【マツダ3 新型試乗】昔から乗っていたかのような安心感と自在感…齋藤聡

マツダ3新型、ファストバック
◆クリアな視界が確保できるようなシート

新型『マツダ3』ファストバックのデザインコンセプトは「色気ある塊」なのだそうだ。キャラクターラインを使わずに曲面でボディ面を構成している。マツダのデザインコンセプトの流れに沿ったものだが、出来上がった造形にはマツダ3にかけるマツダの意気込みが伝わってくるようだ。

シートもこだわった作りになっている。人は歩いたり走ったりしても視界がぶれないが、これは足や腰、首などの関節がショックを緩和して頭を揺らさないような仕組みになっているからなのだという。そんな仕組みを応用して、前後Gで頭が揺れず、クリアな視界が確保できるようにマツダ3のシートは作られているのだという。

具体的には、シートに座って横Gを受けた時の腰の動きに注目して、体を固定するのではなく意図的に腰を左右に動かすことで、状態や頭の動きを抑えるような作りになっている。言われないとわかりにくいが、そのことに意識してクルマを走らせていると、確かにカーブで首をかしげることなく、真っ直ぐ路面や周りの風景が見えていることに気がつく。

座り方も特別なやり方はなくちょっとだけ意識して深めにシートに腰かければ自然に骨盤が立って腰の動きを有効にしてくれるようなポジションで座ることができる。このシートかなり良いと思う。もしかしたらこのシートを手に入れるためだけでもマツダ3を買う価値があるかもしれない。

◆ダウンサイジングではなくミドルサイジング

もちろん乗りやすさはシートだけでなく、エンジンや足回りに負うところも大きい。今回試乗したファストバックに組み合わされていたのは、スカイアクティブ20G。自然吸気の2リットル直噴ガソリンエンジンだ。

マツダではミドルサイジングを提唱しており、エンジンの排気量は無暗に小さくするのではなく、適切な排気量が燃費とドライバビリティを両立するという考え方だ。

13.0対1。ガソリンエンジンとしては高い圧縮比を持っているのがスカイアクティブGの特徴だ。基本的にはスムーズといえるエンジンだが、アクセルを踏みエンジンが吹き上がっていく中にかすかに歯切れのいいビート感が混じり、2リットルNAエンジンとしては平凡な出力といえるが、案外エンジンの存在感がある。大げさに言うとエンジンが爆破しながらエネルギーを作り出し、クルマを前に進めてくれるような感覚がある。

特筆すべきはアクセル操作に対する応答の正確さだ。ちょっと加速したいと思ってアクセルを少しだけ踏むとクルマがスッと前に出てくれる。ドライバーの意図した微妙なアクセル操作をクルマの動きにちゃんと反映させてくれるのだ。細かいことのようだが、クルマとの一体感は、実はこんなところから生まれてくる。

サスペンションはリヤサスがマルチリンクの独立式から非独立のトーションビームに代わり、メカニズムとしては簡素になっている。不思議に思ったのだが、走らせてみるとリヤサスのタイヤの位置決めがしっかりしていている感じのだ。リヤサスの動きの精度が大切なGベクタリングコントロールとの相性は、様々なブッシュとリンクで動きを規制しながらタイヤ位置決めをしているマルチリンクより、マツダの開発したトーションビームのほうがいいのかもしれない。

◆車が思い通りに走ってくれるかのような感覚

マツダ3から採用の、バージョンアップしたGベクタリングコントロール=Gベクタリングコントロールプラスは、スロットル制御だけでなくブレーキ制御も行い、よりスムーズなコーナーリングをアシストしてくれる。その出来栄えは、滑らかなターンイン~スムーズな旋回~安定感(安心感)のある立ち上がりと、一連のコーナーワークを上手に走らせてくれる。

大多数のユーザーにとって、このシステムはとても有効で、あたかも車が思い通りに走ってくれるかのような感覚を得ることができる。ただ自分の操作を補正されてしまうので、ちょっとお仕着せがましい感じが……。せめてGベクタリングコントロールプラスにOFFボタンでもあればと思うのだが。

もう一つ。それは後方視界だ。特に斜め後ろはぶ厚いCピラーで大きく視界を遮られてしまう。目視しにくいのはやはり気になる。

とはいえ、マツダ3ファストバックは、艶のあるボディ、一体感を作り出してくれるシート、エンジン、足回り、Gベクタリングコントロールプラスと、こだわって作り込んだクルマならではの練度の高さがある。単純に言ってしまえば、誰でもすぐになじんで、昔から乗っていたかのような安心感とコントロールの自在感を味わうことができると思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

齋藤聡|モータージャーナリスト
特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。

(レスポンス 斎藤聡)

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