【DS 3 クロスバック 新型試乗】このクルマの感性は他と違う…中村孝仁
◆日本には真似が出来ないクルマづくり
フランス人は常識というものにとらわれない、独特な感性を持っているなとつくづく感じることがある。
かつてシトロエンはまさに非常識とも思えるようなクルマ作りをしていた。シトロエン『2CV』しかり、そして現行DSブランドのルーツともなったシトロエン『DS』しかりである。
特に2CVの場合など、発表の場でシトロエン社長だったピエール・ブーランジェから紹介された当時のフランス大統領、ジュール・ヴァンサン・オリオールは、明らかに2CVを見て不快そうな顔を示したほどの奇抜なスタイルを持っていた。ところがこのどう見ても不格好なクルマが受け入れられて、大ヒットに結び付く土壌がフランスにはある。はっきり言って日本には真似が出来ないと思う。
第2次大戦後、自動車の発展は目覚ましく安全論議や環境問題など種々の自動車にまつわる問題点が浮き彫りにされる以前は、まさに百花繚乱で、それぞれの国がお国柄を競い合ってクルマ作りをしていた。昨今は厳しい諸条件が付いてなかなか独自性を発揮することが出来ないでいるが、そんな中で久々に凄まじい個性を発揮するクルマに出会ったように感じたのが、今回の『DS 3 クロスバック』である。
正直言えば中身はピュアテック1.2リットル3気筒エンジンやらEAT8速の組み合わせで、メカニズムはそれほど大きな斬新さはない。と言ってバッサリ切り捨てるにはあまりに可哀想。なぜなら、サブコンパクトのセグメントに8速ATを採用したのはこれが初めてのことだし、そもそもプラットフォームはCMPと呼ばれる最新鋭のもので、勿論PSA内部でもこのDS 3 クロスバックが初採用のもの。つまりは革新的であり、俗に言うサブコンパクト市場のクルマとしてはハイエンドに位置するモデルでもあるのだ。
◆ライバルはアウディQ2
プジョー・シトロエン・ジャポンに言わせると、ライバルはアウディ『Q2』だそうである。だからなのかその値付けにしても見事なほどアウディを意識した結果、エントリーモデルの価格は299万円で完全に一致。そして売れ筋であろう「So Chic」(ソーシック)は357万円で、370万円のアウディより若干控え目な設定。そしてトップグレードの「Grand Chic」(グランシック)は404万円とこれまたアウディの最上級グレードよりもほんのちょっと安い。
エンジンバリエーションに4気筒が存在するのがアウディの強みかもしれないが、他のQシリーズと異なり、Q2だけはクワトロの設定が無いから、正直言って走りの性能では大きな差がないと感じた。と言うよりも、最近いわゆるライバル比較というものをして同じセグメントのクルマ同士を乗り比べてみると、極端な差があるケースはあまり見受けられない。だからこそ今、差別化という意味では独自の感性を持ったクルマ作りが重要になってくると思えるのである。
ハイエンドを示す一例としては、ボディに一体化されたドアハンドルが、キーを持った人が車両1.5mまで近づくと、自動的にドアハンドルがせり出してアンロックされるメカニズムが装備されていること。クルマに近づくだけでキーさえ持っていれば自動的にドアハンドルがせり出してくる。普段はドアハンドルはほぼボディに一体化されて美しいフォルムを醸し出す。
また、ウェザーストリップをボディ内に巧妙に収めて外からは見えないようにするといった配慮もあって、クルマは確かに美しいエクステリアを持っている。DS 3のスタイリングを特徴づける逆シャークフィンのBピラーはクロスバックでも健在。そしてクロスバック最大の特徴は、3ドアから5ドアになってより使い勝手が良くなったことが大きい。
◆性能が黒子に徹した稀有なクルマ
しかし、エクステリア以上にこのクルマの魅力を閉じ込めていたのがインテリアだ。全体をダイヤモンド基調のアイテムで覆い、試乗車グランシックの場合、本革シートのステッチから、ベンチレーターとその周囲のスイッチ類に至るデザインの処理がすべてダイヤモンドスタイル。とかく横一線基調のドイツ車と比べると、何と豊かな表現力かと感じる。
横一線基調は広さを強調できるが、このクルマの場合広さ感の演出は、左右にあるベンチレーター吹き出し口をドアに移植するという大胆な手法で解決している。
メーターパネルは最小限のサイズ。表示される情報も極めてシンプルにまとめられ、60年代に沢山のメーター類とトグルスイッチに囲まれた空間がカッコいいと思っていたおじさん連中にとっては、呆気にとられるデザインかもしれないが、こうしたブレークスルーこそ、シトロエンから脈々と受け継がれるDSの真骨頂のような気がする。
最上級のグランシックなら今のクルマに必要な安全装備から快適装備はほぼすべて付く。多彩なオプション装備をつけていくと、いつの間にやら車両価格が100万円高くなっていたという笑えないドイツ製ブランドの商法とは違う潔さも良い。
フランス人の感性を理解するユーザーにとっては「待ってました!」というコンパクトモデル。あまりに個性的且つ独創的なインテリアにやられて、走りの印象は薄い。ただし、普通に良く走る。むしろ性能が黒子に徹した稀有なクルマという印象を受けた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
