【ダイハツ タント 新型試乗】「DNGA」はタントの走りを変えたのか?新旧比較…岡本幸一郎
ダイハツ工業は、新世代のプラットフォーム「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」を発表、軽自動車やコンパクトカーに順次採用することを明らかにした。その第一弾となるのが7月に登場する新型『タント』だ。
新型タントそのもののスペックや詳細は現時点では伏せられたままだが、プロトタイプ車両に試乗する機会を得た。今回はDNGAの走りにフォーカスし、モータージャーナリスト岡本幸一郎氏による新旧比較レポートをお届けする。
◆ドアを閉めた瞬間からわかる進化
筆者は主に新旧を乗り比べた印象の違いをレポートするが、とにかく掛け値なしに申し上げて、すべてにおいて大きな進化を遂げていたことを、まずお伝えしておこう。
いちはやくクローズドコースで新旧を乗り比べることができたのだが、新たに「DNGA」をベースに生まれ変わった新型は、走り始めた瞬間、いやドアを閉めた瞬間の音からして従来型と印象が違う。そしてコースインしてペースを上げていくと、その違いは確信となる。
むろん旧型(記事執筆時点では現行型)もけっして悪かったわけではない。ホイールベースが短くてトレッドが狭く、重心が高くタイヤもプアであるなど、いろいろ難しい課題の多々あるところをよくぞここまで仕上げたものだとかねてから感心していた。ところが新型に乗ると、そんなレベルではなかった。大幅に洗練されて、懐の深い走り味になっていることを直感する。
初期のロールが抑えられていて、いかにも上屋の重そうな感覚がずいぶん払拭されていることに加えて、DNGAにより基本骨格がしっかりとしたおかげで、サスペンションが理想的に動いている感覚が伝わってくる。ロールスピードこそ異なれど、追い込んだときの絶対的なロール量は新旧でそれほど大差ないのだが、コーナリング中の接地感が段違い。
旧型はタイヤのカドのあたりが当たっている感じがするのに対し、新型はタイヤ全体がまんべんなく接地している感覚がある。
それを裏付けるかのように、旧型はコーナリング中にタイヤのトレッドよりも上のサイド部分が路面に当たっているであろう音が出ているし、切り増しても旧型は反応せず、それ以上は曲がらないのに対し、新型はけっこうついてくる。
◆新旧ハンドリングの違い
ロールの小ささからして、サスペンションジオメトリーについてはロールセンター(重心ではない)を上げたのかと思ったのだが、実際には逆で、ロールセンターを下げるとともに、スプリングレートを約15%下げ、フリクションの低いショックアブソーバーを採用した上で、スタビライザーを強化してロール剛性を高めることで、より自然で素直なクルマの動きを実現したとのことで、納得した次第である。
それもあって、ハンドリングの切れ味はというと旧型のほうがよく感じられる面もある。
旧型も当時の考え方があってなのだろうが、操舵に対して横Gが素早く立ち上がり、ハンドリングが楽しく感じられる。ただし、新旧を乗り比べるとよくわかったのだが、旧型は接地感が希薄で限界が掴みにくく、まだまだいけそうな錯覚に陥る危惧もある。経験のない若者にとっては、ちょっと危なっかりいセッティングという気もしなくない。その点、新型は終始クルマがどのような状態にあるのか動きが掴みやすい。それは「安全」、「安心」にも直結する。
ステアリングフィール自体も新型はずいぶんよくなっている。旧型はまずアシストありきになっている印象で、いささか軽すぎる。その点、新型はしっかり路面を掴む感覚がステアリングを通しても伝わってきて、走っていることをドライバーに実感させる味付けとなっている。
欲をいうと、ブラシレスモーターを採用したNMKV(日産三菱)の新型車は、さらに上のフィーリングを実現していたので、ぜひダイハツにもさらなる高みを目指してもらえるとなおよいかと思う。
◆快適性、静粛性は
快適性も新型のほうがずっとハイレベルだ。試乗したサーキットは路面がきれいなので、乗り心地の評価はまたあらためてリアルワールドで試したいのだが、今回のために特設された突起を通過する場所では、新型はしなやかにいなすのに対し、旧型はサスペンションの動きがしぶくて突き上げを感じた。
足まわりがかなりソフトで、コースを走ると動きが大きく出た旧型の標準モデルですら、その突起では硬さを感じたのに対し、新型は「カスタム」でもなめるように越えていける。
聞いたところでは旧型は固有振動しやすい車体になっていたからだという。
