【トヨタ RAV4ハイブリッド 新型試乗】「97点主義」のクルマ作り…中村孝仁
◆トヨタのクルマ作りが変わった
室内に乗り込んで、スターターボタンを押す。でもエンジンがかかるわけでもなく、メーターの中央付近に緑色の文字でREADYと表示されるだけ。アクセルを少しだけ踏むと、キーンという独特の音を伴って走り出す。
「21世紀に間に合いました」と言って、トヨタが『プリウス』を世に出してからもう20年以上が過ぎた。今やトヨタだけで年間150万台以上の俗に言う電動車を販売しているから、このキーンと唸りながら走るクルマはすっかりお馴染のものになったと思う。今ではミニバンだろうがコンパクトカーだろうが大型セダンだろうが、果てはSUVに至るまで、すべてこのキーンで始まるクルマが作られているのである。
今回RAV4の試乗に出向くにあたり、ほぼ似たようなガタイのヨーロッパ製某メーカーのSUVに乗って行った。こちらは俗に言うハイエンドのブランドで、お値段もRAV4の倍はする。そして今回感じたことは、トヨタのクルマ作りが変わった…という偽らざる素直な感想だ。
◆かつての「80点主義」から「97点主義」へ?
かつてトヨタはそのクルマ作りにおいて、80点主義を掲げていた。これでマジョリティーの受け皿になる。そう考えていたに違いない。だから、完璧を求める我々ジャーナリストからしたら、食い足りなかったのである。今、トヨタはそのクルマ作りを97点主義にしたように思えた。随分中途半端に思えるかもしれないが、これをスマホの充電に例えると分かり易いと思う。
リチウムイオン電池というのは、おおよそ97%あたりまではすっと充電してくれるのだが、残りの3%ほどを充電するのにえらく時間がかかるという体験、皆さんしているのではないだろうか。つまり、これがトヨタの97点主義だ。97%と言えばほぼ満充電に近いから、誰でも不満なく使えるレベル。確かに100%入っていればさらに長く使えるし、そもそも100%から99%に落ちるまでだいぶ使えるから、100%であるにこしたことはない。ヨーロッパのいわゆるハイエンドカーはこの100%を目指す。だから高級な素材を使い、コストをかけるから必然的に値段も高くなる。
一方で97%なら、マジョリティーは納得し、ハイエンドと比べて高級感は劣るかもしれないが、性能的にも大きな差はなく見た目だって十分に美しければ、それで満足できる。おまけにトヨタの品質があれば、むしろ値段が半分の97%を積極的にチョイスするのではないだろうか。
残り3%でどこが違うかというと、スチールの代わりにアルミを使っていたり、あるいはカーボンだったり、高価なダンパーで滑るようなフラット感を演出したり、さらには高級な本革シートを使ったりという差であって、特に走りの部分での差は本当に微妙な領域に差し掛かる。新しいRAV4ハイブリッドは既に完成の域に達しているハイブリッド技術と潤沢なトヨタのリソースをフル活用して作り上げた、極めて出来の良いSUVである。
◆SUVでありながら、オールラウンダー的要素が強い
とにかく使い勝手が良く、ラゲッジスペースの容量はクラストップクラス。カップホルダーをはじめとした収納スペースも十分。シートは快適で、リアシートもリクライニングする等々。上級モデルだとバンパー下の足を入れるだけでテールゲートが開くシステムだって用意されている。
肝心の走りは、2.5リットル直4ユニットとハイブリッドシステムの組み合わせで、これは基本『カムリ』と同じ。どのように走るかというと、カムリの時はこう評した。「驚くほどパワフルというわけでも、アンダーパワーというわけでもなく、まあ中庸。ところが走らせてみると意外なほど伸びが良くてパワフル感に溢れるので驚かされる。」と。もっともカムリよりは少し重そうだし、若干その性能はスポイルされるだろうが、まあ想定の範囲内。実際に走ってみてもパフォーマンス不足はまるで感じられない。
しかも道中に使ったヨーロッパ製ハイエンドSUVと比較した時も、確かに路面から入力されるうねりや荒れに対処する動きで少し負けているものの、大負けしていない。要は3%の差なのである。勿論、あちらは高級な質感を謳っているのだろうが、その質感という点でもほとんど負けていないし、そもそも値段は半額なのだからではどっちを選ぶかと言われれば、費用対効果の側面から見たら、これは圧倒的にRAV4の勝ちということになる。ただ、ブランド力という点で富裕層はこのヨーロッパ製ハイエンドSUVを選ぶのであって、その差はいかんともし難い。
スタイリングは結構クセが強いから、賛否はわかれるものとなるだろうが、台形のホイールオープニングといい、ごつさを前面に押し出したあくの強さといい、どうもジープを意識しているのでは?と思わせる節があるが、ここまで出来が良いとデザイン以前に走りや総合力の高さでこのクルマを選ぶ人は多いだろう。とにかくSUVでありながら、オールラウンダー的要素の強いクルマだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
(レスポンス 中村 孝仁)
室内に乗り込んで、スターターボタンを押す。でもエンジンがかかるわけでもなく、メーターの中央付近に緑色の文字でREADYと表示されるだけ。アクセルを少しだけ踏むと、キーンという独特の音を伴って走り出す。
「21世紀に間に合いました」と言って、トヨタが『プリウス』を世に出してからもう20年以上が過ぎた。今やトヨタだけで年間150万台以上の俗に言う電動車を販売しているから、このキーンと唸りながら走るクルマはすっかりお馴染のものになったと思う。今ではミニバンだろうがコンパクトカーだろうが大型セダンだろうが、果てはSUVに至るまで、すべてこのキーンで始まるクルマが作られているのである。
今回RAV4の試乗に出向くにあたり、ほぼ似たようなガタイのヨーロッパ製某メーカーのSUVに乗って行った。こちらは俗に言うハイエンドのブランドで、お値段もRAV4の倍はする。そして今回感じたことは、トヨタのクルマ作りが変わった…という偽らざる素直な感想だ。
◆かつての「80点主義」から「97点主義」へ?
