【トヨタ スープラ 新型試乗】3グレードに優劣なし!洗練の直6、奥深さならSZか…渡辺陽一郎
最近はスポーツカーの売れ行きが世界的に低調で、新型車の発売も滞りがちだ。それだけにトヨタ『スープラ』の注目度は高い。
グレード構成は、直列4気筒2リットルターボが「SZ」(価格は490万円)と「SZ-R」(590万円)、直列6気筒3リットルターボが「RZ」(690万円)になる。
◆スポーツカーらしい楽しさなら直6の洗練が際立つ
エンジン性能は、3グレードですべて異なる。2リットルターボも過給圧を変えたためだ。実用的にはSZで十分だろう。最高出力は197馬力、最大トルクは32.7kg-mだから、数値は一般的な3リットルのノーマルエンジンと同程度だが、実用回転域の駆動力にはそれ以上の余裕がある。トランスミッションは全グレードが有段式の8速ATで(ギヤ比はすべて共通)、アクセルペダルを深く踏み込めば、高回転域を維持できるから加速感は活発だ。
SZ-RのターボユニットはSZと共通だが、過給圧を高めたことで、258馬力/40.8kgーmを発生する。SZに比べて実用回転域の駆動力も向上したが、特に4000回転を超えた時の吹き上がりが鋭い。動力性能を自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると4リットル相当になる。
ただしSZや3リットルのRZに比べると、ターボの特性が少し強い。例えば峠道のカーブをエンジンが4000回転を超えた状態で走っている時など、アクセル操作に若干気を使う。
その点でRZの3リットルターボは、さまざまな機能が洗練される。動力性能は340馬力/51kg-mだから、ノーマルエンジンに当てはめると4.5~5リットルに相当するが、排気量に余裕があるからSZ-Rほどターボに頼っている印象はない。アクセル操作に対する駆動力の増減が正確で運転しやすい。
また排気量が3リットルだから、アクセルペダルを軽く踏んでいる1400回転付近でも相応の性能が確保され、粘りのある走りを行える。
そして3リットルターボの一番の魅力は、直列6気筒による滑らかな回転感覚だ。4気筒2リットルターボも満足できるが、直列6気筒では細かな振動やノイズが払拭され、エンジンの回転を磨き上げたような印象がある。
つまり加速の所要時間で表現されるような性能はSZ-Rで十分だが、感覚的な吹き上がりの洗練度では、RZが最も魅力的だ。特にスポーツカーは、当然ながら運転を楽しむことに価値があるため、直列6気筒ターボの価値が際立つ。
◆マニアックな奥の深さがある「SZ」
一方、走行安定性と乗り心地もグレードによって異なる。足まわり、デファレンシャルギア、タイヤサイズなどが、グレードに応じて違うからだ。
まずSZでも安定性は十分に高いが、SZ-RやRZに比べると、4輪の接地性が少し下がる。例えば危険回避を想定して、下り坂のカーブでハンドルを切り込みながらアクセルペダルを戻すような操作をすると、後輪の接地性が低下しやすい。これはスープラがカーブの曲がりやすさと機敏な運転感覚を追求して、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)を2470mmに抑えたことも影響している。
ちなみに上級グレードはタイヤサイズが拡大され、ショックアブソーバーの減衰力を調節するAVSと、アクティブデファレンシャルも装着される。後者は電子制御される多板クラッチを使ったLSD(リミテッドスリップデフ)で、直進時やアクセルペダルを戻した状態でも作動して安定性を高めるが、SZはこれらを装着していない。安定性が見劣りするのは当然で、タイヤがランフラットだから乗り心地も少し粗い。
しかしこのSZの運転感覚は、一概に欠点とはいえない。電子制御機能が抑えられ、運転感覚が自然に感じられるからだ。
そしてスープラはホイールベースが短いから、今のクルマでは珍しく、ボディがホイールよりも前後に張り出したオーバーハングが長い。従って外観の見え方がクラシックだ。17インチタイヤのSZでは、このスープラの個性が一層際立つ。
短いホイールベースによる後輪の横滑りを誘発しやすい運転感覚も、スープラのノスタルジックな外観に似合う。購入後にタイヤサイズを変えずにランフラットではない普通のタイヤに交換すると、乗り心地が向上して、後輪が粘りながら姿勢を変えていく適度な緩さも味わえるだろう。一般的にいえばSZは、チューニングやドレスアップのベースグレードだが、マニアックな奥の深さも併せ持つ。
