【ボルボ XC90ディーゼル 新型試乗】ボルボのディーゼルは“奥さんキラー”だ!…河西啓介
◆主婦ネットワークで囁かれる“ディーゼル”のウワサ
自動車の世界では「電動化」の流れが加速しているが、こと日本の輸入車マーケットにおいては、このところ「ディーゼル」が注目を集めている感がある。メルセデスは今年になって小さな『Aクラス』と大きな『Gクラス』の両方にディーゼルモデルを追加し、プジョーなどフランス勢も近年、ディーゼルの導入を積極的に行っている。
先日、僕の知人がメルセデスのディーゼルモデルを買った。聞けば、購入理由は奥さんの“ディーゼル推し”だったと言う。買い替えを検討していると奥さんが突然、「そういえばディーゼルっていいんでしょ?」と言ったそうだ。どうやら彼女の周りの主婦ネットワークで、「ディーゼルって燃費いいらしいよー」と話題になっていたらしい。
思えば石原都知事による“ディーゼル悪玉論”ぶち上げから、欧州車ブランドによる排ガス規制不正問題まで、日本において逆風を受け続けてきたディーゼル車だが、ついに世の女性がディーゼルのメリットを語るようになった……、と思うと感慨深い。いずれにしても日本においてディーゼルモデルはいま、ちょっと大げさに言えば「出せば売れる」状態にある。
◆“スウェーデン推し”になったボルボ
先ごろボルボのSUV、『XC90』にディーゼルエンジンを積む「D5」が追加された。現行XC90の日本デビューが2016年だから、「今ごろ?」という気もするが、まあいろいろあったんだろう。5月、山形・庄内地方を舞台に行われたXC90 D5の試乗会に参加した。
羽田から飛行機で小一時間のフライトを経て到着した庄内空港のパーキングには、オールブラックのXC90が待っていた。長さほぼ5m、幅1.9m超の真っ黒なボディ。その迫力に半歩引いたが、逆に言えばいまのボルボには、メルセデスにもBMWにも負けない“オーラ”があるとも言える。
いざドアを開けて車内に乗り込むと、別世界が待っている。ベージュのレザーとウッドに包まれる上質な室内。思わず“スカンジナビア・デザイン”というワードが頭に浮かぶ、シンプルでセンスのいいインテリアだ。精悍な見た目と、癒し系の室内のギャップに萌える。やはりこのデザインセンスこそいちばんの“武器”だよなと、最新のボルボ車に乗るたび思わされる。
広報担当者によれば、じつは以前のボルボは、ことさら「スウェーデン」、「スカンジナビア」というキャラや価値観を押し出していなかったそうだ。だが2010年にフォードの元を離れて中国の吉利汽車傘下に入ってから、ボルボは変わった。開発の独自性は保ちつつ、自らの個性を強く表現できる環境を手に入れたからだ。その結果生まれたのが「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」と呼ばれる、あたらしいボルボ車に共通して使われる新世代プラットフォームであり、このSPAを用いて作られた最初のモデルが2016年に登場した現行XC90だった。
◆エンジン音は聞こえない
庄内では日本海を望む海岸線、そして羽黒山や月山をめぐるワインディングロードを走った。初夏を思わせる日差しと爽やかな風を受けながらのドライブだったが、強い印象を受けたのはXC90 D5の力強さ、乗り心地のしなやかさ、そして望外の“静かさ”だった。
試乗車は「D5 AWDインスクリプション」で、搭載されるエンジンは235psの最高出力と480Nmの最大トルクを発揮する2リットル・ディーゼルターボ。ちなみに『XC60』に搭載される「D4」のディーゼルエンジンは同じ2リットル・ターボながら190psと400Nmだから、比してこの「D5」エンジンはかなりパワフルだ。今回、それなりに急峻な山道も走ったが、2トン超のボディを持て余すことはなく、スポーティなセダンやクーペと遜色ないペースでドライブすることができた。
