【ホンダ インサイト 新型試乗】乗り心地がさらに上質になれば「鬼に金棒」…青山尚暉
◆大人のための純然たるセダンに変身
日本国内の登場に先駆け、ひと足早く発売されたアメリカで「グリーン・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのが、3代目ホンダ『インサイト』だ。
インサイトはもちろん、歴代同様、ハイブリッド専用車。しかしこの新型は最新のシビックをベースに、先代の5ドアハッチバックから、上質で落ち着いた、大人のための純然たるセダンに変身。ハイブリッドシステムも、1モーターの普及型システム=IMAを改め、ホンダ最新の1.5リットルエンジン+2モーターとなる「SPORT HYBRID i-MMD」を採用する。
ボディサイズは全長4675×全幅1820×全高1410mmとインターナショナルサイズで(先代は4290×全幅1695×全高1425mm~、ホイールベース2550mmの5ナンバーサイズだった)、ホイールベースは2700mmに延長。車重は1370~1390kgの範囲にあり、JC08モード燃費は34.2~31.4km/リットル、より実燃費に近いWLTCモードでは28.4~25.6km/リットルという数値になる
最近、エクステリアデザインを変更した、先代のライバルである『プリウス』の最新型主要グレードのJC08モード燃費が37.2km/リットルであることを考えれば控えめな数値に思えるが、それは燃費表示よりもクルマの本質、走行性能を優先したから、と説明される。
◆流麗なスタイリングに、高級感たっぷりなインテリア
セダンと言ってもクーペライクなリヤセクションを持つ新型インサイトのスタイリングは流麗。セダン嫌いの人でも「これならOK…」の存在感ある好デザインだと思える。
インテリアはさらにいい。シートやダッシュボードの表皮には精密なダブルステッチが施され、7インチマルチインフォメーションディスプレーを備えるフルデジタルメーター、全グレードに標準装備される8インチナビゲーション周りのデザインも先進感、高級感たっぷりだ。
ちなみにシフターは『NSX』や『CR-V』に採用されたボタン式のエレクトリックギアセレクター。シフトレバーがないのも新しさの演出である。その横にはスマホを置くのにちょうどいい、滑り止め付きのコンソールトレー、およびUSBジャック×2が用意されている。その手前にあるのがドライブモードスイッチで、ECON、SPORT、EVの3種類が並べられている。
◆上質な室内空間に4バッグ積めるトランク
さて、シビック比マイナス5mmのヒップポイントとなる低めにセットされた運転席に着座すれば、シートの分厚いクッション感、適切なホールド感による上質なかけ心地に満足できる。セダンの特等席となる後席はと言えば、身長172cmのボクのドライビングポジション背後で、頭上に約100mm、ひざ回りに約210mmもの余裕があった。
また、トランクルームは519リットルの容量(プリウスは502リットル)。具体的にはゴルフバッグ4セットをのみ込むスペースがある。ハイブリッド車の場合、バッテリーなどの大きく重いユニットをどこに置くかがパッケージングの肝になり、それがトランクスペースに入ってくると、容量、シートアレンジなどに影響を与えてしまうのだが、新型インサイトはハイブリッドシステムの一部、IPUを後席下に配置することで、トランクスペースを最大限に使うことができるのだ。
◆シームレスな走行性能は極めて理想的
インサイトの走行性能で注目すべきは3モードパワートレーン。それは「EV DRIVE」、「HYBRID DRIVE」、「ENGINE DRIVE」の3種類のモードを瞬時に切り替えてくれる知能的なシステム、機能である。
発進はもちろんモーターだけの走行だから静かで滑らかなのは当然。しかし、より驚かされるのは、「EV DRIVE」、「HYBRID DRIVE」、「ENGINE DRIVE」の切り変わりを、乗員にほぼ気付かせないシームレスな走行性能だ。
メーター内のパワーメーターを1目盛り以下でキープして走れば(これがインサイトを効率よく走らせるコツ)、インサイトは基本的にモーター走行、つまりパワーフィールは極めて電気自動車に近いということができる(実際にはEV走行は実質約1~2kmロまで、最高速度130km/h以下で可能)。
そして、たとえエンジンが始動しても、エンジンが発するノイズは微小(というか見事な遮断)。高回転まで回しても、快音がはるか遠くから聞こえてくる、そんなイメージなのだ。そしてインサイトは高速走行でさえ恐ろしく静か。セダンとして、極めて理想的な走行性能と言えるだろう。