静粛性についても、旧型も騒々しいというほどではないにせよ、ややざわざわした印象が終始あったのに対し、新型はパワートレイン系の遮音も行き届いており、外界との遮蔽感もある。むろん、静粛性にはこれまでにも増して音の低減に注力したという新開発のタイヤも少なからず効いていることだろう。
◆エンジン、CVTも“別物”の進化
パワートレインの印象も新旧では別物だ。実際にもエンジンやCVTが新しくなっているわけだが、旧型も当時としてはまずまずだと思っていたものの、あらためて乗るとリニアリティにとぼしく、エンジンの回転上昇が先行するなどCVT特有の症状が見受けられるのは否めず。ところが新型はそのあたりがずいぶんと改善されている。これには高速域ではベルトとギアで駆動力を伝達するという世界初の機構が効いているに違いない。
高速走行だけでなく低速側もレシオカバレッジが拡大しているので、ローからもひっぱれる。おかげでCVTの悪癖も顔を出にくく、違和感が大幅に払拭されていて、ちょっと攻めた走り方にも応えてくれるし、日常使いでもより扱いやすく感じられることに違いない。
また、マルチスパークや高タンブル機構などを採用して燃焼素性を改善したエンジンの仕上がりもかなりのものだ。旧型のターボはノッキングを避けるため燃焼の制御が難しい低回転域をすっと飛ばして、すぐに回転を高めるようなセッティングになっていた。
ところが新型に与えられた複数回点火することで確実に燃やしきるようにした新エンジンは、対ノッキング性においても有利であり、加えて低速からトルクが出るようになったことで、前出のCVTとの相乗効果で、よりリニアで力強くダイレクト感のある走りを実現している。いろいろいいことづくめである。
むろん動力性能の向上には車両重量が軽くなったことも効いているとして、ターボのほうがずっとパワフルなのはいうまでもないが、新旧を比べての上がり幅としては自然吸気のほうが大きいように感じられた。これなら高速道路を含めたリアルワールドでも、あまりストレスを感じることなく使えるのではないかと思う。
このカテゴリーにおいて、走りはホンダの『N-BOX』が抜群に優れていると思っていたのだが、新型タントはそこに一矢も二矢も報いる、想像を超える仕上がりであった。すでに評判のパッケージングやユーティリティだけでも非常に魅力的なタントが、最新の先進技術を盛り込むとともに、こうして走行性能をジャンプアップさせるのだから、新型の発売を心待ちにしている人は、大いに期待して良いと思う。
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
(レスポンス 岡本幸一郎)
新型タントそのもののスペックや詳細は現時点では伏せられたままだが、プロトタイプ車両に試乗する機会を得た。今回はDNGAの走りにフォーカスし、モータージャーナリスト岡本幸一郎氏による新旧比較レポートをお届けする。
◆ドアを閉めた瞬間からわかる進化
筆者は主に新旧を乗り比べた印象の違いをレポートするが、とにかく掛け値なしに申し上げて、すべてにおいて大きな進化を遂げていたことを、まずお伝えしておこう。
いちはやくクローズドコースで新旧を乗り比べることができたのだが、新たに「DNGA」をベースに生まれ変わった新型は、走り始めた瞬間、いやドアを閉めた瞬間の音からして従来型と印象が違う。そしてコースインしてペースを上げていくと、その違いは確信となる。
むろん旧型(記事執筆時点では現行型)もけっして悪かったわけではない。ホイールベースが短くてトレッドが狭く、重心が高くタイヤもプアであるなど、いろいろ難しい課題の多々あるところをよくぞここまで仕上げたものだとかねてから感心していた。ところが新型に乗ると、そんなレベルではなかった。大幅に洗練されて、懐の深い走り味になっていることを直感する。
初期のロールが抑えられていて、いかにも上屋の重そうな感覚がずいぶん払拭されていることに加えて、DNGAにより基本骨格がしっかりとしたおかげで、サスペンションが理想的に動いている感覚が伝わってくる。ロールスピードこそ異なれど、追い込んだときの絶対的なロール量は新旧でそれほど大差ないのだが、コーナリング中の接地感が段違い。
旧型はタイヤのカドのあたりが当たっている感じがするのに対し、新型はタイヤ全体がまんべんなく接地している感覚がある。
それを裏付けるかのように、旧型はコーナリング中にタイヤのトレッドよりも上のサイド部分が路面に当たっているであろう音が出ているし、切り増しても旧型は反応せず、それ以上は曲がらないのに対し、新型はけっこうついてくる。
◆新旧ハンドリングの違い
ロールの小ささからして、サスペンションジオメトリーについてはロールセンター(重心ではない)を上げたのかと思ったのだが、実際には逆で、ロールセンターを下げるとともに、スプリングレートを約15%下げ、フリクションの低いショックアブソーバーを採用した上で、スタビライザーを強化してロール剛性を高めることで、より自然で素直なクルマの動きを実現したとのことで、納得した次第である。
