【マツダ CX-3 3200km試乗】もはや“デミオクロスオーバー”とは言わせない[前編]
◆マツダ CX-3 改良モデルの長所と短所
マツダの欧州Bセグメント・サブコンパクトクラスのSUV『CX-3』が2018年5月にシャシーの改造、新ディーゼルエンジン搭載などの大がかりな改良を受けた。その改良版CX-3の1.8ターボディーゼル、6速MT、FWD(前輪駆動)で東京~鹿児島間を3200kmツーリングする機会を得たので、インプレッションをお届けする。
試乗ルートは横浜を起点とした西日本方面の周遊で、最遠到達地は鹿児島市南部で総走行距離は3222.6km。おおまかな道路比率は市街地1、郊外路6、高速2、山岳路1と、市街地を積極回避したぶん他のロングドライブレポートに比べて郊外路寄りとなった。乗車人員は横浜~九州間が1名、九州内は1~3名。エアコンAUTO。
では、改良版CX-3の長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1.熱効率向上とDPF再生インターバル延長の両面で目覚しい進化を遂げた新1.8ターボディーゼル。
2.弱点であったロードノイズや乗り心地が改善され、本来の持ち味であるスペシャリティカー的なキャラクターが際立ってきた。
3.操縦性がナチュラルになった。高速巡航や山岳路での性能的なゆとりも十分。
4.前車、対向車を避けて照射するフルアクティブハイビームをはじめ、ツーリング向きの安全装備が充実していること。
5.ドア開閉やスイッチ操作感など、依然として秀逸な内外装の静的質感。
■短所
1.スカイアクティブモデル群としては珍しく、長距離ドライブ時の疲労耐性が低め。
2.路面の荒れがきつめの道ではハーシュネスが強まり、フラット感も落ちる。
3.直進、緩旋回におけるドライビングインフォメーションが希薄。
4.荷室、車室が狭く、コクピットまわりは小物入れが不足。
5.ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの価格差が大きい。
◆もはや“デミオクロスオーバー”ではない
マツダは日本市場向けに大中小と、3種類のSUVを投入しているが、末弟にあたるこのCX-3は上位の『CX-8』『CX-5』とは異なり、本格SUVとしての機能をほとんど持たず、一方でスタイリングは最も情感的に作られている。言うなれば伊達に乗りこなすことを主眼としたSUVのスペシャリティカー。バブル時代のホンダ『プレリュード』や日産『シルビア』のようなポジショニングのクルマである。
3200kmあまりのドライブを通じて最も印象に残ったのは、まさにそのスペシャリティ性だった。ボディ表面は小型オープンスポーツ『ロードスター』と並び、「魂動デザイン」モデルの中でも最も複雑で豊かなラインと研ぎ澄まされた面質を持っているのだが、他人にカッコいいクルマに乗っていることを自慢するような感じではなく、共に過ごす時間が長くなるにつれてその作り込みに自己満足を覚えるようなタイプの良さであった。ドアの開閉音、ドアハンドルの引き心地、スイッチ類やエアコン吹き出し口の操作感など、静的質感もノンプレミアムのスモールSUVとしては異例に高いものだった。
これまでは、せっかくのそのスペシャリティ感を、ゴロつき感の強い走行フィールや静粛性の低さなどのネガティブ要素が少なからずスポイルしてしまっていたのだが、改良版CX-3はそれらの残念ポイントが大幅な改善をみていた。
クラス最上ではないが、CX-3のようなファッション性重視のモデルの場合、欠点が長所の足を引っ張らなくなるだけで途端に印象が良くなる。改良版CX-3はまさにそれで、スペシャリティカーとしての魅力度が赤丸急上昇という感があった。クルマの動きから過敏さが消えてSUVライクなゆったりとした乗り味になったのも個人的には好印象。ベースモデルはコンパクトカーのデミオだが、“デミオクロスオーバー”という感じはもはや受けなかった。
◆劇的に変化したシャシー性能
では、仔細について述べていこう。まずはシャシー性能だが、ここは劇的に変化したポイントのひとつだった。CX-3はデミオベースで、サスペンションストロークはそれほど大きいわけではないのだが、ロールを止めるバンプストップラバーのチューンなどを相当頑張ったとみえて、決して大きくないホイールの上下動を非常に良い形でフルに使うようなドライブフィールを実現させていた。
足回りはのセッティング柔らかいのに変に突っ張るという悪癖がかなり弱まり、とてもナチュラルになった。コーナリングではアウト側の前輪とイン側の後輪を結んだ線を軸にロールする、いわゆるダイアゴナル(対角線)ロールが綺麗に発生するので、荷重移動のつながりがよくなり、限界もつかみやすくなった。
