【メルセデスベンツ S400d 試乗】これは文句なく「世界最高のディーゼル」だ…中村孝仁

メルセデスベンツ S400d
◆ディーゼルでも「Sクラス」な静粛性

驚きというのは後になってじわじわと、そして津波のように押し寄せるものなのだろうか。東京の品川シーサイドを起点に、千葉県の浦安まで、決して長いドライブではないのだが、新しいメルセデスベンツ『S400d』に試乗した。

直6のディーゼルということで、それなりの期待をしていたのだが、地下駐車場からのスタートだったので、エンジンをかけて料金ゲートを抜けて、スロープをアクセルを踏みながら上がる、地下だけに反響音もあって、騒音に関してはその時点ではそれがどのくらい静かなのかは判断が付かなかった。ところが一般道に出て、流れに乗って車を走らせる。何度かの信号待ちや加減速を体験した後に、「これ、ディーゼルだよな?」と、改めて自問自答せざるを得なかったのだ。

何しろその室内の静粛性と来たら、他のSクラスと何ら違いがないレベル。つまりガソリンの直6だろうがV8だろうが、そしてこの直6ディーゼルだろうが…である。首都高に乗って、意図的に空いた交通状況を見計らって加減速を繰り返してみた。しかし、ディーゼルらしい音の高まりというのは全く感じられないし、そもそもディーゼルらしき音の痕跡を探すにさえ苦労するほどである。

その力は…いやこりゃもう絶句の領域だ。実は帰路に乗ったのは『AMG E53』。同じように加減速をしてみたけれど、パーシャルからの加速ではトルクの太いS400dの方が勝っていたほどの印象だったのだ。

◆右に出るディーゼルエンジン搭載車は無い


目的地について、改めて車外に出てみた。あいにくの小雨模様だったが、エンジンがかかっているのにその車外音の小ささも特筆もの。例によってメルセデスはエンジンコンパートメントをカプセル化して、音漏れを防いでいるとはいえ、これまで聞いてきた4気筒ディーゼルとは別次元だし、BMWのV6ディーゼルなどと比較してもこれまた別次元である。

とにかく静粛性が高くて高出力、高トルクのハイパフォーマンスという点で、現在このクルマの右に出るディーゼルエンジン搭載車は無い…少なくとも知らない。

乗り心地だって絶品だ。例によってエアマチックと称するエアサスが標準装備である。コンフォートを選べば少し大袈裟なほどゆったりとした動きになる。サイズを考えればこれで良いと思う。『Eクラス』に装備されるエアボディコントロールと呼ばれるサスペンションとの違いはイマイチ明確ではないのだが、制御系は異なっているのではないかと思う。いずれにせよ、快適この上ないという点ではどちらもそう壁で、エアサスの制御も今のところメルセデスが一番うまいと思う。

◆内燃機関のエンジンだって、まだまだやることがある


問題のエンジンである。S400dに搭載されるのはOM656のコードネームを持つエンジン。排気量は正確には2927ccの直列6気筒ターボディーゼルである。近年登場してきたメルセデスのエンジンは、すべてモジュラータイプとなっており、4気筒だろうが6気筒だろうが、あるいは8気筒だろうが同じデザインを持っている。

シリンダー内壁にはツインワイヤーアーク・スプレイングと称するコーティングが施され、これがナノスライドといわれるものである。これをするために、あらかじめシリンダー内壁は荒めに仕上げられているそうだが…待てよ、初めから荒めにブロックを作って、最後にこのコーティングで仕上げるなら、3Dプリンターでブロック作れるじゃん…などと思ったりもした。まあ勝手な妄想だが、内燃機関のエンジンだって、まだまだやることがあるということである。

短距離の試乗だったので、燃費に関しては言及できないが、車載のコンピューターを信じるなら、2トンを超える重量にもかかわらず、楽々とリッター10km以上の燃費が期待できる。なお、来年1月からお値段は若干上がるようである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来40年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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