【日産 ノートe-POWER 3500km試乗】「遠乗りに向かない」という当初の予想は大きく覆された[後編]
日産自動車のBセグメント・サブコンパクトエコカー『ノートe-POWER』を3500kmほどドライブさせる機会を得た。前編ではシャシー性能や運転支援システム、ロングツーリング時の疲労耐性などについて述べた。後編ではシリーズハイブリッド「e-POWER」のパフォーマンスや使い勝手などについて触れていこうと思う。
◆リーフと同じパワートレインのメリット
ノートに搭載されたe-POWERは最高出力80kW(109ps)の電気モーターと最高出力58KW(79ps)の1.2リットル3気筒ガソリンエンジン、総容量1.5kWhのリチウムイオンバッテリーパック、およびそれらを統合制御するパワーコントロールユニットからなっている。エンジンで発電機を回し、得られた電力で電気モーターを回すシリーズハイブリッド方式だ。
シリーズハイブリッドは構造がシンプルで制御もEVに近いというメリットがある半面、電力マネジメントの関係上バッテリーを大型にする必要があり、コストは他の方式に比べてどうしても高めになるのが弱点。そのため重量の大きな高価格帯モデルに向くとされているのだが、日産はBセグメントにあえてこのシステムを持ってきた。すでに市販しているEVとの部品共用化が可能という日産特有の事情もあったとみられる。
そのe-POWERのパフォーマンスだが、まず動力性能的には申し分ないものだった。車両重量1400kg台の旧型『リーフ』と同じスペックの電気モーターを搭載するのだから、フルパワーを出したときに速いのは当たり前といえば当たり前なのだが、シャシーと同様に電動パワートレインの制御も改良で手が加えられたのか、フルパワー時以外のドライブフィールも大変良くなったように感じられた。
EV走行領域はプラグイン方式を除く現行のハイブリッドモデルの中でおそらく最も広い。バッテリー残量が不足していなければ、60km/h超までエンジンの発電なしにバッテリー出力だけで加速がまかなえる。この“EV感”はライバルのハイブリッドモデルとの最大の差別化ポイントであろう。
◆「スポーツ」で走らなきゃ損だ
走行モードはエコ、ノーマル、スポーツの3種類が存在するが、筆者は走行距離1000kmを超え、北九州で2度目の給油を行って以降、ほとんどスポーツで走った。リーフのパワーフィールに最も近く、日本の速度域ではこれで加速に不満を覚える人はほとんどいないだろう。EVに乗り慣れた人にとってはスポーツが断然意のままに走れることは間違いない。詳細は後述するが、それでいてエコランをせずに普通に走ったときの燃費はエコで走った区間とほとんど変わらないのである。それならスポーツにしなきゃ損だと思ったくらいであった。
エコで走ると、加減速フィールは途端にのんびりしたものになる。モードごとのキャラクターづけはかなりハッキリしたものだった。エコランの受容性はもちろんエコが最も高いが、スロットルワークをきちんとやればスポーツでもほとんど同様の燃費値を出せる。今回は燃費アタックをやらなかったので、往路の福岡までの区間以外は燃料残量が少なくなった時のみ使用した。
ノーマルは今回、すりきり満タン法での実燃費計測の精度がある程度出せる距離を一気通貫で使うことがなかった。ノートe-POWERにはリーフと同様、スロットルを緩めると停止まで強い回生ブレーキ(モーターの発電抗力で減速し、運動エネルギーを電力として回収する)が得られ、急ブレーキをかけなればスロットル操作だけで運転ができる「eペダル」が実装されているが、これが機能するのはエコとスポーツのみ。一方で、ブレーキを踏んだときに自動的に回生ブレーキと機械ブレーキを使い分けてくれる回生協調ブレーキは装備されていない。ノーマルモードの時にブレーキを踏むと、減速エネルギーは普通のクルマと同様、摩擦で発生する熱として捨てられてしまうのだ。そんなもったいないモードをわざわざ使う人がいるのか?と疑問に思った。
エコとスポーツで機能するeペダルだが、昨年2月にリーフで3000km超ツーリングをやってみた時と同様に重宝した。ハードブレーキングをかけるような走りをしなければ、スロットルペダル操作だけで山岳路も爽快に駆け抜けることができる。ドライビングのリズムという点ではフットブレーキとの踏み替えよりずっと楽しさがある。ただし、バッテリーサイズの関係で回生受け入れ性はリーフより低く、スロットルを全閉にしたときの減速Gもリーフより小さい。強めの減速や停止の必要が生じたときにスロットルを緩めるタイミングはリーフより早めに取る必要があった。
◆eペダルの使い方で燃費は大きく変わりそう
満タン法による実測燃費データは次のとおり。