◆乗り心地がさらに上質になれば鬼に金棒
ドライバーの立場では、リニアな操縦性が好ましい。パワーステアリングはやや重目の設定だが、とにかく高速走行時の直進性の良さ、曲がりのシーンでの正確さ、気持ち良さはなかなかのもの。今回は主に高速クルージングを堪能したが、欧州車を思わせる質の高いドライブフィールを味わせてくれたほどである。低重心パッケージがもたらす安定感たっぷりのフットワークテイストもほめられる。
もっとも、動力性能そのものに驚きはない。いきおい、アクセルペダルを深々と踏んでも、とびっきり速いわけではない。あくまでもジェントルでシームレスな加速力を示すだけだ。また、感動に値すると言ってもいい走りのスムーズさ、静かさに対して、乗り心地に関しては感動領域に達していないと思えたのも本当だ。
転がり抵抗優先のエコタイヤのせいなのか、サスペンションのセッティングなのかは不明だが、「クルマの本質価値」を追求(メーカー談)したのが新型インサイトだとすれば、これで乗り心地がさらにしなやかで上質になれば鬼に金棒だろう。
新型インサイトはセダンボディ化することで、先代では宿敵だったプリウスと直接のライバルではなくなった。とはいえ、日本の路上にぴったりなハイブリッドカー、ファミリーカーという共通点はそのまま。
選択はもはや好みにまかせるしかないが、インサイトで唯一残念なのは、せっかく2モーターになったにもかかわらず、プリウスや、自社のオデッセイハイブリッドなどにある、ハイブリッドカーならではの安心便利機能、AC100V/1500Wコンセントがアクセサリーでも用意されないこと。災害時に威力を発揮するだけに、ぜひオプションリストに加えてもらいたいものだ。
5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
青山尚暉|モータージャーナリスト/ドックライフプロデューサー
自動車専門誌の編集者を経て、フリーのモータージャーナリストに。自動車専門誌をはじめ、一般誌、ウェブサイト等に寄稿。自作測定器による1車30項目以上におよぶパッケージングデータの蓄積は膨大。ペット(犬)、海外旅行関連の書籍も手がけ、また、愛犬とのカーライフに関するテレビ番組、ラジオ番組、イベントに出演。愛犬との快適・安心自動車生活を提案するドッグライフプロデューサーとしての活動、自動車用ペットアクセサリーの企画・開発も行っている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
(レスポンス 青山尚暉)
日本国内の登場に先駆け、ひと足早く発売されたアメリカで「グリーン・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのが、3代目ホンダ『インサイト』だ。
インサイトはもちろん、歴代同様、ハイブリッド専用車。しかしこの新型は最新のシビックをベースに、先代の5ドアハッチバックから、上質で落ち着いた、大人のための純然たるセダンに変身。ハイブリッドシステムも、1モーターの普及型システム=IMAを改め、ホンダ最新の1.5リットルエンジン+2モーターとなる「SPORT HYBRID i-MMD」を採用する。
ボディサイズは全長4675×全幅1820×全高1410mmとインターナショナルサイズで(先代は4290×全幅1695×全高1425mm~、ホイールベース2550mmの5ナンバーサイズだった)、ホイールベースは2700mmに延長。車重は1370~1390kgの範囲にあり、JC08モード燃費は34.2~31.4km/リットル、より実燃費に近いWLTCモードでは28.4~25.6km/リットルという数値になる
最近、エクステリアデザインを変更した、先代のライバルである『プリウス』の最新型主要グレードのJC08モード燃費が37.2km/リットルであることを考えれば控えめな数値に思えるが、それは燃費表示よりもクルマの本質、走行性能を優先したから、と説明される。
◆流麗なスタイリングに、高級感たっぷりなインテリア
セダンと言ってもクーペライクなリヤセクションを持つ新型インサイトのスタイリングは流麗。セダン嫌いの人でも「これならOK…」の存在感ある好デザインだと思える。
インテリアはさらにいい。シートやダッシュボードの表皮には精密なダブルステッチが施され、7インチマルチインフォメーションディスプレーを備えるフルデジタルメーター、全グレードに標準装備される8インチナビゲーション周りのデザインも先進感、高級感たっぷりだ。