SZ-Rは、AVS、アクティブデファレンシャル、18インチタイヤによって走行安定性を高め、今日のスポーツカーらしい切れの良い運転感覚を味わえる。直列6気筒3リットルターボのRZに比べると、ボディの前側を中心に車両重量が70kg軽いから、軽快に良く曲がる。乗り心地は少し硬いが、車両の動きは最もスポーティだ。
RZは直列6気筒3リットルターボを搭載して、足まわりのメカニズムはSZ-Rに準じるが、タイヤサイズは19インチになる。カーブを曲がる性能は高いが、SZ-Rに比べると軽快感が少し下がり、しっとりした落ち着いた印象を強める。
◆「優劣はない」異なる魅力の3グレード
以上3グレードの性格を端的にいえば、SZは前述のように手を加えるベース車に最適で、4気筒ターボながら、4代目のA80型に似た懐かしい運転感覚を味わえる。A80型も電子制御の機能を最小限度に抑え、ドライバーのコントロール領域を広げていた。
SZ-Rはターボのクセが少し強いが、機敏に良く曲がり、峠道を積極的に走る使い方が似合う。
RZは直列6気筒らしくエンジンの回転感覚が上質で、低回転域の駆動力も高いから、高速道路を使った長距離移動にも適する。危険回避の能力が優れているため、高速道路を走行中に、アクシデントに遭遇した時の安心感も高い。一般的にスポーツカーは運転を楽しむクルマとされるが、万一の時の安全性が高いメリットもある。
なおグレード間の価格差は、前述のように100万円刻みだ。SZとSZ-Rの価格内訳を大雑把にいえば、メカニズムと装備の価格換算額が75万円で、残りの25万円はターボエンジンをチューニングした対価になる。
SZ-RとRZは、装備やメカニズムの違いが25万円相当で、75万円がエンジンの2気筒/1リットルを加えた対価と考えれば良い。選びやすいグレード構成になっている。
グレード同士を比べると、互いに優劣はなく、それぞれ違った魅力を備える。自分に適したスープラはどれか。グレード選びの段階から、大いに楽しんで頂きたい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★
渡辺陽一郎|カーライフ・ジャーナリスト
1961年に生まれ、1985年に自動車雑誌を扱う出版社に入社。編集者として購入ガイド誌、4WD誌、キャンピングカー誌などを手掛け、10年ほど編集長を務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。
(レスポンス ITS DAYS)
グレード構成は、直列4気筒2リットルターボが「SZ」(価格は490万円)と「SZ-R」(590万円)、直列6気筒3リットルターボが「RZ」(690万円)になる。
◆スポーツカーらしい楽しさなら直6の洗練が際立つ
エンジン性能は、3グレードですべて異なる。2リットルターボも過給圧を変えたためだ。実用的にはSZで十分だろう。最高出力は197馬力、最大トルクは32.7kg-mだから、数値は一般的な3リットルのノーマルエンジンと同程度だが、実用回転域の駆動力にはそれ以上の余裕がある。トランスミッションは全グレードが有段式の8速ATで(ギヤ比はすべて共通)、アクセルペダルを深く踏み込めば、高回転域を維持できるから加速感は活発だ。
SZ-RのターボユニットはSZと共通だが、過給圧を高めたことで、258馬力/40.8kgーmを発生する。SZに比べて実用回転域の駆動力も向上したが、特に4000回転を超えた時の吹き上がりが鋭い。動力性能を自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると4リットル相当になる。
ただしSZや3リットルのRZに比べると、ターボの特性が少し強い。例えば峠道のカーブをエンジンが4000回転を超えた状態で走っている時など、アクセル操作に若干気を使う。
その点でRZの3リットルターボは、さまざまな機能が洗練される。動力性能は340馬力/51kg-mだから、ノーマルエンジンに当てはめると4.5~5リットルに相当するが、排気量に余裕があるからSZ-Rほどターボに頼っている印象はない。アクセル操作に対する駆動力の増減が正確で運転しやすい。
また排気量が3リットルだから、アクセルペダルを軽く踏んでいる1400回転付近でも相応の性能が確保され、粘りのある走りを行える。
そして3リットルターボの一番の魅力は、直列6気筒による滑らかな回転感覚だ。4気筒2リットルターボも満足できるが、直列6気筒では細かな振動やノイズが払拭され、エンジンの回転を磨き上げたような印象がある。