それもあって、ハンドリングの切れ味はというと旧型のほうがよく感じられる面もある。
旧型も当時の考え方があってなのだろうが、操舵に対して横Gが素早く立ち上がり、ハンドリングが楽しく感じられる。ただし、新旧を乗り比べるとよくわかったのだが、旧型は接地感が希薄で限界が掴みにくく、まだまだいけそうな錯覚に陥る危惧もある。経験のない若者にとっては、ちょっと危なっかりいセッティングという気もしなくない。その点、新型は終始クルマがどのような状態にあるのか動きが掴みやすい。それは「安全」、「安心」にも直結する。
ステアリングフィール自体も新型はずいぶんよくなっている。旧型はまずアシストありきになっている印象で、いささか軽すぎる。その点、新型はしっかり路面を掴む感覚がステアリングを通しても伝わってきて、走っていることをドライバーに実感させる味付けとなっている。
欲をいうと、ブラシレスモーターを採用したNMKV(日産三菱)の新型車は、さらに上のフィーリングを実現していたので、ぜひダイハツにもさらなる高みを目指してもらえるとなおよいかと思う。
◆快適性、静粛性は
快適性も新型のほうがずっとハイレベルだ。試乗したサーキットは路面がきれいなので、乗り心地の評価はまたあらためてリアルワールドで試したいのだが、今回のために特設された突起を通過する場所では、新型はしなやかにいなすのに対し、旧型はサスペンションの動きがしぶくて突き上げを感じた。
足まわりがかなりソフトで、コースを走ると動きが大きく出た旧型の標準モデルですら、その突起では硬さを感じたのに対し、新型は「カスタム」でもなめるように越えていける。
聞いたところでは旧型は固有振動しやすい車体になっていたからだという。
静粛性についても、旧型も騒々しいというほどではないにせよ、ややざわざわした印象が終始あったのに対し、新型はパワートレイン系の遮音も行き届いており、外界との遮蔽感もある。むろん、静粛性にはこれまでにも増して音の低減に注力したという新開発のタイヤも少なからず効いていることだろう。
◆エンジン、CVTも“別物”の進化
パワートレインの印象も新旧では別物だ。実際にもエンジンやCVTが新しくなっているわけだが、旧型も当時としてはまずまずだと思っていたものの、あらためて乗るとリニアリティにとぼしく、エンジンの回転上昇が先行するなどCVT特有の症状が見受けられるのは否めず。ところが新型はそのあたりがずいぶんと改善されている。これには高速域ではベルトとギアで駆動力を伝達するという世界初の機構が効いているに違いない。
高速走行だけでなく低速側もレシオカバレッジが拡大しているので、ローからもひっぱれる。おかげでCVTの悪癖も顔を出にくく、違和感が大幅に払拭されていて、ちょっと攻めた走り方にも応えてくれるし、日常使いでもより扱いやすく感じられることに違いない。
また、マルチスパークや高タンブル機構などを採用して燃焼素性を改善したエンジンの仕上がりもかなりのものだ。旧型のターボはノッキングを避けるため燃焼の制御が難しい低回転域をすっと飛ばして、すぐに回転を高めるようなセッティングになっていた。
ところが新型に与えられた複数回点火することで確実に燃やしきるようにした新エンジンは、対ノッキング性においても有利であり、加えて低速からトルクが出るようになったことで、前出のCVTとの相乗効果で、よりリニアで力強くダイレクト感のある走りを実現している。いろいろいいことづくめである。
むろん動力性能の向上には車両重量が軽くなったことも効いているとして、ターボのほうがずっとパワフルなのはいうまでもないが、新旧を比べての上がり幅としては自然吸気のほうが大きいように感じられた。これなら高速道路を含めたリアルワールドでも、あまりストレスを感じることなく使えるのではないかと思う。
このカテゴリーにおいて、走りはホンダの『N-BOX』が抜群に優れていると思っていたのだが、新型タントはそこに一矢も二矢も報いる、想像を超える仕上がりであった。すでに評判のパッケージングやユーティリティだけでも非常に魅力的なタントが、最新の先進技術を盛り込むとともに、こうして走行性能をジャンプアップさせるのだから、新型の発売を心待ちにしている人は、大いに期待して良いと思う。
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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