かつてトヨタはそのクルマ作りにおいて、80点主義を掲げていた。これでマジョリティーの受け皿になる。そう考えていたに違いない。だから、完璧を求める我々ジャーナリストからしたら、食い足りなかったのである。今、トヨタはそのクルマ作りを97点主義にしたように思えた。随分中途半端に思えるかもしれないが、これをスマホの充電に例えると分かり易いと思う。
リチウムイオン電池というのは、おおよそ97%あたりまではすっと充電してくれるのだが、残りの3%ほどを充電するのにえらく時間がかかるという体験、皆さんしているのではないだろうか。つまり、これがトヨタの97点主義だ。97%と言えばほぼ満充電に近いから、誰でも不満なく使えるレベル。確かに100%入っていればさらに長く使えるし、そもそも100%から99%に落ちるまでだいぶ使えるから、100%であるにこしたことはない。ヨーロッパのいわゆるハイエンドカーはこの100%を目指す。だから高級な素材を使い、コストをかけるから必然的に値段も高くなる。
一方で97%なら、マジョリティーは納得し、ハイエンドと比べて高級感は劣るかもしれないが、性能的にも大きな差はなく見た目だって十分に美しければ、それで満足できる。おまけにトヨタの品質があれば、むしろ値段が半分の97%を積極的にチョイスするのではないだろうか。
残り3%でどこが違うかというと、スチールの代わりにアルミを使っていたり、あるいはカーボンだったり、高価なダンパーで滑るようなフラット感を演出したり、さらには高級な本革シートを使ったりという差であって、特に走りの部分での差は本当に微妙な領域に差し掛かる。新しいRAV4ハイブリッドは既に完成の域に達しているハイブリッド技術と潤沢なトヨタのリソースをフル活用して作り上げた、極めて出来の良いSUVである。
◆SUVでありながら、オールラウンダー的要素が強い
とにかく使い勝手が良く、ラゲッジスペースの容量はクラストップクラス。カップホルダーをはじめとした収納スペースも十分。シートは快適で、リアシートもリクライニングする等々。上級モデルだとバンパー下の足を入れるだけでテールゲートが開くシステムだって用意されている。
肝心の走りは、2.5リットル直4ユニットとハイブリッドシステムの組み合わせで、これは基本『カムリ』と同じ。どのように走るかというと、カムリの時はこう評した。「驚くほどパワフルというわけでも、アンダーパワーというわけでもなく、まあ中庸。ところが走らせてみると意外なほど伸びが良くてパワフル感に溢れるので驚かされる。」と。もっともカムリよりは少し重そうだし、若干その性能はスポイルされるだろうが、まあ想定の範囲内。実際に走ってみてもパフォーマンス不足はまるで感じられない。
しかも道中に使ったヨーロッパ製ハイエンドSUVと比較した時も、確かに路面から入力されるうねりや荒れに対処する動きで少し負けているものの、大負けしていない。要は3%の差なのである。勿論、あちらは高級な質感を謳っているのだろうが、その質感という点でもほとんど負けていないし、そもそも値段は半額なのだからではどっちを選ぶかと言われれば、費用対効果の側面から見たら、これは圧倒的にRAV4の勝ちということになる。ただ、ブランド力という点で富裕層はこのヨーロッパ製ハイエンドSUVを選ぶのであって、その差はいかんともし難い。
スタイリングは結構クセが強いから、賛否はわかれるものとなるだろうが、台形のホイールオープニングといい、ごつさを前面に押し出したあくの強さといい、どうもジープを意識しているのでは?と思わせる節があるが、ここまで出来が良いとデザイン以前に走りや総合力の高さでこのクルマを選ぶ人は多いだろう。とにかくSUVでありながら、オールラウンダー的要素の強いクルマだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
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