横浜でフル給油後、東名および新東名経由で森掛川インターチェンジに至り、そこからバイパスを併用しつつ京都北方の亀岡に達した454.8km区間が23.9km/リットル(エコ。給油量19.21リットル)。山陰道、中国山地のワインディング、北九州都市高速などを走った北九州・直方までの838.2km区間が21.7km/リットル(エコ。給油量38.5リットル)。国道3号線、九州自動車道、南九州自動車道などを併用しながら鹿児島市に到着するまでの322.1km区間が23.5km/リットル(スポーツ。給油量13.7リットル)。
鹿児島市街地および郊外を中心に走った301.7km区間は22.2km/リットル(スポーツ。給油量13.6リットル)。鹿児島北部の隼人から宮崎の都城、西都原、椎葉、高千穂、大分の日田などを経由して福岡・直方に戻った418.8km区間が21.6km/リットル(スポーツ。給油量19.4リットル)。そこから浜松までの910.8kmが21.9km/リットル(スポーツ、後にエコ。給油量41.6リットル)。最後は森掛川インターから御殿場インターまで新東名を走り、芦ノ湖湖岸~箱根新道~西湘バイパス経由で茅ヶ崎に到達した241.6kmで、22.6km/リットル(エコ。給油量10.7リットル)。
終始元気良く走ったわりにはそこそこ良いリザルトというのが実感だが、一方で、運転の仕方によって結構差が出そうだとも思った。スピードを出す、出さないというのももちろんだが、それだけでなく、eペダルの踏み方によっても燃費が大きく変わってくるようだった。燃費良く走るにはEVで電費を向上させるのと同様、なるべく駆動と回生を小刻みに繰り返させないというのがカギを握るものと思われた。
ハイブリッドカーの場合、エンジンがかかるとエネルギーがもったいないという意識が働いてスロットルを緩めたくなりがちだが、エンジンを発電のみにつかうノートe-POWERの場合、エンジンがかかることを過剰に嫌うと速度をみだりに失うだけでかえってマイナスだ。駆動や発電のためにエンジンが回っているときは、逆にまとめて発電してやろうというくらいの気分でドライブするといいだろう。
◆荷室スペースより人間の居住区の広さを重視
ツーリング中の使い勝手、および車内環境について。前編でも少し触れたが、ノートは荷室スペースより人間の居住区の広さを重視した近距離主眼のモデル。九州では4名乗車の機会も頻繁にあったが、前席下に壁があってつま先がちょっとしか入らないという欠点はあるもののレッグスペース自体は広く、まさに近距離なら問題なしと思われた。
一方で荷室は狭い。数値的には330リットルあるそうなのだが、リアシートバックの高さで稼いだものなのか形状が悪いのか、ユーティリティ的にはそれよりかなり小さく感じた。長期海外旅行に使う大型トランクは横積み1個が限界である。それでもライバル比較ではホンダ『フィット』には大敗するが、トヨタ『アクア』と比べると深さがあるぶん使いやすい。3名以上での宿泊旅行に使う場合は柔軟性のあるボストンバッグを使うようにすればよさそうだった。
車内の静粛性について。パワートレインからのノイズおよび風切り音の低減は優秀。とくに風切り音の小ささは特筆すべきレベルで、新東名で最速の流れに乗ってクルーズしても風を巻く音は極小であった。
相対的に目立つ結果となったのがロードノイズで、アスファルトが荒れているような箇所では騒音・振動の抑え込みはいささか不足気味。遮音の問題というよりは、ボディが共振を伝えやすい構造に起因しているように感じられた。そういう場合、モノを言うのはタイヤである。純正タイヤはブリヂストン「B250」。ベーシックタイヤとしては悪くないが、リプレイスの時にもう1ランク、吸音性、防振性の高いタイヤにしてやると結構緩和されるかもしれない。
◆あくまで近距離主眼のファミリー向けベーシックカー
繰り返しになるが、改良型のノートe-POWERはあくまで近距離主眼のファミリー向けベーシックカー。当然、ツーリング目的に作られたモデルに比べれば性能は落ちるのだが、遠乗りにはおよそ向かないという当初の予想は大幅に覆された。その源泉は高速直進性が優秀のきわみであることと、e-POWERの動力性能の高さおよびスムーズさ。乗り心地は大したことはないのだが、その2点のおかげで距離をのばしても神経的な運転疲れが誘発されにくかった。エコ性能は乗り方に大きく左右されるが、EV的な乗り方に慣れてくればロングランでも燃料代が気にならないレベルは確保されている。
ライバルは言うまでもなく国産Bセグメントエコカー。トヨタ『アクア』『ヴィッツハイブリッド』、ホンダ『フィットハイブリッド』。ほか、マツダ『デミオ』のターボディーゼル、マイノリティではあるがスズキ『スイフトハイブリッド』も入れてもいいかもしれない。大衆商品ゆえどれも同じようなものと思われがちだが、実際に乗り比べてみるとそれぞれ特色があり、何を重視するかによって選択が結構分かれそうだ。
