【マツダ3 SKYACTIV-X 新型試乗】第一印象が“誉めすぎ”ではなかったことを再確認した…桂伸一
「マツダ変わったなあ…。これはもうVW『ゴルフ』を抜いたかも知れない!」とそのデキの良さを讃えたのは今年1月のアメリカ・ロスでの『マツダ3』試乗会の話。正直誉め過ぎたかなとも思ったが、改めて試乗した欧州仕様マツダ3は、それが間違いでなかったことを再確認できた。
◆「マツダ3」の走りをドイツで再確認
遂に誕生した待望の新世代エンジン、「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」を搭載したシリーズのトップモデルに試乗するのは、ドイツ・フランクフルトの市街地から郊外路、アウトバーンは速度無制限区間という、ドイツらしい走行モードで走る。
せっかくの速度無制限区間のアウトバーンなのに、工事と交通量の多さで最高速は180km/hが限度だった。工事後とはいえ想像以上に大きい凹凸をこの速度で通過すると、サスペンションは深くバンプ、リバウンドを経験する。リアにシンプルなトーションビームを持つマツダ3の新生シャーシは、直進性に何の影響も受けずただ上下にストローク。軌道が全くぶれないし、とくにリアに無用なトー変化が起らないから不穏な動きを感じず、当然修整の必要もない。
ステアリングの操舵感も直進中立の確かさがあり、そこから切り始めた時のスローでもクイックでもない自然な応答性と、ボディのロールへの変化とロール量、それが収束するすべての動きが予知しやすい点も素晴らしい。
と、いきなり走りの再確認の話から始めたがもちろん、冒頭のドイツ勢との比較ではドア回りの剛性感、鉄板が分厚いのでは!? と錯覚させるフロアの強固な感触など、すべてで抜いたとは言わないが、クルマ全体の動きの統一感が整っていてヒトの慣性とマッチさせやすいなど、新たな指針が受け入れられて、誉め過ぎではない事を改めて認識できた。
◆内燃機関にこだわるマツダの新技術
注目のSKYACTIV-Xとは、マツダが世界に先駆けた「火花点火制御圧縮着火」SPCCI(スパークプラグ・コントロールド・コンプレッション・イグニッション)を使い、ガソリンとディーゼルの優れた特性を取り出し、希薄燃焼リーンバーンとMHEVマイルドハイブリッドを組み合せて、燃費と特に有害物質の排出を抑えた環境性に優れた「ガソリンエンジン」である。
その目的は燃費と環境性能を確保しながらクルマの走る歓びの追求。CO2削減が叫ばれている現在、内燃機関には厳しい状況は拡大する。特に欧州は2021年から新車のCO2排出規制を95g/kmとして、クリアできない企業は巨額の罰則金を支払う事になる。
内燃機の可能性に拘るマツダとしては、欧州も重要なマーケットだけに重大な問題で、そこで考え出された内燃機の新たな技術革新がSKYACTIV-Xである。
2年前に試乗したSKYACTIV-Xのテスト車は、希薄燃焼リーンバーンではトルクが細く力がない。ソコから通常燃焼への切り替わりが段付き感として明確に感じられ、動力性能も含めてこれが本当に商品になるのだろうかと思った。
あれから2年、その間の進化状況を知らずに今日を迎えると、エンジンとしてまともに回っている事に驚く。何にでも拘るマツダ技術陣の執念とも言える。
◆「G」と「D」の両面を持つSKYACTIV-X
スタートボタンを押すと2~3回のクランキングで目覚めたSKYACTIV-X。室内の印象は上質な4気筒ガソリンエンジンの包まれた音質である。アクセルを軽く煽ったときのレスポンスは早く、マフラー側で聞いてもガソリンサウンドだが、回転が落ちて行く際の余韻に「SKYACTIV-D」ディーゼルのゴロゴロ音が混じる。なるほど、ガソリンの「SKYACTIV-G」と「SKYACTIV-D」の両面がある。
180ps/240Nmを発生するSKYACTIV-Xは、欧州らしく6速MTと6速ATが用意され、まずはMTから乗る。1000rpmでじわりミートするとストールの心配もなく力強くスタート。このトルクに頼もしさを感じたが、MHEVのモーターのアシスト効果である。
走行中のシフトアップには回転を同調させる機能が働き、段付きなくスムーズな変速感が心地いい。逆にシフトダウン時の回転合わせが行なわれない点は残念である。
市街地走行は0~60km/hを繰り返す。アイドルストップは停止する寸前に行なわれ、再始動は振動も音もなくまるでEVのようにスタートしたかと思うとすでにエンジンも活動している。
SPCCI時(希薄燃焼)は、センターメーター内にグリーンで点灯して知らせる。アクセルを滑らかにじわり踏み込むとほとんどの場合SPCCI走行に入り、アクセル操作に遅れなくスムーズな加速を展開。