つまり加速の所要時間で表現されるような性能はSZ-Rで十分だが、感覚的な吹き上がりの洗練度では、RZが最も魅力的だ。特にスポーツカーは、当然ながら運転を楽しむことに価値があるため、直列6気筒ターボの価値が際立つ。
◆マニアックな奥の深さがある「SZ」
一方、走行安定性と乗り心地もグレードによって異なる。足まわり、デファレンシャルギア、タイヤサイズなどが、グレードに応じて違うからだ。
まずSZでも安定性は十分に高いが、SZ-RやRZに比べると、4輪の接地性が少し下がる。例えば危険回避を想定して、下り坂のカーブでハンドルを切り込みながらアクセルペダルを戻すような操作をすると、後輪の接地性が低下しやすい。これはスープラがカーブの曲がりやすさと機敏な運転感覚を追求して、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)を2470mmに抑えたことも影響している。
ちなみに上級グレードはタイヤサイズが拡大され、ショックアブソーバーの減衰力を調節するAVSと、アクティブデファレンシャルも装着される。後者は電子制御される多板クラッチを使ったLSD(リミテッドスリップデフ)で、直進時やアクセルペダルを戻した状態でも作動して安定性を高めるが、SZはこれらを装着していない。安定性が見劣りするのは当然で、タイヤがランフラットだから乗り心地も少し粗い。
しかしこのSZの運転感覚は、一概に欠点とはいえない。電子制御機能が抑えられ、運転感覚が自然に感じられるからだ。
そしてスープラはホイールベースが短いから、今のクルマでは珍しく、ボディがホイールよりも前後に張り出したオーバーハングが長い。従って外観の見え方がクラシックだ。17インチタイヤのSZでは、このスープラの個性が一層際立つ。
短いホイールベースによる後輪の横滑りを誘発しやすい運転感覚も、スープラのノスタルジックな外観に似合う。購入後にタイヤサイズを変えずにランフラットではない普通のタイヤに交換すると、乗り心地が向上して、後輪が粘りながら姿勢を変えていく適度な緩さも味わえるだろう。一般的にいえばSZは、チューニングやドレスアップのベースグレードだが、マニアックな奥の深さも併せ持つ。
SZ-Rは、AVS、アクティブデファレンシャル、18インチタイヤによって走行安定性を高め、今日のスポーツカーらしい切れの良い運転感覚を味わえる。直列6気筒3リットルターボのRZに比べると、ボディの前側を中心に車両重量が70kg軽いから、軽快に良く曲がる。乗り心地は少し硬いが、車両の動きは最もスポーティだ。
RZは直列6気筒3リットルターボを搭載して、足まわりのメカニズムはSZ-Rに準じるが、タイヤサイズは19インチになる。カーブを曲がる性能は高いが、SZ-Rに比べると軽快感が少し下がり、しっとりした落ち着いた印象を強める。
◆「優劣はない」異なる魅力の3グレード
以上3グレードの性格を端的にいえば、SZは前述のように手を加えるベース車に最適で、4気筒ターボながら、4代目のA80型に似た懐かしい運転感覚を味わえる。A80型も電子制御の機能を最小限度に抑え、ドライバーのコントロール領域を広げていた。
SZ-Rはターボのクセが少し強いが、機敏に良く曲がり、峠道を積極的に走る使い方が似合う。
RZは直列6気筒らしくエンジンの回転感覚が上質で、低回転域の駆動力も高いから、高速道路を使った長距離移動にも適する。危険回避の能力が優れているため、高速道路を走行中に、アクシデントに遭遇した時の安心感も高い。一般的にスポーツカーは運転を楽しむクルマとされるが、万一の時の安全性が高いメリットもある。
なおグレード間の価格差は、前述のように100万円刻みだ。SZとSZ-Rの価格内訳を大雑把にいえば、メカニズムと装備の価格換算額が75万円で、残りの25万円はターボエンジンをチューニングした対価になる。
SZ-RとRZは、装備やメカニズムの違いが25万円相当で、75万円がエンジンの2気筒/1リットルを加えた対価と考えれば良い。選びやすいグレード構成になっている。
グレード同士を比べると、互いに優劣はなく、それぞれ違った魅力を備える。自分に適したスープラはどれか。グレード選びの段階から、大いに楽しんで頂きたい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★
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