快適性とユーティリティのバランスの良さではフィット、燃費命ならアクア/ヴィッツ、少人数での遠乗りが主目的ならデミオ、スズキが好きならスイフト…といった具合である。
そのなかでノートe-POWERは、あくまでお買い物、子供やお年寄りの送迎など日常使いを主眼としながら、時には思い切った遠乗りもしてみたいというカスタマーに向く。ドライブフィールのEVっぽさもハイブリッドカーとしては随一なので、新し物好きな人にもいいだろう。Bセグメントとしては申し分ない加速力も魅力だ。
(レスポンス 井元康一郎)
◆リーフと同じパワートレインのメリット
ノートに搭載されたe-POWERは最高出力80kW(109ps)の電気モーターと最高出力58KW(79ps)の1.2リットル3気筒ガソリンエンジン、総容量1.5kWhのリチウムイオンバッテリーパック、およびそれらを統合制御するパワーコントロールユニットからなっている。エンジンで発電機を回し、得られた電力で電気モーターを回すシリーズハイブリッド方式だ。
シリーズハイブリッドは構造がシンプルで制御もEVに近いというメリットがある半面、電力マネジメントの関係上バッテリーを大型にする必要があり、コストは他の方式に比べてどうしても高めになるのが弱点。そのため重量の大きな高価格帯モデルに向くとされているのだが、日産はBセグメントにあえてこのシステムを持ってきた。すでに市販しているEVとの部品共用化が可能という日産特有の事情もあったとみられる。
そのe-POWERのパフォーマンスだが、まず動力性能的には申し分ないものだった。車両重量1400kg台の旧型『リーフ』と同じスペックの電気モーターを搭載するのだから、フルパワーを出したときに速いのは当たり前といえば当たり前なのだが、シャシーと同様に電動パワートレインの制御も改良で手が加えられたのか、フルパワー時以外のドライブフィールも大変良くなったように感じられた。
EV走行領域はプラグイン方式を除く現行のハイブリッドモデルの中でおそらく最も広い。バッテリー残量が不足していなければ、60km/h超までエンジンの発電なしにバッテリー出力だけで加速がまかなえる。この“EV感”はライバルのハイブリッドモデルとの最大の差別化ポイントであろう。
◆「スポーツ」で走らなきゃ損だ
走行モードはエコ、ノーマル、スポーツの3種類が存在するが、筆者は走行距離1000kmを超え、北九州で2度目の給油を行って以降、ほとんどスポーツで走った。リーフのパワーフィールに最も近く、日本の速度域ではこれで加速に不満を覚える人はほとんどいないだろう。EVに乗り慣れた人にとってはスポーツが断然意のままに走れることは間違いない。詳細は後述するが、それでいてエコランをせずに普通に走ったときの燃費はエコで走った区間とほとんど変わらないのである。それならスポーツにしなきゃ損だと思ったくらいであった。
エコで走ると、加減速フィールは途端にのんびりしたものになる。モードごとのキャラクターづけはかなりハッキリしたものだった。エコランの受容性はもちろんエコが最も高いが、スロットルワークをきちんとやればスポーツでもほとんど同様の燃費値を出せる。今回は燃費アタックをやらなかったので、往路の福岡までの区間以外は燃料残量が少なくなった時のみ使用した。
ノーマルは今回、すりきり満タン法での実燃費計測の精度がある程度出せる距離を一気通貫で使うことがなかった。ノートe-POWERにはリーフと同様、スロットルを緩めると停止まで強い回生ブレーキ(モーターの発電抗力で減速し、運動エネルギーを電力として回収する)が得られ、急ブレーキをかけなればスロットル操作だけで運転ができる「eペダル」が実装されているが、これが機能するのはエコとスポーツのみ。一方で、ブレーキを踏んだときに自動的に回生ブレーキと機械ブレーキを使い分けてくれる回生協調ブレーキは装備されていない。ノーマルモードの時にブレーキを踏むと、減速エネルギーは普通のクルマと同様、摩擦で発生する熱として捨てられてしまうのだ。そんなもったいないモードをわざわざ使う人がいるのか?と疑問に思った。
エコとスポーツで機能するeペダルだが、昨年2月にリーフで3000km超ツーリングをやってみた時と同様に重宝した。ハードブレーキングをかけるような走りをしなければ、スロットルペダル操作だけで山岳路も爽快に駆け抜けることができる。ドライビングのリズムという点ではフットブレーキとの踏み替えよりずっと楽しさがある。ただし、バッテリーサイズの関係で回生受け入れ性はリーフより低く、スロットルを全閉にしたときの減速Gもリーフより小さい。強めの減速や停止の必要が生じたときにスロットルを緩めるタイミングはリーフより早めに取る必要があった。