乗り心地のよさは、XC90最大の美点だと感じた。路面の細かな凹凸から大きなうねりまでしなやかにいなし、かといって足まわりがフワフワしている訳ではなく、ハンドリングはシュアだ。少し前に『V90クロスカントリー』に試乗し、その乗り心地のよさに感心したのだが、このXC90はさらに柔らかく、快適に感じられた。車重の重さもよい方向に作用しているのだろう。ちなみに試乗車にはオプションのエアサスペンションが備わっていた。
そして望外と表現した静粛性の高さについては、ウィンドウを閉めて運転している限り、ディーゼルエンジン特有の「カラカラカラ……」という音はまったく聞こえなかった。エンジンをかけたまま車外に出れば、それなりの音がしているから、車体の遮音性が相当に高いのだろう。とはいえこれは必ずしもボルボだけでなく、ほかの欧州製ディーゼル車にも概して言えること。つまり「ディーゼル=煩い」というのはもはや過去の話、と言っていい。
◆給油なしで1000km走ることが可能
じつはXC90は、グローバルではXC60に次いで、全ボルボ車中2番目に売れているモデル(年間/約9万4000台)なのだという。日本では導入から3年が経つ現在でも年間1000台近く売れていると言うから、非常に好調なセールスを維持していると言っていいだろう。ゆえにこのディーゼル追加を待っていた人も多いはずだ。今回試乗した印象では、その期待を裏切らないモデルだと感じた。
ディーゼルモデルといえば、気になるのは燃費だろう。今回の試乗では実燃費を測ることはできなかったが、カタログ値ではWLTCモードで13.6km/Lとなっている。燃料タンク容量は71リッターだから、計算上はワンタンクで1000km近い走行が可能だ。
精悍でスタイリッシュな外観、北欧デザインの癒し系インテリア、そして燃費のよさ。財力的な問題さえなければ、世の奥さまが、このクルマを買うのに反対する理由はないように思える。ボルボのディーゼルは、自動車界きっての“マダム・キラー”なのである。
5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。
(レスポンス 河西啓介)
自動車の世界では「電動化」の流れが加速しているが、こと日本の輸入車マーケットにおいては、このところ「ディーゼル」が注目を集めている感がある。メルセデスは今年になって小さな『Aクラス』と大きな『Gクラス』の両方にディーゼルモデルを追加し、プジョーなどフランス勢も近年、ディーゼルの導入を積極的に行っている。
先日、僕の知人がメルセデスのディーゼルモデルを買った。聞けば、購入理由は奥さんの“ディーゼル推し”だったと言う。買い替えを検討していると奥さんが突然、「そういえばディーゼルっていいんでしょ?」と言ったそうだ。どうやら彼女の周りの主婦ネットワークで、「ディーゼルって燃費いいらしいよー」と話題になっていたらしい。
思えば石原都知事による“ディーゼル悪玉論”ぶち上げから、欧州車ブランドによる排ガス規制不正問題まで、日本において逆風を受け続けてきたディーゼル車だが、ついに世の女性がディーゼルのメリットを語るようになった……、と思うと感慨深い。いずれにしても日本においてディーゼルモデルはいま、ちょっと大げさに言えば「出せば売れる」状態にある。
◆“スウェーデン推し”になったボルボ
先ごろボルボのSUV、『XC90』にディーゼルエンジンを積む「D5」が追加された。現行XC90の日本デビューが2016年だから、「今ごろ?」という気もするが、まあいろいろあったんだろう。5月、山形・庄内地方を舞台に行われたXC90 D5の試乗会に参加した。
羽田から飛行機で小一時間のフライトを経て到着した庄内空港のパーキングには、オールブラックのXC90が待っていた。長さほぼ5m、幅1.9m超の真っ黒なボディ。その迫力に半歩引いたが、逆に言えばいまのボルボには、メルセデスにもBMWにも負けない“オーラ”があるとも言える。
