。5000回転に達する前にパワーとトルクが萎え、頭打ちになる。が、実用域では軽やかな加速を見せたし、低回転域でぐずることもない。1000回転台でこもり音が出るし、高回転になると唸るのが弱点だが、扱いやすくて力強いエンジンだ。クルージング時は静粛性も高いレベルにある。
ガソリンの直噴ターボは意外にもスポーティテイストは薄く、性格としてはディーゼルターボに近かった。が、1クラス上のスムースさと静粛性を身につけ、運転していると優雅な大人のSUVと感じる。気になる燃費はWLTCモードで11.6km/リットルだ。一見すると悪そうだが、4WDであることを考えると悪くない数値だ。高速道路モードでは13.8km/リットルと発表されているから、さらに上乗せを期待できる。また、日本仕様はレギュラーガソリン対応とした。ガソリン価格が高騰しているだけに嬉しい配慮だ。
◆滑りやすい路面ほど効果を感じる「G-ベクタリングコントロール・プラス」
ハンドリングに関するメカニズムでは、新たに GVCプラス と呼ぶ「G-ベクタリングコントロール・プラス」が採用され、今まで以上に安定した車両挙動を実現した。GVCはコーナリングのときにエンジンのトルクを少しだけ絞り、荷重移動を速やかに行うことによって前輪の接地性を高め、旋回性を高める車両安定制御だ。GVCプラスは、これをさらに進化させたもので、ステアリングを切ったときの回頭遅れをなくし、コーナーを脱出するときにはブレーキを制御してステアリングを戻す操作時の収束性を高める。
急激なダブルレーンチェンジで障害物などを回避するようなシーンで比較すると、違いがよく分かった。障害物を避けるためにステアリングを操舵し、コーナーを脱出するときにはステアリングを戻す。が、このときにお釣りがきて巻き込もうとする挙動を抑え込むのがGVCの役割だ。その効果は大きかったが、ステアリングが直進状態になるときにドライバーが舵を調整しないと揺り返しが出て、挙動を安定させるのが遅かった。
GVCプラスは外側の前輪にほんの少しブレーキをかけ、ロールしているときの揺り戻しを減らし、挙動の乱れを早く収束させる。タイトコーナーが続くテストコースを走ったときも、ロールしたときの揺り返しが減り、挙動の乱れは小さくなっていた。リアの接地感も増しているから姿勢が安定し、脱出しやすい。滑りやすい路面では、より効果が分かりやすいはずだ。雑な運転をする人には頼もしい安全装備だろう。
◆スポーティな「CX-5」優雅な「CX-8」
スポーティ感覚はCX-5のほうが強い。CX-8はホイールベースが長いこともあり、穏やかなハンドリングだし、乗り心地もいい。最新モデルはステアリングを操舵したときの動きが洗練され、サスペンションもしなやかに動くようになった。インテリアもさらに質感が上がっている。
マツダコネクトも「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応できるようにアップデートされた。新しいCX-8はバリエーションが広がり、予算と好みで選べるようになっている。だが、ガソリン車にするかディーゼルターボ車にするか迷うのが悩ましいところだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
(レスポンス 片岡英明)
ハイライトは、評判のいい2.2リットルのクリーンディーゼルに加え、ミラーサイクルに筒内直接噴射の2.5リットル直列4気筒DOHCエンジンを2機種投入した。ひとつは直噴の自然吸気エンジン、もうひとつは新世代の直噴ターボだ。
◆今後の多段化に期待したい「自然吸気エンジン」
どちらも排気量は2488ccで、自然吸気エンジンは可変バルブタイミング機構に直噴システムとミラーサイクルを組み合わせている。CX-5では可変休止システムを採用しているが、車重のあるCX-8では省かれた。このPY-VPS型直列4気筒DOHCエンジンは、最高出力140kW(190ps)/6000rpm、最大トルク252Nm(25,7kg-m)/4000rpmを発生する。トランスミッションは電子制御6速ATだ。
ピストンや排気ポートの形状を見直し、耐ノック性能を向上させた2.5リットルエンジンは応答レスポンスが鋭く、滑らかさもディーゼルターボの一歩上を行く。1000回転台のトルクはそれなりだが、2000回転を超えたあたりからパワーとトルクが力強く盛り上がる。CVTではなくATだからダイレクト感があり、回転の上昇も軽やかだ。アクセルを踏み込むと1700kg台のボディを悠々と加速させ、追い越しを想定したパーシャル域からの加速も無難にこなした。
だが、余力はないから、どうしても回転を上げ気味にして走るようになる。持てる実力をフルに引き出せるように、ぜひともパドルシフトを標準装備としてほしい。遮音材をふんだんにおごっていることもあり、クルージング時の静粛性はCX-5より上級と感じる。ただし、同クラスのライバルは、より多段化したATを積んでおり、6速ATでは物足りなく感じたのも事実。高回転まで回すとエンジンが唸りだすから、早い時期に多段化を望みたい。