◆eペダルの使い方で燃費は大きく変わりそう
満タン法による実測燃費データは次のとおり。
横浜でフル給油後、東名および新東名経由で森掛川インターチェンジに至り、そこからバイパスを併用しつつ京都北方の亀岡に達した454.8km区間が23.9km/リットル(エコ。給油量19.21リットル)。山陰道、中国山地のワインディング、北九州都市高速などを走った北九州・直方までの838.2km区間が21.7km/リットル(エコ。給油量38.5リットル)。国道3号線、九州自動車道、南九州自動車道などを併用しながら鹿児島市に到着するまでの322.1km区間が23.5km/リットル(スポーツ。給油量13.7リットル)。
鹿児島市街地および郊外を中心に走った301.7km区間は22.2km/リットル(スポーツ。給油量13.6リットル)。鹿児島北部の隼人から宮崎の都城、西都原、椎葉、高千穂、大分の日田などを経由して福岡・直方に戻った418.8km区間が21.6km/リットル(スポーツ。給油量19.4リットル)。そこから浜松までの910.8kmが21.9km/リットル(スポーツ、後にエコ。給油量41.6リットル)。最後は森掛川インターから御殿場インターまで新東名を走り、芦ノ湖湖岸~箱根新道~西湘バイパス経由で茅ヶ崎に到達した241.6kmで、22.6km/リットル(エコ。給油量10.7リットル)。
終始元気良く走ったわりにはそこそこ良いリザルトというのが実感だが、一方で、運転の仕方によって結構差が出そうだとも思った。スピードを出す、出さないというのももちろんだが、それだけでなく、eペダルの踏み方によっても燃費が大きく変わってくるようだった。燃費良く走るにはEVで電費を向上させるのと同様、なるべく駆動と回生を小刻みに繰り返させないというのがカギを握るものと思われた。
ハイブリッドカーの場合、エンジンがかかるとエネルギーがもったいないという意識が働いてスロットルを緩めたくなりがちだが、エンジンを発電のみにつかうノートe-POWERの場合、エンジンがかかることを過剰に嫌うと速度をみだりに失うだけでかえってマイナスだ。駆動や発電のためにエンジンが回っているときは、逆にまとめて発電してやろうというくらいの気分でドライブするといいだろう。
◆荷室スペースより人間の居住区の広さを重視
ツーリング中の使い勝手、および車内環境について。前編でも少し触れたが、ノートは荷室スペースより人間の居住区の広さを重視した近距離主眼のモデル。九州では4名乗車の機会も頻繁にあったが、前席下に壁があってつま先がちょっとしか入らないという欠点はあるもののレッグスペース自体は広く、まさに近距離なら問題なしと思われた。
一方で荷室は狭い。数値的には330リットルあるそうなのだが、リアシートバックの高さで稼いだものなのか形状が悪いのか、ユーティリティ的にはそれよりかなり小さく感じた。長期海外旅行に使う大型トランクは横積み1個が限界である。それでもライバル比較ではホンダ『フィット』には大敗するが、トヨタ『アクア』と比べると深さがあるぶん使いやすい。3名以上での宿泊旅行に使う場合は柔軟性のあるボストンバッグを使うようにすればよさそうだった。
車内の静粛性について。パワートレインからのノイズおよび風切り音の低減は優秀。とくに風切り音の小ささは特筆すべきレベルで、新東名で最速の流れに乗ってクルーズしても風を巻く音は極小であった。
相対的に目立つ結果となったのがロードノイズで、アスファルトが荒れているような箇所では騒音・振動の抑え込みはいささか不足気味。遮音の問題というよりは、ボディが共振を伝えやすい構造に起因しているように感じられた。そういう場合、モノを言うのはタイヤである。純正タイヤはブリヂストン「B250」。ベーシックタイヤとしては悪くないが、リプレイスの時にもう1ランク、吸音性、防振性の高いタイヤにしてやると結構緩和されるかもしれない。
◆あくまで近距離主眼のファミリー向けベーシックカー
繰り返しになるが、改良型のノートe-POWERはあくまで近距離主眼のファミリー向けベーシックカー。当然、ツーリング目的に作られたモデルに比べれば性能は落ちるのだが、遠乗りにはおよそ向かないという当初の予想は大幅に覆された。その源泉は高速直進性が優秀のきわみであることと、e-POWERの動力性能の高さおよびスムーズさ。乗り心地は大したことはないのだが、その2点のおかげで距離をのばしても神経的な運転疲れが誘発されにくかった。エコ性能は乗り方に大きく左右されるが、EV的な乗り方に慣れてくればロングランでも燃料代が気にならないレベルは確保されている。
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