ちなみにシフターは『NSX』や『CR-V』に採用されたボタン式のエレクトリックギアセレクター。シフトレバーがないのも新しさの演出である。その横にはスマホを置くのにちょうどいい、滑り止め付きのコンソールトレー、およびUSBジャック×2が用意されている。その手前にあるのがドライブモードスイッチで、ECON、SPORT、EVの3種類が並べられている。
◆上質な室内空間に4バッグ積めるトランク
さて、シビック比マイナス5mmのヒップポイントとなる低めにセットされた運転席に着座すれば、シートの分厚いクッション感、適切なホールド感による上質なかけ心地に満足できる。セダンの特等席となる後席はと言えば、身長172cmのボクのドライビングポジション背後で、頭上に約100mm、ひざ回りに約210mmもの余裕があった。
また、トランクルームは519リットルの容量(プリウスは502リットル)。具体的にはゴルフバッグ4セットをのみ込むスペースがある。ハイブリッド車の場合、バッテリーなどの大きく重いユニットをどこに置くかがパッケージングの肝になり、それがトランクスペースに入ってくると、容量、シートアレンジなどに影響を与えてしまうのだが、新型インサイトはハイブリッドシステムの一部、IPUを後席下に配置することで、トランクスペースを最大限に使うことができるのだ。
◆シームレスな走行性能は極めて理想的
インサイトの走行性能で注目すべきは3モードパワートレーン。それは「EV DRIVE」、「HYBRID DRIVE」、「ENGINE DRIVE」の3種類のモードを瞬時に切り替えてくれる知能的なシステム、機能である。
発進はもちろんモーターだけの走行だから静かで滑らかなのは当然。しかし、より驚かされるのは、「EV DRIVE」、「HYBRID DRIVE」、「ENGINE DRIVE」の切り変わりを、乗員にほぼ気付かせないシームレスな走行性能だ。
メーター内のパワーメーターを1目盛り以下でキープして走れば(これがインサイトを効率よく走らせるコツ)、インサイトは基本的にモーター走行、つまりパワーフィールは極めて電気自動車に近いということができる(実際にはEV走行は実質約1~2kmロまで、最高速度130km/h以下で可能)。
そして、たとえエンジンが始動しても、エンジンが発するノイズは微小(というか見事な遮断)。高回転まで回しても、快音がはるか遠くから聞こえてくる、そんなイメージなのだ。そしてインサイトは高速走行でさえ恐ろしく静か。セダンとして、極めて理想的な走行性能と言えるだろう。
◆乗り心地がさらに上質になれば鬼に金棒
ドライバーの立場では、リニアな操縦性が好ましい。パワーステアリングはやや重目の設定だが、とにかく高速走行時の直進性の良さ、曲がりのシーンでの正確さ、気持ち良さはなかなかのもの。今回は主に高速クルージングを堪能したが、欧州車を思わせる質の高いドライブフィールを味わせてくれたほどである。低重心パッケージがもたらす安定感たっぷりのフットワークテイストもほめられる。
もっとも、動力性能そのものに驚きはない。いきおい、アクセルペダルを深々と踏んでも、とびっきり速いわけではない。あくまでもジェントルでシームレスな加速力を示すだけだ。また、感動に値すると言ってもいい走りのスムーズさ、静かさに対して、乗り心地に関しては感動領域に達していないと思えたのも本当だ。
転がり抵抗優先のエコタイヤのせいなのか、サスペンションのセッティングなのかは不明だが、「クルマの本質価値」を追求(メーカー談)したのが新型インサイトだとすれば、これで乗り心地がさらにしなやかで上質になれば鬼に金棒だろう。
新型インサイトはセダンボディ化することで、先代では宿敵だったプリウスと直接のライバルではなくなった。とはいえ、日本の路上にぴったりなハイブリッドカー、ファミリーカーという共通点はそのまま。
選択はもはや好みにまかせるしかないが、インサイトで唯一残念なのは、せっかく2モーターになったにもかかわらず、プリウスや、自社のオデッセイハイブリッドなどにある、ハイブリッドカーならではの安心便利機能、AC100V/1500Wコンセントがアクセサリーでも用意されないこと。災害時に威力を発揮するだけに、ぜひオプションリストに加えてもらいたいものだ。
5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
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