ちなみに100km/hクルージングではタコメーターの針が2200回転を指す。JC08モードで13.4km/リットルだった燃費は、最新のWLTCになっている。2WDのWLTC燃費は12.4km/リットルだ。が、多段化すれば、CVT並みに回転数を下げられるから、燃費はさらによくなるだろう。
◆ディーゼルモデルより1ランク上のスムースさ「直噴ターボエンジン」
クリーンディーゼルのライバルになりそうなガソリンエンジンの直噴ターボは、4WDだけに用意されている。マツダでは過給ライトサイジングコンセプトの高効率過給ガソリンエンジンと呼んでおり、日本の交通事情に合わせて最適チューニングを施した。メカニズムは先に搭載され、デビューしたCX-5のターボと変わらない。それほど大きくないターボを使いながら低速域の過給能力を高めるために、吸排気系と可変バルブタイミング機構に手を入れている。最高出力は169kW(230ps)/4250rpm、最大トルクは420Nm(42,8kg-m)/2000rpmだ。
三菱製のターボユニットを搭載しているが、加速レスポンスは鋭いし、自然吸気エンジンでは物足りなかった低速域のトルクも大幅に増強されている。ターボはアイドリングの少し上の回転から稼働し、2000回転台に乗ると冴えた加速を見せつけた。ただし、高回転のパンチ力は期待できない。5000回転に達する前にパワーとトルクが萎え、頭打ちになる。が、実用域では軽やかな加速を見せたし、低回転域でぐずることもない。1000回転台でこもり音が出るし、高回転になると唸るのが弱点だが、扱いやすくて力強いエンジンだ。クルージング時は静粛性も高いレベルにある。
ガソリンの直噴ターボは意外にもスポーティテイストは薄く、性格としてはディーゼルターボに近かった。が、1クラス上のスムースさと静粛性を身につけ、運転していると優雅な大人のSUVと感じる。気になる燃費はWLTCモードで11.6km/リットルだ。一見すると悪そうだが、4WDであることを考えると悪くない数値だ。高速道路モードでは13.8km/リットルと発表されているから、さらに上乗せを期待できる。また、日本仕様はレギュラーガソリン対応とした。ガソリン価格が高騰しているだけに嬉しい配慮だ。
◆滑りやすい路面ほど効果を感じる「G-ベクタリングコントロール・プラス」
ハンドリングに関するメカニズムでは、新たに GVCプラス と呼ぶ「G-ベクタリングコントロール・プラス」が採用され、今まで以上に安定した車両挙動を実現した。GVCはコーナリングのときにエンジンのトルクを少しだけ絞り、荷重移動を速やかに行うことによって前輪の接地性を高め、旋回性を高める車両安定制御だ。GVCプラスは、これをさらに進化させたもので、ステアリングを切ったときの回頭遅れをなくし、コーナーを脱出するときにはブレーキを制御してステアリングを戻す操作時の収束性を高める。
急激なダブルレーンチェンジで障害物などを回避するようなシーンで比較すると、違いがよく分かった。障害物を避けるためにステアリングを操舵し、コーナーを脱出するときにはステアリングを戻す。が、このときにお釣りがきて巻き込もうとする挙動を抑え込むのがGVCの役割だ。その効果は大きかったが、ステアリングが直進状態になるときにドライバーが舵を調整しないと揺り返しが出て、挙動を安定させるのが遅かった。
GVCプラスは外側の前輪にほんの少しブレーキをかけ、ロールしているときの揺り戻しを減らし、挙動の乱れを早く収束させる。タイトコーナーが続くテストコースを走ったときも、ロールしたときの揺り返しが減り、挙動の乱れは小さくなっていた。リアの接地感も増しているから姿勢が安定し、脱出しやすい。滑りやすい路面では、より効果が分かりやすいはずだ。雑な運転をする人には頼もしい安全装備だろう。
◆スポーティな「CX-5」優雅な「CX-8」
スポーティ感覚はCX-5のほうが強い。CX-8はホイールベースが長いこともあり、穏やかなハンドリングだし、乗り心地もいい。最新モデルはステアリングを操舵したときの動きが洗練され、サスペンションもしなやかに動くようになった。インテリアもさらに質感が上がっている。
マツダコネクトも「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応できるようにアップデートされた。新しいCX-8はバリエーションが広がり、予算と好みで選べるようになっている。だが、ガソリン車にするかディーゼルターボ車にするか迷うのが悩ましいところだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
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