このセッティングは乗り心地の向上にも寄与。とくに良路での滑走感は大きく向上した。舗装面の荒れた老朽化路線では突き上げ、ゴロゴロ感等、快適性の落ち幅がちょっと大きいきらいがあるが、それでもCX-3がデビューした頃に比べると雲泥の差。静粛性の向上とあいまって、ドライブの気持ちよさは改良前に比べて倍増した感があった。
動的な部分の不満点を挙げるとすれば、クルーズ時の直進および緩旋回のフィールが希薄でいつの間にか蛇行気味になりやすかったことと、ヒョコヒョコとした動きはよく抑えられているがゆらりとした低周波のフラット感に欠けていたこと。とくにフラット感はしなやかなサスペンションセッティングと両立させるのが大変なファクターではあるが、ロングドライブ時の疲労蓄積度を左右するポイント。片道300km程度のドライブなら何の問題もなさそうではあるが、さらに上を目指していただきたいところだ。
◆綿密に作りこまれたエクステリアデザイン
デザイン考。CX-3を長い時間乗り回してみて、これを所有した場合に最も満足度を得られそうだと感じられたポイントは、何といっても綿密に作りこまれたエクステリアデザインだった。
ボディパネルは同じマツダのコンパクトスポーツ『ロードスター』と並んで最も彫りが深い。作り方によってはくどさを感じさせかねないのだが、まわりに“どうだ、素敵なクルマだろう”と見せびらかすイヤミな感じを与えないのは面白く思われるポイントであった。オーナーが秘めやかに満足感に浸るタイプの作り込みである。
試乗車は有料オプション色「マシーングレー」に塗られていたが、このカラーもCX-3になかなか似合っていた。マシーングレーは「ソウルレッド」に続くマツダのプレミアムカラーバリエーション第2弾なのだが、調色自体はハイセンスという感じはしない。ところが、風景の中にクルマを置いてみると、この塗装が青空、山の緑、夕日の赤など、さまざまな色を実に美しく反映させるのである。
ボディカラーにとって、外光の反射をどうデザインするかはカラーそのものの調色と同じくらい重要なこと。たとえば赤メタリックでも、反射の制御によって青空が映ったときの色が鮮やかになるか、黒々となってしまうかという明確な違いが出る。マシーングレーのようなガンメタリック系の場合、色そのものを吸収してしまい、陰気なものが風景の中にあるように見えてしまう塗装が少なくないのだが、マシングレーの反映はそれとは一線を画す美しさだった。
外光反射が美しい塗装を作るのは欧州塗料メーカーが十八番とするところだが、マシングレーは欧州プレミアム系のモデルの塗装と比較しても一歩も引けを取らないように感じられた。
後編では新ディーゼルエンジンのパフォーマンス、居住感、先進安全システムなどについて触れたいと思う。
(レスポンス 井元康一郎)
マツダの欧州Bセグメント・サブコンパクトクラスのSUV『CX-3』が2018年5月にシャシーの改造、新ディーゼルエンジン搭載などの大がかりな改良を受けた。その改良版CX-3の1.8ターボディーゼル、6速MT、FWD(前輪駆動)で東京~鹿児島間を3200kmツーリングする機会を得たので、インプレッションをお届けする。
試乗ルートは横浜を起点とした西日本方面の周遊で、最遠到達地は鹿児島市南部で総走行距離は3222.6km。おおまかな道路比率は市街地1、郊外路6、高速2、山岳路1と、市街地を積極回避したぶん他のロングドライブレポートに比べて郊外路寄りとなった。乗車人員は横浜~九州間が1名、九州内は1~3名。エアコンAUTO。
では、改良版CX-3の長所と短所を5つずつ列記してみよう。
■長所
1.熱効率向上とDPF再生インターバル延長の両面で目覚しい進化を遂げた新1.8ターボディーゼル。
2.弱点であったロードノイズや乗り心地が改善され、本来の持ち味であるスペシャリティカー的なキャラクターが際立ってきた。
3.操縦性がナチュラルになった。高速巡航や山岳路での性能的なゆとりも十分。
4.前車、対向車を避けて照射するフルアクティブハイビームをはじめ、ツーリング向きの安全装備が充実していること。
5.ドア開閉やスイッチ操作感など、依然として秀逸な内外装の静的質感。
■短所
1.スカイアクティブモデル群としては珍しく、長距離ドライブ時の疲労耐性が低め。
2.路面の荒れがきつめの道ではハーシュネスが強まり、フラット感も落ちる。
3.直進、緩旋回におけるドライビングインフォメーションが希薄。
4.荷室、車室が狭く、コクピットまわりは小物入れが不足。
5.ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの価格差が大きい。
◆もはや“デミオクロスオーバー”ではない
マツダは日本市場向けに大中小と、3種類のSUVを投入しているが、末弟にあたるこのCX-3は上位の『CX-8』『CX-5』とは異なり、本格SUVとしての機能をほとんど持たず、一方でスタイリングは最も情感的に作られている。言うなれば伊達に乗りこなすことを主眼としたSUVのスペシャリティカー。バブル時代のホンダ『プレリュード』や日産『シルビア』のようなポジショニングのクルマである。