いざドアを開けて車内に乗り込むと、別世界が待っている。ベージュのレザーとウッドに包まれる上質な室内。思わず“スカンジナビア・デザイン”というワードが頭に浮かぶ、シンプルでセンスのいいインテリアだ。精悍な見た目と、癒し系の室内のギャップに萌える。やはりこのデザインセンスこそいちばんの“武器”だよなと、最新のボルボ車に乗るたび思わされる。
広報担当者によれば、じつは以前のボルボは、ことさら「スウェーデン」、「スカンジナビア」というキャラや価値観を押し出していなかったそうだ。だが2010年にフォードの元を離れて中国の吉利汽車傘下に入ってから、ボルボは変わった。開発の独自性は保ちつつ、自らの個性を強く表現できる環境を手に入れたからだ。その結果生まれたのが「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」と呼ばれる、あたらしいボルボ車に共通して使われる新世代プラットフォームであり、このSPAを用いて作られた最初のモデルが2016年に登場した現行XC90だった。
◆エンジン音は聞こえない
庄内では日本海を望む海岸線、そして羽黒山や月山をめぐるワインディングロードを走った。初夏を思わせる日差しと爽やかな風を受けながらのドライブだったが、強い印象を受けたのはXC90 D5の力強さ、乗り心地のしなやかさ、そして望外の“静かさ”だった。
試乗車は「D5 AWDインスクリプション」で、搭載されるエンジンは235psの最高出力と480Nmの最大トルクを発揮する2リットル・ディーゼルターボ。ちなみに『XC60』に搭載される「D4」のディーゼルエンジンは同じ2リットル・ターボながら190psと400Nmだから、比してこの「D5」エンジンはかなりパワフルだ。今回、それなりに急峻な山道も走ったが、2トン超のボディを持て余すことはなく、スポーティなセダンやクーペと遜色ないペースでドライブすることができた。
乗り心地のよさは、XC90最大の美点だと感じた。路面の細かな凹凸から大きなうねりまでしなやかにいなし、かといって足まわりがフワフワしている訳ではなく、ハンドリングはシュアだ。少し前に『V90クロスカントリー』に試乗し、その乗り心地のよさに感心したのだが、このXC90はさらに柔らかく、快適に感じられた。車重の重さもよい方向に作用しているのだろう。ちなみに試乗車にはオプションのエアサスペンションが備わっていた。
そして望外と表現した静粛性の高さについては、ウィンドウを閉めて運転している限り、ディーゼルエンジン特有の「カラカラカラ……」という音はまったく聞こえなかった。エンジンをかけたまま車外に出れば、それなりの音がしているから、車体の遮音性が相当に高いのだろう。とはいえこれは必ずしもボルボだけでなく、ほかの欧州製ディーゼル車にも概して言えること。つまり「ディーゼル=煩い」というのはもはや過去の話、と言っていい。
◆給油なしで1000km走ることが可能
じつはXC90は、グローバルではXC60に次いで、全ボルボ車中2番目に売れているモデル(年間/約9万4000台)なのだという。日本では導入から3年が経つ現在でも年間1000台近く売れていると言うから、非常に好調なセールスを維持していると言っていいだろう。ゆえにこのディーゼル追加を待っていた人も多いはずだ。今回試乗した印象では、その期待を裏切らないモデルだと感じた。
ディーゼルモデルといえば、気になるのは燃費だろう。今回の試乗では実燃費を測ることはできなかったが、カタログ値ではWLTCモードで13.6km/Lとなっている。燃料タンク容量は71リッターだから、計算上はワンタンクで1000km近い走行が可能だ。
精悍でスタイリッシュな外観、北欧デザインの癒し系インテリア、そして燃費のよさ。財力的な問題さえなければ、世の奥さまが、このクルマを買うのに反対する理由はないように思える。ボルボのディーゼルは、自動車界きっての“マダム・キラー”なのである。
5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。
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