【ボルボ V60クロスカントリー 新型試乗】クルマを見れば、人気の理由がわかる…中村孝仁

ボルボ V60クロスカントリー
◆ワゴンベースSUVの元祖

SUVというジャンルが台頭してきたのは1990年代。特にモノコックボディを持ったクロスオーバーSUVが出現した90年代後半からは、爆発的人気を博し始めた。

こうした中、ボルボをはじめとして当時本格派SUVをラインナップに持たなかったメーカーは、既存のクルマの車高を上げ、外観をワイルドに仕立てたクロスカントリーモデルを投入してその潮流に乗ろうとした。

その先駆車として誕生したのが、ボルボ『V70XC』。つまりは現行『V60クロスカントリー』(以下、CC)の祖先である。誕生は1997年で、その後アウディ『オールロードクワトロ』が続き、少なくともヨーロッパにおいては一定の市場を確保することに成功した。ただ、あまりにもSUV人気が強く、ボルボにしてもアウディにしても、その後に本格的なSUVモデルを投入したことはご存知の通り。

しかし、ワゴンをベースにしてクロスカントリーモデルを作る手法は近年特に市民権を得てきたようで、VWは『パサート・オールトラック』や『ゴルフ・オールトラック』。そしてメルセデスは『Eクラス』のオールテレインと、最近になって次から次へと誕生している状況である。


◆都会で使えるSUV

このワゴンベースのクロスカントリーモデルの良い点は、SUVほど仰々しくなく、見た目にもサイズ感はワゴンと変わらず、それでいながらしっかりと地上高があるからSUV並の走破性を持ち、さらには運動性能は重心高が低いことも手伝ってSUV以上の性能を持っていることである。特に多くのSUVは都会の立体駐車場に入れないのに対し、V60CCをはじめとするこの種のモデルはほぼそれをクリアして、都会での使い勝手の良さがアピールできる。

ボディは完全にV60そのものだが、横から見ると見事なほど車高が上がっているのがわかる。それにフェンダーフレアに黒の樹脂製ホイールアーチを装着して、クロスカントリー風をアピールしているが、やはり最低地上高210mmという、SUV顔負けの車高の高さがV60CCを特徴づけていると言って過言ではない。もっとも地上高はあっても前後オーバーハングはそれなりに長いから、本格的オフロードを走るには不向きで、あくまでもちょっとした悪路や雪道を想定したクルマであることは間違いない。

近年ボルボはディーゼル市場からの撤退を示唆している。だからこのV60CCにもディーゼルの設定はなく、日本市場は「T5」の名を持つ4気筒直噴ターボガソリンエンジンのみの設定である。

そしてAWDのシステムはボルボが使い始めて一気にその採用が拡大した、ハルデックス社製のシステム。しかしハルデックスのこのトラクションコントロール部門はボルグワーナーに買収されたことで、現在ではボルグワーナー製と称するのが正しいのかもしれないが、いずれにせよ最新鋭第5世代のものが使われている。いわゆるオンデマンドタイプで、いつ4WDで走っているのかはまず気付くことの無いタイプ。本格的オフロード車ではないから勿論デフロックなどの機構は持たない。


◆クルマを見れば、人気の理由がわかる

乗り心地はやはりストロークの長い足を持つことから、ベースとなったV60よりはあらゆるシーンでソフトな印象を受けた。今回の試乗車は最近ボルボが好んで使うエアサスではなく、ボルボの新しいSPAと称する最新アーキテクチャが用いる、横置きのリーフスプリングをリアに用いたものだ。

リーフスプリングと聞くと随分旧式なサスペンション形式だと感じる読者もいると思うが、横置きにされるスプリングは樹脂製であること。そしてこの形式はスポーツカーであるシボレー『コルベット』にも用いられているものだと言えば、逆にスペース効率が高く、案外新鮮なものだということに気付いてもらえるかもしれない。気になるストロークも十分に取られていて、快適さは微塵も損なわれない。

いずれにせよ、最近のボルボ。スマートなスタイリングと上質を見事に表現した内装や、生まれながらにしてDNAに組み込まれた世界をリードする安全性などが時流にマッチして、その販売を急激に伸ばしている人気ブランド。クルマを見るとその理由は良く分かる。CC即ち「クロスカントリー」を長年作り続けてきた歴史が、同時にこのクルマの良さを物語っている。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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