3200kmあまりのドライブを通じて最も印象に残ったのは、まさにそのスペシャリティ性だった。ボディ表面は小型オープンスポーツ『ロードスター』と並び、「魂動デザイン」モデルの中でも最も複雑で豊かなラインと研ぎ澄まされた面質を持っているのだが、他人にカッコいいクルマに乗っていることを自慢するような感じではなく、共に過ごす時間が長くなるにつれてその作り込みに自己満足を覚えるようなタイプの良さであった。ドアの開閉音、ドアハンドルの引き心地、スイッチ類やエアコン吹き出し口の操作感など、静的質感もノンプレミアムのスモールSUVとしては異例に高いものだった。
これまでは、せっかくのそのスペシャリティ感を、ゴロつき感の強い走行フィールや静粛性の低さなどのネガティブ要素が少なからずスポイルしてしまっていたのだが、改良版CX-3はそれらの残念ポイントが大幅な改善をみていた。
クラス最上ではないが、CX-3のようなファッション性重視のモデルの場合、欠点が長所の足を引っ張らなくなるだけで途端に印象が良くなる。改良版CX-3はまさにそれで、スペシャリティカーとしての魅力度が赤丸急上昇という感があった。クルマの動きから過敏さが消えてSUVライクなゆったりとした乗り味になったのも個人的には好印象。ベースモデルはコンパクトカーのデミオだが、“デミオクロスオーバー”という感じはもはや受けなかった。
◆劇的に変化したシャシー性能
では、仔細について述べていこう。まずはシャシー性能だが、ここは劇的に変化したポイントのひとつだった。CX-3はデミオベースで、サスペンションストロークはそれほど大きいわけではないのだが、ロールを止めるバンプストップラバーのチューンなどを相当頑張ったとみえて、決して大きくないホイールの上下動を非常に良い形でフルに使うようなドライブフィールを実現させていた。
足回りはのセッティング柔らかいのに変に突っ張るという悪癖がかなり弱まり、とてもナチュラルになった。コーナリングではアウト側の前輪とイン側の後輪を結んだ線を軸にロールする、いわゆるダイアゴナル(対角線)ロールが綺麗に発生するので、荷重移動のつながりがよくなり、限界もつかみやすくなった。
このセッティングは乗り心地の向上にも寄与。とくに良路での滑走感は大きく向上した。舗装面の荒れた老朽化路線では突き上げ、ゴロゴロ感等、快適性の落ち幅がちょっと大きいきらいがあるが、それでもCX-3がデビューした頃に比べると雲泥の差。静粛性の向上とあいまって、ドライブの気持ちよさは改良前に比べて倍増した感があった。
動的な部分の不満点を挙げるとすれば、クルーズ時の直進および緩旋回のフィールが希薄でいつの間にか蛇行気味になりやすかったことと、ヒョコヒョコとした動きはよく抑えられているがゆらりとした低周波のフラット感に欠けていたこと。とくにフラット感はしなやかなサスペンションセッティングと両立させるのが大変なファクターではあるが、ロングドライブ時の疲労蓄積度を左右するポイント。片道300km程度のドライブなら何の問題もなさそうではあるが、さらに上を目指していただきたいところだ。
◆綿密に作りこまれたエクステリアデザイン
デザイン考。CX-3を長い時間乗り回してみて、これを所有した場合に最も満足度を得られそうだと感じられたポイントは、何といっても綿密に作りこまれたエクステリアデザインだった。
ボディパネルは同じマツダのコンパクトスポーツ『ロードスター』と並んで最も彫りが深い。作り方によってはくどさを感じさせかねないのだが、まわりに“どうだ、素敵なクルマだろう”と見せびらかすイヤミな感じを与えないのは面白く思われるポイントであった。オーナーが秘めやかに満足感に浸るタイプの作り込みである。
試乗車は有料オプション色「マシーングレー」に塗られていたが、このカラーもCX-3になかなか似合っていた。マシーングレーは「ソウルレッド」に続くマツダのプレミアムカラーバリエーション第2弾なのだが、調色自体はハイセンスという感じはしない。ところが、風景の中にクルマを置いてみると、この塗装が青空、山の緑、夕日の赤など、さまざまな色を実に美しく反映させるのである。
ボディカラーにとって、外光の反射をどうデザインするかはカラーそのものの調色と同じくらい重要なこと。たとえば赤メタリックでも、反射の制御によって青空が映ったときの色が鮮やかになるか、黒々となってしまうかという明確な違いが出る。マシーングレーのようなガンメタリック系の場合、色そのものを吸収してしまい、陰気なものが風景の中にあるように見えてしまう塗装が少なくないのだが、マシングレーの反映はそれとは一線を画す美しさだった。
外光反射が美しい塗装を作るのは欧州塗料メーカーが十八番とするところだが、マシングレーは欧州プレミアム系のモデルの塗装と比較しても一歩も引けを取らないように感じられた。
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