エンジン回転そのものは6500rpmまで引っ張れるが、全開時はもちろんSPCCIから外れ通常燃焼。しかし状況によれば5000rpmでもSPCCIに入る事もあるが、そこでパワー感の変動や落ち込み感は感じられない。
◆『CX-30』のガソリンMHEV&ディーゼルと比較
郊外路は80~100km/hでまさに流れて行く。回転は1000~3000rpmも回せば必要十分に流れに乗れるのだが実際SKYACTIV-Xとそれ以外との差がつかみにくいので、本邦初試乗の欧州仕様『CX-30』を引き合いに出す。
搭載のガソリンは日本未導入の「SKYACTIV-G 2.0+MHEV」122ps/213Nmと日本でもお馴染みのディーゼル「SKYACTIV-D 1.8」116ps/270Nmの2本立て。
そのエンジンフィールを比較すると、SKYACTIV-Xは「SKYACTIV-G 2.0+MHEV」よりも加速中はMHEVがアシストしているであろう領域も含めてSKYACTIV-Xが上回る。しかし中間加速等はあくまでもフィーリングだが、SKYACTIV-Dの方が力強く、高速の伸びの良さでSKYACTIV-Xが逆転する。
ミッションは各ギヤ間をクロースさせて変速後の回転変動、落ち込みを抑えた。中間加速の弱い部分をカバーする狙いもある。6速100km/hは2200rpmほどで、日本はともかく、欧州でこの高い回転では燃費への影響が気になる。SKYACTIV-Xと6速MTの相性はいつでも最適なギヤが選べ、ホールドできる点とリミットまでの引っ張りが気持ち良く、試乗コースのように常に流れる状況では有りだと思う。しかし日本はやはりパドル付き6速ATがベストマッチだと感じた。
◆果たしてユーザーメリットはあるか
という事でSKYACTIV-Xは単純に構成部品を見ても、コスト的にマツダ3の最上級グレードに収まる事は理解できる。技術的に凄い事を達成した事も認める。が、果たしてユーザーメリットはどうだろう!? というところはSKYACTIV-GやSKYACTIV-Dが用意されているので、興味と予算の都合で選択肢には困らないとも言える。
無いものねだりをすれば、ミッションの多段化と、日本の最上級版は「SKYACTIV-D 2.2」にすれば、すべてが丸く収まるのではないだろうか。
因みに約100km走行の試乗コースでの燃費はSKYACTIV-Gが16.4km/リットル。SKYACTIV-Xは19.2km/リットル。CO2排出量はマツダ3セダン6MTでNew-NEDC値96g/kmだった。
桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。
(レスポンス 桂伸一)
◆「マツダ3」の走りをドイツで再確認
遂に誕生した待望の新世代エンジン、「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」を搭載したシリーズのトップモデルに試乗するのは、ドイツ・フランクフルトの市街地から郊外路、アウトバーンは速度無制限区間という、ドイツらしい走行モードで走る。
せっかくの速度無制限区間のアウトバーンなのに、工事と交通量の多さで最高速は180km/hが限度だった。工事後とはいえ想像以上に大きい凹凸をこの速度で通過すると、サスペンションは深くバンプ、リバウンドを経験する。リアにシンプルなトーションビームを持つマツダ3の新生シャーシは、直進性に何の影響も受けずただ上下にストローク。軌道が全くぶれないし、とくにリアに無用なトー変化が起らないから不穏な動きを感じず、当然修整の必要もない。
ステアリングの操舵感も直進中立の確かさがあり、そこから切り始めた時のスローでもクイックでもない自然な応答性と、ボディのロールへの変化とロール量、それが収束するすべての動きが予知しやすい点も素晴らしい。
と、いきなり走りの再確認の話から始めたがもちろん、冒頭のドイツ勢との比較ではドア回りの剛性感、鉄板が分厚いのでは!? と錯覚させるフロアの強固な感触など、すべてで抜いたとは言わないが、クルマ全体の動きの統一感が整っていてヒトの慣性とマッチさせやすいなど、新たな指針が受け入れられて、誉め過ぎではない事を改めて認識できた。
◆内燃機関にこだわるマツダの新技術
注目のSKYACTIV-Xとは、マツダが世界に先駆けた「火花点火制御圧縮着火」SPCCI(スパークプラグ・コントロールド・コンプレッション・イグニッション)を使い、ガソリンとディーゼルの優れた特性を取り出し、希薄燃焼リーンバーンとMHEVマイルドハイブリッドを組み合せて、燃費と特に有害物質の排出を抑えた環境性に優れた「ガソリンエンジン」である。
その目的は燃費と環境性能を確保しながらクルマの走る歓びの追求。CO2削減が叫ばれている現在、内燃機関には厳しい状況は拡大する。特に欧州は2021年から新車のCO2排出規制を95g/kmとして、クリアできない企業は巨額の罰則金を支払う事になる。
