【BMW 8シリーズクーペ 新型試乗】「走らせている時間」そのものを堪能できる…島崎七生人
◆上級ラグジュアリークーペの系譜
A地点からB地点への単なる移動手段で構わないなら話は別だ。クルマを愛して止まず、こだわりとか自分なりの理想があるとしたら、いつかそれを実現したいと思う。試乗車に乗りながら、久しぶりにそんな甘美な(!?)思考回路のスイッチが入った。
“8”を名乗るも直接の先代は1989年の初代(E31)のみで、むしろ外せないのはE24、E63、F13と3つの世代が存在した『6シリーズ』の系譜だろう。“外せない”と書いたのは、何といっても“6”は、優雅な上級ラグジュアリークーペとして独自の存在感を示してきたからだ。
今回、再び『8シリーズ』として登場した本当のところは不明ながら、BMWの資料の見出しにある“美しさと速さの新次元を提唱”の文言が、まさしく狙いなのだろう。
◆アグレッシブさ一辺倒ではない
スタイリングは全体に筋肉質的で、フロントフェンダーの通風孔から後方に伸びるボディサイドの窪み、張り出したフェンダー、それら力漲るワイドなアンダーボディと相対的に絞られたキャビン(ダブルバブルルーフ…試乗車はオプションのカーボン製…で前寄りのピークをもち、後方に浅い角度で落ちていく)など、かなり凝縮感に溢れたもの。これまでの“6”に較べると格段にダイナミックで、何か変わろうとする意思、気配は伝わるも、決してBMWの文脈をひっくり返すようなアグレッシブさ一辺倒ではないところが注目だ。
インテリアも奇を衒い過ぎないデザイン。眼前のメーターは、新型『3シリーズ』から採用が始まった液晶ディスプレイに向かい合わせのスピード/タコメーターが描写される「BMWライブコクピットプロフェッショナル」だが、もう“1枚”、センターディスプレイが備わるほかは、比較的多数の物理スイッチが並ぶ。
またシフトレバーは形状こそBMWのそれだが、何とクリスタル製で華やかというかあでやかだ。とはいえインストルメントパネルは、昔ながらの表現で言えば“T字型”で、むやみに加飾を多用せず、デザインコンシャスではないから落ち着く。
シート表皮を始め、質感、仕上げレベルはもちろん文句なし。後席は明らかに+2で、試しに座ってみれば天井を避けるために頭を屈める必要があるほどの割り切りようだ。けれどクラスも価格も立派なクルマであるが、乗った瞬間から身体が馴染む、あるいは乗員を懐深く受け入れてくれるような一体感が味わえるのは確かだ。
◆走らせている時間を心ゆくまで堪能できる
もちろん走らせても、クルマとの一体感は変わらない。というより、新開発の4.4リットルV8ツインパワーターボ(530ps/76.5kgm)を搭載、xDrive(4WD)もリヤを重視した駆動力配分を採用。さらにアダプティブサスペンションには電子制御アダプティブスタビライザーも備える。これらのスペックはいかにも“M”らしいが、実際の走りは非常にジェントルで、理屈抜きでドライバーの意思どおりに曲がり、加速し、止まってくれる。
電子制御のスタビライザーも無闇にハードに切り替わるというより、快適なドライバビリティを損なわないように働いている印象。8速ATで引き出されるパフォーマンスは、一般公道上では際限のない範囲を試せるに過ぎない感じで、ややアクセルを強めに踏み込んだ際のウルトラスムースな回転フィール、胸のすくエンジン/排気音も極上モノといえる。
ロードノイズの室内への伝わりかたが小さく、オプションのBOWERS & WILKINSのオーディオの厚みのある豊かな音も存分に楽しめる。何事にも神経を逆撫でされず、走らせている時間を心ゆくまで堪能できる大人のクーペというほかない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。
(レスポンス 島崎七生人)
A地点からB地点への単なる移動手段で構わないなら話は別だ。クルマを愛して止まず、こだわりとか自分なりの理想があるとしたら、いつかそれを実現したいと思う。試乗車に乗りながら、久しぶりにそんな甘美な(!?)思考回路のスイッチが入った。
“8”を名乗るも直接の先代は1989年の初代(E31)のみで、むしろ外せないのはE24、E63、F13と3つの世代が存在した『6シリーズ』の系譜だろう。“外せない”と書いたのは、何といっても“6”は、優雅な上級ラグジュアリークーペとして独自の存在感を示してきたからだ。
今回、再び『8シリーズ』として登場した本当のところは不明ながら、BMWの資料の見出しにある“美しさと速さの新次元を提唱”の文言が、まさしく狙いなのだろう。
◆アグレッシブさ一辺倒ではない
スタイリングは全体に筋肉質的で、フロントフェンダーの通風孔から後方に伸びるボディサイドの窪み、張り出したフェンダー、それら力漲るワイドなアンダーボディと相対的に絞られたキャビン(ダブルバブルルーフ…試乗車はオプションのカーボン製…で前寄りのピークをもち、後方に浅い角度で落ちていく)など、かなり凝縮感に溢れたもの。これまでの“6”に較べると格段にダイナミックで、何か変わろうとする意思、気配は伝わるも、決してBMWの文脈をひっくり返すようなアグレッシブさ一辺倒ではないところが注目だ。
インテリアも奇を衒い過ぎないデザイン。眼前のメーターは、新型『3シリーズ』から採用が始まった液晶ディスプレイに向かい合わせのスピード/タコメーターが描写される「BMWライブコクピットプロフェッショナル」だが、もう“1枚”、センターディスプレイが備わるほかは、比較的多数の物理スイッチが並ぶ。
またシフトレバーは形状こそBMWのそれだが、何とクリスタル製で華やかというかあでやかだ。とはいえインストルメントパネルは、昔ながらの表現で言えば“T字型”で、むやみに加飾を多用せず、デザインコンシャスではないから落ち着く。
シート表皮を始め、質感、仕上げレベルはもちろん文句なし。後席は明らかに+2で、試しに座ってみれば天井を避けるために頭を屈める必要があるほどの割り切りようだ。けれどクラスも価格も立派なクルマであるが、乗った瞬間から身体が馴染む、あるいは乗員を懐深く受け入れてくれるような一体感が味わえるのは確かだ。
◆走らせている時間を心ゆくまで堪能できる
もちろん走らせても、クルマとの一体感は変わらない。というより、新開発の4.4リットルV8ツインパワーターボ(530ps/76.5kgm)を搭載、xDrive(4WD)もリヤを重視した駆動力配分を採用。さらにアダプティブサスペンションには電子制御アダプティブスタビライザーも備える。これらのスペックはいかにも“M”らしいが、実際の走りは非常にジェントルで、理屈抜きでドライバーの意思どおりに曲がり、加速し、止まってくれる。
電子制御のスタビライザーも無闇にハードに切り替わるというより、快適なドライバビリティを損なわないように働いている印象。8速ATで引き出されるパフォーマンスは、一般公道上では際限のない範囲を試せるに過ぎない感じで、ややアクセルを強めに踏み込んだ際のウルトラスムースな回転フィール、胸のすくエンジン/排気音も極上モノといえる。
ロードノイズの室内への伝わりかたが小さく、オプションのBOWERS & WILKINSのオーディオの厚みのある豊かな音も存分に楽しめる。何事にも神経を逆撫でされず、走らせている時間を心ゆくまで堪能できる大人のクーペというほかない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。
(レスポンス 島崎七生人)
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