フランス人は常識というものにとらわれない、独特な感性を持っているなとつくづく感じることがある。
かつてシトロエンはまさに非常識とも思えるようなクルマ作りをしていた。シトロエン『2CV』しかり、そして現行DSブランドのルーツともなったシトロエン『DS』しかりである。
特に2CVの場合など、発表の場でシトロエン社長だったピエール・ブーランジェから紹介された当時のフランス大統領、ジュール・ヴァンサン・オリオールは、明らかに2CVを見て不快そうな顔を示したほどの奇抜なスタイルを持っていた。ところがこのどう見ても不格好なクルマが受け入れられて、大ヒットに結び付く土壌がフランスにはある。はっきり言って日本には真似が出来ないと思う。
第2次大戦後、自動車の発展は目覚ましく安全論議や環境問題など種々の自動車にまつわる問題点が浮き彫りにされる以前は、まさに百花繚乱で、それぞれの国がお国柄を競い合ってクルマ作りをしていた。昨今は厳しい諸条件が付いてなかなか独自性を発揮することが出来ないでいるが、そんな中で久々に凄まじい個性を発揮するクルマに出会ったように感じたのが、今回の『DS 3 クロスバック』である。
正直言えば中身はピュアテック1.2リットル3気筒エンジンやらEAT8速の組み合わせで、メカニズムはそれほど大きな斬新さはない。と言ってバッサリ切り捨てるにはあまりに可哀想。なぜなら、サブコンパクトのセグメントに8速ATを採用したのはこれが初めてのことだし、そもそもプラットフォームはCMPと呼ばれる最新鋭のもので、勿論PSA内部でもこのDS 3 クロスバックが初採用のもの。つまりは革新的であり、俗に言うサブコンパクト市場のクルマとしてはハイエンドに位置するモデルでもあるのだ。
◆ライバルはアウディQ2
プジョー・シトロエン・ジャポンに言わせると、ライバルはアウディ『Q2』だそうである。だからなのかその値付けにしても見事なほどアウディを意識した結果、エントリーモデルの価格は299万円で完全に一致。そして売れ筋であろう「So Chic」(ソーシック)は357万円で、370万円のアウディより若干控え目な設定。そしてトップグレードの「Grand Chic」(グランシック)は404万円とこれまたアウディの最上級グレードよりもほんのちょっと安い。
エンジンバリエーションに4気筒が存在するのがアウディの強みかもしれないが、他のQシリーズと異なり、Q2だけはクワトロの設定が無いから、正直言って走りの性能では大きな差がないと感じた。と言うよりも、最近いわゆるライバル比較というものをして同じセグメントのクルマ同士を乗り比べてみると、極端な差があるケースはあまり見受けられない。だからこそ今、差別化という意味では独自の感性を持ったクルマ作りが重要になってくると思えるのである。
ハイエンドを示す一例としては、ボディに一体化されたドアハンドルが、キーを持った人が車両1.5mまで近づくと、自動的にドアハンドルがせり出してアンロックされるメカニズムが装備されていること。クルマに近づくだけでキーさえ持っていれば自動的にドアハンドルがせり出してくる。普段はドアハンドルはほぼボディに一体化されて美しいフォルムを醸し出す。
また、ウェザーストリップをボディ内に巧妙に収めて外からは見えないようにするといった配慮もあって、クルマは確かに美しいエクステリアを持っている。DS 3のスタイリングを特徴づける逆シャークフィンのBピラーはクロスバックでも健在。そしてクロスバック最大の特徴は、3ドアから5ドアになってより使い勝手が良くなったことが大きい。
◆性能が黒子に徹した稀有なクルマ
しかし、エクステリア以上にこのクルマの魅力を閉じ込めていたのがインテリアだ。全体をダイヤモンド基調のアイテムで覆い、試乗車グランシックの場合、本革シートのステッチから、ベンチレーターとその周囲のスイッチ類に至るデザインの処理がすべてダイヤモンドスタイル。とかく横一線基調のドイツ車と比べると、何と豊かな表現力かと感じる。
横一線基調は広さを強調できるが、このクルマの場合広さ感の演出は、左右にあるベンチレーター吹き出し口をドアに移植するという大胆な手法で解決している。
メーターパネルは最小限のサイズ。表示される情報も極めてシンプルにまとめられ、60年代に沢山のメーター類とトグルスイッチに囲まれた空間がカッコいいと思っていたおじさん連中にとっては、呆気にとられるデザインかもしれないが、こうしたブレークスルーこそ、シトロエンから脈々と受け継がれるDSの真骨頂のような気がする。
最上級のグランシックなら今のクルマに必要な安全装備から快適装備はほぼすべて付く。多彩なオプション装備をつけていくと、いつの間にやら車両価格が100万円高くなっていたという笑えないドイツ製ブランドの商法とは違う潔さも良い。
フランス人の感性を理解するユーザーにとっては「待ってました!」というコンパクトモデル。あまりに個性的且つ独創的なインテリアにやられて、走りの印象は薄い。ただし、普通に良く走る。むしろ性能が黒子に徹した稀有なクルマという印象を受けた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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