内燃機の可能性に拘るマツダとしては、欧州も重要なマーケットだけに重大な問題で、そこで考え出された内燃機の新たな技術革新がSKYACTIV-Xである。
2年前に試乗したSKYACTIV-Xのテスト車は、希薄燃焼リーンバーンではトルクが細く力がない。ソコから通常燃焼への切り替わりが段付き感として明確に感じられ、動力性能も含めてこれが本当に商品になるのだろうかと思った。
あれから2年、その間の進化状況を知らずに今日を迎えると、エンジンとしてまともに回っている事に驚く。何にでも拘るマツダ技術陣の執念とも言える。
◆「G」と「D」の両面を持つSKYACTIV-X
スタートボタンを押すと2~3回のクランキングで目覚めたSKYACTIV-X。室内の印象は上質な4気筒ガソリンエンジンの包まれた音質である。アクセルを軽く煽ったときのレスポンスは早く、マフラー側で聞いてもガソリンサウンドだが、回転が落ちて行く際の余韻に「SKYACTIV-D」ディーゼルのゴロゴロ音が混じる。なるほど、ガソリンの「SKYACTIV-G」と「SKYACTIV-D」の両面がある。
180ps/240Nmを発生するSKYACTIV-Xは、欧州らしく6速MTと6速ATが用意され、まずはMTから乗る。1000rpmでじわりミートするとストールの心配もなく力強くスタート。このトルクに頼もしさを感じたが、MHEVのモーターのアシスト効果である。
走行中のシフトアップには回転を同調させる機能が働き、段付きなくスムーズな変速感が心地いい。逆にシフトダウン時の回転合わせが行なわれない点は残念である。
市街地走行は0~60km/hを繰り返す。アイドルストップは停止する寸前に行なわれ、再始動は振動も音もなくまるでEVのようにスタートしたかと思うとすでにエンジンも活動している。
SPCCI時(希薄燃焼)は、センターメーター内にグリーンで点灯して知らせる。アクセルを滑らかにじわり踏み込むとほとんどの場合SPCCI走行に入り、アクセル操作に遅れなくスムーズな加速を展開。
エンジン回転そのものは6500rpmまで引っ張れるが、全開時はもちろんSPCCIから外れ通常燃焼。しかし状況によれば5000rpmでもSPCCIに入る事もあるが、そこでパワー感の変動や落ち込み感は感じられない。
◆『CX-30』のガソリンMHEV&ディーゼルと比較
郊外路は80~100km/hでまさに流れて行く。回転は1000~3000rpmも回せば必要十分に流れに乗れるのだが実際SKYACTIV-Xとそれ以外との差がつかみにくいので、本邦初試乗の欧州仕様『CX-30』を引き合いに出す。
搭載のガソリンは日本未導入の「SKYACTIV-G 2.0+MHEV」122ps/213Nmと日本でもお馴染みのディーゼル「SKYACTIV-D 1.8」116ps/270Nmの2本立て。
そのエンジンフィールを比較すると、SKYACTIV-Xは「SKYACTIV-G 2.0+MHEV」よりも加速中はMHEVがアシストしているであろう領域も含めてSKYACTIV-Xが上回る。しかし中間加速等はあくまでもフィーリングだが、SKYACTIV-Dの方が力強く、高速の伸びの良さでSKYACTIV-Xが逆転する。
ミッションは各ギヤ間をクロースさせて変速後の回転変動、落ち込みを抑えた。中間加速の弱い部分をカバーする狙いもある。6速100km/hは2200rpmほどで、日本はともかく、欧州でこの高い回転では燃費への影響が気になる。SKYACTIV-Xと6速MTの相性はいつでも最適なギヤが選べ、ホールドできる点とリミットまでの引っ張りが気持ち良く、試乗コースのように常に流れる状況では有りだと思う。しかし日本はやはりパドル付き6速ATがベストマッチだと感じた。
◆果たしてユーザーメリットはあるか
という事でSKYACTIV-Xは単純に構成部品を見ても、コスト的にマツダ3の最上級グレードに収まる事は理解できる。技術的に凄い事を達成した事も認める。が、果たしてユーザーメリットはどうだろう!? というところはSKYACTIV-GやSKYACTIV-Dが用意されているので、興味と予算の都合で選択肢には困らないとも言える。
無いものねだりをすれば、ミッションの多段化と、日本の最上級版は「SKYACTIV-D 2.2」にすれば、すべてが丸く収まるのではないだろうか。
因みに約100km走行の試乗コースでの燃費はSKYACTIV-Gが16.4km/リットル。SKYACTIV-Xは19.2km/リットル。CO2排出量はマツダ3セダン6MTでNew-NEDC値96g/kmだった。
桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。
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